嫌よ嫌よも……。
では、本編どぞー。
……気付けばアベルはアリアの肩を強引に掴み振り返らせていた。
「っ……やめて……っ! 触らないでって言ってるでしょっ……!?(アベルを刺激しちゃうから裸はダメなのに……っ!!)」
「……キレイだ……、アリア、綺麗だよ……、君はとても綺麗だ……。見るだけで何もしないよ。誓うから見せて欲しい……」
互いに向かい合うと、アリアは胸元と
へそ辺りまで清水に浸かっているからか、下半身はアリアの手と水面が揺れて よくは見えないが、彼女の身体は白くて透き通るようだった。
日に焼けたアベルの浅黒い肌とは全く異なる。
腕も細く、胸元を隠していても柔らかい肉は溢れて、ただそこに立っているだけなのにアベルの欲を煽ってくる……。
アベルは自然と湧き上がる色欲をグッと堪え、視界に映る部分だけ観察しながら彼女を褒めちぎった。
――手を出したりせず、眺めるだけで心に描き留められれば。それだけでいい。
「っ、そんなの信用できないよ……っ!! ぃっ……!」
アベルの手がアリアの肩を強く掴んでいたからか、アリアは痛みに眉を顰める。
――なんでそんなに褒めるのよぉっ……!! そんな甘い言葉を言ったって、だ、騙されないんだからねっ。
これまで何だかんだとアベルにのせられ、ついあれもこれもと許してきたアリアは、このままではアベルの誘惑にのせられ負けてしまう。
……本当はちょろくて弱い女なのだ。
正ヒロインと結婚する男を汚したくない一心でここまで来たのに、アベルはなぜか自分を溺愛している。
……それでも恐らく未来は変わらない。
これまで必死に堪えたなけなしの理性を、目の前の男は気分次第でいとも容易く握り潰し、遠くへと追いやってしまえるのだろう。
(アベルにそんなことさせられない……!)
ドラクエで泥沼三角関係、はたまた四角関係など まっぴらごめんである。
だが、アベルに抱きしめられる度に胸を締め付けられる感覚は切ないもので。
……アリアは毎度泣きたい程辛かった。
そして……泣きたいほど幸せだったのだ。
「……見るのもダメなの? あんなに触らせてくれたのに……? なんで……? なんでダメ……? 君、僕に平気で抱きついてくるよね、どうしてそんなことするんだ……? 抱きしめたら触りたくなるって思わないのか……? わけが解らない……」
「っ……それとこれとは違う……っていうか……(だって、裸見せちゃったら興奮しちゃうでしょっ!?)」
――興奮しちゃったら、私も興奮しちゃうじゃない……!
アベルに食い下がられ、アリアは唾を飲み込む。
アベルの声は弱々しく、いつもこの声にアリアは なぜか従ってやりたくなってしまうのだ。
しかも気持ちは伝染するらしい。
アベルが興奮する時、アリアも高確率で興奮していた。
“私は大人だから理性で欲望を抑えられる……”と、毎回ある程度までアベルに自由に触らせ、理性がもたなくなりそうになったら止めさせる。
その一線を越えられると、自分でも歯止めが効かないからであるが、アベルからしたら生殺しだ。
そして、アリア本人にしても生殺し。
アベルの逞しい腕に抱かれる夢を何度見たことか。
……二人の心の内は さっさと一戦 交えたいのである。
とっとと やってしまった方がお互いすっきりするのでは……? と、わかってはいるのだが、その後のことを考えるとおいそれと関係を持つわけに行かない。
アベルに未来の話が出来ない以上、アリアはのらりくらりと躱すしかなかった。
「アリア……、綺麗だ……、君は女神、なの……?」
「っぅ……、ぅぅ……、も、本当、勘弁して……(なんで、アベルの声聞くと従いたくなっちゃうのぉ……!?)」
アベルの甘い声が頭上から降り注ぎ、アリアは首を左右にフリフリ。
――このままだと また流されちゃう…………イヤだ。
アベルは、私がアベルに弱いことを知っている……。この
(……上手に甘えて来るの。)
アリアは堪らず身体を隠していた腕を退かせて、両耳を塞いだ。
「アリア」
「…………っ、イヤ……ッ!」
――ごめんね、アベル。
アベルの低音がアリアに優しく問い掛けると同時、アリアは顔を上げる。
そして、片手をアベルの目の前に掲げた。
「ん?」
“【ヒャド】!!”
アベルの顔目掛け、アリアは少し照準をずらして【ヒャド】を唱える。
アベルは驚いて咄嗟に除けようと身体を動かした。
「っ……!?」
下手に動いたのがまずかった。頬に氷の刃が僅かに触れ、チリッと痛みがしたと思ったら血が滲む。
アベルが頬に触れるとその鮮血が指に付着した。
「ぁっ、ごめ……、冷気だけ当てるつもりが氷が当たっちゃった……、血が……」
アリアは当たるとは思わなかったのだろう、青い顔をしてアベルの傷付いた頬に触れようと手を伸ばす。
「……………………いい、大丈夫。触らないで」
――アリア本当に嫌だったんだね……。
そんなに、嫌だったんだ……?
今アリアは無防備に身体を晒している……にも関わらず、アベルの心が冷えていく。
さっきまで興奮していたのに、今は見てはいけない気がして、アベルはアリアから目を逸らしてしまった。
アベル曰く“アリアは なんだかんだいつも受け入れてくれていたから、今回もいけるかな”と期待したのだが、そうではなかったらしい。
(これは……嫌われたかもしれない……。)
アリアの拒絶が本物だと薄々感じていたが、これまで我慢を強いられて来たアベルは限界を超え、理性の糸が切れかかっていた。
いや、一瞬切れていたのだ。
アリアのタイミングを待たずに事を運ぼうとした。
……このままでは
アベルは一刻も早く冷静を取り戻さねばと、平静を装いアリアから離れることにした。
彼女に背を向け、
ざぶざぶ。
ざぶざぶ、と。
アベルは無言で水から上がる。
「アベルごめんなさい。私当てるつもりじゃ……」
アリアから謝罪の言葉が背に掛けられたが、アベルは振り返らなかった。
「…………頭冷やして来る」
「あっ、アベル……!」
「…………向こうの水辺で僕も水浴びして頭を冷やすよ。……僕に見られるのそんなに嫌だったんだね、ごめんねアリア。もう見ないから安心してね」
――君が許してくれるまで……今度こそ我慢してみせる……!!
アベルはアリアに振り返ることなく、今の場所とは反対に位置する水辺へと向かう。
……残されたアリアは……。
「アベル、なに……今、すごく傷ついた顔してなかった……?」
アリアはアベルの背中が泣いているような気がして心配になっていた。
アベルは昔からしっかりしている人だが、母親がいないで育ったせいか、いつもどこか淋しそうだった。
だからアリアは、自分は母親にはなれないが、せめて姉にでもとアベルに優しく接していたのだ。
アベルの父パパスも自分と別れた時に亡くなったと言っていたし、彼は天涯孤独の身。
それを知ったのは再会後……――。
記憶喪失中にいつも優しくしてくれ 好意を向けられ、いつの間にか好きになっていたアベルをアリアは大事にしたかった。
アベルが傷付かないように、淋しくないように支えていこう……そう思って今まで来たのだ。
アベルが
……その役目ももうすぐ終わる。
ほんの少しだけ、アベルの優しさを享受させてもらえたら……。
アリアにはそれだけでよかったのだ。
「でも…………、私にどうしろっていうの…………??」
――私だって、アベルが欲しいけど……そういうわけにはいかないのに……。
アベルが不安そうにしていると、アリアも不安になってしまう。
アベルと寝る……勇気はまだない。
というか、これだけは無理だ。
彼と結婚出来たら覚悟を決められるが、何の覚悟もなくゲームの主人公に心を奪われてしまったバカな自分は最終的に捨てられる存在……。
だがアリアはアベルのことを愛している……。
「……………………」
アリアは何か思い詰めたような顔で静かに水辺から上がった。
アリアはアベルに弱いんですよ……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!