アンディは愛の人。
では、本編どぞ。
◇
「アンディさん、お待たせしましたっ! 回復呪文を掛けますねっ」
アンディの元へとやって来たアリアがアンディに触れようとするが、その手を後ろからついて来たアベルは引き留める。
「アリア、ここは僕に任せて」
「え? あ、うん? じゃあお願い。なら私はゴールド拾いを手伝って来るね。いっぱい落ちてたから急がなきゃ」
アベルは自分が回復呪文を掛けるからとアリアと交代し、アンディの身体に触れた。
彼女はゴールドを拾いに踵を返しピエール達の元へと戻って行く。
戦闘後はさっさとゴールドを回収し先に進まねば、次の新手がやって来かねない。迅速な行動が望ましいのだ。
アリアが無事ピエール達の元へ着いたのを確認してからアベルはアンディに向き直り口を開いた。
「アンディさん。やっと見つけましたよ、ベホマッ!!」
――これでやっとアンディさんと話が出来る……!
アベルの回復呪文でアンディの身体は見る見るうちに回復していった。
アンディは全快したが、次には彼がアベルのマントの襟を掴んでいた。
「…………っ、あなたという人は…………! 恋人がありながらフローラと結婚したいだなんて……! なんて人だ……!」
「っ、やだな……違いますよ!」
――これには訳がありまして……。
アベルは訳を言おうとしたが、アンディの顔がかなり険しい。
アリアがアベルの恋人だと気付かれてしまったようだ……。
怒らせてしまったのだろうか……、話を聞いてくれるか心配になってしまう。
「あなたのような人にフローラは渡せないっ!」
「違うんですけど……」
やはりアンディは怒っているようで、アベルを責めるように啖呵を切っていた。
アベルは努めて冷静に対応する。
「何が違うんですか!? 何ですか、さっきのデレデレした顔っ!! あんな可憐な女性がいるのに、何故ボクのフローラを……!?」
「いや、だから僕はっ(今、ボクのフローラって言った!?)」
アンディが口にした“ボクのフローラ”の言葉にアベルの眉が一瞬。ピクリと動いた。
恐らく別世界のフローラのことが好きな自分から沸き上がった感情なのだろう。
だが、今のアベルはアリアを想っているのだからそんな感情を持つわけにいかない。
いきり立つアンディにアベルは“落ち着いて、落ち着いて……”と宥めようとするも、アンディは止まらなかった。
「さっきの女性が可哀想じゃないですか……!! 泣かせるつもりですか!? ハッ!? まさか愛人にするつもりで!?」
「なっ、愛人!? ……っ、違うっ!! アリアは可哀想じゃないっ! 泣かせるなんて絶対ないっ! あの子は僕のっ」
続けざまアンディがアリアの話題に触れると、アベルはムキになって反論する。
平静を心掛けていたのに、アリアを出されてアベルは黙っていられなかった。
……そう二人が言い争っていると、
「そうそう、私はアベルのお姉ちゃんだもんね?」
アリアの声がすぐ傍で聞こえる。
「そう、僕の姉……え? っ、アリアっ!? ゴールド拾いに行ってたんじゃ……!?」
気付かぬうちにアリアが背後に居たため、アベルは驚いて素早く振り返った。
――まさか、今の話聞いてた……!?
アリアには何度も言い聞かせてはいるが、フローラとの結婚話はあまり聞かせたくない話である。
だが、アリアの表情は何ともないような顔で、笑みを浮かべていた。
「ん? あ、うん。あのねアベル。あっちで ばくだん岩が起き上がっちゃってるんだけど、どうしたらいいのか訊きに来たの」
「え゛」
「なんだか仲間になりたそうなんだよね……でも、ずっと“メ、メ、メ……”って言ってるから ちょっと怖くって。ピエール君が一生懸命話し掛けてるんだけど、あの子アベルを待ってるみたい。さっきからあなたのことをじっと見てピエール君は無視されてるのよ?」
ほらっ、とアリアがくるりと身体を反転させ、アベルを見つめる【ばくだんいわ】を指差す。
アベルがそちらに目をやると【ばくだんいわ】と目が合い、【ばくだんいわ】は左右にゴロゴロと嬉しそうに転がってみせた。
「……そ、そっか、わかった。すぐ行くよ。アンディさん! 話はあとで!」
アリアの話を聞いたアベルは【ばくだんいわ】の元へと向かう。
残ったアリアもアベルを追い掛けようとしたが、アンディに呼び止められてしまった。
「…………あの、あなたは……、彼の……?」
「はい、姉なんです。あっ、顔が似ていないのは、腹違いなので……! そこのところご了承ください」
――そう、私の方が年上だからお姉さんよねっ! ……ってあれ? 何か設定違ったっけ……?
アンディの問いに答えたアリアは何かおかしいと思いつつも、すらすらと言ってのける。
「あっ……、そ、そうだったんですか……。なんだ……、ボクはてっきり……あなたがあの人の恋人なのかと……」
「……あははは……。私とアベルは色々複雑な家庭環境で離れ離れで育ったもので……彼、少しシスコンなんですよ」
「なるほど、シスコン……」
アベルとアリアの様子をじっと見ていたアンディは、二人を纏う空気が恋人同士のように感じられたのか思い違いしたようだった。
……いや、実際アンディの読みは正しいのだが、アベルは今、フローラに結婚を申し込むために【炎のリング】を取りに来ているわけで、ルドマン達にもアベルとアリアは身内だと偽っている。
下手なことを言ってアベルが不幸になってはまずい、アンディにも身内で通さねば……アリアはアベルとは
そんなアリアの嘘にアンディは納得してくれたのか何度も深く頷く。
「……アベルは……炎のリングを手に入れるそうですよ」
「ぐっ……ボクだって負けませんよ……!」
アリアが【ばくだんいわ】と話をしているアベルに視線を投げながら告げると、アンディは唇を噛み眉を寄せた。
「…………アンディさんはフローラさんのことがお好きなんですね……。私、思い出したんですけど、フローラさんからサラボナに幼馴染がいて……という話を聞いたことがあります。あなたがそうなんですか?」
「……はい、ボクとフローラは幼馴染なんです。ボクはずっと彼女のことが好きで……って、フローラのことを知っているんですか?」
フローラについて訊ねられたアンディは訊かれるままに答えたが、アリアがフローラと知り合いだったことに驚き目を見開く。
「はい。私、短い間ですがフローラさんと同じ修道院で過ごしていたので、フローラさんとはお友達なんです」
アリアは穏やかに目を細めていた。
「修道院……そうだったんですね……!(なるほど、だからさっきボクはフローラと間違えて……)」
アリアの穏やかな雰囲気が何となくフローラを思わせる。
アンディはアリアが修道院で育ったから何となく似ているのかも……と気が付いた。
“フローラに逢いたいな……”などとアリアの穏やかな笑顔に、
「……ね、アンディさん。悪いことは言わないから命がある内にサラボナに帰られたらどうですか?」
「え?」
「……ここは暑いし、魔物達もとても強いです。あなた一人で指輪を取りに行くのは無謀なのでは……?」
――私も独りだったら絶対来ないよ、こんなところ……。
その勇気は讃えられていいものだけど、命あっての物種。
アンディさんが死んだらフローラさんが悲しむでしょうに……。
そんなことも想像できない人なのかとアリアはフローラを思うと複雑な気持ちになった。
幼少期から幾つもの戦いを潜り抜けて来たアベルと、ずっとサラボナに住んでいたアンディとは場数が違う。
アベルと比べては悪いが、アンディは細身の身体に白い肌。
彼は屈強な戦士でも、高名な魔法使いでもない。
多少呪文の心得はあるようだが、先程死に掛けている。
独りでこの洞窟を行くのはどう考えても無茶だ。
アベルには仲魔がたくさんいるが、アンディは今独り。
死んでしまえば誰がその屍を拾うというのだろうか。
……アリアの声は優しく諭すようだった。
アンディは確か弱虫だったとかなんとかフローラが言っていたのですが……。
愛の力は偉大なり、ですね。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!