オマダレ?
では、本編どぞー。
「……そうか、お前がアベル……。そう、か…………フ」
“フハハハハ……!”
アベルが男を睨み付けていると、じっとアベルの方へと顔を向けていた銀髪の男が静かに頷く。
……が、突然顔を空に向け、腰に手を当て愉快そうに高笑いしだした。
男は顔を上げたがフードが外れることはなく、前髪も長いため目に掛かっていて顔ははっきり見えない。
笑い声だけ聞いていれば悪役にも取れるが、この男。
……まだアベルに何もしてきていないのだ。
「っ、お前は何者だっ!?」
アベルは攻撃していいのかどうか迷い、男に声を掛ける。
先ほど男がアリアに触っていたから、ついカッとなって【バギマ】を放ってしまったが、敵では無かった場合かなり気まずい。
見た感じ歳は自分よりも少し年上くらいの人間のようだし、アリアがはっきり敵だと言ってくれれば判るが、彼女は何も言っていない。
戦うにしても確認を取ってから……と、真面目なアベルは少しだけ冷静さを取り戻していた。
「ハハハハ…………アリア。……じゃあまたな……」
アベルに問われた男だったが、彼は顔を上げた状態でちろりと目だけでアリアを冷ややかに見下ろし そのまま足元を蹴って背を後ろに投げ出す。
銀髪の男が立っていた場所は手すり壁の天端だ。身を背後に投げ出せば、地上に真っ逆さまである。
……男の身体は音もなく地表に向けて落ちていく。
「……っ!? まっ、待って……!!」
「アリア危ないっ!!」
アリアは青褪め すぐさま男を助けようと駆け、身を乗り出し腕を伸ばした。
……下を見下ろしたが、男の姿は既に消えている。
アベルが咄嗟に彼女を引き留めるよう腰を捉まえていなければ、アリアは最上階から地上に落下していたことだろう。
「ぁぁ……、そんな……」
銀髪の男が姿を消した途端、アリアは頭を抱えその場にへたり込んでしまった。
「アリア……?」
「……どうしたら……」
アベルは寄り添うように一緒になって座り込みアリアを窺うが、彼女は惑うように“私が……?”とか、“無理だよ……”などと呟いていて、アベルに目もくれなかった。
「……アリア……、いったいなにがあったんだい……?」
「……あの人がどうして……? でも…………」
再びアベルが問い掛けるが、アリアは神妙な顔でなにやら考え込んでいる。
「アリアっ」
「あっ! ……っ、ごめんアベル。なに?」
三度アリアを呼ぶと やっと彼女は声に反応し、漸くアベルと目を合わせた。
「なにって……、無事?」
「あ、うん」
「ひとりにしてごめん」
――アリアの様子がおかしいけど、今は……。
アベルはアリアの頬に触れ、銀髪の男に付けられたであろう頬の傷を確認する。
傷はそう深くなさそうだが、引っ掛かれたように斜めに一線。血が滲んでいた。
男は武器を持っていなかったから、爪で引っ掛けたのだろうか。
……そういえば、男の爪が長かった気がする。
(あれ? ……前にもこんなことがなかったっけ……?)
アベルはアリアの頬の傷にプックルと再会した頃のことを思い出していた。
……あの時、アリアの顎に傷を付けたのは自分にそっくりな男だったと聞いた。
だが、さっきの男は銀髪……。
顔ははっきりしていないが、アベルとは髪色からして似ても似つかない男である。
「……ううん、大丈夫だよ?」
アリアはアベルに朗らかな笑みを向け、自らの頬に触れている彼の手を押えた。
「なに言って……頬っぺた怪我してるじゃないかっ!!」
「え? あ、そうなの??」
「ホイミ! ……まったく。君は自分が怪我してるのに気付くのが遅過ぎる!」
「あははは……、そういえば なんか痛いな~って思ってたんだよね……」
アリアの笑顔は嬉しいが、一刻も早く回復させねば……! と、アベルは回復呪文を唱えてアリアの傷を治す。
アリアに付けられた傷は跡形もなく無事に消え失せた。
そんな彼女はアベルに叱られ誤魔化すようにはにかんでいる。
「……はぁ……、もう……、僕の大好きな君の顔が傷付けられるなんて考えられない……。回復が遅いと痕が残るんだから、本当、気を付けておくれよ……」
「はい……(アベルって私の顔が好きなんだ……)」
回復が遅れると傷が定着し、痕が残ることがあるのだ。
アベルの身体には奴隷生活中に付けられた数々の傷痕が今も残っており、たまに痛むことだってある。
あの頃のアベルは精神的にもきつく、回復することすら忘れて自然治癒に任せていたから傷が残ってしまった。
……だから回復は早めがいい。
「怪我したらすぐ回復。わかった?」
――アリアの顔に傷が残ったらと思うと気が狂いそうだ……。
アベルは言い聞かせるようにアリアの頬を両手で覆って真っ直ぐ見据える。
「っ…………はぁい……」
アリアは気まずそうな顔でしぶしぶ返事をした。
「わかったなら、よしっ」
アベルは自身に見つめられ、ほんのり頬を赤くするアリアの額にそっと唇を押し当てる。
アリアが「ぁっ」と小さく声を上げ“ダメなのに……”とも聞こえたが、彼女のいつもの態度だ。
アベルは気にせず目を細めて今度は唇に口付けようと近付いた。
「っ、ダメっ!」
アリアが慌てて口元に手を添えガード。アベルの口付けを阻止する。
……と、
「主殿! いったい何があったのですか?」
「がうがうっ!!」
アベル達の背後でピエールとプックルの声が聞こえた。
なぜ、今頃になって……。
「…………ピエール! 君、いったいなにしてたんだ? いっしょに上って来てたよね? プックルも……!」
階段を駆け上がるのはアベルが先頭で、ピエールとプックルは後ろに続いていた。
最上階へ一緒に来たと思っていたが、違ったのだろうか。
……アベルは少々苛立ちながら彼らに訊ねる。
「……はい。ですが最上階へ上り詰めようとした途端、急に眠気が襲って今し方目覚めたところなのです」
「がうがう!(そうだ。我等は今起きたばかりなんだぞ……!)」
「な……」
ピエールとプックルの話にアベルは目を瞬かせた。
……その近くで。
「…………うーん、ふわぁあああ……、よく寝た…………、ハッ!? 私としたことが……!」
近くで倒れていた兵士が
生死不明だったが、どうやら彼は生きていたようだ。
兵士は仕事中に眠ってしまったことに罪悪感を覚えたのだろう、すぐに立ち上がり姿勢を正しつつ、“夜遊びは程々にせねばな……”と独り言を呟いている。
「…………?」
――どういうことだ……? やっぱりさっきの男は……敵じゃ、ない……?
ピエールもプックルも、兵士も眠らされていただけで、怪我一つしていない。
アベルは三人の様子を見ながら、真相を知っているのはアリアだけだと彼女に視線を戻した。
「……アリア、教えて。さっきのは……誰?」
――浮気……? ……は、無いか……。
アベルが最上階でアリアを見つけた時、男はアリアと手を繋いでいた。
……そして彼女の頭を撫でようとしていたのだ。
アベルは一瞬アリアの浮気も疑ってみたが、自分以外の男にアリアが惹かれるとは思えない。
すぐにその可能性は消した。
だが、アリアの手を握っていたことは許せないし、頬に傷を付けたのも許せない。
「あ……、えっと……、なんて言ったらいいのか……」
「……僕に言えないの……? あの男はアリアのなに? アリア、まさか浮気してた?」
アリアが
気付けばアベルは消したはずの可能性を口にしていた。
敵なのか、味方なのか……。
ま、その内判明することでしょう。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!