養女にはならないんですかね……?
では、本編どぞー。
◇
「はぁ……、すっきりした……(目、腫れてないよね……?)」
チャプ。
井戸の前で顔を洗ったアリアはタライに張った水に顔を映す。
大泣きしたわけではないので、目は腫れているような……腫れていないような……。
眠そうにしていたら気付かれない気がしていた。
「アリア」
「ひゃっ……!」
不意に背後からアベルに肩を叩かれたアリアはビクリ。肩を揺らす。
その拍子に手にしていたタオルを地面に落としてしまった。
「あっ、ご、ごめん。驚かせちゃったかな?」
「ぁ、アベル……!(び、びっくりした……)」
「教会での話は終わったのかい?」
アベルはアリアの落としたタオルを拾い、砂を払って彼女に渡す。
「あ、うん。呪いはまた薄まったみたい。話も聞いてもらったよ」
何となくアベルと正面で話し辛い気がして、アリアは手渡されたタオルを水に浸け洗いながら答えていた。
「そっか、よかった。……それはそうとアリア、話があるんだけど……」
「う、ん?」
「……あのさ……、アリア、君……ルドマンさんの養女になるつもり……?」
アベルがシスターララーナに聞いたことを訊ねると、彼女は目を瞬かせる。
「えっ……? ……あ、ひょっとしてシスターララーナと話したの……?」
「あ、うん……君を待ってる間ヒマだったからちょっとね。幼い君を修道院に運んだのはルドマンさんだったって聞いたよ」
アリアを修道院近くまで運んだのはピエールだが、修道院近くでアリアを拾って届けたのはルドマンである。
アリアが富豪に助けられたことは知っていたが、その富豪がルドマンだということは先程ララーナから聞いて初めて知った。
そのルドマンがアリアを養女に迎えたいと、アベルと再会する前から望んでいるのだ。
返事は保留中だが、アリアは確か……。
「そっか……。私、前に一度話したかもしれないんだけど……養女になるつもりはないよ?」
――アベル、ヒマだったから話し掛けたんだ……? さすがね……情報収集は欠かさないってね……!
アベルの話に“主人公の
「……だよね!」
アリアの返答にアベルも同意する。
――養女になんてなられたら困るんだよ……! 君は僕の奥さんになるんだから……!
アリアが富豪の娘になりでもしたら、身分違いの恋になってしまうじゃないか。
十八になったら彼女に結婚を申し込もうと思っているというのに、身分の差は障害になり兼ねない……。
アベルは気にしていないのだが、アリアは“呪い”をかなり気にしている。
ただでさえ“呪い”それに加えて“年齢”という足枷があるのに、アベルはこれ以上余計なものを増やしたくなかった。
とはいえ、それはアリアが決めることなので、アベルは口出しが出来ない。
「うん。私呪われてるし……、ルドマンさんの家が呪われて貧乏になっちゃったら申し訳ないもの」
「……ルドマンさんまで呪われることは無いと思うけど……」
アベルは心の中で“ヨシッ!”とガッツポーズするものの、アリアが呪いを気にしている以上、自分との結婚も考えてはくれなさそうでつい否定していた。
「……ふふっ、得体が知れない呪いなんだもの、それはわかんないよ~。……サラボナに行ったらお断りのお返事しないとだね」
「……そうだね。君は僕とけっ……(こん、するんだし……)」
アベルは慌てて口元を手で覆う。
――僕が十八になったら……結婚してよ、アリア……。
アベルは言い掛けて洗ったタオルを絞るアリアを見下ろしていた。
なんにしても、アリアが養女にならないとはっきり言ってくれたため、アベルはホッと胸を撫で下ろすと、アリアからタライとタオルを奪う。
「これ、返しておけばいいんだよね?」
「あ、ありがと。アベル優しい……。使い終わったらカウンタ―奥の奥さんに渡してくれって言ってたよ」
借りたタライとタオルを手にしたアベルにアリアは返却先を教えた。
「了解。ははっ、どういたしまして。アリアが喜んでくれたら僕はそれで…………あ」
アベルはアリアのお礼の言葉だけで満足だったが、辺りをキョロキョロと見回す。
井戸のある空間には今は他に誰も居ない。
「ん……?」
「……ん」
なんだろうと首を傾げるアリアにアベルは頬を突き出すように彼女の方へと向け屈んだ。
「…………っ、もぉ……(そういうところ……!)」
――アベルってば、可愛いんだから……!
何をして欲しいのか気付いたアリアは、ぽっと頬を紅く染め、アベルの肩に手を置いて唇を彼の頬へと近付けていく。
“頬っぺにちゅーくらい、いくらでもしてあげる……!”
そんな想いで唇がアベルの頬に触れる瞬間、横を向いていた彼の顔がアリアの方へと向けられた。
ちゅっ。
二人の唇が触れ合うとアベルが嬉しそうに目を細め、幸せそうな顔をする。
「っ……アベル……、ずるい……」
「へへっ、隙あり♪ アリア、先に戻ってていいよ。僕これ返してから行くから」
――アリアの驚いた顔……! キスなんてもう数え切れない程してるのに紅くなってるし! カワイイなぁっ!!
紅い顔のアリアが驚き大きく目を見開く中、アベルは上機嫌でタライを手に宿屋へと戻って行った。
「っっ……もぅ……、アベルったら……」
――何でそんなに可愛いことするの……私をキュン死させる気ですか……?
……もうすぐお別れなんだよ……?
……手放せなくなるじゃない。
アリアは目を閉じ首を左右に振る。
今はネガティブなことは考えないと決め、アベルの後に続いた……。
◇
一足先に宿屋のカウンタ―奥にやって来たアベルは、タライとタオルを宿屋の夫人に返却していた。
「あ~、はいはい、タライとタオルね。確かに受け取りましたよ。まあ、多少は綺麗になったんじゃないかい? けどねえ……」
アベルからタライとタオルを受け取った夫人が、何故かアベルを上から下まで吟味するように見て来る。
タライとタオルを使ったのがアベルだと思っているようだ。
「え?」
アベルは訳が分からず首を傾げた。
「あんたまさか、ウワサを聞いてフローラさんと結婚したいなんて思ったんじゃないだろうねえ。でも あれほどの娘さんだ。相手にもされないと思うよ」
「っ、僕には愛する彼女が既にいるので……!」
「おや、そうなのかい? へえ……」
夫人の話に反論したアベルだったが、反論を聞いた夫人は再びアベルを上から下まで品定めをする。
「な、何ですか……?」
「いや別に? ふーん……?」
夫人は意味あり気にアベルをじろじろ。
さっきからいったい何なのだろうか。
「っ……失礼しますっ(何か苦手な視線だ……)」
アベルは夫人の視線に耐え切れず逃げ出した。
「……はぁ」
――あの視線は何だったんだろう……。
溜息一つ零してアベルはカウンタ―内から出ると、ララーナと話をしているアリアを見つける。
「アリア」
アベルはアリアに声を掛けると共に彼女の腰を引き寄せていた。
「あっ、アベル。えっと……、彼女は修道院でお世話になったシスターのララーナさん。フローラさんを送りに行った帰りなんだって」
「……うん、知ってるよ。先程はどうも」
「うふふ、どうも」
アリアが自らの腰に回されたアベルの手を剥がしながらシスターララーナを紹介すると、アベルは軽く頭を下げる。シスターララーナも目を細めて会釈した。
「あ、さっきお話したんだもんね」
アリアは自分の腰に回された手をアベルの身体に戻し、ぽんぽんと優しく叩く。
頬が赤いため照れているのが解った。
「うん。アリア、そろそろ休もう?」
「あ、うん」
アベルが負けじと再びアリアの腰を引き寄せ、ベッドに連れて行こうとする。
が、アリアは顔を真っ赤に染めてアベルの手を取り避けていた。
「……アリアさん、良かったわね」
「ぁ……ぇと……はは……はい……。ではおやすみなさい……」
ララーナに笑みを向けられ、アリアは気まずそうに口角を上げるとアベルに手を引かれベッドへと連れられて行った。
アリアはルドマンの養女にはならないそうです。
養女になったら色々得点がありそうなのにね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!