サラボナまではあと少しなんです。
長かった……。
では、本編どぞー。
「っ、アベルぅっ……!」
「……………………だめ」
「わぁっ!?!?」
アベルは今朝同様、心がグラついたが今日のアリアの戦い方では何が起こるか不安で堪らない。
一言“だめ”とだけ口にして、半べそ状態のアリアを肩に担いだ。
アリアが「降ろしてよぉっ」とアベルの背を強く叩くがアベルは降ろしてやらない。
本当は胸の前で抱き抱え、お姫様抱っこをしてやりたかったが、彼女と目が合うとお願いを聞いてやりたくなってしまうので少々乱暴だが致し方無かった。
(ダメだよアリア。……君のお願いなら何だって聞いてやりたいけど、サラボナに着くまではダメだ。サラボナの神父に解呪してもらったら呪いが完全に解けるかもしれないんだし、それまでの辛抱だ。)
アベルは馬車にやって来ると、アリアを担いだままキャビンに軽々と乗り込む。
キャビン内では仲魔達が身体を休めていた。
アリアをそっと床に下ろし、キャビン内に置かれている【安眠枕】と毛布を彼女に手渡す。
「アベルぅ……」
「……おやすみアリア。いい子で寝るんだよ? おイタしちゃいけないよ?」
【安眠枕】を抱え ぷぅっと頬を膨らますアリアの額に、アベルは前髪をスッと横に避けてキスを落とし、優しい笑みを浮かべる。
「っ…………ぉ、ぉゃすみなさぃ……(おイタって……?)」
――その笑顔反則なんですけど……。
アリアは眩しいアベルの笑顔に大人しく従うことにして【安眠枕】を床に置くと、毛布を抱きしめながら頭を預けた。
「……いい子だね」
「………………ふぁ……ねえ、おイタってなに……?」
横になったアリアにアベルが毛布を掛け直してやると、彼女は眠たそうな目でアベルに訊ねる。
「……………………さあ?」
「ん…………? …………………………アベル……?」
アベルはアリアの頭を優しく撫で はにかんでいた。
アリアは意味が解らないまま閉じ掛けていた目蓋を閉ざし夢の中へ。
「……おやすみ」
【安眠枕】のお陰でアリアはすぐに入眠する。
アベルはアリアが眠りに落ちたことを確認して焚火へと戻って行った。
焚火に戻ったアベルは闇夜に明るく燃え盛り揺らめく炎を眺め、呟く。
「サラボナ、ルドマン、フローラ……」
アベルはその晩、一睡もせずに独りで別世界の記憶を探り続けた……。
◇
そして夜が明けた……――!
「アーベール~」
「……っ、ダメだってば……!」
森の中を脱し馬車の中からアリアがアベルに声を掛けて来るが、アベルは嬉しそうな、困ったような顔で首を左右に振っていた。
さっきからアリアは「アベル、アベル~」と何度もアベルの名を呼んでいる。
――ああ もう、僕の名前何度も呼んでくれちゃって……!
彼女に名前を呼ばれる度、アベルは嬉しくて応えたくなるのだが今回ばかりはそうはいかない。
パトリシアの手綱を放しキャビンにアベルが近付いて来ると、アリアは嬉しそうに破顔した。
「そんなこと言わないで? 私、今日はすっごい元気なんだよ?」
「っ、ダメったらダメっ。 サラボナに着いたら出ていいから、今日は馬車でゆっくりしててよ。……我儘言わないでさ」
――今日は絶対ダメだ、昨日の様には行かないぞ……!
アリアがおねだりするように じぃっと自分を見つめて来るが、アベルは踏み止まる。
昨日は彼女の愛らしい瞳に負け、つい言うことを聞いてしまったが同じ轍は踏まない。アリアにキャビンの中に居るよう促した。
「ヒドイ……」
「酷くないよ。馬車に乗ってた方が楽でしょ? 戦闘だって参加しなくて済むし」
「楽だけどっ……、アベルと一緒に歩きたいの……、ホントにダメなの……?」
アリアが馬車から降ろして欲しそうに手を広げ、小首を傾げる。
ハグして降ろせ……の意だろう。
「っ……僕だって……」
――そんな風に求められても困る……! 抱き留めたくなっちゃうでしょ……!!
アベルはアリアのあざとい仕草に受け止めてやりたくなり手が出そうになったが、何とか堪えることに成功した。
「……アベル……?(こんなにお願いしてもダメなの……?)」
アベルは自分に甘いから聞いてくれると思ったのに……とアリアが彼の様子を窺うも、アベルは眉間に皺を寄せ難しい顔をする。
そして珍しく声を荒げた。
「っ、僕だってそうさ! 僕だってアリアといつも一緒に歩きたいよ! ……だけど、君に何かあったら僕はきっと自分を許せない。君の身体にはまだアイツに付けられた傷も呪いも残ってるんだから……!」
「アベル……。でも……………………」
――サラボナに着いたら、あなた結婚しちゃうかもしれないんだよ……?
私、もうすぐお払い箱になっちゃうんだもの……。
ぎりぎりまで傍に居たかったのに……。
アベルの心配はわかるが もう時間がないアリアは少しでもアベルと一緒に歩きたかった。
……その願いはどうにも叶いそうにない。
「……アリアの言うことなら何だって聞いてやりたいよ。けど、それは君の身の安全が確認出来てからだよ。いつ現れるかも解らない症状を抱えているというのに、僕が心配する方がおかしいって君は言うのかい?」
そう告げるアベルの目は真剣そのもので、アリアに伝わらない想いに苛立っているように見える。
――アリアわかってよ、君のためなんだよ……。
アリアは特に我儘を言う女ではないが いつも自由に振る舞い、毎日楽しそうに過ごしている女性だ。
アベルはそんな彼女に振り回されるのが実は嫌いじゃない。
むしろもっと振り回してくれてもいいとさえ思っている。
ただそれは、アリアが元気でいるという前提の下である。
……アリアが元気で笑顔で居てくれるなら、いくらでも振り回されてやろうじゃないか……、アベルはそう思っているのに彼女に伝わらないのがもどかしい。
「……っ……………………………………………………わかった。アベルの言う通りにする……」
アベルの想いが伝わったのか、アリアはしばらく黙り込むと納得していない顔ながら、渋々首を縦に下ろした。
「…………本当に解ってくれたんだね?」
「…………うん、わかったわ。じゃあ……」
「…………? 何……?」
「…………キスして?」
アリアはキャビンから身を乗り出し、唇を窄め突き出す。
「えっ!?」
アベルは驚きに目を見開いた。
「イヤ?」
「いやっ、嫌じゃないです……! いくらでもっ!!」
――なに、アリア? なんか昨日から ずいぶん甘えん坊じゃないか……?
アリアの発言にアベルの鼓動がドクドクドクと逸る。
「…………あと、ぎゅってして?」
「っっ!?!?(アリアっ!?)」
――昨日いったい何があったんだ……!? 何も無かったよね……!?
アベルは驚きつつも、キスとハグならいくらでもしてやると、手を広げハグを待つアリアを抱きしめてやった。
「…………アベル……。好き……」
アリアはキャビンの中から抱きしめられているため、普段なら身長差で座らないと出来ない体勢でアベルの肩口に顔を埋め呟く。
アベルの首元を撫でると髪が指に絡まり、日の匂いがした。
「……アリア……何かあったのかい……?」
「……ううん……何も……」
――アベル、大好き……、離れたくないよぉ…………、でも。
アベルの温かさにツンと鼻の奥が痛んだ気がしたアリアはそっと彼から離れる。
「……アリア……? 何か不安なことがあるなら言ってよ」
――何でそんなに不安そうなんだい……?
アベルは離れた彼女の手を引いて、アリアの頬に優しく触れていた。
アベルからはアリアが何かに怯えているように見えたのだ。
「…………ううん、何も無いよ? 大丈夫……」
アリアは無理矢理笑顔を作る。
普段からホウレンソウだと言っている割りに彼女は笑って誤魔化すことが多い。
「…………大丈夫だよ、アリア。君は何も心配しなくていいんだよ」
――やっぱり呪いのことが気になるんだね……?
アベルは無理に笑顔を作る彼女に“何年も呪われているんだ、そりゃ不安にもなるよね……”と今度は頭を優しく撫でてやった。
「アベル……?」
「……大丈夫、僕に任せて。何もかも上手くいくよ」
アリアが目を瞬かせる中アベルは優しく語り掛けると、彼女の望み通りキスをしようする。
……ところがそれはサイモンとプックルの声で遮られてしまった。
「アベルさまぁぁあああああっっ!! 敵襲っ! 敵襲だぁぁぁああああっ!!」
「ガウガウ!!」
「っ……ごめんっ、アリアっ! 魔物が現れたみたいだ!」
アベルは慌ててサイモン達の方へ走り出す。
「あっ、アベル……っ! 気を付け……」
「っ、終わったらいっぱいちゅーしてあげるから ちょっと待っててっ!」
アリアの声にアベルが一瞬振り向き投げキッスを送った。
「なんっ……も、もぉっ……!(そんな大声で言わなくても……!)」
アリアは魔物と戦い始めたアベルを馬車から見守る。
その後魔物との遭遇が頻発し、アベルがアリアにキスをすることは無いまま、一行はサラボナへと到着してしまうのだった……。
毎度のことですが、ドタバタしながらサラボナへ。
次回からサラボナ編スタートです!
漸くフローラに会える~♪
さて、アベルは誰と結婚するのでしょうか。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!