アベルには気になる単語があるのです。
では、本編どぞ。
◇
宿屋の主人に“身体を拭きたい”と申し出ると「どうぞどうぞ!」とタライとタオルを渡され井戸水を使う許可をもらい、アリアは受付カウンターから見えた外にある井戸へ移動する。
アリアのように身体を拭きたいという旅人もいるのだろう。井戸のある場所は屋外にあったが、周りを木の柵で囲み、目隠しされた造りで外から見えないようになっていた。
アリアは井戸に着くと借りたタライとタオルを地面に置く。
彼女がさて水を汲もうかな……と井戸綱に手を掛けようとするとアベルの手が背後から伸びた。
「っ……、アベル……? 何でついて来てるの……? ここに魔物は出ないから大丈夫だよ……?」
「水を汲んであげようかなって」
「……あ、ありがと……」
アリアはアベルに水を汲んでもらうとタオルを水に浸した。
「…………っ、…………えと、私向こうで拭いて来るね……」
――アベルの前で拭くの恥ずかしいかも……。
アリアは水の入ったタライを手に、囲いの外へと出て行く。
彼女の顔が赤かった。
「…………あ、うん……だよね……。いってらっしゃい……」
――僕の前で拭けばいいのに……。
アベルはフラれてしまったなぁと思いつつ、気まずそうな笑顔でアリアを見送る。
「恥ずかしがっちゃって可愛いなぁ…………って、あ。教会がある……!」
囲いの外へ出て行くアリアの背を首だけ向けて見送り、彼女が居なくなると首の位置を元に戻す。と、井戸の後ろ、奥に教会があることに気が付いた。
――アリアが戻ったら連れて行こう……。
アベルはアリアが戻るのを待つことにし、顔くらい洗っとくかと井戸水を汲む。
「……井戸の底に何かあったりして」
つい探索欲求が湧いて、顔を洗い終えたアベルは井戸の中へと下りて行った。
◇
……アリアが身体を拭き終え すっきりした顔で井戸に戻って来ると……。
「あ、アリアおかえり」
「ただいま」
アベルが笑顔で迎えてくれたので、アリアも笑顔で返す。
「すっきりしたかな?」
「うん、タオルが真っ黒になっちゃった」
アリアの持つタライの中に黒く汚れたタオルが入っていた(水は捨てた)。
「それ洗おうか?」
「いっ、いいよっ! 私が洗って返すからっ!」
笑顔のアベルが顎でタオルを示し訊ねるが、アリアは首を左右に振る。
「そっか。僕 洗濯なら自信あるんだけどな~」
「っ……そ、そぉだね……、アベルって洗濯上手よね」
――私の服まで洗ってたもんね……、下着も……、主人公なのに……。
修道院生活でアベルはシスターたちに教わりながらアリアの服を何度か洗っている。
そして、たまたま紛れ込んでいたアリアの下着までも……。
アリアは恥ずかしくて仕方なかったが、アベルにとっては貴重な体験で楽しかったようだ。
思い出したアリアは頬を紅くしていた。
「アリア」
「はい?」
「そこに教会があるんだ。“おはらい”してもらおうよ」
アベルは奥の教会を親指で指すと微笑む。
ここでも呪いを薄めることが出来るとは……。
呪いが完全に解ければアリアは安心して自分を受け入れてくれるのではないだろうか……、アベルは彼女の頭をそっと撫でた。
――優しい彼女のことだ、僕が十八になったとしても心配事があれば受け入れてくれない気がする。
アリアの不安を取り除けば安心してもらえるはずだと、難攻不落の
お預け期間の長いアベルは思う様にならない彼女を堕とすのが一周回って楽しくなって来ていた。
「あ、教会……」
「ああ、良かったね。修道院を出てから呪いの発現は今のところ無いようだけど……まだ完全に解けてないよね……?」
「うん、多分……。ね、アベル」
「う、ん?」
「……私、神父さんに聞いてもらいたいことがあるから、一人で行って来てもいいかな?」
アリアは神父に用があるらしく、独りで教会に行くという。
「え……? なに? 良かったら僕が聞こうか?」
アリアのこととなると気になってしまうアベルはつい、お節介になってしまった。
「……ううん。アベルにはナイショ。懺悔みたいなものだから神父様でないと話せないの」
「……………………そっか…………、じゃあ、僕向こうに行ってるよ」
「うん、ありがとう。終わったらすぐ戻るね」
「ああ、わかったよ……」
――残念だけど……、アリアにだって聞かれたくないこともあるよね……ああ、何を話すんだ……!? 気になるぅ……!!
アリアの全てを把握しておきたいアベルだったが、しつこくすると嫌われそうなのでグッと堪え、教会に向かうアリアを見送り、独りで部屋に戻ることにした。
◇
……独りで部屋に戻って来たアベルは先に休む気が起きず、アリアの知り合いかもしれない女性二人に話し掛けていた。
「こんばんは」
「あら、こんばんは」
「今夜は月が綺麗ですわね」
アベルの挨拶に話し込んでいた踊り娘と修道女が会釈する。
アベルを見た踊り娘が「丁度いいや」と口にしたと思うと続けた。
「ねえ、あんたも女性は淑やかで素直な方がいいと思う?」
「え? あ、ええ……うーん?」
踊り娘の突然の質問にアベルはどっちとも取れるような、取れないような曖昧な返答をしていた。
――アリアは淑やかといえば淑やかな時もあるかな……、けど明るくて元気で……えっちで恥ずかしがり屋……、素直……うん、素直な時が多いか……。
もっと素直になって、早く僕のものになってくれればいいのに。
アリアを想像したアベルは“僕の彼女可愛過ぎない?”と口元を手で覆い隠しこっそりニヤニヤしてしまう。
「ふーん、やっぱりね。あたしもフローラさんみたいに修道院で花嫁修業しようかな」
「えっ、フローラさん? 誰ですか?」
踊り娘が腕組みして何度も頷きながら花嫁修業について語るが、アベルは何のことかわからず首を傾げた。
「えっ、あんたフローラさん狙いじゃないんだ!? 今、ここじゃフローラさんのウワサで持ち切りよ。独りでいるからフローラさん狙いでやって来たんだとばかり思っていたわ」
「フローラさん狙いって……? いや 僕には心に決めた人がいるので……(ってか独りじゃないし)」
踊り娘が目を瞬かせ“まだウワサを聞いていないのね”と、【フローラ】という女性が修道院から花嫁修業を終え、サラボナに帰って来たことを教えてくれる。
アベルにはアリアが居るため別の女性に興味はなく、首を横に振っていた。
――だけどフローラ……さん……て名前、どうも引っ掛かるな……。
“サラボナ”、“ルドマン”、それに“フローラ”……。
アベルにはこの三つの単語が気になって仕方ない。
この三つを一刻も早く思い出したい……と八か月前、デールの前で思ったことを思い出した。
(何でこんなに気持ちが逸るんだ……? 早く思い出さないと……)
――一生後悔しそうな気がする……。
アベルは額を抱え「サラボナ、ルドマン、フローラ……」と小さく呟く。
「ふーん……心に決めた人ねえ……その娘はどんな娘なの? お淑やかな娘? それとも おてんば娘?」
「…………え? あ、えっと…………その、…………変わったところもあるけど、明るくて優しくて元気な娘で……めちゃくちゃ可愛いんです……(おっぱい大きいし……)」
アベルの様子などお構いなしに踊り娘が質問を重ねると、アベルはアリアを想像した。
――……うん、アリアは可愛い……これに尽きる。
踊り娘の質問にアベルはアリアを想像のままに答える。
顔が多少ニヤけてしまったが、しょうがない。
「まっ、惚気~? やーね! ごちそうさまっ」
アベルの緩んだ表情に踊り娘は呆れた顔をした後で笑い、「じゃあ私顔洗って来るから! メイクしたまま寝たらお肌に悪いもの!」と井戸の方へと去って行った。
ルドマンとフローラのことを思い出せていないアベル。
早く思い出さないと……。
ゲーム中にフローラが“六年振りに帰って来た”とか言うキャラが居るのですが、時系列がおかしいんですよね……。
台詞拾いしようかと思ったけど、色々おかしいのでやめときました。
まあ、入れるとしたら八年振りかな……。
その内フローラとアリアの話が出て来るのでその時語ればいいかな。
もう少しでサラボナか~、やっとだな~。
って、実はもうちょっと掛かるんじゃよ……。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!