詰めが甘いと、ダメだったりします。
では、本編。
「……実は何度か結婚してって言ってるんだけどね。アリアは冗談だと思ってるみたいでさ」
「…………そう、ですか……て、えっ? あ、アリア嬢に求婚されたんですか!?」
――なんと! アベル殿は既にアリア嬢に求婚していた……!?
アベルの話にピエールの手元からブラシが落下、「イテっ!」とアンドレの身体に当たって地面に転がった。
とんだとばっちりである。
「求婚……、うん……まあ……そうなるのかな? ピエールには悪いけど、僕はあの娘を手に入れるよ」
――僕の花嫁はアリアしかいない。
アリア本人ではなく、ピエールに先に教えてしまうのはちょっと抵抗があったが、邪魔されても嫌なのでアベルは伝えておく。
「アベル殿……!」
ピエールからは明るい声が聞こえた。
――おおっ! まことですか!? 私の知らない間にそんなことが……!! やりますね……! いや、でもはっきりしてないような……?
どういうことなのか解らないが、アベルの物言いが気に掛かる。
アリアが冗談にしか受け取れないような言い方をしたということなのだろうか。
「……僕が十八になったら、アリアだって考えてくれるよね?」
アベルは真剣な顔でピエールに訊ねていた。
「…………十八になったら……?」
――ほう……つまり まだ二人は約束されていないということか……、アベル殿……詰めが……。
二人の間でどんな会話がなされたのかは知らないが、アベルの言い方にまだ二人は結婚の約束をしていないことが
ピエールは“詰めが甘い”と頭を抱えた。
「ああ、アリアって年齢をすごく気にしてるんだよね……。それと呪いも……。その二つの不安を取り除いてあげればいける気がするんだけど……」
いつも“まだ早い”って言われちゃうんだよなぁ……と、アベルは苦笑いする。
「っ、アベル殿っ!!」
「は、はい……?」
突然ピエールが大きな声を出すので、アベルは目を瞬かせた。
……ピエールは意を決して、告げる。
「……どうか、アリア嬢を離さないであげてくれませんか……? 結婚を……いえ、出来ればすぐにでも結婚の約束をして差し上げて欲しいのです」
――アリア嬢が断ったのは花嫁候補のビアンカ嬢とフローラ嬢を思ってのこと……本心ではアベル殿と結ばれたいと思っているはず……。
未来を告げられない自分が出来ることといえば、二人の間を取り持つくらいだ。
ピエールはサラボナまでにどうにか二人をくっつけられないか考えていた。
「結婚の約束……? ……それって……」
「婚約……です。結婚する男女が結婚前に交わす約束事です」
婚約をしてしまえば もしかしたらビアンカとフローラとの結婚を回避出来るかもしれない。
ビアンカとフローラが諦めることだって考えられる。
ピエールはアベルに婚約を薦めてみた。
だが、ピエールの言葉にアベルは不思議そうに首を傾げる。
「婚約……、結婚の予約みたいなもんかな……? 結婚の予約なら入れたよ……? 失敗に終わったけど……」
ハハハ……と小さな乾いた笑いがアベルの口から零れた。
「えっ!? まことでございますか!? ちゃ、ちゃんとしたプロポーズですよね……!? 女性の前に跪いて、指輪を贈る……」
「え? うん。指輪を渡したよ」
「い、いつの間に……!」
――アベル殿……! 貴方というお方は……やりますな……!
アベルが既にアリアにプロポーズしているとは思わず、ピエールは驚愕する。
“そんなことあったかな……?”とそれがいつだったのかは知らないが、これまでアリアの様子に変化は特に無かったことを思い出し、訊ねていた。
「いつって……、そうだなぁ…………、二月くらい前かなぁ……。ヘンリーがマリアさんと修道院に訪問したことがあっただろう?」
「あ、ああ……ええ。ありましたね。慰問しに来たと……」
「ヘンリー達の仲を見たシスターに次は僕の番ですねって言われてさ。ホント、そうだなって思って、次の日アリアに求婚したんだよ」
「なんと!? そうでしたか!! さすがはアベル殿っ!!(決めるところは決める……! さすがです!!)」
――なるほど、慰問のあった次の日に……。
いつ申し込んだのか教えてくれるアベルに、そういえばその日、アリアの様子はいつも通りだったが、アベルの様子が落ち込んでいた気がする……とピエールは思い出す。
(ん……? 落ち込んでいた……ということは……?)
ピエールはアベルを黙って見上げた。
「ハハハ……、だから失敗に終わってるんだって……」
アベルは気まずそうに笑って、頭の後ろを掻く。
「失敗……、アリア嬢が断った……と?」
――アリア嬢……なぜ……。
アリアが断ったものだとピエールは思ったが、アベルは首を横に振っていた。どうやらアリアが断った……というわけではないらしい。
「うーん……少し違うんだ。指輪が問題でね……、……せっかくここまで話したんだ。聞いてくれるかい?」
アベルは向こうで話そうか……と宿屋の裏まで移動し、アリアにプロポーズした時のことを話し出した。
◇
◇
◇
二月程前、修道院の一室……――。
アベルはその日の午後、日も傾きかけた頃、シスター達の寝室の二階 自習室にて当日分の作業を終え道具の片付けをしていた。
午前中にヘンリーとマリアが修道院にやって来て、食べ物の差し入れや、衣類等の寄付をしていった。
ヨシュアが修道院に居るため、ヘンリーとマリアはそれはもう毎日誰気兼ねなく仲良くしているらしい。
二人は相変わらず仲睦まじい様子で、ヘンリーは上機嫌でアベルにこっそりお礼と称して「たまにはアリアと遊んで来いよ」とカジノコインを500枚くれた。
アベルが二階で作業している間、アリアは一階で別の作業中である。夕方に差し掛かったので、今頃食事の準備に取り掛かっていることだろう。
……そんな中、自習室に居たシスター(ヨムシス)が午前中のヘンリー夫妻を思い出したのか、黙々と作業するアベルに声を掛けて来た。
「ヘンリーさまもご結婚なさったし……。次はアベルさまの番ですわね」
「……え? あ、ハハハ……」
アベルは照れて手を止め、頭の後ろを掻く。
「アリアさんは呪われていますが……、もう暴走していないのでしょう?」
「あ、ええ。そういったことは まったくないですよ」
昔、シスター達を震えさせたアリアの暴走……。
呪いのせいで体力低下、魔力低下等々の状態異常は目にしたが、アベルは一度も暴走した彼女を見ていない。
恐る恐る訊ねて来るヨムシスにアベルは笑顔で答えていた。
「そうですか……、なら問題ありませんわね。彼女はいくつか課題を抱えていますが、頑張り屋さんですから乗り越えられるでしょう。大切にしてあげて下さいませね」
アベルの答えに ほっとした様子でヨムシスは目を細める。
ヨムシスはアリアを恐れていたはずだが、その目は優しかった。
アリアが嫌いというわけではなかったようだ。
「はい」
アベルは深く首を縦に下ろしていた。
――結婚か……アリアを幸せにしたい。
アリアが笑ってくれると、僕も笑顔でいられる。
思えば彼女と出会ってから辛いと感じたことが少なかった気がする。
僕がどんなことをしても彼女は嫌わないでいてくれる。
時々面白いことを言って笑わせてもくれる。
僕に温かな癒しを与えてくれる。
そんな女性、今まで居たかな……?
……彼女とずっと一緒に居たい。
――……僕はもう、アリアがいないと生きて行けない。
アベルはアリアと結婚したいんですねぇ……。
ビアンカとフローラどうすんだろうねw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!