アベルは結局花婿に立候補しちゃうんですよ。
では、本編どぞ。
「いらっしゃいませ。ここはルドマン様の屋敷でございます。あなたもフローラお嬢さまとのご結婚をお望みですか?」
再びやって来たアベルに召使女性は、先程と一言一句違わぬ物言いで訝し気にアベルをじろじろと見ていた。
“さっき断ったはずなのになぜ……”といった表情である。
「………………っ、はい(ごめん、アリア……!)」
アベルは心苦しい思いで頷いた。
「では どうぞ、そちらでお待ち下さい」
召使女性が手先を玄関ホールの奥へと伸ばす。
そこには三人の男性が、閉じられた奥の部屋の扉前で並んで待っていた。
(ああ……この展開……知ってる……。)
アベルは見たことのある光景に、せっかくだからアンディを捜そうと
「あの、あなたはアン……」
アベルが声を掛けたのは商人のような恰好をした中年の男性だった。
随分と恰幅が良く、年齢もかなり年上に見える。
――この男はアンディさん……、じゃないみたいだな。
アベルはアンディの名前は思い出せてはいたものの、顔は憶えていなかった。
……アベルがアンディを捜していたのには理由がある。
アベルは昨夜徹夜で座禅を組み【めいそう】をするように神経を集中させ、遂にサラボナで起こることを断片的にではあるが、かなり先まで思い出すことに成功していたのである。
このまま時が進めば、自分はフローラかビアンカと結婚することになってしまう。
それはもう、何万、何百万回繰り返された人生の常であった。
フローラとの結婚も、ビアンカとの結婚も、とても嬉しいもので愛おしく、幸福なものだった。
だが、今、自分にはアリアという初めての女性がいる。
現世はその彼女と結婚をしたい。
人生の常をどうにか覆すには、先手を取って動くしかない。
……ヨシュアとの出会いと修道院の修繕で未来が変わっていることを確信したアベルは諦めず行動していたのだ。
少々条件はあるがアンディに協力し、彼にはフローラとくっついてもらう。
フローラが結婚すれば、自分はアリアと結婚することが出来る。
ビアンカのことは気になるが……、とりあえず今は保留だ。
アベルは後で考えることにしていた。
……そう、先程アンディの家に行ったのには理由があったのだ。
先ず、アベルは結婚に消極的なアリアに意識してもらうよう努めた。
次に、アンディがフローラと結婚できるよう協力すると伝えようとしたのだが、彼は留守だった。
そこであまり行きたくはなかったのだが、ルドマンの家にやって来てアンディがここに居ると今し方、はっきり思い出したのである。
……だが、アベルは彼の顔を憶えていない。
憶えているのはアンディという男が居たな……ということだけだ。
目の前の中年男性はアンディとは違うように思う。
身なりからして商売人のようで……、その風貌から推察するに恐らく先程留守だった道具屋の店主だろう。
年齢もアンディとは違い過ぎている。
確かアンディはアベルと同い年くらいだと彼の両親が言っていたからだ。
アベルが「人違いだったようで……」と言おうとするや、道具屋がニヤニヤと自らの服装をちらりとしつつ、出っ張った腹を撫でながらアベルをジロジロ。侮蔑するような目で眺めていた。
道具屋の服はシワもなく、下ろしたての新品のようで……まあ、結婚の申し込みに来るのだから当然といえば当然だろう。
(旅をしていたら服だってボロボロになるんだよ……けど、この服丈夫なんだからね……っ!! か、片乳は見えちゃうけど……)
アベルは自分の服があちこちボロボロになっているのを見られ、ちょっぴり恥ずかしくなってしまう。
胸の前で何となく腕をクロスした。
「いやいや、あなたも丁度良い時にこの町を訪れましたね。でもフローラさんと財産は私が頂きますよ」
「……チッ」
道具屋の言い方が嫌味に聞こえ、アベルは舌打ちをする。
そしてギロッと道具屋を睨み付けた。
“フローラをこんな男に絶対やりたくない。”
別世界での自分もきっとそう思っただろう、今のアベルにもその時の記憶が何となくある。
今回フローラと結婚するつもりはないが、この男と結婚なんてさせない。
道具屋はアベルの鋭い瞳に怯み、逃れるように背を向ける。
アベルもそれ以上何も話したくないので、今度は隣の男性に話し掛けた。
「あの、あなたはアンデ……」
「フローラさんと結婚できるなんて まるで夢のようだなあ。でも どんな条件が出されるんだろ?」
商人の隣の男は短髪の……その辺に居るような平凡な若者だった。
アベルよりも少々年上に見える。
服装は……やっぱり小綺麗で、服装だけで言えばアベルは場違いではなかろうか。
少々ぼんやりとした冴えない風体のその男、フローラとの結婚を夢見ているのか、その顔は既に幸せそうだ。
(う~ん……この人もアンディさんじゃない気がする……。ということは、隣の人か……)
アベルはこの若者もアンディではなさそうな気がして、引き続きその隣に居る長い金髪の男に話し掛ける。
せっかく大分先まで思い出したというのに、ままならないものである。
「あの、あなたはひょっとして……」
「やあ、あなたもフローラと結婚したくて? ボクはアンディ。彼女とは幼なじみなんですよ。ボクはお金も宝も欲しくありませんが、彼女が妻になってくれるなら……」
「……アンディさん!?」
――イターーーーッ!!
アベルはやっと出会えた目的の人物に歓喜し、彼の手を取ると目を輝かせた。
自ら名乗ってくれるとはなんと良い人なのだろうか。
「は、はい、アンディですけど……?」
「会いたかった……!」
アベルは喜びについ、アンディの手にすりすりと頬を寄せてしまう。
「え? えぇ……? あなたいったい誰なんですか?(気持ち悪い人だなあ……)」
アンディはドン引きで手を引き抜こうとするが、アベルの力が強くて引き抜けなかった。
アンディ、彼はとりあえず顔だけ不快感を露わにし、眉根を寄せている。
「……アンディさん! 実は、あなたにお願いが……!」
アベルはアンディの手にさらに力を込めて握り締めた。
「お願い……? ……と、今はそれどころじゃないですよっ! 痛っ! 手を放して下さい!」
「あっ、すみません。会えたのが嬉しくて、つ、つい……ははは……」
アンディの声にアベルは手を放し、羞恥に頬を掻く。
つい、アンディをちろっと上目に見てしまった。
「っ……、コホンッ。ボクはそういった趣味は持ち合わせていませんので……って、あなたもフローラとの結婚を望んでいるのでしょう!? 並んで待ちましょうよ!」
アンディはアベルの瞳に咳払いをする。
ちょっと可愛い……なんて思ってしまったらしい。
……アベルは同性をも魅了してしまう男なのだろうか。
「違います! 僕はあなたを応援……」
「違う? あなた見たところ旅人ですよね……? あの前に並んでいる道具屋の店主と同じく財産目当てですか? そんな輩にフローラはやれませんよ」
アベルが事情を話そうとすると、アンディは警戒心を剥き出しにしてアベルを睨み付けた。
「……アンディさん、それは誤解……」
「……勇者の盾がどうのと旅の商人が言っていたけど……、ボクは金も宝も要らない。ボクが欲しいのはフローラだけだ。……あなたのような人には負けませんからね」
アンディは不愉快そうに それだけ言うと、アベルからプイッと顔を逸らしてしまう。
……聞く耳なしである。
(……僕はアンディさんを応援したいだけなんだけど……、聞いてももらえないのか……)
こうなったらルドマンに直接交渉するしかない。
だが、この感じだといつもと同じになる気がするな……。アベルは「はぁ」と小さくため息を吐いた。
(アリア……、誤解しないでおくれよ……)
そうしてアベルが黙ったままアンディの後ろで大人しく待っていると、奥の部屋で階段を下りる足音が聞こえる。
その音が聞こえるなり、先程話をした召使女性がアベル達の元へとやって来た。
「それでは お時間となりましたので応接間にお通し致します。どうぞ、お入りください」
召使女性の声に道具屋の店主が扉を勢いよく開け、応接間と呼ばれる奥の部屋に入って行く。
若者とアンディもそれに続き、最後にアベルも……。
「……あの、行かれないのですか……?」
「………………うーん……(今行ったらやっぱりマズイよね……?)」
召使女性に声を掛けられたアベルはその場に立ち尽くし、腕組みをしていた。
「もし、候補者さま?」
「……あ、行きます」
――ええい、さっさと向こうの話を終わらせて、こっちの話を聞いてもらおう……!!
召使女性がアベルの顔の前で手を振ると、アベルは漸く動き出す。
――どうか、この先の未来が変わりますように……、いや、僕が変えるんだ……!
アベルは別世界の時とは違う想いを胸に抱き、応接間へと足を踏み入れたのだった……。
アベルはアンディに頑張って欲しいようです。
モブキャラ達は自分達の役目を持っているため、訊く耳を持ってくれません……。
ままならないものですねぇ。
ちな、アンディはPS2版ではなくSFC版のイケメンってことでここはひとつ。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!