ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

酒場で一息。

では、本編どぞー。



第四百三十一話 サラボナの町を歩く ~酒場にて~

 

「アベル……ピエール君と喧嘩中?」

 

「そういうわけじゃないよ」

 

「……………………、……私、ピエール君を呼んで来るね? 仲直りしよ?」

 

 

 アベルとピエール、二人のぎこちない様子に気付いていたのかアリアが訊ねたが、アベルが笑顔で誤魔化すので彼女はテラスへと行ってしまった。

 

 アリアにしてみたらアベルとピエールが仲違いするなんておかしい……というところだろう。

 

 

「……アリア……」

 

 

 ――アリアはピエールのこと……、いや……違うか。

 

 

 アリアとピエールの間にはアベルにはない絆がある。

 二人はまるで親子か、兄妹のようだった(ピエールは違う想いも持ってそうだが)。

 

 アベルと居ない時のアリアはピエールと話をしていることが多かったりする。

 いったい何の話をしているのかは知らないが、楽しそうだったり、深刻そうだったりと話題は尽きない様子だ。

 特に真剣な顔をして話す二人にアベルが割って入ると、別の話題に変わってしまうので、疎外感を感じることさえある。

 

 とはいえ、ピエールとアリアがいちゃいちゃ……ということはないので嫉妬する……というのも違う気がする。

 

 心配になるのも無理はないか……とテラスへと出て行くアリアの背を見送り、アベルは一先ずカウンターテーブルに着いて先に一息吐くことにした。

 

 

 酒場の中を見渡すと、店内に客は他に居らずアベル達だけ。

 ……奥の壁に貼り紙が貼ってある。

 

 

 “お酒は 大人になってから”

 

 

 目が良いアベルは遠目でも書かれていることが読めてしまった。

 

 

「……僕はもう大人だし」

 

 

 アベルはぽつりと呟き近くの椅子に腰掛ける。

 すると今夜の仕込みなのか、カウンターテーブルの奥で作業をしていた酒場のマスターが手を布巾で拭いながら やって来た。

 

 

「いらっしゃいませ。ご覧の通り空いてますからゆっくり飲んでって下さい。今日はルドマンさんの家で重大発表があるらしくてお客さんが ちっとも来ないんですよ」

 

「へえ……、そうなんですね」

 

 

 ――ルドマンさんか……。

 

 

 アベルは先程アリアが“アルコールはやめておく”……と言っていたことを思い出し、ジュースを三つ注文した。

 

 

「ジュースを三つね……まあ昼間ですからね。少々お待ちを!」

 

 

 マスターは注文を取ると奥に下がり準備を始める。

 奥の戸棚からシロップ瓶を取り出し、用意したグラスにそれぞれ注いでいった。

 

 

 ――あれは……【イチゴ】かな……?

 

 

 マスターの手にした瓶の中には紅い実がたくさん詰まっている。

 その紅い実が苺に見えた気がした。

 

 そんな風にアベルが何となく彼の手元を見ていると、近くで欠伸のする音が聞こえて来る。

 

 

「ああふ……。退屈だわあ。ねえ、あなたも あのお屋敷に行くの?」

 

 

 アベルの隣にこの店の店員なのだろう、バニーガールが腰掛けアベルを窺っていた。

 

 

「え……、僕?」

 

「ええ、あなたは行かないの?」

 

 

 アベルが自分を指差すと、バニーガールは愛らしい瞳をぱちぱちと瞬かせ訊ねて来る。

 アリア程ではないが、綺麗な女性だ。

 

 

「……えっと……?」

 

「あら、今日の騒ぎを知らないの? 若い男なら みんなルドマンさんの家に行ったわよ」

 

「ルドマンさんの家に……」

 

 

 ――ルドマンさんの家に……?

 

 

 バニーガールから聞いた話にアベルはやんわりと微笑んで呟いた。

 

 

「実は今日、ルドマンさんの家ではね……」

 

 

 アベルの様子にバニーガールが質問の意図を説明しようとすると、後ろからアリアがやって来て告げる。

 

 

「アベル、……ルドマンさんの家のフローラさんがね、結婚相手を募集しているんだって」

 

「アリア……」

 

 

 アベルがアリアを見ると説得してくれたのだろう、その後ろにはピエールがついて来ていた。

 

 

「……アベル、行かなくちゃ」

 

 

 ――あなたは主人公だから。

 

 

 アリアはカウンター席に着くアベルの前を通り過ぎようとする。

 

 

「え……?」

 

 

 ――何? どこに……?

 

 

 アベルは咄嗟にアリアの手首を捉えていた。

 

 

「……お待ちどう様! ささっ、当店自慢のイチゴシロップジュースです! ゆっくり飲んでって下さい」

 

 

 二人の会話を遮るようにマスターが紅いジュースの入ったグラスを持ってやって来る。

 グラスから苺の甘酸っぱい香りがして、紅いジュースは無数の白い気泡が弾け、グラスに入った氷が溶けるとカラン……、僅かに音を立てていた。

 

 

「あ、どうも。……とりあえずアリアもピエールも座りなよ」

 

 

 マスターがテーブルにグラスを三つ置くと、アベルはアリアから手を放し、空いている方の自分の隣の椅子をポンポンと叩く。

 “ここに座って”ということらしい。

 

 アリアは困ったような顔でアベルを見つめた。

 

 

「……のんびりジュースなんて飲んでる場合じゃないと思うのだけど……」

 

「ん? なんで? ゆっくりしようって言ったよね?」

 

 

 アベルはテーブルに片肘をつき、口角を上げてアリアを見上げる。

 

 

「…………そう、だけど……」

 

 

 ――まあ多分、……アベルが行かなければ始まらないから別にいいんだけどね……。

 

 

 アベルの優し気な瞳に逆らえず、アリアは渋々腰を下ろした。

 ピエールもその隣の席に腰掛ける。

 

 アリアが席に着くとアベルは注文したジュースを彼女の前に置いた。

 

 

「綺麗な色だね。発泡してる……」

 

「……注文してくれてありがと。イチゴソーダ……かな? ん……甘酸っぱい……!(いちごだ~!)」

 

 

 グラスを手に、こくりと一口。

 アリアは口の中に広がる甘酸っぱい苺の味に“この世界にも いちごがあるのね……”と嬉しくなった。

 

 ゲームの中だというのに、現実世界と類似しているものがあるのが面白い。

 

 

「ソーダ……?」

 

 

 ……アベルには馴染みが無かったようだ。

 

 

「うん、しゅわしゅわってするの。ほら、バブル麦汁みたいな」

 

「ああ……! あれかぁ!」

 

 

 ――確か、ツインテールのあの子が作ってたっけ……。

 

 

 アベルは修道院横にクリエが臨時で建てた小屋内で、酒ダルを設置し【バブル麦汁】なるものを作っていたなと思い出す(現在小屋は壊され更地に戻っている)。

 

 ……あの時、アベルはマザーに頼まれて“修道院の敷地外とはいえ隣で酒を作るのは止めて欲しい”とお願いに行ったのだが、少女のクリエが酒を作っているとも思えず とりあえず彼女に話を訊いてみたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それは、お酒……かい……?』

 

『えー違うよ~。これはムギジル! バブル麦汁って言うんだよ。シュワシュワしてて美味しいよ? ……ちょっと飲んでみる?』

 

 

 クリエが酒ダルから発泡した液体をコップに注ぎ「はい、どうぞ」とアベルに手渡す。

 コップを見下ろすと、白い泡がこんもりと綿のように乗っかっていた。

 

 

(……発泡酒……に見えるけど……、飲んでみるか)

 

 

 アベルはコップを傾け【バブル麦汁】を喉に流し込む。

 シュワシュワとした心地好い喉越しがして胃へと流れていった。

 

 味は発泡酒に似ているような気がしたが、アルコール成分は感じられない。

 甘くなく、飲みやすい。しかも酔わないときた。

 

 

(なるほど、これは麦のジュースだな……!)

 

 

『ゲプッ……!?』

 

『あはははっ! いいゲップだねっ』

 

 

 飲み終えたアベルの口からゲップが零れるとクリエに笑われた。

 アベルはマザーに作っているのは酒ではないことを伝え、クリエは暇さえあれば【バブル麦汁】を作り、マルシェワゴンに積んでいたようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(今頃、オラクルベリーで売ってたりするんだろうか……。)

 

 

 ……そんなことを思い出しながらアベルもグラスを傾け、ジュースを口にする。

 【バブル麦汁】とは違う甘いフルーティーな香りが鼻から抜けて、喉には爽快感。

 

 

「……うん、甘い。……いいね!」

 

「ふふっ、おいしいね」

 

 

 アベルが感想を述べるとアリアも笑顔で相槌を打っていた。

 

 

「……なるほどね~」

 

 

 ふと、アベルの逆隣から女性の声が聞こえて来る。

 ……先程のバニーガールである。

 

 

「……ん?」

 

 

 バニーガールの言葉にアリアは身を乗り出し、首を傾げた。

 バニーガールはアベル越しにアリアを一瞥すると、にっこりとアベルに微笑む。

 

 

「ルドマンさんの家に行く必要ないってことなのね?」

 

「ははは……」

 

 

 アベルはバニーガールに流し目をされ頭の後ろを掻いていた。

 




サラボナでイチゴ……は一期一会からってことで……w
フローラとの出会いは一期一会ですよね。

ビアンカとも、アリアともそうか……。

こうして読んでいただいている方ともそうですね!

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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