原作の意志……それは未来を曲げることを許さない大いなるチカラである。
では、本編どぞー。
◇
アベルを見送ったアリアは、アベルが屋敷へと入り扉が閉まると振っていた手を下ろす。
「ふぅ……やっと行ったね」
――アベル、これで花婿候補になっちゃうね……、候補っていうか……きっと選ばれちゃうんだろうなぁ……。
だって、主人公だもの……!
いや、主人公じゃなくたって、アベルは優しくて性格もいいし、格好いいし可愛いし、選ばれて当然というか何というか……。
“私の自慢の彼氏が選ばれないわけがないじゃない……!”と、アリアは複雑な想いながら、なぜか誇らしい。
アベルと付き合えたことへの喜びを噛み締めていた。
そんなアリアが隣のピエールに笑顔を向ける。
「……アリア嬢、よかったですね。これならば未来も もしかしたら……!」
「……え? なにが?」
ピエールが弾んだ声で告げるも、アリアは何のことと首を傾げる。
「え?」
ピエールもアリアの動作を模倣していた。
「アベル、さっき何か言ってたみたいだけど……、何か重要なことでも言ってたの?」
「アリア嬢……? 先程の主殿の言葉を聞いておられなかったのですか……?」
「う、ん? ……あ、なんかね、聞き取れなかったの……。急にキーンって大きな耳鳴りがして……」
「……アベル殿は……、先のことをわかっているそうです。あなたを花嫁にする、あなたは何も心配するなと……」
アリアがアベルの話が一部聞こえなかったことを話すと、ピエールは補足するように告げる。
「……っ、そ、そんなこと言ってたんだ……」
ピエールの話にアリアは驚き頬を紅く染め、黙り込んでしまった。
だが、
――ひょっとして耳鳴りでアベルの声を遮った……の?
アリアは先程の耳鳴りが【原作の意志】によるものかもしれないと、すぐに目を伏せる。
ついさっきもアベルがアリアを花嫁に……と言っていたにも関わらず、何故今のタイミングなのかはわからないが、突然聞き取れなくなった。
アベルの結婚が近付いているからなのだろうか。
……ゲームをプレイしていないアリアにはわからない。
ただ【原作の意志】は確実に存在しているのだ。
未来を書き換えられないよう、いつも自分達を監視し、管理しているのでは……、そんな考えが過る。
この世界は既に
未来が決まっているため、何があっても順当に
アベルがいくら足掻こうとも大きな流れが『変わらない』と云っていたのはそういうことなのだ……。
それをアリアは承知していて、アベルとの未来は最初から諦めている。
アベルの結婚相手はフローラかビアンカの二択のみ。
揺らぐことのない選択肢だ。
……未来に起こることを思い出したとはいえ、アベルはまだ、
「アリア嬢……?」
ピエールは黙りこくったアリアを窺う。
するとアリアは すぐに顔を上げた。
「……ね、ピエール君。私ね、別にアベルと結婚したいわけじゃないんだよ」
「……え?」
「そりゃ、結婚出来たら嬉しいけど……、一番はアベルが元気で楽しく過ごしてくれること。私はそれでいいの。フローラさんと結婚しても、ビアンカちゃんと結婚しても、彼が幸せならそれでいいじゃない?」
「アリア嬢……」
終始笑顔で話すアリアに、ピエールの胸が痛くなる。
アベルは先のことをわかっていると言っていたが、わかっていたとしてもこれまでの経過を見るに、未来を改変するのは容易ではない。
いつもと違う行動をしたことにより、先のことはわからないもののアベルとアリアが結ばれる未来は望み薄のままである。
一方向にしか吹かない強く大きな風の前に、容易く飲み込まれてしまう小さい
「ふふっ、……けど、彼の結婚が決まったら、私 お祝い出来なさそうだから逃げちゃおうかな! 呪いも無くなったし、昔出来なかった自分探しの旅でもするよ」
アリアは淋しそうに目を細めていた。
「…………アリア嬢、どうか……、主殿を信じてはみませんか……?」
「信じてるよ? 信じてても……どうにもならないことだってある」
――【原作の意志】は
今回は耳鳴りで済んだが、次は何をされるかわかったものじゃない。
何が地雷で何が禁句なのかもわからないが、耳鳴りは警告なのかも……と思うとアリアはゾッとした。
アベルと親密に過ごすことに寛容なのかと、さっきまで【原作の意志】の存在なんて忘れていたくらいだったにも関わらず、急な干渉。
この世界では魔王を恐れているが、アリアにとっては魔王よりも【原作の意志】の方が恐ろしい。
その気になれば自分など あっさり消されてしまうのでは……と。
(……せっかく異世界に来たんだもの。まだ消されたくはないかな……)
アベルのことは好きだし、愛してもいるが、せっかく転生した人生だ。彼のために死ぬまでは出来ない。
むしろ彼のために生きていたい。
悲しい別れがあったとしても、時が来れば思い出に変わる。
辛いことも、時が経てば手放すことが出来る。
……前世で学んだことである。
「アリア嬢……」
「悲観してるんじゃないよ? ただ、時には自分じゃどうしようもないことってあるんだよね。そういう時、諦めるってことも大事だなって」
アリアは耳に後れ毛を掛けながら微笑んだ。
その笑顔は凛としている。
「…………アリア嬢はお強い。その若さでよくそのような考えに至りましたね」
「……ふふっ、伊達に前世の記憶はないってね……!」
「……は、はははっ! そうでしたね! アリア嬢もまた、我々とは異なる別世界の記憶がおありでしたね!」
「ふふふっ、そゆこと~!」
ピエールとアリアは互いに見合い笑い合った。
アリアのあまりの潔さにピエールは少々心配になったが、彼女が無理して笑っているわけでもなさそうで、そこだけは安心する。
(アリア嬢……、もし未来がいつも通りでも、私がお傍に居りますからね……)
ピエールは兜の下、切なげな瞳で笑うアリアを見つめていた。
◇
◇
◇
……アベルがルドマンの屋敷に入ると、召使いの女性が頭を下げる。
「いらっしゃいませ。ここはルドマン様の屋敷でございます。あなたもフローラお嬢さまとのご結婚をお望みですか?」
「あ、いえ僕は……」
フローラの結婚相手候補として名乗り出るつもりはない。アベルは首を横に振っていた。
「では、申しわけありませんがお引き取り下さい。本日ルドマンさまは フローラさまの夫となる方にお話があるのです」
「あの、実はルドマンさんにお話があって来たのですが」
召使い女性に帰れと言われるが、そういうわけにも行かない。
アベルはここに来た目的を話す。
「申し訳ありませんがお引き取り下さい」
……召使い女性は表情一つ変えずに「おかえりはあちらです」と扉に手を向けていた。
アベルは扉まで一度向かってからぽつり。
「…………やっぱり……」
――僕も相手候補として名乗り出ないと駄目か……、アリア……ルドマンさんと話をするまでだから……。
許して欲しい……。
アベルは意を決してもう一度 召使女性の元へと向かった。
原作の意志っていう魔王よりコワイ存在……w
アリアはなまじ現実世界の記憶なんてものがあるから、余計なことを考えちゃうんですよね。
ドラクエ5の世界じゃなかったらもっと伸び伸びしてたかな……?
ドラクエ3の世界だったら詳しいので色々出来そう……。
完結したらアベルと一緒に行きたいですねぇ……(一応ネタは考えてます)。
次回【アベル、花婿に立候補する】です。
※来週はお休みします…。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!