ルドマンさんていい人ですよね……!
では、本編どぞ。
「あの子の両親はいったいどうしたのでしょうね……」
ふとマリア殿が呟く。
「……マリア殿。あの子が倒れている周りに両親らしき人間はいなかった。オラクルベリーで行方不明者が居ないか訊ねてみることにしよう。それまであの子を頼めますかな?」
「ええ、もちろんですわ」
……ここは修道院、事情のある女子共が身を寄せる場所だ。
マリア殿が二つ返事で快諾してくれたので私は少女を修道院に預け、本来なら次の日に修道院を発つ予定だったが、少女のために延期し、当時は小さな村だったオラクルベリーで彼女の両親を捜した。
小さな村だ、あっという間に捜索は終わる。
だが、それらしき夫婦は見当たらなかった。
私はまた修道院へと赴き、マリア殿に少女の両親らしき夫婦は見つからなかったことを伝える。
「まあ……、ではあの子はいったいどこからやって来たのでしょうね……」
「……フム……。オラクルベリーの北に橋でもあればサンタローズやラインハット……アルカパ……ということも考えられるのだが……」
オラクルベリーに至るまでには大きな河がある。少女が泳いで来たとは考え難かった。
服は血で汚れていたが、濡れた様子がなかったのだ。
そのことに私もマリア殿も首を捻っていた。
……とはいえ。
そろそろ私もサラボナに戻らねばならない。
「……マリア殿。私は明日サラボナに戻ろうと思う。フローラを頼んでいるというのに申し訳ないが、あの子のことも頼めるだろうか?」
私はマリア殿に少女を託すことにした。
「ええ、ルドマンさま。あの子の傷がまた開くとも限りませんもの。こちらでお預かり致しますわ。お任せくださいませ」
「すまないね。寄付金の方は増額しておくよ」
「あらあらあら。まあ……ありがとうございます。助かりますわ」
マリア殿が“うふふ”と上品に微笑む。
妻には言えないが、この笑顔に私はどうも弱い。
優しい慈愛に満ちた瞳につい釘付けになってしまった。
マリア殿は私よりいくつか年上なのだが、彼女からは何か強く惹かれるような……不思議な力を感じたものだ。
修道院にフローラを預けたのも、旅で出会った占いババに言われたからだけではなく…………いや、今はいいか。
私は少女を拾って修道院に連れて来て以降、彼女の顔を見ていなかった。
意識は相変わらず戻らないらしいが、サラボナへ向かう前に一目見て行こうと次の日の朝、シスター達が忙しく働く中、単身シスター達の寝室を訪ねる。
「……天使……? ……こんなに綺麗な子だったのか……。真っ白じゃないか……あんな……赤黒く……っ……」
少女の意識はやはり戻らないまま、彼女は眠り続けていた。
髪も身体も血塗られ、赤黒かった少女の髪は手入れされ、白金のように艶めき、その肌も透き通るように白かった。
……天使。
つい、声に出してしまった。
私から見た眠る少女は翼を持たない天使のようだ。
人間とはとても思えなかった。
今まで私が出会った中でフローラに匹敵するのではなかろうか。
そんな、青白い人形のような小さな女の子があまりにか弱く見え、私は知らぬ間に涙を零していた。
こんな小さな子が血塗れで、何故、あんな場所に。
通り掛かって良かった。
私がいなければこの子は……。
…………考えたくはなかった。
私は少女の手を掴む。
「うっ、うっ……痛かったろう……?」
私が嗚咽しながら訊ねても、少女は返事をしない。
その内に私の流した涙が私の手を伝い、少女の指に触れた。
すると少女の唇が僅かに動く。
「…………さ……」
「……!? おい……? キミッ!?」
私は驚き、少女に声を掛けていた。
「……おと……さ……――……――――…………で……」
少女の声は小さい。
譫言のように何か呟いている。
私が何度か声を掛けても同じことを繰り返すので、夢でも見ているのかと思った。
……だが、夢ならばもうすぐ目を覚ますのでは?
そう思った私は誰かを呼ぼうと少女の手を放そうとしたのだが、私の指を一本、弱々しいが彼女が掴んだのがわかった。
「お……と……さ……。ひと……り……ヤ……」
「……………………?」
少女が譫言を呟き続ける。
私は人を呼ぶのを止め、少女が何を伝えたいのか耳を澄ませた。
しばらく聞いていると、何を言っているのかわかってくる。
“お父さん、ひとりはイヤだ。私を独りにしないで。お父さん……私、独りぼっちだよ……”
少女はそう何度も呟いていたのだ。
他にも何か言っていたのだが、よく聞き取れなかった。
「お父さん…………」
私は弱々しい小さな手を見下ろす。
母親や兄弟のことは言及していなかった気がしたが、少女の肉親はもうこの世にいないのではないか……?
……ならば。
「…………キミを独りにはしないよ。お父さんがいるから、大丈夫だ」
気付けは眠る少女に告げていた。
私は少女の養父となることを決意したのだ。
「キミが、私の娘になれば、キミは、もう独りぼっちではなくなる。私の家族になりなさい」
私がそう伝えると少女が眠ったままはにかむ。ほっとした顔を見せていた。
……そうして私は祭壇で誓いを立て、修道院を後にしたのだ……。
◇
「……ということがあってな……。あの子は憶えていないが……私はあの時に誓ったのだよ」
語り終えたルドマンは優し気に目を細めている。
「……アリアと、そんなことが……」
――長かったけど聞いてよかった……!!
あまりに長いルドマンの話に途中眠りそうになってしまったアベルだったが、何とか全て聞き終えることが出来た。
向かいの席ではルドマン夫人が うつらうつらしている。
「あんな小さな女の子に指を握られ、請われてはな……。アベル、君にはまだ子どもがいないから解らないかもしれないが、子どもには幸せになって欲しいのだよ。例え血が繋がらなくとも、縁あって出会ったのだ。私はあの子をフローラ同様に愛そうと決めた。どうか了承してもらえないだろうか……?」
「………………」
ルドマンの言葉にアベルは黙り込んでしまう。
――僕だって、小さい頃のアリアに「お父さん……」なんて間違われたら攫ってしまう自信はある、気持ちはわからなくもない……けどっ、アリアがルドマンさんの娘になったら、結婚は……?
不安要素が多過ぎてアベルには答えることが出来なかった。
「彼女……あ、妹はもう成人しているんですよ……? 今更ルドマンさんの養女になる必要はないんじゃ……」
「……そうだね。まあ、そうなんだが、私がそうしてやりたいのだよ。フローラに訊いたが、君とは半分しか血が繋がっていないとか。父親が違うのかね? それとも母親が?」
……アリアは既に成人している。
そもそも養女になる必要などないはずなのだが……とアベルが疑問を投げ掛けると、ルドマンは頷きつつ自分の知りたいことを訊ねていた。
「あ゛……えと……母親が違います……(父さん、母さんごめんっ!)」
――嘘は吐くものじゃないな……いつかボロが出そうだ……。
咄嗟に出た口から出任せの嘘にパパスとマーサに心で詫びながらアベルは小声で答える。
「そうか……では君達の父親はいないのだね?」
「あ、はい……亡くなっています……ね」
先程アリアはルドマンにこれまでのことを説明していたが、余計なことを話せば綻びが出るからと気を遣ったのか、アベルのことにはあまり触れず“兄とは旅の途中で生き別れた”とだけ伝えていた。
あとは自分の事しかルドマン達に話してはいない。
アベルも話を途中から聞いていたが、前世で培った営業トークスキルなのかアリアの話し振りは見事で、“上手く誤魔化してるな~”なんて感心したものだ。
だからアベルが多少作り話をしたとてバレることは無い。
――アリアのお父さんは知らないけど、僕の父さんは本当に亡くなってるしね……。
……アベルは気まずそうに目を伏せたのだった。
「そうか……君の母親がどうかは知らないが、あの子は幼い頃から両親がいないわけだ。私と妻が親となれば、親子になれる。……家族になれるだろう?」
ルドマンはアベルの都合の良いように解釈してくれたのか、眉を寄せつつ同情の目を向ける。……と、話題を再びアリアの話に戻した。
「……僕が家族(……になる予定)なんですけど……」
「君には悪いと思っているよ。兄妹を引き離すのは忍びないのだが、さっきも言ったように君にもそれ相応の援助はする。だから前向きに考えてもらえないだろうか……?」
アベルの呟きに、ルドマンは悪いと思っているらしいが諦める気は無い様子。
フローラの結婚相手の件もそうだが、先程も強引にアリアを連れて行ってしまったし、彼はどこか有無を言わせない強さを持っている男である。
……気を抜くとアリアを取られそうだなとアベルは危機感を抱いた。
ちょっと強引だけど身寄りのない子どもを引き取ろうとしてくれたルドマンさん。
アベルにとっては天敵な気がします。
といっても、アベルは後でルドマンさんにプロポーズするんですよねw
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!