爪の先くらいの感謝はしても……?
では、本編どぞ~。
「アリアよかったね。君の呪いが無事解けて僕もうれしいよ」
――後は僕が十八になれば二人を阻む壁は何も無くなる……!
ふかふかの赤絨毯の上を歩き、扉に向かいながらアベルは嬉しそうに語り掛けていた。
アリアとの結婚を考えているアベルにとって彼女の呪いは なんとも不思議なものだったように思う。
呪いが無ければ彼女と旅をすることは叶わなかった。
呪いが無くならないと彼女と結婚することは叶わない。
そう思うとゲマに感謝する部分も多少はあるか……、と腹立たしいが、アリアが傍に居てくれるなら爪の先くらいの感謝くらいはしてやってもいいとさえ思えた。
「……ありがとうアベル。呪いが解けるなんて思ってもみなかったよ……」
――これでアベルと旅をする理由、なくなっちゃったな……。
アリアはアベルに笑顔で応えながらも泣きたくなってしまった。
(っ、いっけない。楽しく過ごさないといけないんだった……!)
落ち込みそうになる気分にアリアはハッとして首を横にふりふり。
アベルに想われていることに感謝し、温かい想いで胸を満たす。
アリアが一人考え込んでいる内に扉の前でアベルが立ち止まり、ピエールとプックルに先に外で待つよう出てもらうと、アリアの手を取った。
「ね、アリア。……結婚についてどう思ってる……?」
「え……? あ……、うーん……どうって言われても……」
――私には無縁のもの……?
アベルに問われてアリアは口を濁す。
「……アリア。この間は失敗したけど……、もう一度プロポーズをやり直させて欲しいんだ」
「へっ?」
アベルの言葉にアリアは目を瞬かせていた。
「へっ、て……。僕 何度もお願いしてるよね……?」
「あ、……う、うん……。あれ本気だったんだね……。アベルってばいっつも軽く言って来るから冗談だとばかり……」
眉根を寄せるアベルにアリアが目を泳がせ頬を掻く。
「……この間は真面目に伝えたのに……」
アベルはちょっとムッとしてしまった。
「あはは……ごめん。だって、大体いっつも……、その……」
「…………うん、それは僕も反省してる……ごめん……」
――大体いっつも酔ったついでとか、おっぱい揉みながらとか……、ぱふぱふ中とか……軽く言ってたもんね……ごめんアリア……。
アリアが言いにくそうに頬を染めると、アベルも頭の後ろを掻く。
本心ながらも恥ずかしさに負けて、つい軽く言ってしまっていたことは本当に悪いと思っている。
自分の過去の行いを顧みたアベルは“そりゃ本気にしないよな……”と頭を下げていた。
「結婚かぁ……(こんな大きな教会で挙げられたら素敵ね……)」
――アベルはここで式を挙げるのかな……?
アリアが何となく呟くと側で長椅子を拭いていたシスターがやって来て二人に笑みを向ける。
「結婚とは神さまも見守る神聖な儀式……。心から好きな相手となら きっと神さまの祝福を得られることでしょう」
「……そうですよね!」
シスターの話にアベルは満面の笑みを浮かべた。
シスターは「お幸せに……」とまた長椅子を拭きに戻って行く。
アベルとアリアの仲睦まじい様子に結婚間近のカップルと見られたようだ。
「心から好きな相手……」
――私は心からアベルが好きだけど……、アベルはフローラさん……もしくはビアンカちゃんを好きになって……。
アリアはそこまで考えて、気付く。
「あ」
「……ん? どうかした?」
「っ、ううん。何でもないの」
アベルが首を傾げるとアリアは首を左右に振っていた。
――ビアンカちゃんとアベルがまだ出会っていない……!
アベルはフローラと出会ったが、ビアンカはいったいどこに居るのだろうか。
このままアベルがビアンカに会わないまま結婚するとは思えない。
ということは……。
(まだアベルと一緒に居られる……?)
アリアは光明を見た気がしてアベルを見上げた。
「そ? ね、アリア」
「う、ん?」
アベルは握っていたアリアの手を自分の胸元に持って来て告げる。
「……アリアは僕の隣で笑ってて。何も心配しなくていいからね」
「え、えっと……(アベルの胸板厚っつぅぃ……!)」
アベルの胸に手を当てさせられたアリアの顔が真っ赤に染まった。
瞬時に何度も抱きしめられた記憶を思い出し頭が沸騰しそうになる。
「……何があっても僕を信じていて。絶対、大丈夫だから」
いつになく真剣なアベルの瞳と言葉は力強く、アリアは彼から目を離せなくなる。
「っ……アベル……? 何か……思い出した……の……?」
アベルが思い出したのならこの先何が起こるのか訊いてもいいのだろうか……。
アリアは目を逸らせないまま訊いてみたのだが……。
「……何を……?」
アベルは小首を傾げ、瞬いただけだった。
どうやら何か思い出したというわけではなさそうだ。
「あ、ううん……。なんでもないの……」
「……アリア、逃げちゃダメだよ……?」
「逃げる……? なに……? 私別に逃げたりなんか……」
アベルが自分の胸元から手を放そうとするアリアを引き留めると、彼女は目を瞬かせる。
「…………そう? 君、手を放すと すぐどこかに消えてしまいそうで…………ははっ。アリアに逃げられたら僕、一生独り身だと思うなぁ」
「それはないよ……」
苦笑したアベルにアリアは目を伏せていた。
「そうかなぁ? ……だからアリア、もう少し待っててね」
――僕が十八になるまでもう少しだからね……!
アリアの表情は浮かなかったが、アベルは彼女に優しい笑みを向けて教会を後にした。
◇
一方……――。
アベル達が教会から出て来るまでの間、先に出てくれと云われたピエールとプックルはというと。
「…………プックル殿。我々だけでは人間達も驚くことでしょう。こちらへ」
「がうっ!」
ピエールはプックルと共に教会脇へと一次的に身を隠すことにした。
アベルが居なければピエールもプックルもただの魔物と見られてしまう。
ピエールは話すことも出来るし、アンドレから降りてしまえば人間と大差ないため 気付かれにくいが、プックルはその風貌からどう見ても魔物である。
恐怖する者ならまだしも、中には攻撃的な者も居るのだ。
教会前で堂々と待っていられるわけがない。
アベルもそれをわかっているはずなのだが……。
(主殿……何故急に我々に先に行けと……)
ピエールは教会脇で腕を組み考える。
アベルと口を利かなくなってから、ピエールはずっとアベルを注意深く監視していた。
アベルの記憶が早く戻れば、“もしかしたら”未来が変わるかもしれないと思ったからだ。
ところが アベルに記憶が降りて来た様子は見受けられない。
先程の様子だと、ただアリアにのめり込んでいるだけで いつも通り。
――私なら何かサポート出来たかもしれないのに。
このままではアベルはフローラとビアンカのどちらかと結婚してしまうのでは……?
どうにかアベルとアリアをくっつけてやろうと思っていたピエールだったが、サラボナに着いてすぐ偶然アリアが忘れ物をし、馬車に戻っている間にアベルがフローラと出会ったところを見ると……。
別世界と酷似しており、やはり未来は一緒なのだと感じる。
どれだけ二人が想い合っていたとしても時の流れがそれを許してはくれない気がした。
ラインハットでマリアの兄ヨシュアが現れたことには驚かされたが、あれくらいの違いは些末なことなのだろう。
そもそもピエールには別世界でのヨシュアと面識がないため、彼のことは憶えていない。
ヨシュアとはもしかしたら別の時期に会っていて、その時期が早まっただけなのかもしれない……そう思っていた。
――アベル殿、どうかアリア嬢を悲しませないであげて下さい……。
ピエールは教会でエアル神父の云っていた言葉が気になっていた……。
いや、呪いしつこいし、ゲマに感謝はしないよね……w
ちなみにアベルはゲマに爪の先くらいの感謝はしてもいいかと思っただけでしてはないですw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!