ポワン様登場ですっ。
では、本編どうぞっ。
――ベラの後ろに付いて、切り株の城へと入って行く。
一階には大きな本棚が複数置かれていて、本をじっくりと読むテーブルも設置されており、図書室を連想させた。
内壁全面には常に清水が上から下へと流れており、切り株の内側が乾かないよう保護しているようだった。
奥に二階へと続く階段が見えるが、それを形どるのも清水で、凍ってもおらずどうやって凝固させているのかは不明である。
壁といい階段といい、これだけの量の水は一体どこから……?
と、考えると先程見た清らかな湖から水を引いているのだろう。
「ね、アベル、この階段ちょっと柔らかいね」
「そうだね、スライムよりは大分固めかな。しっかりしてるね」
「うん、何だか硬いゴムの上みたいね」
「ゴム……?」
階段を上りながら、ベラの後ろでアベルとアリアは足元の感触を楽しんでいた。
階段は踏み締めた一瞬だけ、靴跡が付いて消える。
水滴が付かないのがなんだか不思議だが、ずっと踏んでいると癖になりそうだ。
二階に上がると教会のようになっていて、祭壇で神父がぶつぶつと祈りを捧げている。
祭壇の前には椅子がいくつか置いてあり、その一つにシスターが座って本を読み、時折ため息を吐いていた。
この部屋もまた、水壁で覆われ奥に水階段が三階へと伸びていた。
三人は三階へと上がって行く(もちろんプックルも後ろについてるよ!)。
◇
三階へと上がると、切り株の頂上へと出る。
金の刺繍が施された赤い大きな絨毯の奥に、玉座らしき椅子があり、そこには美しい女性が座していた。
「わぁ……綺麗な人……」
アリアが遠目で一見して呟く。
女性の見目はベラと同じ尖った耳、そこには大きめのリングのピアス。中央二つ分けした紫の長い髪、頭にはティアラが輝いている。
衣服は人間界のドレスとは違う形、木の葉が折り重なるようにしたデザインの緑のドレスを身に纏っている。
麗しい優し気な青い瞳がアベルとアリアがやって来る様子を見ていた。
つい彼女の見目に釘付けになりつつ、前を歩くベラが足を止めたので二人も立ち止まる。
「ポワン様、仰せの通り人間族の戦士を連れて参りました。あとおまけのアリアも」
「……私の扱い!」
「ぷっ」
ベラが“ポワン様”に恭しく頭を下げ、アベルとアリアを紹介すると、アリアはツッコミを入れ、アベルは吹き出していた。
その様子にポワンの唇の両端がふっと上がる。
「まあ、何て可愛い戦士さまですこと」
「め、滅相もありません。こう見えましても彼は……」
「言い訳はいいのですよ、ベラ。すべては見ておりました。アベルと言いましたね。ようこそ、妖精の村へ。あなたに私達の姿が見えるのは何か不思議なチカラがある為かも知れません」
ベラの言い訳はお見通しだとばかりに、ポワンはアベルに微笑み掛けたのだった。
次にポワンはアリアを見て告げる。
ベラといい、ポワンといい、アリアの姿は妖精には見えるようだ。
「……アリア、あなたは天空人ですね?」
「へ? 天空人……? 何ですそれ?」
「あら……、違うのですか?」
「あの……私、記憶が無くて……」
ポワンに真っ直ぐ見つめられ、気まずさを覚えてアリアは床に視線を落とした。
そう、私に
私の記憶は、社畜OLだった前世の記憶が殆どだ。
なのに前世の名前も憶えていない。
現実とゲーム内世界の違いを体験し、始めは戸惑ったけれど、最近じゃそれをも楽しみ始めている。
前世の私はゲーム好きで、特にドラクエが大好きだった。
アリアの記憶は一体どこにあるのだろう?
知っているのは地下室で目を覚ましてすぐの頃、脳裏に浮かんだあの女性が云った言葉だけ。
そろそろ私の中の
……あの光る玉に触れた時、何か見えた気がしたもの。
アリアはサンタローズで会った青年の持っていた光る玉に、記憶の断片が見えた気がしていたのだった。
「まあ……そうでしたか。……確かにそうかもしれませんね」
「え……」
ポワンの言葉にアリアが顔を上げると、彼女は憐れむような瞳で微笑んでいた。
「……どういうこと……?」
アベルが首を傾げ訊ねる。
けれども、ポワンはそれに答えず今度はアベルに温かな笑みを送った。
「アベル。あなたに頼みがあるのですが引き受けてもらえますか?」
「え……あ」
ああ、あれかな……?
確か……、何か盗まれたとかで……。
アベルの脳内に
「実は私達の宝、春風のフルートをある者に奪われてしまったのです。このフルートがなければ世界に春を告げることができません。アベル。春風のフルートを取り戻してくれませんか?」
「……やっぱり……」
「ん? やっぱりって何?」
アベルの言葉にアリアは目を瞬かせる。
アベルって時々変なこと言うなぁ、と思ったが黙って見ていた。
「? 引き受けては下さいませんか?」
「……別にいいけど……」
「まあ! 引き受けて下さるのですね!」
ポワンはアベルが首を縦に下ろしてくれたので破顔して手を合わせる。
何とも美しい微笑みにアリアが「素敵な笑顔~」とうっとしりていた。
「…………、んと……。困ってる人を放っておけないからね」
アベルもポワンの笑顔に「綺麗だなぁ」とちょっぴり見惚れてしまったのだった。
「ベラ、あなたもお供しなさい」
「はい! ポワン様」
ポワンがベラにお供に付くよう命じると、ベラは二つ返事で了承する。
「アベル、あなたが無事にフルートを取り戻せるよう祈っていますわ。……アリア」
アベル達がポワンの元から去ろうとすると、彼女は自分に背中を向けたアリアを呼び止めた。
「……え? あ、はい、なんでしょうか……」
「あなたには少しお話があります。ここに残ってもらえますか?」
振り返ったアリアに、ポワンは優しく微笑み掛ける。
「え……、わ、私ですか……?(何だろう……?)」
「ええ」
アリアが自分で指差し、上目でおずおずと訊ねるとポワンは頷く。
すると、アリアの手をアベルがぎゅっと掴んだ。
「っ、ダメだよっ! アリアは僕と一緒に春風のフルートを探しに行くんだから!」
「アベル……」
アベルが眉を顰めアリアの手を後ろに引いて、共に行こうと促すのだが、
「あら……。アベル。そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫ですよ。アベルが村で準備をしている間に済みますから、出発前に迎えに来てあげてください」
「え……」
「アリアが呪文を使えるようになるかもしれませんよ?」
ポワンは人差し指を口元に持って来て片目を閉じ、にこっとはにかんだ。
「ええっ!? 本当ですかっ!? 私も呪文が使えるようになるの!?」
ポワンの言葉にアリアの瞳が輝き出す。「これでポンコツ卒業だ!!」とでも思っているのだろう。
「ウフフ。恐らく使えるようになるでしょうね。さあ、傍にいらっしゃい」
「アベル! 私ここに残ってポワン様のお話聞くね! 後で合流するから先に準備お願いっ」
「え……あっ、アリア……!?」
アリアはアベルの手を剥がしてポワンの傍へと走って行ってしまった。
「ベラ。アベルを村へ案内して差し上げて?」
「は、はい! アベル、行くよ!」
「っ、アリアっ!!」
アリアに手を伸ばすアベルだったが、ベラに首根っこを掴まれ強制的に連れて行かれてしまう。
アリアはポワンから耳打ちされ、始めは驚いた表情をしてその後で何やら神妙な顔付きに変わっていった。
アベルが見たのはそこまでで、二階へと下りてしまったので話の内容はわからなかった……――。
さて、アリアさん脱ポンコツなるか!?
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