ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

状況を確認しましょう。

では、本編。



第四百七話 状況確認①

 

 

 

 

 

 二階の祭壇前にやって来たアベルとアリアだったが、マザーの姿が見えず辺りを見回す。

 一階の壁や窓は壊れていなかったが、祭壇奥のステンドグラス窓と壁の一部が壊れていた。

 

 

 ……と、辺りの様子を見ていると小さな声が祭壇から聞こえて来る。

 

 

「……あれは……違った……いえ……でも、確かに……」

 

 

 祭壇の向こう側にマザーが座り込み何やらぶつぶつと呟いていた。

 

 

「…………マザー……?」

 

「アリアさんのはずは…………」

 

 

 アリアがぶつぶつと独り呟くマザーを窺うと、マザーから“アリア”の名前が挙がる。

 

 

「あ、はい。お呼びですか?」

 

 

 未だアリアの存在に気付いていないマザーの言葉に、アリアは呼ばれたものと思い、返事をしていた。

 

 

「え…………あっ! アリアっ!? あなたっ、本物のアリアなのね!?」

 

 

 マザーはアリアの声にハッと振り向いて目を剥いて立ち上がる。

 そしてすぐに彼女の頬を両手で覆って、覗き込むようにして見つめた。

 

 元気そうなアリアの様子にマザーは目を細める。

 

 

「ほ、本物って……??」

 

「今着いたのですか?」

 

 

 首を傾げるアリアだったが、マザーは優し気な瞳のまま訊ねる。

 

 

「あ、はい。アベルも一緒に……」

 

 

 アリアは頬をほんのりと赤らめ、チラッと背後にいるアベルに目配せをした。

 彼女の視線に気付いたアベルは穏やかな笑みを浮かべている。

 

 

「お久しぶりですマザー。ちょっと早いですが里帰りで彼女を連れて来ましたよ」

 

「ハッ! そうよ、アベルが居たんだわ……! じゃああれはアリアさんではなかったのね……良かった……!」

 

 

 アベルが軽く会釈すると、マザーの目蓋が大きく見開かれた。

 マザーは独り納得するように手を組み目を閉じたかと思ったら、突然「ああ、神さま。あれは私の見間違いだったようです……」と祈りを捧げる。

 

 

「え? 私……ですか?」

 

「……いえ、何でもないのです。ようこそ、名もなき海辺の修道院へ」

 

 

 マザーが穏やかな顔で頭を水平にゆっくり一度だけ横に振ると、アベルとアリアに笑顔を見せてくれた。

 

 

「マザー……」

 

「ああ、アリア。抱きしめさせてちょうだい」

 

 

 アリアは少し心配そうな顔でマザーを窺い見たが、マザーは両手を広げアリアを抱きしめる。

 

 

 ――旅立った時よりも随分呪いが薄れているわね……!

 

 

 アリアの呪いが薄くなっているのが判るのか、マザーはアリアを抱きしめながら彼女の背を とんとんと優しく撫でていた。

 

 

「元気でやっていましたか……?」

 

「はい……。あの……」

 

 

 マザーに抱きしめられたままアリアは修道院について訊ねようとするが、訊ねるより先にマザーが口を開く。

 

 

「今修道院では問題を抱えておりましてね」

 

「あ、これ……ですよね?」

 

 

 マザーの話にアベルが天井の無い空を指差した。

 

 

「…………ええ。それ……です」

 

 

 マザーはアリアの肩越しに、アベルに目礼すると“ふぅ”とため息を吐く。

 

 

「詳しく聞かせて下さい」

 

 

 アベルに問われてマザーはアリアを解放すると静かに話し出した。

 

 

「……最近異常気象が世界各地で相次いでいるのはご存じでしょうか?」

 

「あ、はい。ラインハットでも大雨が降ったとヘンリーから聞きました。僕達も旅先で大雨に遭って……ね、アリア」

 

「うん……、ね。アベル……」

 

 

 マザーの言葉にアベルとアリアは互いに見つめ合う。

 二人の頬がほんのりと赤く色付いていた。

 

 大雨のお陰で気持ちが通じ合った二人はあの異常気象に悪い印象はなく、むしろ“恵みの雨”だったとさえ思うほど……。

 

 

「そうだったのですね……。ここでも一週間程前に嵐のような風が吹いたのです。屋根を巻き上げ、修道院の鐘が飛ばされてしまいました」

 

「風……。怪我は……? みんな怪我はしなかったんですか?」

 

「ええ ええ。幸いなことに私だけ軽傷を負ったのですが、他は特に……。部屋の中が少々荒れましたが屋根と二階の一部が壊れただけで……不思議な嵐でしたわ……」

 

 

 アベルが確認すると、マザーは袖を捲る。

 腕には包帯が巻かれていた。

 

 屋根を巻き上げた際、崩れた壁の一部に袖を引っ掛け腕ごと切ってしまったらしい。

 【やくそう】をすぐに使ったので痛みも殆どなく、引っ掻き傷のような痕が残っているだけで、その内治るとのことだった。

 

 

「それで元気が無かったんですね……」

 

「ええ……。このところ ありがたいことに晴天続きですからいいのですが、オラクルベリーやラインハットで降った大雨が降ったらどうしようかと……」

 

 

 アリアがマザーの手を取り眉をハの字にすると、マザーも先の異常気象が気になる様子で弱り目をしていた。

 

 

「あの……、一階を見たところ被害が無いようなんですけど……」

 

 

 アベルは一階を見下ろしながら特に変わった様子が無い気がして訊ねる。

 するとマザーは頷き説明してくれた。

 

 

「ええ……。先程も言いましたが、とても不思議な風で……。お陰で生活に支障はないのですが、雨が降った時の事を思うと早急に修繕したいところなのです。けれど……修繕しようにも費用も人手も足らず、困っているところです」

 

 

 

 

 ……修繕費用と人手が足りない……。

 

 

 詳しく訊いてみると、修道院では自給自足生活のため、お金はあまりないのだそうだ。

 マザーがこの修道院にやって来た頃から今までこのような事態になることがなかったため、貯蓄はそう多くないらしい。

 

 そして、人手。

 

 人手に関してはヘンリーから聞いていた通り、オラクルベリー 北の橋が壊れ、そちらに人員が当てられており修道院に派遣できる人数は限られているとのこと。

 

 そもそも人を派遣してもらう人件費すら払えないので、出来る限りの修繕をシスター達と力を合わせ少しずつしている最中である。

 それと共に費用捻出のため現在修道院に居る者全員で被服や食べ物などを作り、売って金に換えようとしているところなのだそうだ。

 

 

「あっ、私 少しならお金があります。……これ、使って下さい。銀行に行けばもう少し……」

 

 

 マザーの話を聞いたアリアは鞄から自分の財布を取り出し、マザーに差し出す。

 財布にはアリアの手持ちの金が入っていた。

 

 

「アリアさん……これは受け取れないわ」

 

 

 マザーはアリアの財布を押しやるが、アリアは受け取るようにと強引に手渡す。

 

 

「少ないけど使って下さい。私のお金なら銀行にも預けてあるので大丈夫です」

 

「あっ、僕も……」

 

 

 アベルも財布を取り出そうとするが、アリアはそれを止めた。

 

 

「ううん、アベルは出さないで? アベルのお金は旅に必要でしょ? これは私の恩返しだからいいの」

 

「僕も世話になったのに……」

 

 

 アリアがアベルの手を制止すると首を左右に振る。アベルは何とも言えない顔で口篭もった。

 その後で財布を取り出すのを止め、アリアの手を握る。アリアは嫌がらずに握り返していた。

 

 

「……いいのよ、二人とも。旅を続けるにはお金が必要だわ。修道院の問題は修道院に住む者達が解決すれば良いこと……」

 

 

 二人のやり取りにマザーは目を細めて穏やかに微笑む。

 二人が仲良くやっているようで安堵したようだ。

 

 

「マザー、私達時々こちらに泊めて欲しいのです。その分を前払いということにしていただけませんか? それならいいでしょう?」

 

「アリアさん、宿泊代など不…………、ありがとう……。それじゃあ ありがたく使わせてもらうわね……。けれど、お金よりも深刻なのは人手なのです」

 

 

 マザーはアリアからの贈与を受け取り一瞬破顔するものの、すぐに弱り目になってしまう。

 

 

「「人手……」」

 

 

 アベルとアリアの二人は同時に呟いていた。

 

 

「……ええ。特に男手が足りなくて……。高所で作業する方を捜しているのですが、先ほど言った橋の修繕作業に殆どの男性作業員が回っていて男手が足りないのです……。私達修道女では屋根を一つ一つ張ることはどうにかなると思うのですが、その土台となる(はり)の修繕は力のある男性でないと出来そうになくて……」

 

「そう……ですね、柱も梁も……重いですもんね……」

 

 

 マザーの話にアリアは上を見上げ崩れている梁を見つめる。

 女の力で梁を修繕するのは難しい気がした。

 

 

「アリアさんのお金で一応……一人だけ大工を確保できそうですけれど……独りではとても作業出来ないでしょうね…………ふぅ」

 

「ぁ……」

 

 

 ――そっか……そうだよね……独りじゃこの大きな建物を修繕するのは難しいよね……。

 

 

 マザーが溜息を吐くとアリアは修道院全体を見渡す。

 せめて仮の屋根くらいは次の雨が降るまでにどうにかしたいところだが、それすら今は進んでいない。

 大工が独りやって来たところで仮の屋根を付けるのも時間が掛かることだろう。

 

 アリアも「はぁ……」と項垂れてしまった。

 そんなマザーとアリアの様子を見ていたアベルは静かに手を挙げる。

 

 

 

 

「…………あの……、その作業ってどれくらい……掛かりますか?」

 

 

 

 

 アベルの言葉にマザーとアリアは目蓋をぱちくり。

 

 

「……アベル……?」

 

 

 アリアは何故そんなことを訊くのか解らず首を傾げた。

 そうしてマザーはアベルに訊かれるままに答える。

 

 

「……つい先日 被害状況を把握するために大工を呼んだのですが、十名程の作業員が居れば二月も掛からないと仰っていました。ですが、十名もの作業員を雇うお金はここにはありません。一人を雇うのがやっとですわ」

 

「そうですか。……アリア、ちょっといい?」

 

「え? あ、うん?」

 

「マザー、少し失礼します。すぐ戻ります」

 

 

 マザーが現在の状況を伝えると、アベルはアリアを伴って一階へと下りた。

 

 




悪戯な風が吹いたようです。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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