アリアを養女に……、断れるのでしょうか。
では、本編どぞー。
◇
アベルが応接間に戻ると、アリアは呪いが解けたことや、昔の記憶が戻ったことをルドマンに報告していた。
そしてアベル……否、ここでは
アベルとは赤子の時から離れ離れで十余年前に一度は再会したものの、再び離れ離れになっていたこと。
そもそもアベルと再会するまでの記憶がないこと……を、真実と嘘を交えてアリアはルドマン達に説明する。
そして、幼いアベルと再会する前、自分がどこで何をしていたのかを思い出すためにも旅を続けたいから養女にはなれないということを伝えていた。
アベルもアリアの話を黙って聞きながら、うんうんと時折相槌を打つ。
大筋は合ってるから誤魔化せているよね……とアリアが時折アベルをチラ見すると、アベルは目を細めて“大丈夫だよ”と口角を上げた。
……そうして、アリアの話を一通り聞き終えたルドマン達は黙り込んでしまう。
「…………それでは、アリアはわた……コホンッ、お父さんのことを憶えていない、と……?」
しばらくするとルドマンが沈黙を破り、揺れる瞳でアリアを窺った。
「お、父さん……? あ、はい。ですからアベ……ぁ、お兄ちゃんと旅をしながら記憶が戻らないかなと思っていて。この町で呪いも解けたことですし、ここにも記憶の手掛かりは無いようなので、私はまだ旅を続けたいと思っています」
……ルドマンはすっかり父親気取りらしい。
アリアが淡々と話す中、ショックを隠せないのか今にも泣き出しそうに徐々にその表情を歪めていった。
それはフローラと夫人も同様だった。
ルドマン一家三人は眉を顰め切なそうにアリアを見つめる。
アリアは自分の気持ちを伝え終えると すっきりした顔をしていた。
「…………、アリア……以前も言ったと思うが、私はお前を決して一人にはしないよ……?」
「……ルドマンさん……。ありがとうございます……」
毅然とした態度のアリアにルドマンは眉を顰めつつもはにかむ。
アリアはそれを受けて申し訳なさそうに微笑み躱していた。
「ルドマンさんだなんて他人行儀な……」
「そうよ。あなたは今日から私達の娘なのよ?」
「お姉さま。私のお姉さまにならないなんて言わないでくださいまし」
ルドマン、夫人、フローラがそれぞれアリアに声を掛ける。
アリアは「ありがとうございます」「ごめんなさい」を笑顔で繰り返した。
ルドマン達がそれぞれに口説き落とそうとするも、アリアは微笑んだまま首を横に振るばかり。
(…………アリアって……すごい慕われてるんだな……。……昔、何があったんだろう……)
その様子を見てアベルは、改めてアリアは不思議な女性なのだなと感心してしまう。
……と、これまでルドマン達と顔を合せていたアリアが笑顔のままアベルへと目線を移した。
「……アベル……お兄ちゃん……。フローラさんと結婚したいのでしょう……?」
「え、あっ……」
――しまった……! まだ誤解させたままだった……!!
アリアの張り付いたような笑顔が少し怖い。
怒っているのだろうか……。
アベルは彼女の笑顔の裏が読めず、二の句が継げなかった。
アリアに声を掛けようと思うが、何も言えず黙り込むアベルにルドマンが思い出したように口を開く。
「おお! そうだった そうだった。アベルには二つのリングを持って来てもらわねばな! アリアの兄とは言え、他の候補者達は既に出発しているはず。今更特別扱いはできん。ウワサによると炎のリングは東南の洞窟に眠っているということだ」
「っ、あ、はい。今日はもうすぐ日が暮れるので明日から行ってみようと思います」
ルドマンの話に助け舟だとばかり、アベルはそちらの話題に食い付いた。
――アリアごめんね、宿屋に戻ったら説明させて……!!
アベルは心の中でアリアに謝罪する。
するとルドマンがニヤッと口角を上げた。
「…………ほう……? そうか。あい わかった。ではしばらく、アリアをこちらで預かろう」
「え……? なぜ……?(アリアの身をルドマン家で預かるって……?)」
――ちょ、どういうこと……!?
ルドマンの言い分にアベルは目を見開く。
「妹とはいえ……、こんなか弱い女性を危険な洞窟に同行させる訳にはいかんだろう……」
ルドマンは不服そうにアベルをじろりと睨み付けていた。
「ルドマンさんっ! 私、今までアベル……っ、お兄ちゃんと危険を掻い潜って来たんです。平気ですよ……!?」
「アリア。お前の気持ちは解る。やっと再会したのだ、兄と離れたくないのだろう? だが、その兄がフローラとの結婚を望んでいるのだ。お前には可哀想だが兄離れの練習だと思って家でゆっくり過ごしていなさい。アベルが結婚してもしなくても、お前がどこか旅に出たいというなら護衛を付けてやろう。もちろん兄であるアベルにも何某かの援助をするから安心していい」
アリアは訴えたが、ルドマンは強引にアリアを養女にしようと勝手に話を進めてしまう。
「ルドマンさんっ……! 私、アベルと離れる気は……!」
「アリア。……私はお前を手放すつもりはないよ。何年も待ったのだ、私の娘におなり。そうしたらお前の家族が増えて、淋しくないよ?」
「っ……私、何度もお断りしてるんですけど……!?(さっきの説明聞いてなかったの……!?)」
アリアが何度か食って掛かるが、ルドマンは訊く耳持たずに笑顔を見せていた。
「そうですよ! 僕のアリア……ぁ、妹なんです! 勝手に話を進めないで下さい……!」
――ルドマンさん、強引ですよ……!!
遂にはアベルも憤り声を荒げる。
が、
「…………聞こえないなあ……最近耳掃除を忘れていたな……。アベル、君ここに残ってお茶でもして行くといい。今日のところはアリアを家で預かるよ」
アベルの抗議にルドマンは耳穴を小指で掻き掻き、聞こえぬ素振りで目線を遠くへと流した。
その後で強引に話を纏め、パンッ、パンッ。
ルドマンの手が勢いよく二度弾かれると、玄関に居た召使女性がやって来る。
「はい、ルドマン様、ご用でございますか?」
「人数分の茶を。ここに三つと、二階に二つだ。フローラの部屋へな」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
ルドマンの命を受けると召使女性は下がって行った。
続けてルドマンが今度はフローラの方へと笑顔を向け告げる。
「フローラ、ベッドは後で運ばせるから、今夜はアリアをお前の部屋に泊めておやり。すぐ美味しい菓子と茶を届けさせるから、仲良く旅の話でもするといい」
「はい、お父さま。アリアお姉さま、私の部屋へいらして。私、お姉さまのお話をお聞きしたいわ」
「え、あっ……いえっ、私……!」
フローラはルドマンから促されるとアリアの手を取り、半ば強引に
アリアも多少は抵抗したものの、すぐにルドマンが「どれ、私も案内してあげよう」と
連れて行かれるアリアはアベルに不安気な瞳を向けていた。
「えっ、ちょ……!?」
――何、何でさっきから そんな強引に……!?
残されたアベルもすぐに立ち上がろうとしたのだが、アベルの肩には夫人の手が添えられており……。
「うふふ、アベルさん。あの人ちょっと強引なのよ、ごめんなさいね。あなたにしてみたら可愛い妹ですものね。兄のあなたの許可も得ずに養女にだなんて突飛もない話だけれど……、あの人にはあの人なりの考えがあるみたい。……一先ず今晩だけでも預からせていただけませんこと?」
「…………っ、………………………………はぁ……、わかりました……」
アベルは夫人の言葉に溜息一つ。上げた腰を下ろし黙り込んだ。
そうして夫人がテーブルを挟んだアベルの向かい側に腰掛けると、黙り込むアベルをじっと観察するように眺めながら、特に話し掛けて来ることも無く、ルドマンが戻るのを待つ。
夫人に見張られているような気がしなくもないが、そんなことよりも。
(いったい何が起こってるんだ……? こんなこと今までなかったのに……)
アベルは困惑しながら このままだとアリアがルドマンの養女になってしまうのでは……という不安に駆られた。
黙り込んだアベルと夫人の間にどこからともなく、時計の針の音が響いて来る。
やに大きく聞こえたそれは、静寂を物語っていた。
(こんなこと今までになかった……)
夫人の視線が さっきからずっとアベルに刺さっている。
だが、アベルが夫人へ目を向けると、夫人は穏やかな顔ながらも ふいっと目を逸らすのだ。
――僕は何かしてしまったのだろうか……、気まずい……。
何故かはわからないが、
何か話題を……と思ったが、今何を言っても墓穴を掘りそうな気がして貝でいる方がいいだろう。
そんなことよりも早くアリアと共に二つのリングを探しに行きたい。
……そのリングを二人の結婚指輪にしたいのだ。
アベルは夫人に向けた目線を手元に移し、この何とも言えない静寂が早く終わることを願った。
◇
……少し経ち、召使女性がお茶と茶菓子を運んで来る頃、ルドマンも二階から戻って来る。
「はっはっはっ。やあ ゆかいゆかい! 待たせたね!」
(ルドマンさん、来たーーーー!!)
二階から下りて来たルドマンはご機嫌な様子で、自分の席に夫人が座っているのを見つけるとアベルの隣に腰掛けた。
兄であるアベルを無視して強引なルドマンさん。
次回【あの日】
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!