いい夢を見た朝は気分が良い。
では、本編どぞ。
◇
そして夜が明け…………??
……洞窟内では外の様子がわからないため、アベル達は疲労回復した者からぼちぼち目覚めていた。
一番最初に目覚めたのはパトリシアで、パトリシアは「ヒヒン!」と一声いななく。
そのいななきに応じたのはピエールただ一人である。
ピエールはまだ自分以外はパトリシアしか起きていないことに気付き、一先ずパトリシアに水分と食事のニンジンを与えていた。
「……ふむ、主殿が目覚めていないとは珍しい……」
大体いつもアベルが一番に起きるのだが、昨日は戦いの連続でよっぽど疲れたのだろう。
初めての展開にも戸惑っていたようだし……と、水辺の近くで泥のように眠るアベルの元に行くと彼を見下ろした。
「…………生きてます?(よだれがすごいですね……)」
アベルの寝顔があまりに安らかなのでピエールは彼の鼻先に【はがねのつるぎ】を近づけてみた。
刃にアベルの吐息が掛かると白く曇る。
……アベルは生きているようだ。
まあ、わかっててやっているのだが。
「ふむ……、剣を向けても起きないとは……(殺気を向けているわけでもないですしね……)」
寝起きに武器を向けられていたら驚くかな……、というイタズラをしようとしたのだが、不発に終わった(酷い悪戯である)。
ピエールは【はがねのつるぎ】を鞘にしまい、あちこちで散らばって眠っている仲間の様子を見に行く。
誰か起きているようなら朝食の支度でもしようと思ったのだが。
――それにしても、主殿のお顔……いつにも増して幸せそうな お顔だったな……。
この世界のアベルはアリアのお陰か、彼があまり辛そうにしている姿を見た事がない。
幼き頃に辛い別れはあったようだから、辛いことがあるにはあったのだろうが、この洞窟で数々の主達があんな安らかな顔で眠ったことなどあったろうか。
(まあ……今が幸せならなによりです。)
未来はあまり変わっていないはずなのだが、あまり幸福過ぎても後が怖いなとピエールは未来を憂う。
「……ロッキー殿、ジュエル殿……」
二匹で寄り添いながら眠っているロッキーとジュエルを見つけたピエールは一応声を掛けつつ、辺りを見回す。
……ロッキーとジュエルにピエールの声は届くことはなかった。二匹はまだ夢の中のようだ。
「プックル殿……あんなところで……」
馬車を見上げると、キャビンの屋根上にプックルが丸くなっている。
寝ている間にフロアの気温はすっかり下がり、床が冷たかったのだろう。プックルは寝る場所を移動したらしい。
――……アリア嬢は……、キャビンの中……ですかね……。
おそらくスラりんも一緒だろう。
……女性の寝起き姿を見るわけにはいかない(まあ今更だが)。
紳士なピエールはキャビンを下から見上げるだけに留め、未だ起きない相棒アンドレを起こしに向かった。
それから三十分程して、ぼちぼち皆が起き出す。
「……ピエールおはよ……、ごめん……寝坊したみたいだ……へへ……」
朝食の準備をするピエールの元に顔を清水で洗ったアベルが頭を掻き掻きやって来ていた。
彼は気まずそうにはにかんで、辺りを見回す。
――アリア嬢をさがしておられるのかな……?
ピエールは何となくそう感じた。
「ぐっすり眠られたようで なによりです」
「……起こしてくれれば良かったのに。あ、それ僕が変わるよ」
――アリアまだ起きてないんだ……、どうしよう……、どんな顔して会えばいいんだ……!?
平静を装い、鍋をかき混ぜるピエールと場所を代わり、アベルはスープをかき混ぜる。
「幸せそうに眠っていらっしゃったので……」
「そう……?」
「はい……、よだれがすごかったですよ」
「っ……そ、そう……」
――顔洗ってきてよかった……!
ピエールに指摘され、アベルは口元を拭う。
顔を洗ったからか口元はすっきりしていた。
「……そろそろ、起こしましょうか」
「……ん?」
「アリア嬢がまだ起きて来ておりません……」
「あっ、う、うん。そうみたいだね……! ぼ、僕が起こして来るよ! こ、これお願いっ!!」
「主殿……?」
アベルは慌てた様子でピエールに おたまを渡すと馬車へと向かった。
◇
「パティ、おはよ」
「ブブブブ」
アベルはパトリシアに挨拶をし、馬車の後部へと回る。
そして、キャビンに乗り込もうと乗り口に手を掛けた。
そこでふと視線を感じてアベルがキャビンを覗くと、アリアが自分を見ていることに気が付く。
「…………あ」
――アリア……! 起きてた……!? こ、心の準備が……!!
起きたばかりなのだろうか。
寝癖の付いたアリアが毛布片手に座ったままボーッと自分を見ているので、アベルは“どう声を掛けたらいいんだ!?”と
起こそうと思って来たはずだが、いったい なんて声を掛けようとしていたのか……よく来たな、である。
「…………」
アリアは何も言わないままじっとアベルを見ている。
特に頬を赤くするとか、恥ずかしがっている様子はない。
「…………ア、アリア……、その……、お、おは」
とりあえずアベルは挨拶だけはしようと試みた。
「アベルおはよう……、ふぁ……、もう朝なのね……」
「え……、あ、うん。おはよう……」
アリアが目を擦りながら片手で口元を押さえて欠伸をする。
今日は少し眠そうだが、普段と変わらない表情にアベルは目をぱちくりさせた。
――あれ……? アリア……普通……だな、……なんで……??
彼女は恥ずかしがりだったはず。
昨日あんなことをしておいて平静でいられるとは思えなかったのだが、まさか昨夜のアレは夢だった……?
アベルがそう考えていると、追い打ちをかけるように彼女が毛布を畳みながら告げる。
「アベル昨日はぐっすりだったけど……、いい夢でも見てたの……?」
「夢、って…………、あれは…………」
――あれ? 確認したからあれは夢じゃないはずなんだけど……?
アリアの言い分にアベルは首を傾げた。
……アリアの様子はいつも通りだ。
まさか、彼女の云う通り自分は
アベルが思考を巡らせている間にアリアは床面に毛布を置いて背伸びすると乗り口へやって来る。
「…………ふぁあああ~……ん~~、私顔洗って来るね」
アリアは乗り口に足を掛け降りようとするので、アベルは手を差し出した。
「あっ、どうぞ」
「ありがとう♡」
アベルの手を借り、アリアは地面へと降りる。
「あ、食事の用意が出来てるよ」
「ホント? わぁ~、うれしいっ。じゃあ、顔洗ったらすぐ行くね~」
アベルがピエール達の方を親指で指すとアリアは破顔して顔を洗いに行ってしまった。
「………………」
――あれぇ……?
水辺に向かうアリアの背中に、アベルは腕組みして首を捻る。
「夢オチ……? いや、でも……あれは………………ん?」
アベルが何となく下半身に目線を下ろすと服の
――糸……? 服がほつれたのか……?
アベルは糸を落とそうと摘まみ上げる。
「…………っ……。これ、アリアの髪だ……(昨日……、堪らず彼女の頭を押さえてしまったから抜けたんだ……)」
――頭を押さえていたから……っ!?
アベルはハッとして、顔を洗い終え戻って来たアリアを見つめた。
アリアは不思議そうな顔でアベルの視線を受け止めている。
「ん……? どしたのアベル……?」
きょとんとした顔の彼女は手櫛で寝癖を直しながら首を傾げていた。
「……っ、アリア、昨日は……その……っ、僕の……!」
「……………………お腹空いちゃった♡ 行こっ、アベル♡」
アベルが真っ赤な顔で思い切って訊ねようとするが、アリアは弾けるような笑顔でピエール達の元へ走って行ってしまう。
……だが、アベルは見逃さなかった。
走り去るアリアの耳が赤かったことを……。
「あっ、アリアっ!!」
――やっぱ夢じゃなかった……!?
アリアは恥ずかしくて夢オチにしたかったのだろう。
何を考えてあんなことをしたのかは わからないが、とにかく一生懸命だったのは知っている。
……一度のみならず、何度も付き合ってくれたのだから。
結局 彼女を最後まで抱くには至らなかったが、大事にされていることだけは伝わり、ここ最近の欲求は解消されたといってもいい。
だが同時、別の問題が発生してしまった。
アリアの思い切った行動により、アベルは益々彼女が欲しくなってしまったのだ。
(アリア……、早く僕のものになりなよ……。)
アベルは眉を寄せ、切ないような瞳でアリアの後を追った……。
アベルの望みが叶うといいですね。
しばらく妙な雰囲気が続きます……。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!