さて、戻って来ましたよ、と。
では、本編どぞー。
第四百七十九話 ただいま、サラボナ
◇
死の火山からサラボナまでの道のりを、アベル達は幾度の戦闘でレベルを上げながら往路と同じ日数を掛けて 多少の時間差はあれど復路を進み、漸くサラボナに戻って来た。
……サラボナに戻るのは実に約三週間振りである。
到着時刻はそろそろ夜の帳が落ち始める頃――。
深夜になる前に町に入れたのは幸運だった。
今夜は宿屋で久しぶりにベッドで眠れる。
しかもサラボナの宿は安価で、ベッドもふかふかだ。
前回泊まった時アベルとアリアは添い寝をしたが、マットレスの沈み込みがすごく、寝心地が良かった。
この宿は風呂が無いためアリア好みではなかったようだが、柔らかいマットレスは
「はぁ……やっとサラボナに戻って来たね~(わ~い、今夜はベッドで眠れる~♡)」
町に入るなりアリアは身体を屈め、握った拳でふくらはぎを叩いていた。
「アリアお疲れ様、ここまでよく頑張ったね。さあ、宿屋に行こうか。足のマッサージしてあげる」
アベルはすぐに町入口近くの宿屋を指差し早速、宿を取ろうとアリアを誘う。
「やだアベル、どうしちゃたの? 私もうすっかり旅に慣れて足も強くなったから大丈夫だよ?」
「でも足疲れたでしょ? もうすぐ夜なんだし、今日は早めに休もうよ」
――さあ! 早く宿屋で二人きりに……! そしてこの間の続きを……!
アリアの肩を揉み揉み、アベルは「アリア肩も凝ってるね。揉んであげる……!」と宿屋に行くことを強く勧めて来る。
……今夜は久しぶりに安全な場所でのお泊りだ。
“さあ今夜もアリアと添い寝を……!”という淡い期待にアベルは鼻を膨らませていた。
「っ……もぉ……、アベルってば……お腹空いてないの……? 私お腹ぺこぺこ」
アベルの魂胆など見え見えなのか、アリアは呆れたように零しお腹を擦る。
性欲に支配されたアベルとは対照的に、彼女が今感じている欲求は性欲や睡眠欲よりも食欲だった。
「じゃあ部屋の予約だけでも……!」
「…………はぁ。もぉ……しょうがないなぁ……。じゃあ部屋を取るだけね……?」
アリアが腹を空かせているなら食事を……! と言いたいところだが、どうせなら二人きりがいい。
アベルが食い下がるとアリアは溜息を吐き、困ったような顔で微笑んでいた。
「そうこなくっちゃ!」
アベル達は今夜の宿を予約し、ピエールとプックルに先に休んでもらうことにして部屋へと向かう。
……カチャッ。
今夜泊まる部屋の扉を開け……と思ったら中には先客が。
どうやら間違えて別の部屋を開けてしまったらしい。
突然のアベル達の訪問に、中にいた旅の商人が目を丸くしていた。
「あ、すみません、間違えました」
「ははは、いやはや。びっくりしました。旅の方ですかな?」
アベルが頭を下げると、商人が笑顔を見せてくれる。
「はい」と答えるアベルに、商人はアベルの後ろにいたアリアをチラ見して話を続けた。
「……奥方と旅を……?」
「あ、いえ」「はい!」
アリアとアベルの返事に旅の商人が破顔する。
アリアは言えていなかったが、どうせ「あ、いえ私達は夫婦じゃないです」とでも言おうとしていたのだろう。
解っていたアベルは元気よく返事をしていた。
「そうですか……いいですね……」
アベルの返事に商人は淋し気に目を伏せる。
「……あの……? どうかしましたか?」
「私の妻は、私が旅をしている間に怪物に襲われれ死んだのです。こんなことなら危険でも一緒に旅をしていればと後悔しましたよ」
商人の様子にアベルが首を傾げると、理由を教えてくれた。
……彼は旅人の恰好をしているアベルとアリアを見て、自責と後悔の入り混じったなんとも言えない顔をしている。
「……そうでしたか……」
商人の話にアベルは神妙な面持ちで相槌を打つ。
――僕は絶対アリアとは離れない……、僕が傍にいないと彼女は…………
“…………――から。”
……ん? アリアがなんだって……? 今なんて……?
…………あれ?
(……なんだ今のは?)
アベルの脳裏にふっと、ある考えが通り過ぎていった気がした。
別世界とは違う初めての感覚にアベルは目を瞬かせる。
初めてのはずなのに妙な既視感覚。
前にも、同じことを考えたことがあるような……?
いや、別世界でも
……そんなことあるはずがないのだが。
今のはいったいなんだったのか……。
アベルはアリアに視線を送ったが、目が合った彼女は柔和な顔を向けただけで、当たり前だが特に何か反応した様子は無かった。
「お二人のように一緒に旅をしていたならば、今も妻は私の隣にいたのかもしれません。あの時の選択が悔やまれます。お二人は……後悔のないように」
「「…………はい」」
淋し気に笑う商人に会釈し、アベルとアリアは部屋を後にした。
◇
……宿にピエールとプックルを残し、アベルとアリアは酒場で食事を摂り終えると腹ごなしの散歩をすることにし、夜の町を歩いていた。
今夜は星がよく見える。
「ははは……戻ったら部屋を間違えないようにしないとね……っと、と……」
「あっ、もう 気を付けてっ。……ふふっ、間違っても全然悪いと思ってないでしょ? アベルは端から扉を開けないと気が済まないんだから」
酒場にてアベルは酒を少々嗜み、アリアの手を取り酔ったふりで彼女にわざと寄り掛かる。
素面の時の彼女を甘い雰囲気に持ち込むには、少々わざとらしく振る舞うしかない。
酒さえ飲んでくれれば、すぐにいい雰囲気に持ち込めるのに……と、酒を勧めてみたが、アリアは今夜は飲みたくないらしく一滴も飲まなかった。
酒を飲まない彼女は気が向かないとあまり自らアベルには近付いて来ない。大体いつも距離を詰めるのはアベルからである。
……アリアは気まぐれな女だ。
猫のように気まぐれなアリアと付き合い出してあと数か月で一年だというのに多少二人の関係に進展があったとはいえ、彼女は相変わらずあっさりしている。
……前世の経験からか警戒心が強いのだろうか。
アベルはまだ、彼女の心の奥深くまで触れられていない気がしていた。
もっと自分に甘えてくれればいいのに。という不満と淋しさは多少あるが、アベルから近付けば応えてくれるし、それなりに甘えてもくれるので早くデレて欲しいなと願いながらアベルはいつもアリアを愛でている。
アベルに寄り掛かられたアリアは繋いでいた手を一度放し、彼が倒れないよう腕をしっかり抱き込むようにして支えていた。
……アベルは本当は酔っていない。
だから体重を掛けてアリアが倒れると心配なのだが、安全な町中での二人きりの時間だ。
せっかくだからくっついて歩きたいじゃないか……と、こうしていつでも甘えさせてくれるアリアに癒されていた。
旅の商人の台詞ですが、やっぱ一緒にいないとね。
安全なはずと思って置いて行ったのに知らない間に亡くなってたとか悲し過ぎる。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!