装備は忘れずに! の巻き。
では、本編どうぞっ。
「おっけー! ……おおっ!? 持てたっ! 使えそうだよ!?」
アリアは【ひのきのぼう】を両手で握り、手前に持って来るようにして眺める。
手に馴染むのか、ぎゅっぎゅっと握り心地を確認しては納得するように頷いていた。
初めての武器の感触に喜びもひとしおで、彼女の瞳が輝いている。
「おぉ~! やったね! 良かった。じゃあそれ、あげるよ」
「ありがとう!」
「けど、もっと攻撃力の高い武器の方がいいかなぁ?」
「そう? これでも強くなった気がするんだけど?」
アリアは「ヒノキっていい匂いするね」くんくんと匂いを嗅いでいた。
「……ぷぷっ、アリアっておっかしいの! ひのきのぼうを嗅いでる人なんて初めて見たよ」
「っ、だ、だってヒノキって言ったら、お風呂に使える木材なのよ!? とってもいい香りがするんだから!」
「お風呂に使うの? どうやって?」
「浴槽に使うの。お風呂場もヒノキ壁にして、浴室ごとヒノキの香りに包まれたらバスタイムが至福の時になるんだから。温泉旅館にあったりするのよ。あ、昔私のお客さんにヒノキ風呂をオプションで入れたいって云ってた人がいたなぁ……」
「へ、へえ……(私のお客さんてなんだろう……? オプ……?)」
アリアがうっとりと話すものだから、アベルは「何か難しいこと言ってるなぁ」とただただ頷く。
「……でも、こっちの浴槽は木材なんかで作らないものね……。そういえば、温泉ってあるのかなぁ……」
「……どこにあるかは知らないけど、温泉ならあるって、聞いたことあるよ?」
アリアが顎に手を添え考え込むと、アベルはこれまでの旅でそんな話を聞いたことがあったなと教える。
「そうなの!? わぁ……いつか行ってみたいなぁ~」
確か、ドラクエⅠとⅢ、それにプレイ途中で止まってるⅣにも温泉があったな~。
さすが、日本を代表するRPGよね! 日本人の心を良くわかってる!
と、アリアはまだ見ぬ異世界の温泉に心躍らせたのだった。
「うん、いつか僕が連れて行ってあげるよ」
アベルは希望に満ちたアリアの瞳につい、そんなことを言う。
「本当!? それじゃあ、楽しみにしてるね!」
アベルの言葉に気を好くして、アリアは弾けるような笑顔をアベルに見せた。
今までで一番嬉しそうな笑顔に見える。
「っ、あ……、うん……」
……笑顔が、か、可愛いなぁ……。
屈託のないアリアの笑顔にアベルはつい、見惚れてしまう。
「……にしても、アリアはどういう武器が扱えるのかなぁ……」
「んー? 武器?」
「うん、アリアのことが見えない魔物は多分、アリアの攻撃は効かないと思うんだよ。けど、アリアのことが見える魔物は襲って来るわけだから、アリアの攻撃も効くんじゃないかなって。なら、ひのきのぼうよりもう少し強い武器を持っていた方がいいと思うんだよね」
「あ~……なるほど。確かにね。でも、武器屋さんの武器、然程強いものは置いてなかったように見えたよ?」
「そうなんだよね……。まあ、今日はとりあえず村の外に出ないからいっか……」
二人は歩きながら会話を続け、宿屋の前に差し掛かる。
「宿屋さん……。ね、アベル。私今日から宿屋さんに泊ろうかな?」
「え? 何で? 僕の家でいいんじゃ?」
アリアの急な言い分に、アベルは首を傾げた。
「っ、いや、だって、アベルと一緒って……」
「? 何? 何か問題でもあるの?」
「っ、私、どうせ見えないし、勝手に泊っても文句言われないでしょ?」
不思議顔のアベルをそのままに、アリアは宿屋の扉を開いて中へと入って行った。
アリアが手を放すと扉はパタンと閉まってしまう。
「あっ、ちょっとアリア! 勝手に泊るってそれ、無断宿泊だよっ?」
アベルは慌てて扉に手を掛け、アリアを追って宿屋へと入るのだった。
◇
「アリアっ!」
宿屋に入ると、アベルはアリアを捜す。
二階に行ったのか、地下へ行ったのか、アリアの姿は一階には見えなかった。
「っ、すぐ居なくなる……!」
ぷぅ。っとアベルは頬を膨らませた。
すると、
「ん……? おや、坊や。どうしたんだい?」
宿屋のカウンターからおじさんに声を掛けられる。
「あっ、こんにちは! おじさん、小さな女の子見なかった?」
「ん? この間の三つ編みの子かい? あの子なら坊や達とアルカパへ行ったんじゃ……?」
「ビアンカの事じゃないよ! 背中に翼が……って……あ、そっか……」
アリアは僕とプックルにしか見えないんだっけ、とアベルはふと思い出す。
そうだ。
アリアって、普通の人には見えないんだった……。
アベルからは他の人と変わらず見えるため、何だか変な感じだなと思う。
アリアが他の人間達から見えないのはともかく、彼女を見失った時、捜すのが大変だなと思ったのだった。
「プックル。今度からアリアがもし一人になった時は、傍についていてあげてね」
「ガウ?」
「村の中なら危険はないと思うけど、あの子、弱いくせにすぐどっか行っちゃうからさ……。わかったかな?」
アベルはカウンタ―下でプックルにアリアの護衛を頼むが、プックルは首を傾げ柔和な顔を浮かべていたのだった。
「あはは……。よろしくね?」
アベルはプックルが理解しているのかどうかわからなかったが、とりあえず頭を撫でてやる。
そうプックルに言い聞かせていると、
「ありゃりゃ、宿帳におかしな悪戯書きがしてあるぞ。坊やじゃないだろうね?」
アベル達の頭上で、宿屋のおじさんが宿帳に視線を落とし首を傾げる。
「へ? 僕今来たとこだし、何もしてないよ? …………っ、見せて!」
まさか、アリアが……?
と、アベルはカウンターをよじ登り、宿帳を見下ろす。
宿屋のおじさんは「それもそうだな」と納得していた。
「っ、これは……!!」
宿帳にはよくわからない落書きがびっしりと描き込まれていた。
お世辞にも上手い絵とは言えない。
「……妙だな……」
アベルは顎に手を当て、考え込む。
そのフォルムはさながら某小学生名探偵のようだった。
アリアが描き込んだにしてはこの量からして、時間が足りない。
ならば、他の誰かが……?
「こらこら、坊や。ここに乗っちゃいけないよ。お行儀が悪いぞ」
「あっ、ごめんなさぁい」
アベルは素直にカウンターテーブルから下りたのだった。
「まったく……、こんなにびっしり書き込まれたんじゃ修正も大変だ。坊や、疑ってすまなかったね」
「ううん、僕も確認出来たから良かったよ」
アベルはアリアを捜しに先ずは二階に行くことにしたのだった。
◇
宿屋二階――。
アベルは手前の客室に入り、アリアを捜す。
そこは空室で中には誰も居なかった。
「はずれかぁ」
念のため、引き出しをチェックしてからその部屋を後にすると、隣の部屋へと入る。
そこには旅の商人らしき人が宿泊中で、アリアの姿は見つからない。
が、部屋に入ってしまった手前、アベルは声を掛けてみたのだった。
「こんにちは! 僕はアベル。この村の村長パパスの息子なんだっ」
「へえ、坊やのお父さんはパパスというのか……。そういえば昔、どこかの国にパパスという国王がいたなあ。まあ、坊やの父さんとは別人だろうけどね」
「え……、それって……!?」
僕、それ知ってるかも!
アベルは以前見た夢の中にパパスによく似た王が、出てきたことを思い出していた。
「さあ、坊や。おじさんはこれから少し散歩をして来ようと思っているんだ。留守にするから出て行っておくれ」
「あ、はぁい」
アベルは商人に追い出され、部屋を後にする。
「アリア、一体どこに……? 地下かな……?」
アベルは地下へと向かった。
某小学生名探偵……、妙だな……同い年ですね。
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