やーっと、妖精の村へ向かいます!
では、本編どうぞ!
第四十四話 妖精の村へ
自宅に戻り、アベルは玄関扉を開け放った。
玄関扉を開くといつもならサンチョの姿が見えるはずなのだが、サンチョは未だまな板を探しているのか、奥の部屋からガサゴソと音が聞こえるだけで出て来る気配はない。
アベルはサンチョに声掛けせず、そーっと地下室へと下りる。
すると、地下室には先程の少女が待っていたのだった。
「「いつの間に……!」」
アベルとアリアの声がハモる。
さっきまで酒場で確かに飲んで寛いでいたのに……!
二人は顔を見合わせた。
「来てくれたのね! 私はエルフのベラ。実は私達の国が大変なのっ! それで人間界に助けを求めて来たのだけど、誰も私に気が付いてくれなくて……」
「……あ、うん。そうなんだ、大変だね」
アベルは
「ちょっとアベル、そんなあっさりと……(ゲームでいったらこれはイベントよ! 絶対!)」
アリアはアベルの態度に、“主人公なのにそんなあっさり流しちゃっていいの?”と疑問に思うのだった。
「気が付いて欲しくて色々イタズラもしたわ。そこへあなたが現れたってわけ。聞けばアリアも人間から見えないって言うじゃない?」
「そうなんだよね……」
「せっかく私を見つけてくれた人が現れたと思ったら……ねえ。アリアじゃ役に立たないから困ってたんだけど、あなたが気付いてくれて助かったわ!」
「ぐっ……。や、役立たずでごめんね……」
歯に衣着せぬベラの物言いに、アリアは胸元を押え視線を床に落とした。
本当のことなので謝るしかない。
「魔法も使えないなんて。……変な子ね」
ベラは訝しい顔で、アリアをじっと見下ろす。
ベラの頬はほんのり赤い気がした。
酔ってつい毒舌になってしまったのかもしれない。
「アリアは役立たずなんかじゃないよ?」
「っ、アベル……、ありがと……(優しいなぁ……)」
アベルはフォローを入れるが、「戦闘に向いてないだけだよ」と付け加えるのだった。
「くぅ……!」
言い返したいけど言い返せない……!
数々のポンコツ振りっ。
本当、その通りなんだけどね……。
遠回しに役立たずだと云われた気がしてアリアは眉間に皺を寄せ、しょっぱい顔をする。
「シッ! ちょっと待って。誰か来たみたいだわ……」
突然ベラが口元に人差し指を当て、アベルに黙るよう促した。
するとベラの云った通り、階段の方から誰かの足音が聞こえて来る。
そして、その人物は地下室へと入って来たのだった。
「あ、父さん!」
アベルはやって来た人物に声を掛ける。
地下室に下りて来たのはパパスだったのだ。
「話し声がしたので誰かいるのかと思ったがお前ひとりか……。ここはとても寒い。ひとり遊びもそこそこにして、カゼを引かぬうちに上がって来るのだぞ」
「うん、わかった!」
パパスはアベルが了承すると、「いい子だ」と頭を撫でて目を細めると去って行った。
パパスの階段を上がる音が遠ざかると、ベラが口を開く。
「やっぱり他の人には私は見えないみたいね……。ともかく私達の国に来て下さる? そして詳しい話はポワン様から聞いて!」
「えぇ……、またぁ……?」
「またって何……???」
アベルが疲れたような顔で告げるので、アリアは不思議そうに彼を見つめる。
「え? 何? とにかく道を開くわね!」
ベラはそう云うと姿を消した。
「あっ、ベラちゃん!?」
急に姿を消したベラに驚いたものの、次の瞬間には光の階段が二人の目の前に現れたのだった。
「え、何、っ、すごっ!」
アリアは手を合わせ、目の前の事象に瞳を輝かせている。
半面、アベルは「はぁ」と小さく溜息をついていた。
「……まあ……アリアが一緒なら……いっか……」
「ん……?」
「……ううん、何でもないよ。行こう、ベラが待ってる」
アベルが手を差し出すと、アリアはその手を取った……――。
◇
……ここを抜けると、妖精の村に出るんだよね……。
光る階段を登りながら、アベルは何故かそう思う。
「…………? あ、あれ……、僕……」
アベルは額に手を当て目を瞬かせる。
「アベル、どうしたの?」
「っ、アリア……。あ、ううん……」
隣を歩くアリアが心配そうに見て来るので、アベルは頭を左右に振った。
何だろう、違和感……。
アベルはこれから行く先が妖精の村だと確信していたのだった。
いつもの
「っ、眩しいっ!」
「……大丈夫、すぐに見えるようになるよ」
階段を登って行くと、急に日の光のような明るさに包まれ目を開けていられなくなる。
二人は片手をそれぞれ目の前に持って来ると、その光を遮った。
ところが明るさは徐々に増していき、目隠しをし、目蓋を閉じているにも関わらず光は目の奥へと入り込んでくる。
眩しくて堪らない。
終には真っ白な光の中に二人は同化するように溶け込んでいった。
そんな中、足元がふらふらと不安定になった気がして、アリアはアベルの手をぎゅっと握る。
「怖い」
「大丈夫だよ」
不安気なアリアの声にアベルは優しく声を掛けたのだった……――。
◇
「……アリア、もう目を開いていいよ」
「へ……? あ……、うわぁ……」
眩い光が収まると、アベルはアリアに声を掛ける。
すると、アリアの目蓋が開きアメジストの瞳が潤んだ。
目の前には蓮の花の蕾がそこかしこに見える透明度の高い湖が広がっている。
今アベルとアリアが立っているのは湖の中の小島のようで、目前に蓮の葉の橋が掛かり、湖の先、前方には巨大な切り株で出来た建物が建っていた。
建物の根本が清水に伸びている。
後方をちらりと見れば、後方にも蓮の葉の橋が陸地へと繋がっており、切り株の家やベラと似た服を来た人々が行合っていた。
見たことのない、幻想的な空間がそこには広がっていたのだ。
「ここは一体……(綺麗……ちょっと寒いけど……)」
ぶるっと、アリアは身体を震わせる。
足元の地面には雪が積もり、よく見れば植物が埋まっている。
空からは深々と雪が降り注いでいた。
春になれば花々が咲き誇り、さぞかし美しい光景なのだろうと想像に難くない。
「……気に入った?」
「え、あ……うん。花が咲いたら綺麗なんだろうなって……。……えと、アベルも初めて来たんじゃないの……?」
「あ、……うん。そうだった」
「そうだったって……?」
目の前に広がる景色を見渡すアリアにアベルが声を掛けると、前方からベラが歩いてくる。
「来てくれたのねっ。さあ、ポワン様に会って!」
「あっ、ベ」
「うん、いいよ!」
“あっ、ベラちゃん!”とアリアが云う前にアベルは返事して、切り株の建物へと案内するベラの後ろについて行くのだった。
ベラちゃん酔ってたんですかね……。
アベルも度々きついこと言ってますが、子供ってオブラートに包んでくれないからしょうがないっすね。
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