白いマントの男とは……。
では、本編。
「主殿、お呼びでしょうか」
キャビンの外でピエールの声が聞こえる。
アベルはキャビンから顔を出した。
「ん……? あれ? ピエールどうしたんだい? プックルも……、アリアは……?」
「え」
「がう?」
アベルの問いに、ピエールとプックルが首を傾げる。
「……あの、先ほどスラりん殿から、主殿が大荷物を抱えているとのことで、手伝って欲しいと聞いてやって来たのですが……」
ピエールは なんとなくモヤモヤとしながらも、キャビンから顔を覗かせるアベルを見上げ、自分達がやって来た理由を説明した。
「確かに荷物は大きかったけど……、ロッキーとジュエルとスラりんで運べたよ……? ねえ スラりん。君、ピエール達をいつの間に呼んでたんだい?」
アベルは身体をキャビン内部に向け、声を掛ける。
と、中から聞き慣れたスラりんの声が聞こえて来た。
「ピキーッ! ボク ピエールさんたちのこと呼んでないよ~。だって、ボク、ずっと主さまと一緒だったもの。ルドマンさんのお屋敷には入れなかったけど、お屋敷の横でロッキーたちと遊んでたよ!」
ぴょこっと、スラりんがキャビンの乗り口に顔を出す。
「スラりん殿っ!?!?(さっきのは偽物か……!!)」
――道理で、雰囲気が違うと……!
ピエールは驚きに声を上げ、即座にアンドレを操り見はらしの塔へと走らせた。
「っ!? ピエールっ、僕も行く!! スラりん達はここにいて! プックル行くよ!」
ピエールのただならぬ様子に、アベルは馬車から飛び出し彼を追う。
スラりん達は待機を了承、プックルも駆け出していた。
ピエールがアンドレに「急げ! 急げ!」と身体をぺちぺち叩いている。
アンドレを急かすピエールに焦っているのが解り、アベルも駆けながら嫌な予感を覚え先を急いだ。
「はぁっ、ピエールっ! いったい何があったんだ!?」
風を切りながらアベルはピエールに話し掛ける。
「くっ、申し訳ございませんっ……! アリア嬢を独りにしてしまいました……! 何者かがスラりん殿になりすまし、私とプックル殿をアリア嬢から遠ざけたのです! まさか、このようなことが起ころうとは……!」
「なんだって!? っ、アリア……!」
――アリアっ、無事でいてくれ……!!
ピエールからことの次第を聞いたアベルは全速力で走るが、アンドレの速度はかなり早い。
どんどんとスピードを上げ、アベルを置いて行く。スライムレースで何度も一位を取ったのは伊達ではなかった。
「はぁっ、はぁっ……ああもうっ、僕は人間なんだよっ! 魔物達に敵うはずないよねっ……!」
――僕を置いて行かないでよ!!
アベルは必死に腕を振り、足を蹴り上げるが追いつけそうもない。
プックルが必死の形相で走るアベルの横を、軽やかな足取りで涼しい顔をし駆けていた。
「……はぁっ、はぁっ……! 待て~~!!」
アベルはただ前を見て、なんとか追いつけるように走り続けている。
プックルの存在には気付いていないようだ。
「がう……(主よ、一言“乗せて”と言えば乗せて行ってやるというのに……)」
見かねたプックルはアベルのマントに噛みつき、乱暴に引っ張るとアベルを宙に放り投げた。
「わぁああああっ!? なっ、プックルなにをするんだぁぁああああっ!!」
アベルの身体は天へ放り投げられ、やがて地面に落ちて来る。
このまま落ちればアベルは怪我をするだろう。
……その寸でで、プックルは自らの身体をアベルの落下地点へと滑り込ませ、彼を背に乗せていた。
「プックル! 乗せてくれるのかい!?」
「がうがうっ(我に乗った方が早い)」
「……悪いね! よし、じゃあ見はらしの塔へ急げ……!」
アベルがプックルのたてがみを掴むと、プックルは全速力で見はらしの塔を目指し駆け出す。
……すぐにアンドレを抜いて、見はらしの塔へと到着した。
「…………(アリア、待っててね……!)」
塔を目前にして、アベルは眉を顰める。
……これは初めての出来事だ。
初めてのことに何が起きているのか、アベルには皆目見当がつかない。
だが、さっきから鼓動は早いし、嫌な汗が勝手に流れ落ちている。
見はらしの塔を見上げてアリアの姿が見えるか確認したが、ここからでは見えなかった。
……アベルが扉に向かおうと目線を移そうとした……その時。
突然塔の最上階の中心で、白い光が放射状に放たれるのが見えた。
白い光は塔の最上階から一瞬だけ眩く発光し、すぐに収束する。
……いったいなにが起こったというのか。
地上からではさっぱりわからない。
「っ、アリアぁああああっっ!!」
閃光を目撃したアベルはすぐさま駆け出していた。
出入口の扉を乱暴に開け放ち、中の階段を掛け上がる。
途中足がもつれそうになったが、転ばないようになんとか踏ん張り駆け続けた(……結果、二回転んだ)。
◇
「はぁっはぁっ、アリアっ!!」
アベルが息を切らし最上階に着くと、アリアが白いフード付きロングマントを身に纏った銀髪の背の高い男と片手を繋ぎ、頭を撫でられようとしているのを目撃してしまう。
身長はアベルと同等か、それよりも高い。肩幅も広く、かなり体躯も良さそうだ。
フードの隙間から零れ落ちた長い銀の髪が風に揺れている。
白のマントが最上階に吹く風に靡いており、顔はフードを目深に被っていてよく見えなかった。
見るからに怪しい男である。
……今はそんなことよりも。
――っ!? アリアの頬から血が……!!
アベルの目にアリアの頬に血が流れているのが映る。
「ぁっ……、アベルっ……! ……あっ、これは違うのっ!」
アリアはアベルの声が聞こえた途端、男から手を放し離れた。
「……バギマ!」
「わっ!?(アベルっ!?)」
アベルが問答無用で男に向けて【バギマ】を放つと、アリアは防御の形なのか両腕を顔の前に構えるが【バギマ】は彼女には向かわず、男に向かう。
アリアのスカートがアベルの起こした風に揺れ、真っ白な紐パンが見えるのは定期。
【バギマ】が男に到達しようとすると、彼は床を蹴り上げ軽々と高く跳躍、縦に一回転し近くの手すり壁、天端に着地した。
アベルの放った【バギマ】は男を追ったが、男が黙ったまま手を翳すと掻き消されてしまう。
「僕のアリアに触るな……!」
「っ……アベル……」
アベルは銀髪の男を睨み上げ【パパスの剣】を引き抜き、その切っ先を男に向ける。
男は顔を俯け黙ったまま様子を見ていた。
見たところ武器は何も持っていないようだ。
……アリアは戸惑ったような声でアベルの名を呟く。
「どういう状況っ? あいつは敵っ? なにされたんだっ!? 答えてアリア!!」
「えっと……(どう説明すれば……)」
アベルの声が怒りに震えている。
背中越しで矢継ぎ早に詰問されアリアはどう答えたものかと眉を寄せた。
「……敵、なんだよね……?」
アベルは注意を男に向けたまま、再びアリアに訊ねる。
……アベルがそう言うには理由がある。
なぜなら、最上階に居た見張りの兵士が近くで倒れていたからだ。
血が流れた様子はないが、彼は生きているのか、死んでいるのか……。
身動き一つしていない。
とにかく目の前の男が敵でないのなら、兵士が倒れている理由がわからない。
銀髪の男が敵なら戦わなければ……。
……今までアベルはこんな人物と出会ったことは無い。
これは
アリアが
アベルはそう確信していた。
白いマントの男とは……、さて、誰なんでしょうね~。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!