アベル、ネゴシエーターになるの回。
では、本編どぞ。
「……ご、ごめん……、でもアベルが離れてって言うから……」
「……うん……そうだったね……ハハ……」
アリアに謝られたが、アベルは涙目で笑う。
――あぁ、僕はアリアに離れて欲しくなかったんだな……。
自らお願いしたことを素直に受け入れ離れたアリアに、アベルは“そこは嫌って言って欲しかった……”と勝手なことを考えてしまった。
……中々思うようにはいかないものである。
まだまだ彼女を手に入れるには時間が掛かりそうだなとアベルは思った。
……そんなやり取りをしつつ、二人は仲魔達と共にオルソーの元へと向かうため、ポートセルミへと【ルーラ】で移動する。
オルソーの家はポートセルミ近く(といってもそこから丸一日掛かる距離)の森の中にあるが、イメージが浮かばず【ルーラ】出来なかった。
修道院と同じくしっかりと記憶しないと使えないようだ。
アベルはオルソーの家に向かいながら、今後往復することもあるだろうと到着したらしっかり記憶することにし、道中遭遇する魔物達と戦う。
以前歩いた時より強くなっているせいか、戦闘も然程苦ではないが無傷というわけには行かないし、これが毎回だと思うと少し面倒だ。
何より早く屋根の修繕を終わらせ、アリアとより親密な関係を築いていきたい。
修道院の修繕を申し出たのは全て彼女のためである。
あのまま旅を続けていたとしても それなりに仲良くしていただろうが、アベルはもっと彼女との距離を縮めたくて仕方なかった。
アベルはアリアについ甘えてしまいがちではあるが、自分が頼れる男だというところを彼女に見せつけたい。
好感度と引き換えに受けた代償は大きいが、終わればまた二人きりの旅が始まる。
(その時は今の関係よりもっと親密になれているんじゃないかな……?)
そんな淡い期待をしつつ、アベルはオルソーと再会すると木材の融通が利かないか交渉していた。
「なんと! 東の大陸じゃそんなことになってたのかー! ひゃー大変だな! こないだ船が出なくなって材木の出荷が出来ずに丁度在庫を抱えてたんだ。安く譲ってやるよ」
オルソーが脇にボウルを抱え青白いクリームを混ぜながらアベル達の話を聞いて笑顔を見せる。
最近材木の在庫を抱え暇らしく、料理するのが趣味になっているらしい。
青白いクリームからは何か腐ったような臭いが漂っていた。
「食って行くか?」
「何なんですかソレ……」
オルソーの問い掛けに恐る恐るアリアが訊ねると、なんとケーキを作っていたらしい。
オルソーの背後にあったテーブルの上に薄く平べったいパンのようなものが数枚皿にのっていた。
スポンジケーキ……のつもりなのだろう。
「結構です(ボウルから納豆みたいなニオイがするぅ……!)」
アリアは青白いクリームに眉を顰め、鼻を抓んでアベルの背に隠れる。
こっそりアベルの匂いを嗅いで鼻をリセットした。
――アベルの匂い、すき。
アベルも鼻を抓みたかったが、気を悪くされると具合が悪い。愛想笑いを浮かべて我慢した。
「わっはっはっ! フラれちまった……! だよなっ! これは試作だからな! 上手く出来たらご馳走してやるよ! で、何だっけ、材木が欲しいんだったな!」
久しぶりに会ったオルソーは相変わらず元気で豪快な熊男だった。アベルの申し出に快諾し家の森の奥、材木置き場へとアベル達を案内してくれた。
◇
「これだけあれば……!」
アベルは材木置き場にて並べられた多くの木々を前に瞳を輝かせる。
同じように瞳を輝かせ材木を眺めるアリアと目が合うと「やったね!」と二人手を叩き合わせた。
「で、どれだけ必要なんだ?」
「そうですね……今頃大工が必要な数を出してくれていると思うので、一度修道院に帰ってから訊いてみます」
アベルは今日は融通して貰えるのか尋ねただけのため、受け取りは後日とオルソーに伝える。
「そうか、俺としてもこれが
「はい、二階の屋根を支える梁に使用します」
「梁か……ふむ……土台がどうなのかわからんな……。ならあっちの木が最適か……軽くて丈夫なヤツ」
オルソーは目の前の材木ではなく、別の場所に置いた材木を指差し腕組みをした。
「「え……?」」
アベルとアリアは首を傾げる。
「木の種類がいくつかあるんだが、この間……ほら、お前達が泊った日だったか? 雨が降り始めて慌てて置いたもんで全部ごっちゃにしちまってよ……」
――そういや仕分けすんの忘れてたぜ……。
材木置き場をよく見てみると、木々が一部乱雑に積まれている。
年輪が多く太いもの、年輪の少ない細いもの、樹皮を剥いだ丸太に、そうでないもの。
木の種類自体違うものもあった。
船が当分出ないと聞いたオルソーは大陸内での消費量は大体決まっているので、後でのんびり整理しようと放っておいたらしい。
結果、今の今まですっかり忘れていたわけだ。
「……どれを譲ってもらえばいいですかね……? その……僕は建築に関してはド素人で……」
アベルが「これでもいいのかな……? さっぱりわからない……」と目前の丸太に触れる。
「わっはっはっ! すまんすまん! ……よし、わかった。今はごっちゃになってるが、明日までに仕分けておいてやるよ。で……代金なんだが……」
「あっ、はい…………と、ちょっと待って下さい。アリア」
オルソーが値段について話そうとすると、アベルは近くで材木を見ていたアリアに声を掛けた。
「はい?」
「僕、これからオルソーさんと値段交渉するから、ピエール達と一緒に居てくれないか? 今日は馬車を連れてないし、集落から出ないようにね」
「あ、うん。けど、私居なくてもいいの?」
「大丈夫、僕に任せて。悪い様にはしないから」
「アベル…………ありがと! じゃあ私、せっかくだからノアに会って来る。行こうピエール君、プックルも」
アリアはピエールとプックルを伴い、オルソーの家……の隣、馬小屋へと向かった。
「ひょっとして嬢ちゃんに聞かせたくないのか?」
「ははっ、そういうわけじゃあないんですけど……念のためです」
「ふーん? じゃあ具体的な量はともかく、とりあえずざっくりとその修道院の規模とやらを教えてくれるか?」
“はい、えっと……――――……――――。”
アベルはオルソーと値段交渉を始める。
アリアに席を外してもらったのには理由があった。
修道院の修繕に高い金額は払えない。かといって大事な梁に使用する材木だ、あまり安価なものでも怖い。
値段交渉の際、アリアを同席させないようにとアベルはマザーに頼まれていたのだ。
それは何故かとアベルが訊ねると、アリアが自分を犠牲にするかもしれないから……とのことだった。
どういう意味なのかアベルには よくわからなかったが、アリアが富豪の養女にという話はまだ生きており、返事をしていないままである。
二人が旅立ったために返事を有耶無耶にしており、つい先日返事の催促があったのだそうだ。
しかも富豪はアリアが養女になるにしても、ならないにしても本人が直接返事をしに来ることを望んでおり、充分過ぎる程の旅費が送られて来ていた。
その旅費で修繕費の三分の一は賄えてしまうかもしれないほどである。
マザーはその話をまだアリアにしていない。
そんな背景もあり、アリアが修道院の修繕費を求める代わりに養女になると言い出すのでは……と危惧したのだ。
アベルと結婚するのであれば富豪の養女になる必要は無いわけで……、富豪の娘ともなれば、適齢期のアリアは貴族の男を宛がわれるだろう。
マザーは修道院の修繕のために好き合う若者二人の将来を潰すようなことはしたくなかった。
アベルはマザーの想いを知らないものの、彼女の意向に沿うようオルソーに希望を伝えていた。
オルソーも始めは難色を示していたが、アベルは朝アリアが作ったマフィンを差し出し「この美味しい菓子を修道院に居る間、毎週お持ちします……! 他に美味しい食事の差し入れも出来ますよ……!?」と持ち掛けると、オルソーの顔が段々と笑顔になっていく。
マザーに「私達で出来ることなら何でも交渉に使って構いません」と云われていたアベルはシスター達の作る食事をお裾分けすることを交渉材料にしたのだった。
シスター達の料理がいかに美味しいか伝えると、オルソーが終いには「俺の飯は不味くて……うっ、うっ」と泣き出してしまう。
アリアの食事を食べてからというもの、何となく自分の作る飯が不味いことに気付き始めていたらしい。
そうして小一時間程経過し、オルソーは手を差し出していた。
「交渉成立だな!」
「ハハッ、よろしくお願いします。では、明日また来ます」
オルソーの手を握り、アベルははにかむ。
必要な分の材木を安価で譲ってくれる約束を取り付け、アベルはアリアの待つ馬小屋へと向かった。
アリアを養女に……なんて話がありましてね……。
ルドマンさん……。
マザーは色々と出来る限りの範囲でアベルとアリアを応援しています。
オルソーはちょっとアホだけど気持ちのいいおっさんで結構好きです。
亡き妻に一途なオルソーですが、シスターの一人とくっついてもいいかもしれませんねぇ。
そしてシスコンヨシュアも……。
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読んでいただきありがとうございましたっ!