ルドマンがアリアと出会った日のことを語ります。
では、本編どぞー。
(僕の隣に座るんだ……、てか距離近っ!)
アベルがルドマンの動向を窺っていると、ルドマンは召使女性が置いて行ったお茶をがぶ飲みしてテーブルに置く。
と、アベルの方へと身体を向けた。
「……アベル、どうかアリアを私に委ねてはもらえないだろうか?」
ルドマンは突然アベルに向かって頭を下げる。
「…………嫌です」
アベルの答えはノーだ。
「そこを何とか……!」
ルドマンは食い下がる。
「いいえ」
アベルも譲らなかった。
「そこを何とか……!」
「いいえ」
「そこを何とか……!」
「いいえ」
「そこを何とか……!」
「いいえ」
……………………以下、同じやり取りが何度も続いた。
そのやり取りが十回目を過ぎ……。
「そこを何とか……!」
「いいえ」
――これって……、僕が“はい”というまで続くのか……!?
アベルは何度も同じことを繰り返すルドマンに、また“ゲームの世界”だと眉を寄せる。
ところが、そうでもなかったらしい。
不意にルドマンが顔を上げ語り出した。
「……これだけ言っても委ねてもらえない、か……。血を分けた兄妹だものな、当たり前か……、だが私にも誓いがあるのだ。私の話を聞いてからどうか考え直してはもらえないか?」
「え……?(あれ……?)」
アベルはアリアを譲るつもりはないが、何か訳ありのような気がしてルドマンの話を聞くことにした。
「先ずは、強引に二階へアリアを連れて行ったことを謝ろう。アリアには秘密でアベルに私の話を聞いて欲しかったのだ。私との記憶を憶えていないあの子には聞かせたくなかったのでね……。少々長くなるが聞いて欲しい……、あれはあの子と出会った頃の昔の話になる……」
アリアを二階に連れて行ったのは、彼女がルドマンとの出会いを憶えていなかったから……ということらしい。
アベルは切々と語り出すルドマンに耳を傾ける。
が、ルドマンの話は長い。
……彼は独演会を始めたのだった……。
◇
……あの日――。
世界の大富豪と呼ばれるルドマン……こと私は、今から十年以上前になるが、愛娘のフローラを修道院に預け、東の大陸に来たついで、事業監査でもと当時は小さな村だったオラクルベリーやラインハット等々へと足を運んでいた。
方々へと顔を出した後 再び修道院に寄り、フローラに会ってからサラボナに戻ろうとしていたところ、森へと列を成すスライム達を発見する。
魔物にそれ程詳しくない私だったが、二十匹以上のスライムが連なっているのは見た事がない。
不思議に思った私はスライム達の後をつけた。
その先で傷付きうつ伏せに倒れた少女を発見したのだ。
始めは死んだ子どもだと思った。
……だが、違ったようだ。
スライム達は始めは倒れた少女の回りで円を描く様に何やらまごまごしていたが、しばらくすると襲い掛かりそうになったため、私は少女が生きているとわかり慌てて追い払った。
スライム達はあっという間に四方八方へ散り散りに。
残ったのは小さな赤い少女だけ。
赤い……いや、彼女は赤黒かった。
フローラよりも小さな身体……その少女は全身が血で汚れており、一目で魔物に襲われたのだと解る程だ。
旅をしているとたまに見る光景だが、子どもがこんな森の中で一人倒れているというのは珍しい。
魔物に襲われたならば、子どもは攫われ食われるのが常である。
最近は特に子どもが攫われるという事件が増えているから、彼女が余計に奇異に見えた。
いったい親はどこに居るのだろうか……。
子どもを置いて逃げた……?
……私は辺りを見回したが近くの草木に乱れた所はなく、ここで戦った形跡も……ここに来るまで地面に血の跡もなかったため、ここまで彼女が逃げて来たようにも思えなかった。
何よりここは、スライム達には見つかってしまったようだが、背の高い魔物達からは見えないよう、生い茂った草木の陰になっている。
運の良い娘なのか、偶然かとも思ったが彼女はいったいどうやってこんな死角に身を隠したというのか……。
疑問ばかりが浮かんだ。
少女の身体からは少しずつだが血が滲みだしていた。
……回復しきれていないのか……?
回復しきれていなかった傷口が開いたのか、背中から赤い鮮血が徐々に服に染み出ている。
私は倒れている彼女に声を掛けた。
「キミ、私の声が聞こえるか? 返事をしてくれ……!」
私は声を掛けながら彼女の様子を窺う。
少女は意識がないらしく、返事はなかった。
だが、脈を取ると弱いものの、生きているのがわかる。
「おい、アレを。……アレが無かったか?」
「アレ……ですか?」
「ああ、アレだよアレ。ほら、世界樹の……」
「あ、……はっ! ただいま……!!」
私は従者に 近くにいる全ての味方の生命力と魔力を全快させるという【せかいじゅのしずく】を持って来させ、辺りに振り撒いた。
すると彼女の身体の傷が立ちどころに消えていく。
【せかいじゅのしずく】を使うには少し惜しい気もしたが、随分昔に手に入れ使わずにおいた旅の保険のような物だ。
今更無くても問題はない。
むしろ今回役に立てたようで何よりだと思った。
そして私は少女の意識が戻るのをしばらく待つことにした。
だが、少女の意識が戻ることは無く、奇怪なことに彼女の背から再び血が滲み出したのだ。
「な……全快したはず……!」
「ルドマンさま、世界樹の雫が古かったのでは……」
「そんなことはない! あれは滅多にない秘薬だぞ?」
従者に年代物だからと云われたが、そもそも手に入れた時点でいつのものかは定かではない。
私と従者の傷も回復しているのだから、効き目があるのはわかっている。
私は少々驚いたが、冷静に少女を見下ろした。
「フム……背中の傷が開いたのか……? おかしいな……」
他の傷は癒えているというのに、背中の傷だけが塞がらないなどあるというのだろうか。
……さっきまで塞がっていたのに……?
「……修道院に運ぼう。あそこなら傷の手当が落ち着いてできる」
少女が意識を取り戻すまで待ち、オラクルベリーに送るか修道院に連れて行くか訊きたかったのだが、このままだと傷が広がり死に至りそうだ。
幸いここから修道院まではそれほど離れていない。
……私は少女を修道院に運ぶことにした。
修道院まで少女を運ぶと、傷付いた彼女を見るなり
それに加えてフローラも一緒になって少女に回復呪文を掛けていた。
その甲斐あってか少女の傷が漸く塞がったようで、彼女はシスター達の寝室で休ませることに……。
男性は出て下さい……とのことで、マザー達に少女を任せ、私はフローラの相手でもするかと特別室へ行ったが、フローラは不在。
特別室で掃除をしていたシスターに訊けば、フローラは少女の看護に行ったとのことだった。
フローラは心の優しい いい子だ、と、我が娘ながら誇らしい。
……私は講堂で時間を潰すことにした。
ここならシスター達の寝室からフローラが戻って来るのがわかる。
(不思議な子だったな……、あんな小さい少女が なぜあんな場所に……)
我が愛娘、フローラを待ちながら、私は少女のことが気になっていた。
……しばらく経つと、マリア殿とフローラがシスター達の寝室から出て来る。
「マリア殿。あの子の様子はどうかね?」
「……意識は戻りませんわ……。ですが、血は止まりましたし、着替えもさせました。とても綺麗になりましたよ。すやすやと眠っておりますわ」
「そうですか……」
よかった……あの子は助かったのだ……。
私は安堵し、マリア殿の隣に立つフローラの頭を撫でた。
「おとうさま、わたし、毎日あの子のお世話をします。きっと、あの子を救ってみせますわ」
フローラが私を見上げそんなことを言う。
ああ、この子はなんて優しい……。
私の顔は喜びに。きっとふにゃふにゃになっていることだろう。
「ありがとう、フローラ。あの子が起きたら友達になれるといいね」
「はい、おとうさま」
フローラは嬉しそうに微笑んでいた。
フローラに年の近い同性の友達はいない。
あの子が目覚めたならきっと友達になってくれるだろう。
ピエールがちょっと外している間に見つけちゃったわけです。
多くのスライム達は……いつか謎が解けると思います。
怪我の治りが悪かったのは特に言及していませんが、呪いの所為です。
マザーとフローラの回復呪文で治ったけど(主にフローラのお陰)。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!