ルドマンと初面談。
では、本編どぞ。
◇
アベルが応接間に入ると奥の白い大きなテーブルに、上質な貴族の服を身に纏い、首に淡い紫色の毛皮を首に巻いた男が。
その頭頂部は光り輝くも後ろの髪は豊か。頭の後ろ側で二本の角のように左右で固めたヘアスタイルは独特。鼻の下にも、顎にも豊かな髭を貯えている。
体形はふくよか。
一見気の良さそうな顔の中年男性が上座に座していた。
……彼がルドマン、その人である。
ルドマンの前のテーブルを挟み椅子が四脚。
奥から道具屋、青年、アンディの三人が既に席に着いていた。
残る一脚にアベルは腰掛ける。
アベルが来るのを待っていたのだろう、アベルが席に着いた途端、ルドマンは男四人を打見してから口を開いた。
「みなさん、ようこそ! 私がこの家の主人のルドマンです。さて。本日こうしてお集まりいただいたのは、わが娘フローラの結婚相手を決めるため。しかし、ただの男に可愛いフローラを嫁にやろうとは思わんのだ」
“そこで条件を聞いてほしい……。”
…………ルドマンの話は長かった。
人生を繰り返すアベルにとってルドマンの話を聞くのはもう何度目のことか。
……古い言い伝えで【炎のリング】と【水のリング】と呼ばれる二つの不思議な指輪がこの大陸にあり、身に付けた者に幸福をもたらしてくれるという。
その指輪を結婚指輪として持ち帰った者にフローラとの結婚を認める……という話で、さらに婿になった者には家宝の盾を与える……とのことだった。
要約すると、“不思議な指輪を取って来た者にフローラと家宝の盾をやる……”という。
【炎のリング】と【水のリング】は、世界に二つとして同じものはないといわれる唯一の指輪だ。
(……アンディさんがフローラさんと結婚できるよう協力するとしても……、指輪は欲しいな……)
――【炎のリング】はどうにかなるとして……【水のリング】は船が無いと……。
ルドマンの話を聞きながら【水のリング】の在り処を知っているアベルは悩んでしまう。
「では……」
ルドマンが話を締めようとすると、そこへ。
「待ってください!」
階段の方から青い髪の可憐な女性が困ったような顔でルドマンの元へとやって来た。
「フローラ! 部屋で待っているように言っただろう」
ルドマンが眉を顰め青い髪の女性に告げる。
……彼女がフローラ。
ルドマンの一人娘であり、アベルがサラボナに着いて早々出会った女性だった。
そして別世界では幾度となくアベルと結婚した相手……である。
「お父さま。私は今までずっとお父さまの仰る通りにしてきました。でも夫となる人だけは自分で決めたいんです」
フローラは真剣な眼差しでルドマンに訴えていた。
(フローラ
アベルがフローラに懐かしさを感じていると、彼女は今度はアベル達の方へと顔を向ける。
そして今度はアベル達に訴えかけていた。
「それにみなさん! 炎のリングは溶岩の流れる危険な洞くつにあると聞いたこともあります。どうかお願いです! 私などのために危ない事をしないで下さい……。…………」
フローラは眉を下げ、心苦しそうに花婿候補の面々を奥から順に見つめて止めるようにと願う。
道具屋、若者、アンディ、アベル……と見て行くと、アベルの姿に彼女は目を大きく瞬かせた。
「……あらっ? あなたはさっきの……。それじゃあ、あなたも私の結婚相手に? まあ……」
アベルの顔を見るなりフローラの頬に赤みが差す。
先程の心苦しそうな表情はどこへやら、フローラはアベルを上目に、ちらちらしながら黙り込んでしまった。
その様子にルドマンはフローラとアベルを交互に見やる。
「なんだフローラ、知り合いなのか? ……ふむ、少しは頼りになりそうな若者だが……」
フローラに問うも、終いにルドマンはアベルを凝視すると口をへの字にして髭を弄んだ。
募集した婿候補とはいえ、少しばかり面白くない様子。
「ゴホン! とにかくフローラと結婚できるのは 二つのリングを持って来た者だけだ!」
ルドマンはアベルから目線を花婿候補四人に戻し、そう締めくくり再びフローラに視線を転じる。
「さあ フローラ来なさい!」
フローラはアベルをじっと見ていたが、ルドマンの声にハッとして共に二階へ上がって行ってしまった。
……ルドマンとフローラが去ると、道具屋の店主が苦虫を噛み潰したような顔をして一言。
「やれやれ、大変な条件を出されたな」
彼はサッと席を立ち、応接間から出て行ってしまう。
他の候補達もそれに続いていた。
「……誰も居ない」
候補者の三人が立ち去り、アベルは独り部屋に残され最後に立ち上がる。
応接間に入った時に気付いていたが、先程向かいに座っていたルドマンの背後に宝箱が二つ見えていたのだ。
――今がチャーンスッ!!
余所の家の宝箱を開けるのは泥棒の行為だということは解っている。
だが、これは病気なのだ。致し方ないのである。
「……タ・カ・ラ・バ・コ……ア・ケ・ル……!!」
アベルの鼻からフーッフーッ。興奮気味の鼻息が漏れていた。
傍から見たらヤバイ人だ。
これまで出会った宝箱は全て開けて来たのだ。もはや躊躇などない。
「何が入ってるんだっけ……?」
恐らく前の人生でも開けているであろう宝箱にアベルは手を掛けた。
……カギが掛かっていて開かない……!
「……………………開かない」
――そりゃそうか……、家の宝箱に鍵を掛けないなんて不用心だものな……。
アベルはがっくりと項垂れ、今は諦める。
「……と、こうしてる場合じゃなかった。ルドマンさんに訳を話しに行かないと……」
これでやっとルドマンと話が出来ると、アベルは二階へと向かった。
◇
屋敷の二階に上がったアベルは広過ぎる廊下を見回しながらルドマンを捜した。
階段を上がってすぐの廊下には高そうな美術品の数々が飾られている。
「……絵画に、彫刻……、あ、この部屋だったっけ?」
ギィ。
最速手前の扉を開き、部屋へと入る。
そこには化粧台に向かい、扉に背を向け座るフローラが居た。
「あ、すみません(フローラさん……の部屋だったか……)」
「あら」
アベルはルドマンの屋敷の間取りまでは思い出せていない。
……アベルの声にフローラが振り返った。
「あの、ルドマンさんはどちらに……」
「私の父は昔から強引なんです。あなたも危ないことをしないでくださいね。二つのリングなんて なくたって私……」
アベルがルドマンの居場所を訊ねようとすると、フローラは弱り目で語りだし、頬を ぽっと赤く染める。
「……えっと……僕はその……」
――フローラ
アベルはフローラの様子に頭の後ろを掻いていた。
別の人生では何度も結婚した女性なのに、今回は違うだなんて不思議に思う。
別世界で何度も自分の奥さんとなった
自分がフローラを選ばなければ、フローラはいつか他の誰かと結婚するはず……。
……その記憶は降りて来ていないが、もしかしたらさっきの候補の中の誰かと……、ならばアンディが適任だ。
彼ならフローラを心から愛してくれそうである。
そう思ったアベルはアンディに協力し、フローラを幸せにして欲しいと思っていたのだ。
自分が幸せにしてやれたら一番いいが、今回は出来そうにない……。
そんな複雑な感情を抱えながらアベルが何も言えずにいると……、フローラはにっこりと破顔した。
ルドマンさん、結構無茶言いますよね。
昔冒険していただけある……!
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!