愛が重いとしんどい気もします。
では、本編どぞー。
◇
「……寝るの早っ……!」
アベルが部屋に戻ってベッドに目をやると、二台あるベッドの内、奥のベッドでアリアは既に夢の中だった。
彼女は【安眠枕】に頭を預け、すやすやと静かに寝息を立てている。
――添い寝しようと思ったのに……!!
……今夜はピエールとプックルも同室だ。
部屋に戻って来たアベルをピエールとプックルがじっと見つめており、アベルの動向を窺っていた。
アベルは奥のベッドまで向かうと眠るアリアを見下ろし、青白い頬に手を伸ばす。
……付き合う以前は見ていることしか できなかった滑らかな絹糸の髪も、陶器のような白い肌も、今はちょっと手を伸ばせば触れられる。
彼女の身体のどこに触れても柔らかく、そして甘く好い匂いがした。
これまで なにかとスキンシップの多いアベルだったが、これでも始めはアリアに触れるのが怖かった。
好きになればなるほど、触れて嫌われはしないかと内心ではあまりの緊張に口から心臓が出そうになったこともある。
だが、アリアがいつも優しく受け入れてくれるので、アベルは段々と緊張感を失くし、今では自分が触りたい時に触っている。
彼女も徐々にではあるが、それに慣れてきてくれており、死の火山では一糸纏わぬ女神の姿も拝めた。
少しずつ時間を掛けてここまでやって来たにも関わらず、未だ二人は最後の一線は越えていない。
……待つと決めたからには待つ……――。
だが、アベルはただ大人しく待っている男ではなかった。
「…………(可愛い僕のアリア……、添い寝してあげたかった……)」
――今からすればいいか。
アベルはアリアの掛け布団を捲ろうとしたが、先程から背中に視線を感じて、何となくそちらに目を向ける。
と、ピエールとプックルがアベルを監視するように注目しているではないか。
……二人のその目線は何となく冷ややかだ。
「…………べ、別にいつもアリアに盛ってるわけじゃないよ……!?」
――って、キミたち知ってたのか……!?
アベルは二人の目線が気まずいのか、アリアの掛布団から手を放し、渋々自分のベッドに大人しく潜り込む。
サラボナまでのキャンプ中、毎晩夜な夜なアリアにイタズラしていたのがバレていたとは……。
(……アリアは一度寝たら起きないから……少しくらいお触りしたって いいでしょ……!)
アベルは刺さる視線に居心地の悪さを感じ、逃れるように背を向け目を閉じた。
――ああもう、毎日触りたくなるんだからしょうがないでしょーが……!
……って、さっき宿に戻る前のあの違和感は何だったんだろう……?
ふと、宿屋に戻る前のアリアの言葉が思い起こされる。
“ビアンカちゃんと会えるの楽しみだなぁ”
(そうか……アリアも楽しみにしてるんだね……。僕も楽しみだ……。)
長旅の疲れと酒が入っていたこともあり、アベルの思考は纏まらず、意識は次第に薄れていく。
……明日はルドマンに会って、船を借りなければ。
思索にふけるのは後回しにして、アベルは意識を手放した……。
◇
翌朝……――。
「じゃあ、アリアをよろしく頼むね」
「承知しました」
アベルはサラボナの町隣、【見はらしの塔】へとアリア達を送っていた。
魔物連れが珍しいのだろう、塔の入口で見張りの兵士がアベル達を見ている。
「いってらっしゃいアベル」
「うん、いってきます。すぐ戻るから、アリア。勝手にどっか行っちゃダメだからね。この塔の最上階で待っててね……!」
アリアが笑顔で見送ってくれるが、アベルは眉間に皺を寄せ言い含める様に彼女の肩に手を置いた。
――ああ、心配だ。
この
……アリアは自由な女である。
修道院生活の時も、アベルの手が空いていない時や、アベルと会う約束をしていない時は独りでオラクルベリーに行ったりしていた。
魔物と遭遇したら危ないから、とアベルが伝えても『ピエール君もいるし、この辺の魔物なら大丈夫!』と聞き入れなかった(……まあ、実際問題はなかったのだが)。
修道院を出てからはずっと一緒にいたため、すっかり忘れていた。
アリアは隙あらばフラフラとどこかへ行ってしまう。
しかも【ルーラ】が使えるようになってしまったため、アベルのいない間に今まで行った町に行くことも可能ではないか。
(僕のいない間にアリアが消えてしまったら……?)
アベルはなぜだか分からないが彼女を独りにするのが嫌だった。
「行かないよ!? ピエール君もプックルもいるよっ?」
――また子ども扱いして……! 私あなたより年上なんですけど……?
アリアは瞳を瞬かせてから反論する。
「そ、そう……?」
アリアのはっきりした言葉にアベルは ほっと胸を撫で下ろした。
「もぅ、アベルってば、私のこと子ども扱いして……」
「子どもだなんて思ってない。ただ、心配なだけ」
――アリアは立派な大人だよ……、本当、魅力的過ぎて……。
腰に手を当て ぷくっと頬を膨らませるアリアを、アベルは頭の天辺から爪先まで見下ろす。
プラチナブロンドの輝く細く長い髪……――。
紫水晶の神秘的な瞳にほんのり色付く滑らかな頬、つい指先でそっと触れたくたくなる愛らしい鼻に、桃色の艶のあるぽってりした唇。
呼吸する度僅かに揺れる たわわと細い腕、白く艶やかな太もも……今日のアリアも美しい。
翼は失われているが、天使と言っていい。
触りたい……とアベルは彼女の肩から頬へと手を移動させる、が。
気が付けばアベルの頬にアリアの手が伸びていた。
「過保護~~。ほら、もう行って来て……?」
アリアはアベルの頬を挟むようにして、顔を横向かせる。
そのまま回れ右をしろということなのだろう。
「っ……、君は僕の大切な人なんだから過保護にもなるよ……!」
「っ……わ、わかったから……(そこにいる兵士さんが見てるから……っ!!)」
――私を口説くのはもういいから、早く行って来て……!
アベルが過保護になる理由を述べたが、アリアは兵士が見ている手前、恥ずかしいのかサッとアベルの身体を反転させて背を押していた。
それでもアベルは「アリアだから過保護になるんだ!」とかなんとか一向に行こうとしないので、最終的にアリアはプックルに助けを求め、アベルを見はらしの塔から追い出す。
アベルはプックルにマントを引かれ、「アリアぁっ!」と叫びながら引き摺られて行った。
「……主殿はアリア嬢を溺愛されていますね……」
「ははは……あの人、ちょっと心配性よね……」
――アベルの愛って……ちょっと重い……。
ピエールから呆れたような声が聞こえる。アリアはアベルの想いに乾いた笑いを浮かべていた。
とはいえ、アリアもアベルのことは好きだし、気に掛けてくれるのは嬉しいので悪い気はしない。
こんな状態でアベルは本当にビアンカかフローラと結婚するのだろうか……?
疑問に思うが、この世界の出来事は既定事項……。
(このまま、アベルと結婚できたら幸せなんだけどな……。でも私は花嫁候補じゃないし……期待しちゃダメね……。)
アリアはアベルの好意は嬉しかったが、同時胸が痛くなった。
アベルって一途ですね……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!