見はらしの塔に登ってみましょう。
では、本編どぞー。
……少しして、「主をサラボナまで送って来たぞ」とでも云う様にプックルがドヤ顔で見はらしの塔に戻って来る。
「がう!」
「ありがとう、プックル」
アリアはまだプックルの言葉がよくわからなかったが、今回は何となく理解できた。
「……では、参りましょうか」
ピエールが塔へ上りましょうと促し、アリアは目前の見はらしの塔を見上げる。
階数はわからないが、ずいぶんと頑丈な造りの高い塔だ。
“見はらしの塔”という名前からして、遠くを見渡すためのものらしい。
サラボナの町は観光の町ではない。
珍しい景色を見るために建てたものではなさそうだ。
なんの目的で建てたものなのかはわからないが、何か理由あってのものなのだろう。
これまで数々のドラクエをプレイしてきたアリアには“なにかある場所なのね”と察することができた。
……だがとりあえず、今は。
「お天気も良いし、うん、いい景色が見られそう……!」
最上階の眺めに期待を込め、彼女は目を細める。
……アリア達は見はらしの塔に上ることにした。
「ここは見はらしの塔。魔物たちが襲って来たらすぐ分かるようにとルドマンさんが建てたのだ」
アリアが塔へ入るため扉に手を掛けると、入口にいる兵士がこの塔の謂れを教えてくれる。
「そうなんですね……魔物を見張るために……」
ルラフェンでは魔物の侵入を防ぐのに障壁を利用していたが、この町ではこうして高い塔から辺りを見下ろし、いち早く魔物たちを見つけ、防備を固めて対処する方法を取り 町を防衛しているらしい。
今のところ大量の魔物たちが攻めて来たことはないようだが、いつ何時、何が起こるかは わからないため、見張りは怠れないということだった。
「景色を観たければ最上階に上がると良い。眺望は保証する。とはいえ、海と山……、それと樹々だけだがな……」
先ほどのアリアとピエールの会話を聞いていたのだろう、そう告げた見張りの兵士はアリアのために中へと続く扉を開いてくれる。親切な兵士だ。
「あっ、ありがとうございます……」
アリアは軽く会釈して見はらしの塔内部に足を踏み入れた。
「わぁ、ポートセルミの灯台を思い出しちゃうね。でもあそこほど明るくないし、螺旋階段じゃなくて良かった……」
「そうですね……」
塔の内部には壁伝いに階段が設置されている。
ポートセルミの灯台とは違い、目が回ることはなさそうだ。
アリアが上を見上げると、ピエールも同じように見上げていた。
「ピエール君は、ここがなんのための塔なのか知っているの?」
「え? あ、いえ……、見はらしの塔としか……」
「そうなんだ? ピエール君てアベルよりも記憶がしっかりしてるって聞いたから なんでも知ってるのかと思ってたけど違うんだね」
アリアとピエールは階段を上りながら別世界の記憶について話をする。
――そういえば、ピエール君の記憶ってどこまでわかっているんだろう?
アリアは なんとなくだが、アベルが別世界の話をするのが嫌いなのではと思っていた。
気になったアリアは、今はアベルがいないので思い切って訊ねてみることにしたのだ。
……察する能力が高いアリアの考えの通り、元々アベルは別世界のことを話すのはあまり好きではない。
口に出してしまえば、その通り。ただ繰り返される同じ光景に虚しさを覚えるからだ。
未来が決まっているなんて思いたくなかった。
そんな中で、修道院で起こった出来事は初めての体験。
修道院での生活も初めてだった。
奴隷生活や魔物との戦いの連続とは勝手が違う肉体労働はきつかったが、毎日好きな女と触れ合える穏やかな日々。
それはずっと繰り返されてきた世界が違った色を見せ始めた出来事だった。
だから修道院生活が始まってから以降、アベルは別世界のことを口にしなかったし、今もなるべく言わないようにしている。
……黙って行動していれば、未来が変わると信じて。
だが、別世界の記憶も役に立つことがあるのは事実。
アベルはどうにか思い出し、今を生きるためにそれを利用しているわけだ。
……アリアはアベルのそんな思いを知らない。
数百万回もの人生を繰り返した記憶がある人間の憂いなど、前世の記憶がちょっとあるくらいの彼女にわかるはずもない。
毎度中途半端に思い出し、ただ時の流れに翻弄される輪廻の旅人……、それが今のアベルだった。
そんなアベルもこの世界で初めて出会った少女、アリアには新鮮さを感じ、癒されている。
初めての体験……というのは戸惑いも多いが、新鮮で甘美なものなのだ。
アリアは別世界について“アベルが話したくないなら別に聞かない”というスタンスなので、詮索して来ない彼女にアベルは救われていた。
ピエールも元々饒舌な方ではないし、はっきりと未来を語ることが出来ないから特に話題を出すでもない。
うわさのほこらでアリアが倒れた際にピエールから指摘を受け、アベルは不快感を露わにピエール、彼を
……ここはピエールに救われたといってもいい。
ピエールの助言はアベルにとっては諸刃の剣なのだ。
……今のこの場にアベルがいない内に……、とアリアに訊ねられピエールは口を開く。
「アリア嬢……、私の記憶なのですが……実は一年~二年先の出来事までしか把握しておりません。一応断片的にわかるものもあるにはあるのですが、基本的には長くて二年先までしかわかりません。時が経つにつれ、情報が更新されていく感覚でして、ここがなんのための施設なのかは、
「そうなんだ……。一、二年先がわかるだけでもすごいと思うけど……」
「ははは……、未来がわかるからと言って、口に出来ないので意味はない気がしますが……」
「ん~……、不思議よね」
階段をゆっくり上りながら話していると、あっという間に最上階から降り注ぐ陽の光が見えて来た。
「……アリア嬢。アベル殿はあなたとご結婚されたいと……」
「ぁ…………あはは……。ね、とっても嬉しい……。でも……」
朝陽が階段を照らし、アリアとピエールを迎えてくれる。
ピエールがアベルの気持ちを代弁するとアリアは困ったような顔で微笑んだ。
「…………はい。主殿がアリア嬢とご結婚なさったことは一度もありません……お相手はいつも……」
ピエールはそこまで云って口ごもる。
「…………うん。だよね……! 大丈夫。覚悟はもうできてるの」
……アベルの結婚相手はいつもビアンカかフローラである。
アリアはバグのような存在。
そもそもそんな存在が主人公とこんなに関わること自体おかしいのだ。
彼女は眩しい日差しを避ける様に腕を顔の前に
ピエールからはよく見えなかったが、その表情から悲しんでいる様子は窺えない。
「そ、そうなのですか?」
「ん……、私、ちょっとアベルと距離を取ろうと思って。昨日からがんばってる」
「……距離?」
「…………アベルからのスキンシップ断ってるの」
「え」
「ほら、アベルって、すぐ私に触るでしょ? だから、昨日からキスとかしてないんだよ? あの人と一緒にいられるのも もう少しだし……別れる前に離れる練習もしておかないとって……」
そんな話をしながら ようやく最上階まで上り詰め、アリアは「わぁ……! いい眺め!!」と辺りの景色を見渡していた。
最上階にも槍を持った見張りの兵士が独りおり、彼は暖かな陽の光に遠くをぼーっと眺めて眠そうにしていたが、アリア達に気付くと転じて背筋を正す。
昨夜は夜更かしでもしたのだろうか。兵士は
「アリア嬢……」
「はは……、私もアベルに触るの好きだからちょっと苦しいんだけど……、あの人はフローラさんかビアンカちゃんの旦那さまになる人だからねっ、そろそろ遠慮しないとねっ」
――アベルにあんなことしといてなんだけど……、あれはやり過ぎだったよね……反省しなきゃ……。
高所に吹く風に揺れる髪を耳に掛けながら、アリアは気まずそうにはにかみピエールを見つめる。
……死の火山、洞窟の一件でアベルにしたことは間違いだったと猛省したようだ。
あの夜からアベルのスキンシップが更に増え、もう少しで最後の一線を越えてしまうかも……ということが何度かあった。
アベルに触れられる度に胸は苦しいわ、身体は切ないわで衝動的な行為は身を滅ぼしかねないなと過去の行いを悔いても後の祭りである。
最上階の眺め良さそうですよね!
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!