フローラはカワイイ。
では、本編どぞ~。
◇
一方で、アベルがルドマンと話をしている間、アリアはというと。
「アリアお姉さま。お茶が入りましたわ」
フローラが召使女性の持って来たティーポットを手に、扉近くで部屋を見回しながら突っ立っているアリアに声を掛ける。
「あっ、ありがとうございます」
アリアは呼ばれてテーブルに着くなり深々とお辞儀をしていた。
「……フローラさん、いつぞやは大変お世話になり……」
「うふふ、そんな他人行儀な。私とお姉さまの仲ではありませんか」
頭を垂れるアリアにフローラは、向かいの席にあった椅子を引きアリアの隣につけて着席する。
「フローラさん……(近い……)」
隣に腰掛けたフローラがアリアを きらきらと瞳を輝かせながらじっと見つめて来るため、アリアは少々引き気味で淹れてもらった紅茶を口にした。
……茶葉の香りが鼻をスーッと抜けて行く。
良い茶葉を使っているのだろう、味もまろやかで一口飲んだだけで強張った身体が弛緩したのがわかり、アリアは自分が緊張していたのだと気が付いた。
アリアが ほっと息を吐いたことに気付いたフローラが優しい眼差しで口を開く。
「……アリアお姉さま。私、お姉さまとお呼びしておりますが、アリアさんておいくつでらしたんですの?」
アリアの年齢は記憶が戻らないことには知り得なかったのだろう、フローラは訊ねていた。
「あ、私は今十八歳だよ(多分ね……、あと肉体年齢だけだけどね……!)」
「そうでしたか。やはり私よりも年上でいらしたのね。お姉さまで間違いなかったようで安心しましたわ♡」
……精神は……以下略……と、アリアは優しいフローラの眼差しに目を細める。
フローラはアリアの年齢を確認すると嬉しそうに破顔し、ティーカップを置いたアリアの手を握った。
(……ああ……生フローラさん可愛いな……、これはアベルもイチコロでしょ……、私がアベルならフローラさん選んでるわ……いや、ビアンカちゃんもきっと綺麗だしな…………、…………これは…………悩むよね……………………)
――手ぇ、すべすべしてるぅぅうううっ! 好い匂いがするぅ! いやん、笑顔が尊いぃ……!
アリアが“自分が主人公ならば……”と考える中、フローラは愛らしい穏やかな笑みを向け続けている。
アリアは現実のフローラのあまりの可憐さに一瞬ボーッとしてしまった。
そしてハッと我に返り正気を取り戻すとフローラに告げる。
「ハッ!? ……お姉さまって……、フローラさんの方が落ち着いてるしお姉さまって感じなんだけど……?」
――そうそう、私ってアベルにもよくダメな子扱いされてるし……、歳ばっか取ってても中身全然成長してないもんね……!
フローラさんくらい落ち着いている淑女ならアベルも認めてくれただろうに……とは思ったが、もうずっとこうなのでこれ以上の成長は諦めているアリアだった。
アリアは嫉妬する暇もなくフローラの愛らしい微笑みに“こんな可愛いくて良い子をお嫁さんに出来るなんてアベルは幸せ者ね……!”と目を細める。
「うふふっ、お姉さま、以前とは少々話し方が違うのですね」
「あっ、あはははは……。うん……、そうなの。こっちが素なんだ。前はちょっと無理して淑女ぶっててね……。フローラさんみたいになれたらいいなって思ったこともあったんだけど……やっぱ無理だったから諦めたよ。私には合ってなかったみたい」
フローラの指がアリアの指に絡むと、アリアは空いた片手で頬を掻いた。
「まあっ! ……うふふっ。お姉さまは自由な風ですもの、どのような話し方をされていても素敵ですわ」
「ありがとうフローラさん。ちょっと照れるけど……そう言ってもらえると嬉しいな」
“ふふっ”と、二人は互いに手を繋いだまま微笑み合う。
次第にフローラは繋いだ手に目を落とし、口角を上げた。
「……あの日、お姉さまがお父さまの望みをはっきりと拒否されるのを見て私、感銘を受けましたのよ」
「え?」
「お姉さまは憶えておいででしょうか? お父さまがお姉さまを無理に連れ帰ろうとした時のことを……」
フローラが顔を上げ、再びアリアを見つめる。
アリアは長い眠りから目を覚ました後、フローラとは短い間だが一緒に過ごしていたのだ。
この時、記憶喪失だったアリアはフローラのことを知らなかったが、歳が近いであろう……とのことでフローラの希望とマザーの計らいにより、ルドマンが迎えに来るまでの間、特別室で寝食を共にしていた。
後にルドマンがやって来ると、フローラと仲良くしている様子を見てアリアも連れて帰ると言い出したのだ。
フローラは始めは驚いたものの、アリアと姉妹になれるなら……と、ルドマンと共にアリアを説得しに掛かったのだが……。
「あ、うん……はっきり断った……よね……?」
……アリアはルドマンの申し出を断っていた。
――私、確か最初から断ってたはずなんだけどな……、ルドマンさん全然聞き入れてくれなかったのよね……。
だから本当はこの家に来るのも嫌だったんだけど……。
アリアに当時の苦い思い出が蘇る。
「……ええ、ですがお父さまも譲らず、お姉さまを困らせましたわ」
「あ~……、そう……だったね……。私が一緒じゃなきゃ帰らないって……」
フローラの言葉にアリアは苦笑いを浮かべていた。
アリアが断っても断ってもルドマンは引き下がらず、なんと、三日間も粘られたのだ。
なぜそんなに自分に執着するのか不明過ぎて、アリアは困り果てマザーに相談。
マザーが言うにはルドマンは自分を拾った頃から養女にすると決めていたと言うのだが……。
アリアからしてみれば、幼い自分を救ってもらった恩はあるが、ルドマンは初めて会った見知らぬオッサンである。
いきなり養女になれと言われて友達の父親とはいえ、ホイホイついて行けるわけがない。
怪我による記憶喪失に加え、修道院生活にやっと慣れ始めて来たばかりで、ルドマンについて行くことは出来なかった。
それでもルドマンはしつこく……。
「うふふ、そうなのです。お父さまが中々諦めないからお姉さまは毅然と仰いましたわね」
フローラはアリアの云った言葉を憶えているらしく、背筋を正しキリッと語り出す。
“助けていただいたことに感謝はしていますが、それとこれとは話が別です。私はこちらで長年お世話になりました。修道院に残り奉公したいと思います。お返事は奉公が終わりましたら日を改めてそちらに伺いますので、どうぞお引き取り下さい。”
「……お姉さまはそう仰ったんですのよ♪」
「……そんな格好良く言ってたかなぁ……」
フローラのご機嫌な様子にアリアは、アベルのように頭の後ろを掻き掻き首を傾げていた。
――実は断っても断っても聞き入れてくれないから問題を先延ばしにしただけだったり……。
当時のアリアの物真似なのだろうか、先程のフローラは凛としていた。
その姿に“私こんな凛としてないけど?”と恥ずかしいやら申し訳ないやら。
フローラには自分がそう映っているのか……などと、目の前の愛らしい笑顔を見せる彼女に微笑み返しておく。
「…………私、今までお父さまの言うことは絶対だって、常に従って来ましたわ。お父さまは強引なところもありますが、いつだって私を想って下さっているのが解っていましたし、私が我儘を言えば困らせてしまうと思い言えなかったのです。そんな時、アリアさんのはっきりとした態度にドキドキしたんですの」
フローラは握った手を掲げてニコニコとアリアを眺めていた。
その頬が ぽっと紅く染まっている。
「ド、ドキドキ……??」
「うふふっ、はい♡ お姉さま。お父さまの言うことに従ってばかりでいなくてもいいのだと私、気が付いたのです。今回の結婚もお父さまが勝手に進めたことですが、私は結婚相手くらい自分で決めたい。それに……」
「それに……?」
――なになに……? 頬っぺた赤くしちゃって……何かあるの?
アリアはフローラのただならぬ様子にゴクリと唾を飲み込む。
ところが、フローラは一瞬だけ目を伏せたかと思うと直ぐにアリアを見つめ満面の笑みを浮かべた。
「…………うふふ♡ 今はまだ秘密ですわ。そうだわ お姉さま。アベルさんてどんな方なんですの?」
「えっ、アベル?」
――あ、アベルのこと……やっぱり気になってるんだね……!!
ヒロインだものそうだよね……。
興味津々でアベルのことを訊ねて来るフローラに、アリアは目を瞬かせる。
さて、どう答えたものか……。
「ええ、生き別れていたお兄さまなのでしょう? あの方は何がお好きな…………、……………………、……………………いえ、止めておきますわ」
ふとフローラは首を左右に振って、握っていたアリアの手を ぎゅっと強く握りしめた。
「ん?」
「……私、決めました」
「え」
「…………お父さまの思い通りにならないよう、できる限り抗ってみせます。ですから、アリアさん」
フローラがアリアの手を両手で包み込み、真っ直ぐに見つめて来る。
「はい?」
「どうか私のお姉さまになって下さい。アリアさんが私のお姉さまになって下さったら私も心強いのです。そして姉妹で旅をしませんこと……?」
「え……、……………………ええっ……!?!?」
――どういうこと……!?
……アリアが驚きに目を剥くが、フローラは終始穏やかに微笑んでおり、アリアの手を中々放してはくれなかった……。
ゲームプレイ中にふと思ったのですが、フローラって結婚望んでんのかなと思ったのですよ。
「私は今までずっとお父さまの仰る通りにしてきました」って台詞が気になって。実は嫌だったんだろうな……(言えないけど)と。
相手だけは自分で決めたいとかフローラ言ってましたけど、それもう無理やり結婚させられること自体は諦めてるんですよね。
養子だから引け目を感じているんだろうけど、養父に云われたからその通りにってちょっと可哀想な気がしました。
優しいから言い出せないんだろうけどね。
ルドマン夫人の「フローラの気持ちも考えてあげればいいのに……」っていう台詞があるんですけど、フローラの気持ちを思うと……うん、本当にね。
ルドマン強引過ぎ、若干毒親の気があるように感じる……。
というか、この親子意思疎通が出来てなさすぎかと思われ。
結婚相手選択時にビアンカを呼び止めたのも「結婚回避できるかも!?」という想いもあったりして……。
何年も修道院に放っておかれて、やっと自宅に戻って来たのだから「まだまだのんびりしていたいわ~」と、令嬢生活を満喫するフローラもよきかなよきかな。
フローラの華麗なる令嬢生活の短編でも書けそうだわw
そんなわけで主人公に一目惚れして結婚の流れも良いけど(こっちもスキ!)、他の視点もいいかなーということで!
このお話ではフローラにも自由に振る舞って欲しいなーと思っています。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!