ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

嫌だって言ってくれたらいいのに。

では、本編どぞー。



第四百三十三話 嫌だと言って

 

「おや……可愛い娘だねぇ、大切にしておやりよ」

 

「はい!」

 

 

 老婆もアリアに軽く会釈すると身体を元の位置に戻し、アベルを見上げ微笑んでくれる。

 ところが老婆の顔は突然曇ってしまった。

 

 

「アンディも早くあの子と結婚してくれたらねぇ……、この小さな町じゃ出会いも中々……ねえ……。はぁ……」

 

 

 息子の結婚を心配しているのだろうか、老婆の口から大きなため息が漏れる。

 

 

「あの……その息子さんは……」

 

「女房は ああ言っとるが結婚ばっかりは神さまの巡り合わせだからのう」

 

 

 アベルがアンディについて訊ねようとすると、話を聞いていた老爺が腕組みして苦笑いを浮かべていた。

 

 老夫婦はその後、アベルに「幸せになりなさいよ、じゃあね」と告げ、目を閉じる。

 そして「アンディ頑張れ……!」と落ち着かない様子で手を組み、祈り始めてしまった。

 

 

(……アンディさん……)

 

 

 アベルはアンディについて訊ねたかったのだが、老夫婦の気もそぞろなため、これ以上話が出来ないと判断してアリア達の元へと戻る。

 

 

 アンディの家を出たアベル達は再び噴水広場へと向かって歩き出していた。

 

 

「ね、アベル……、さっき花嫁って聞こえた気がしたけど……(気のせい?)」

 

「…………アリア。僕の花嫁は君だけだよ?」

 

 

 アリアが訊ねるとアベルは立ち止まって彼女を見下ろす。

 その顔は真剣そのもので、アリアは息を呑んだ。

 

 

「っ……アベル……」

 

 

 ――そんなこと無理なのに……、そんなこと言われたら嬉しくなっちゃうじゃない……。

 

 

 アベルはアリアの手を取り指を絡め、再び歩き出す。

 いつだって頼もしく、自分を引っ張ってくれるアベルの背を、アリアは惚けた顔で見ていた。

 

 

 ……噴水広場を歩いていると、また町の人々の声が聞こえて来る。

 やはり、話題はフローラの結婚についてばかりだった。

 

 アベルは噴水の目の前までやって来ると唸る。

 

 

「うぅぅむ……」

 

 

 ――アンディさんに会えなかったな……、彼には頑張ってもらいたかったんだけどな……。

 

 

 眉間に皺を寄せ、繋いだ手に力を込めた。

 そんなアベルの様子にアリアが口を開く。

 

 

「……ね、アベル。フローラさんと結婚したら家宝の盾を貰えるんだよね……?」

 

「……………………そうみたいだね。なに、アリア。僕にフローラさんと結婚しろとか言うつもり……?」

 

 

 アリアの言葉にアベルはムッとした顔でアリアを見つめた。

 

 

「え…………、あ……。えと……、そういうわけじゃぁ……ない、けど……」

 

 

 ――アベル、怒ってる……?

 

 

 口をへの字にするアベルにアリアは繋いだ手を放すと、後れ毛を耳に掛け気まずそうにアベルから目を逸らす。

 

 アベルはそんな彼女の頬を両手で包み、顔を上げさせる。

 アベルが真直ぐにアリアの目を見つめると、逃れられない彼女の瞳が動揺するように揺らめいた。

 

 

「…………この件は僕に任せてって言ったでしょ? アリアは邪魔しないでよ。君は笑っててくれたら それでいいから」

 

「っ、邪魔って……。私、そんなつもりじゃ……。じゃ、じゃあ、ルドマンさんの家に行って、勇者の盾を借りるの……? 貸してくれるかな……?」

 

 

 真顔で告げられたアリアは気まずそうにしていたものの、直ぐに別の提案をして来る。

 

 

「……………………そうだね。借りるしかないよね」

 

 

 ――今行くのは得策じゃない気がするけど……。

 

 

 アベルは考え込む様にしてアリアの言うことを肯定していた。

 

 

「……アベル……?」

 

「……………………ね、アリア。何があっても僕を信じてね?」

 

「ん……? うん、信じてるよ?」

 

 

 アベルの言うことの意味が良く分からないアリアは瞳を一度だけゆっくり瞬かせる。

 するとアベルはアリアの額に自らの額をくっつけて静かに告げた。

 

 

「…………僕はフローラさんと結婚するつもりはないからね」

 

「っ、アベル……」

 

 

 いつになく真剣な瞳のアベルに、アリアは鼻先が触れそうな程近い距離で見つめられ動けなくなる。

 

 

 ――アベル、でも。

 

 

 これがゲーム上必要なイベントなら、アベルはフローラさんと結婚するためにルドマンさんの家に行くのよ……ね?

 

 

 ……今 ルドマンの家に行けば、アベルはフローラの結婚相手候補として訪ねることになるだろう。

 そして恐らくアベルが行かなければ、結婚相手の募集が打ち切られることはないはず。

 

 

 それでもアベルがはっきりと言うので、アリアは瞬きするのも忘れてアベルから目を逸らせなかった。

 

 

「……今、ルドマンさんの家では結婚相手を募集しているんだったよね?(アリア、わかってくれるかな……)」

 

 

 アベルはアリアの頬から手を放し、今度は彼女の頭を撫でる。

 

 

 ――本当は今行きたくないんだけど……、仕方ないか……。

 

 

 アリアの潤いのある瞳にアベルは彼女が誤解して悲しまないか心配で仕方なかった。

 

 ルドマンの家に行っても、フローラの相手候補として行かなければいい。

 もし、別世界と同じ展開なら一先ず話を聞いて、勇者の盾が借りられないか話をすればいい。

 

 未来を大きく改変出来るかはわからないが、これまで小さなことは数多く……大きな変化は二つ……変わったことはいくつかあったのだ。

 

 

(ヨシュアさんと再会出来て、修道院の修繕だってした。この先だって、きっと変えて行けるはず……!!)

 

 

 アベルはアリアに同意を求める。

 

 

「……だね」

 

 

 アリアは小さく頷いていた。

 

 

「……アリア。僕、実は少しだけ思い出してるんだよ?」

 

「えっ、そうなんだ? よかったね」

 

 

 アベルの言葉にピエールがビクッと肩を揺らす。

 “いつの間に……”と声が漏れ聞こえていた。

 

 アリアは一瞬だけ驚きの表情を見せたものの、すぐに柔和な顔で微笑む。

 

 

「今行くと花婿候補に間違われると思う。それでもいいのかい?」

 

 

 ――アリアは大丈夫かな……悲しんだりしないかな……?

 

 

 ……アリアを傷付けないため、アベルは彼女に確認を取っていた。

 

 本当は別の方法で勇者の盾を手に入れようとアベルは思っていたが、ルドマンに会うためには結婚相手候補として出向かなければならない。

 

 後日会いに行けば済む話なのだが、ルドマンは今、娘フローラの結婚相手のことでいっぱいだ。

 そう簡単に話を聞いてはくれないだろう。

 

 ならばルドマンの屋敷に乗り込むしかない。

 

 だが、それがアリアを傷付ける行為になるなら遠慮してもいいとアベルは思っていた。

 

 

「………………………………………………、うん」

 

 

 アリアは俯き、しばし黙り込んだ後で頷く。

 俯いているためにその表情はアベルからは見えない。

 

 

「アリア…………、本当にいいのかい?」

 

 

 ――アリア、嫌だって言ってよ。

 

 

 アベルは彼女の答えに眉根を寄せる。

 

 

 ……僕を好きな癖に。

 恋人が別の女の結婚相手候補として名乗り出ると言っているのに平気なのか……?

 

 あれだけ毎日仲良く一緒に過ごしていたのに、何で止めてくれない?

 このまま本当にフローラの結婚相手になってしまってもいいというのか……?

 

 

 ……もちろんアベルはフローラと結婚する気は無い。

 だが、もしこのまま いつものように時が流れていったら……と思うと不安がないわけではない。

 

 フローラが嫌いだとか、そういうわけではない。

 ただ、今の(・・)アベルはアリアが好きなのだ。

 

 ……それも彼女と結婚したい程に。

 

 勇者の盾は後回しにして次の大陸へ……とも考えていたが、船が無ければどうにもならない。

 船を持っているのはルドマンである。

 

 ルドマンに話を通すにはやはり、フローラの結婚問題を解決しなければならない。

 となると結婚相手に名乗り出ることになるわけだが……。

 

 傍から見たら恋人がいるのに別の女性に結婚を申し込む最低男だ。

 アリアはそれでいいという……。

 

 

 ……アベルはアリアが何を考えているのか解らなかった。

 

 

 アリアは昔からいつも自分に応えてくれるし、甘やかしてくれるし、甘えてもくれる。

 だが、時々壁を感じることがある。

 

 彼女はいつも笑顔で、悩みなどは打ち明けてくれない。

 呪いは解けたが、一部の記憶は戻っていないから不安だろうし、独りだと泣いている程なのに。

 

 

 ――……もっと頼ってくれていいのに……。

 

 

 そんな時、顔を上げたアリアの表情はやっぱり笑顔で、アベルは彼女の両肩を掴んでいた。

 




アベルはどこまで思い出しているのやら。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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