「結婚のすすめ」という本があってだね……。
では、本編どぞ~。
◇
……二階、アンディの部屋にやって来たアベルは、ベッドに横たわるアンディを見つけ近付いて行く。
その傍らには心配そうにアンディを見下ろし、椅子に座るフローラの姿があった。
「うーん うーん。熱いよお……」
ベッドではアンディが目を開けられないまま眉間に皺を寄せ、同じ台詞を繰り返し
……随分と苦しそうだ。
彼の額には濡れたタオルが当てられていたが、首筋を多量の汗が滴る。アンディの掻いた汗をフローラがそっとハンカチを当てて拭き取っていた。
その背後にアベルが近付くが、フローラは気付いていないようだ。
……アベルはフローラに声を掛けることにした。
「……フローラさん、アンディさんの様子はどうですか……?」
「あ! アベルさん……。アンディがひどいヤケドをしてきて熱が下がらないんです。あなたは大丈夫だったのですか?」
「ええ、僕は」
「ああ よかった……。ほっ……」
アベルが声を掛けると、フローラが顔を上げ一瞬安堵したような顔をする。
そして安否確認をすると、彼女は花が綻ぶような柔らかい笑みを浮かべた。
フローラの周りで小さな花々が咲いているようだ……。
「…………、あの、フローラさん……」
――くそっ、フローラさんが可愛い……!
さすがは別世界の自分の結婚相手である。
今の自分にはアリアがいるというのに、一瞬目を奪われたではないか。
アリアがこの場にいなくて良かったと心からそう思ったアベルは、フローラの微笑みにぐらぐら揺れながらも口を開いた。
「はい?」
「…………アリアのことなんだけど……」
「アベルさんのことですから、大丈夫だとは存じます。が、一応……。アリアさんもご無事でいらっしゃいますか?」
「え? あ、ええ……。元気にしていますよ。怪我もしていません」
フローラがわざわざ立ち上がり、アベルを真っ直ぐ見据えて告げる。
……アベルは首を縦に下ろした。
彼女の口振りに。なぜバレているのかは知らないが、フローラもアベルがアリアを連れて行ったことを知っているのだと悟る。
「そうですか……、ほっ……。アベルさん、どうかアリアさんを守って差し上げて下さいませね。彼女はすぐ無茶をされる方ですから」
フローラは突然アベルの手を取り、ぎゅっと強く握った。
修道院できっとなにかあったのだろう、アベルの
「あ、はい。大丈夫、安心して。あの子は僕の命に代えても守り抜くから」
「……うふふっ、お二方がご無事でよかったですわ……。アンディみたいな目に遭われていたら私どうしようかと……」
アベルの返答にフローラは手を放し、先程から
憂うような表情で枕元に置いたハンカチを手に、彼女は再びアンディの汗を拭ってやっていた。
(……今相談するのは……、違うか……。)
フローラの心配そうな横顔に、普段空気を読むのが得意ではないアベルでも、自己の願望を満たすために今相談を持ち掛けるのは違うとわかる。
……結局アベルは なにも伝えられないままアンディの部屋から出ることにした。
(ん……? 本棚か……。せっかくだし、なにか珍しい本でもないかな……。)
アンディの寝室を後にし、一階へ続く階段に向かう途中で、部屋の隅にアベルは本棚を見つける。
本棚があったら、調べる。
……これ すなわち習慣である。
今日も見知らぬ本が自分を呼んでいる。
アベルは
“
アベルは本棚を調べた!
[結婚のススメ]と書かれた本がある。
アベルはパラパラとめくってみた。
”
“長く辛い人生。ひとりきりでは途中でリタイアしがちです。ぜひとも結婚しましょう。ともに歩む人がいれば幸せは2倍に、不幸は半分に! くじけず生きてゆけるでしょう。”
「…………(確かに)」
――まだ結婚してないけど、確かにアリアといると幸せだ、そして不幸は半分……以下だ。
彼女と結婚したらもっと幸せになれる気がする……と、アベルは更に[結婚のすすめ]をめくっていく。
本の続きには……。
“お相手はよく選びましょう。顔だけで選んではいけません。身体だけで選んでもいけません。経済力だけで選んでもいけません。
これが無ければいい人だと思うことが どうしても引っ掛かるのなら、結婚をやめた方が無難かもしれません。小さな引っ掛かりがやがて大きな溝となり、不幸の扉を開くことがあります。
見極めは大事です。結婚は第二の人生の始まりに過ぎません。互いを尊重し合える相手となら幸せになれるでしょう。
この本を読んだあなたがどうか幸せになりますように。”
……と、書かれていた。
結婚は勧めるが、間違った相手を選ぶと不幸になるかもしれないから気を付けろということなのか……。
誰しも失敗はしたくないものである。
「…………深い」
アベルはつい口に出してしまった。
――僕はアリアを顔や身体だけで選んでいるわけじゃないし、アリアのこれが無ければ……なんてところも特にないから大丈夫だな。
……もちろん彼女は外見も魅力的だけどね……!
アベルはアリアを思い浮かべながら本を棚に戻す。
アリアを思い出したら早く彼女に会いたくなって、気付いたら階段を駆け下りていた。
「よし、アリアに会いに行こうか! ……と、その前に」
アンディの家を後にすると、向かいに道具屋が見える。
アベルはそういえば買い出しが途中だったなと思い出し、ついでなので道具屋に寄ることにした。
「大きなマットレスがあれば、アリアのお尻も痛くないよね……!」
前回この町に来た時にはアリアをルドマンに取られてしまったこともあり、必要最小限の買い出ししかできずじまいである。
今今は昼間アリアがこの町で自由に出歩くのは危険だ。本当は一緒に買い物がしたかったが、勝手に買うしかない。
いや、アベルの金だから勝手に購入してもアリアが文句を言うことはないはずなのだが、彼女に相談してから購入した方が良かったのでは、とアベルは何となくそう思っていた。
だが、アリアがしばらくこの町を昼間歩けないのなら仕方ない。
……アベルは馬車のキャビン内に敷く大きなマットレスを購入し、スラりん達と共に馬車へと運び込んでからアリアの居る見はらしの塔を目指すことにした。
◇
……アベルとスラりん、そしてロッキーとジュエルとでマットレスを運び、馬車を目指す。
馬車ではパトリシアとメッキ―が待っている。
「ピキーっ、主さまぁ。これっ、ふかふかだねっ♪ ワーイ!」
「あっ、こらスラりん。上に乗ったら重いよ!」
サラボナのメインストリートを歩きながら、さっきまで運ぶのを手伝っていたスラりんが疲れたのか、マットレスの上に乗っかりジャンプジャンプ。
ぽよんぽよんと、勢いよく跳ねるスラりんの身体が波打っていた。
……かなり弾力のあるマットレスらしい。
アベルはスラりんに注意しつつも、アリアが気に入ってくれるといいなと目を細める。
そうしてアベル達は馬車までマットレスを運んで行った。
「ふぅ……。よし、こんなもんかな」
馬車まで戻ったアベルはマットレスをキャビン内に敷き終え、うんうんと満足したように頷く。
――これがあれば、アリアといつでも添寝ができるな……! その内添寝だけじゃ我慢できなくなるし、早めに買っておくに越したことはない……!
彼女と仲良く過ごすための快眠グッズだ。
スラりんたちもキャビンに上がって来て、マットレスの上に乗っかり寝心地が良かったのか早速微睡み始めている。
少々値段が張ったが今後絶対役に立つはず……と、アベルは次のキャンプが楽しみになって来るのだった。
そんなアベルも上機嫌にマットレスに腰を下ろす。
「うん、いいね……!」
ふかふかで温かいマットレスの感触を確かめるように何度か手で押して口角を上げる。
――さあ、アリアに会いに行こう……!
……そうアベルが腰を上げた時だった。
結婚はゴールではないわけで。
男も女も相手はよく選びましょうねっていう話。
これが無ければいい人=これがあるからダメな人っていうこともあったりしますね~。
互いに違う環境で育ってきた者同士ですからね。
色々あるわけです。
個人的な意見ですが、結婚はしたいならすればいいし、したくないならしなくていいと思います。
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!