ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

過去のことを今言ったところでね……。

では、本編どぞ~。



第四百四十五話 過去のことですよ

 

 

 

 

 

 そしてその日の真夜中、宿屋では……――。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 ――こんなはずじゃなかったんだけどなぁ……。

 

 

 アベルはベッドに身体を横たえ、眠れずに薄暗い天井を見上げていた。

 

 フローラと出会ってお茶をするだけだと思っていたのに、まさかアリアがルドマンに連れて行かれてしまうとは思いも寄らなかった。

 

 同じ町に居るとはいえ修道院と違ってアリアと距離が離れているからか、随分と心細く感じる。

 彼女と再会してからずっと傍にいたから余計かもしれない。

 

 

「…………主殿、眠れませんか……?」

 

「ああ……。アリアとずっと一緒だったからね……、少し……、いや凄く……淋しいかな」

 

 

 ぼんやり点いた灯りの部屋の中、ピエールに話し掛けられるとアベルは身体を起こした。

 床に足を下ろしベッドに腰掛けて隣のベッドを見つめる。

 

 隣のベッドには今日、本当ならアリアが眠っているはずなのに今日はピエールが横になっている(アンドレはベッドの上、足元付近で睡眠中)。

 

 

「……主殿……」

 

「…………ピエール、僕はアリアと結婚したいと思ってる」

 

「…………そうですか、……主殿はどこまで思い出されたのですか?」

 

 

 ピエールも半身を起こし、アベルを見上げた。

 

 

「え? うーん……、結婚式……の直前まで……かな……? ちょっと……記憶がごちゃごちゃしてて ざっくりとしか思い出してないけどね」

 

「なんと……! そんな先まで……!! そうでしたか! それは良かった!!」

 

 

 アベルの返答にピエールの声が明るくなる。

 ところが明るい声のピエールとは対照的に、アベルは躊躇うように目を伏せた。

 

 

「……ただ、ビアンカとフローラさん……、どっちとも結婚した記憶があって……なんていうか……、正直複雑な気持ちだよ」

 

「……と言いますと?」

 

 

 ピエールは首を傾げる。

 

 

「僕はある時はビアンカを選び、またある時はフローラさんを選んで来た。二人とも素敵な女性だと思う。結婚式後はわからないけど、僕は彼女たちをちゃんと幸せに出来ていたのだろうかって。……以前の僕は勇者の残した盾 目当てで選んでしまっていたこともあったように思うからね」

 

「あぁ……、そんなこともありましたね……」

 

 

 アベルの話にピエールが ウンウンと相槌を打つと、アベルは気まずそうに苦笑いを浮かべた。

 

 

「ははは……やっぱそうなんだ? ……ちゃんとビアンカを好きだったことも、フローラさんに惹かれたことも何となく憶えているんだけどね。そうでない時もあったのも事実で、そう思うと僕は僕であって、僕じゃなくて、でも僕で……。人間として何か欠落してる時もあったなーって思ってさ」

 

 

 ――母さんを捜すために手段を選ばなかったバカ野郎なんじゃないかって……。

 

 

 ビアンカやフローラを望んで結婚した場合はまだ良かったが、時に勇者の盾やルドマンの後ろ盾が欲しくてフローラにプロポーズしたこともあったなと……、記憶が降りて来たアベルは自分はアリアが好む“ただの優しい男”ではなく、“狡猾な男”の部分もあると気付いてしまい、自分の闇に嫌悪する。

 

 

「…………主殿、こう考えてみては……?」

 

「ん?」

 

「主殿は何人もいらっしゃったのです。今のアベル殿に別世界の主殿たちの記憶が降りて来ているだけ。数多の世界では成し得なかった新しい未来を見たいという主殿たちの意思が今のアベル殿を生みだしたのだ、と」

 

「………………そうだね。そういう風に考えたら少しは気が楽かな。そっか……僕は別世界の僕とは違う独立した存在というわけか……」

 

 

 ピエールの案にアベルは少しばかり心が軽くなった。

 

 

 ――僕が狡猾な男の部分を持ち合わせているのは事実だけど……、アリアには頼れるただの優しい男だと思っててもらいたい……。

 

 

 アリアは前世()も辛いことばかりの人生だったみたいだし、今も子どもの頃の記憶は戻らないまま独りぼっちだし、僕が傍にいてやらないと……。

 

 

 アベルは静かに【ふくろ】からハンカチを取り出し眺める。

 アリアの拙い“アヘル”の文字を見ると癒された。

 

 

「……私も別世界の主殿といつも歩んでいたわけではありません。ただ、どの主殿もどういった理由で結婚されたとはいえ、奥方を大事にされていたと思いますよ」

 

「…………そっか。彼女たちが幸せだったならいいんだ。今の僕は……彼女しか考えられないから……」

 

 

 またもピエールに気持ちが軽くなる言葉を貰い、アベルは目を細める。

 

 

 ――ビアンカのことは少し気になるけど……、ビアンカなら多分僕の気持ちをわかってくれる気がする……。

 

 

 別世界の僕の花嫁たちはそれぞれで幸せになっているのだと わかればそれでいい。

 それ以上は今の自分には関係ないことだ、とアベルは考えないことにした。

 

 

「別世界のビアンカ嬢やフローラ嬢のことを気に掛けるとは……アベル殿はお優しいですね」

 

「……優しい、かなぁ……? 二つのリングを持ち帰ったら“さあどっち”と迫られて優柔不断な時もあったんだよ……? 血迷ってルドマンさんにプロポーズしたこともあったし」

 

「わっはっはっはっ! そうですか! それはまた傑作! わっはっはっはっ!」

 

 

 苦々しい顔で告げるアベルをピエールが大きな声で笑い飛ばしてくれる。

 そうしてピエールは続けざまアベルをじっと見据えて告げた。

 

 

「ははは……ですがそれはもう過去のことですよ、アベル殿」

 

「……………………ぁ、そうだね」

 

 

 ――そうだ、記憶は未来じゃない、過去のもの。

 

 

 ハッとアベルはこれからの未来を作るのは今の自分なのだと気付いて頷く。

 

 違う未来を見るために行動しているとはいえ、どこかでまた繰り返されるのではないかという不安は常にあるのだ。

 

 別世界と同じ流れに乗った中で未来を変えていくのは容易じゃない。

 

 昼間フローラと出会った時にはいつものように時が流れるようにと願ってしまった。

 未来を変えたいはずなのに、どこかでそのままであって欲しいと願う感情も多少ある。

 

 うわさのほこらでいつも忠告をしてくれるピエールの言葉を聞きたくなかったのは、別世界と同じ流れのままになっていたら、アリアとの未来はないと突き付けられているようで嫌だったから……。

 

 

 “もう過去のことですよ”

 

 

 ピエールの言葉に今日程救われたことは無い。

 

 

 ……この世界の未来はまだ不確定だ。

 

 

「そういえば、主殿。アリア嬢のことですが……、彼女はこのままだとルドマン氏の養女になられてしまうのでは……?」

 

「…………わからない。アリアは嫌だって言ってたけど……ルドマンさんの意志も固そうだったし……、今日なんていつの間にか攫われちゃったしね……」

 

 

 ――先が読めなさ過ぎてどうしたものか……。

 

 

 ピエールに訊ねられ、アベルは頭を抱える。

 西の大陸に来てからというもの、自分の知っている未来とは少しずつだが違っているのだ。

 

 ヨシュアや修道院の件が最もたるもので、いい兆候なのだがアリアが攫われては不安しかない。

 

 

「……明日、炎のリングを取りに向かうのですよね……? アリア嬢はどうなさるおつもりで……?」

 

「離れてると不安だから連れて行くつもりではいるけど……、ルドマンさんに捕まってるからね……どうしたもんかな……」

 

 

 ――さっき酒場でも聞いたけど【炎のリング】は火山の洞窟にあるしな……。

 

 

 アベルはルドマンの屋敷を後にしたその足で、宿屋に向かう前に酒場へと寄っていた。

 




未来は不確定なのですが基本的に同じルートを歩むのです……。

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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!
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