アリアはアベルが好きなんです。
では、本編どぞ~。
……アベルの身体はどこも雄々しくて熱い。
最後の一線など関係なく別れの時が来たら
それに気付いたアリアは これ以上後悔しないため、アベルとスキンシップを取るのを控えようとしていた。
「……そう、ですか……アベル殿のどこに触るのがお好きなので?」
アリアの想いを知ってか知らずか、ピエールが訊ねてくる。
「えっ? あっ、えっと、ん~……、か、髪……? アベルの髪って陽の匂いがして すき」
――ピエール君……?
ピエールの意図はわからないが、アリアは訊かれるままに答えていた。
「ほう……。他には……?」
「顔……真っ黒な瞳と凛々しい眉でしょ、あと頬……かな、日に焼けてて、健康的な肌よね。すべすべしてて、そうそう! アベルってばお肌が綺麗なんだよ……、触ってると気持ちいいの」
太い首筋も、大きな肩や腕も胸板も分厚くて、引き締まってて触れると熱くって……。
あの腕に包まれると落ち着くのよね……ドキドキもしちゃうけど……。
太ももだってスゴイんだから。
……アリアはアベルの全身を思い出しながら頬が熱くなるのを感じる。
心の目がアベルの頭から足の爪先まで順に見下ろしていた。
頭、首、肩、腕、手、胸、腹、太もも……それ以降は思考が停まってしまう。
「まだあります……?」
「んー……………………ひみつ」
――アベルはどこもすごいの……! って、そんなこと言えるわけないでしょっ……!
ピエールの冷静な言葉にアリアの頬がボボボッと燃えて、瞬時に色付いた。
「…………なるほど」
「や、やだなぁ、ピエール君たら。なにが“なるほど”なの……?」
「…………なるほど」
「も、もぉっ……!」
――私、自分で考えていた以上にアベルの身体がめちゃくちゃ好きなんだ……!
ピエールに問われて、アリアは改めてアベルの身体のどの部位も好きだということに気付く。
女の自分とは違う筋肉質の大きな身体はそれだけで魅力的で、その身体の持ち主であるアベルに触れられるとアリアの身体は熱くなる。
理性でダメだとわかっているのに、本能が言うことを聞いてくれない。
アベルの優しい声も手伝って、甘い囁きと彼の瞳に射抜かれるとなぜか抗えなくなってしまうのだ。
(ああ私、アベルが好き。大好き。アベルになら なにをされてもいいくらい好き…………って重症ね……)
アリアはピエールから目を逸らし、遠くを眺めた。
記憶喪失にさえならなければ、アベルを好きになることなどなかったのに。
……記憶を失くすまではどこか傍観者のような思いで生きていたはずなのに今やこの世界の立派な住人。
記憶喪失になってしまったが故に この世界に深く関わり、嵌り過ぎてしまった。
修道院の人々や、オラクルベリーの人々。
そして、アベルにも……。
……後悔してももう遅い。
失恋後はやけ食いの旅でもして楽しんで暮らすんだ、とアリアは眼下に広がる広大な景色に誓った。
見はらしの塔から遠くを眺めると方向はよく解らないが、海に森に、サラボナのある大きな島の切れ目がみえ、海を挟んだその先にも小島が。
その小島になにやら遺跡……のようなものが見える。
(あれ、なんだろう……? あそこになにかありそう……。感じる……。)
ゲーマーとしての勘なのかはわからないが……。
アリアは“いつかアベルはあそこに行くんだろうな”と漠然と思った。
「アリア嬢」
遠くを眺めているアリアのすぐ横で、ピエールが声を掛ける。
「ん……?」
「私も実は中々の美肌なのですよ」
「へ?(美肌?)」
「……アベル殿とお別れした あかつきには、私の肌にも触れてみて下さい。後悔はさせませんよ……!」
――その時はこの兜を取って素顔をご覧に入れましょう……! 惚れて下さっても構いませんよ……!?
兜の頬辺りを両手でさわさわ。
ピエールはアリアを励ますためにひと肌脱ごうとしていた。
風呂が嫌いなピエールだが、風呂好きのアリアに見せても大丈夫なのだろうか……。
「…………ぷっ。ピエール君てばっ」
ピエールの励ましが届いたのか、アリアはくすくすと笑い出す。
「わははは……! 私もかなりのイケメンなのですよ……! 楽しみにしていて下さい!」
「ふふふっ……、うんっ、楽しみにしておくねっ♪」
二人は互いに麗らかな陽の光の下、笑い合った。
ピエールとアリアが話す間、プックルは最上階の端から端をぐるぐると回り、時折
「がぅ……(朝は苦手だ……。だが主にアリアを頼まれている以上、眠るわけには行かないし……止まれば眠ってしまうし歩くしかあるまい……、ふあぁぁ……。ん?)」
どんっ。
「ヴニ゛ャ!?」
プックルの鼻先に衝撃が走る。
ぼーっと歩いていたからか、先ほど背筋を伸ばした兵士にぶつかってしまったのだ。
「っ……お前は魔物……! いつの間に!? ええい成敗してくれるっ!!」
突然兵士が手にしていた槍を構え、プックルを威嚇してくる。
プックルの目は驚きに見開かれていた。
「がぅ……(我、寝ないように散歩してただけなのに……!!)」
プックルはいまだぼーっとする頭を強制的に起こす。
そっちがその気ならやってやらんでもない、と口を大きく開けて牙を陽の下に晒した。
プックルの反応に兵士の額から冷や汗が零れ落ちる。
“なぜこんなところに【キラーパンサー】が?”という顔だ。
どうやら兵士はぼーっとするあまり、アリアと一緒にやって来たプックルを見落としていたようだ。
「すみませんっ、この子は違うんですっ……! この子、私の友達で悪いことはしませんっ!」
「なっ、あっ……! そ、そうか……。こちらこそすまない。どうやら寝ぼけていたようだ……」
すかさずアリアが仲裁に入り、兵士は我に返る。
どうやら兵士はまたぼーっとしていたらしい。
そんな中で突然目の前に“地獄の殺し屋”の異名を持つ【キラーパンサー】が現れたものだから飛び上がりそうになったようだ(決してちびってはいない)。
アリアがプックルの頭を撫でるとプックルは口を閉じ、目を細め喉をゴロゴロと鳴らしている。
それを見た兵士はプックルに向けた槍を退け、よく飼い慣らされている……とアリアをちらり。
彼女が一体何者なのか気になってしまった。
「まさか魔物……?」
兵士の口からポロッと零れたが、アリアの見目を見れば違うとわかる。
彼女の姿は魔物というより……。
「魔物……?」
「あ、いや、キラーパンサーを飼い慣らしているようなので、あなたも魔物なのかと思ったのだが、あなたは魔物というより、どちらかというと天使のようだ。あなたは人間から進化した天使ではないのだろうか」
アリアが首を捻ると、兵士は胸に手を当て真面目な顔で告げた。
「こんなに美しい女性を見たのは初めてだ」とまじまじ。アリアを見下ろしている。
顔に出ないタイプなのか、兵士の顔色は変わらず眼光だけが鋭い。
すっかり目が覚めたかのようにアリアを凝視しているではないか。
あまりのギラギラした目に注視され、アリアはちょっと引いてしまった。
「へ? あ、ははは……(目が怖い……)」
「これも究極の進化と呼べるのだろうな……」
兵士がアリアを正面からだけでなく、左右、背後と見て回りながら表情一つ変えずに淡々と呟く。
「は、はぁ……、究極の進化って……?」
――いや、むしろ翼を取られて退化してるんですけど……?
アリアは“こういう人久しぶりだな……”などと思いつつ、兵士の話に耳を傾けていた。
兵士はアリアと話を続けたいのか「究極の進化といえば……」と話を続けようとする。
「かつて究極の進化を求め おのれ自身を魔物に変えてしまった者がいたという。そのあまりの邪悪さゆえ、神の怒りを買って魔界へ封じられたというが……」
「人間が魔物に……」
――それって、【進化の秘法】……でってことかな……?
そういえばラインハットでそんなこと話してた人がいたよね……、なんてアリアは兵士の話に相槌を打って、話の続きを待った。
「その者の名はミルドラース! そんなヤツが本当にいたとしたら魔界の王にでもなりかねないな」
「ミルドラース……」
――魔界の王……、それって……魔王……ってこと……?
この兵士はずいぶんと物知りのようだ。
ラインハットの学者も知らない人間の進化について知っている。
……魔界に封じられるほどの邪悪さならば、なるほど、確かに。
アリアは確証はないが、いつかアベルが倒すであろう魔王がその【ミルドラース】とかいう人物なのではないかとなんとなくそう思った。
このお話は恋愛話なので魔王のことなどどうでもよかったり(おい)
リメイク版で最上階に登場する兵士がミルドラースのことを教えてくれるんですが、これ以外でミルドラースさんのお名前に触れられるのって、大分先の話だったような……。
ゲマさんが目立ち過ぎてて魔王様のお立場が……w
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!