アリア浮気した?
では、本編どぞー。
「浮気って……!? そんな……、私、浮気なんかしないよ? いっつもアベルと一緒に居るのにいつするっていうの……? アベル、私のこと信用してくれてないの……?」
――ゲームの主人公が“浮気”とか口にしちゃうの!?
まさかゲームの主人公から“浮気してた?”なんて訊かれるとは思わず、アリアは目を瞬かせ、冷静に切り返す。
アベルが自身を信用してくれていないことがわかったアリアの瞳は悲し気に揺れていた。
「ぅっ……信用してる。ごめん、今のナシ。僕が悪い。いつも一緒……そうだったよね、…………けど、さっきの男とアリアが手を繋いでいたから……」
アリアの悲し気な表情にアベルは即座に謝る。
彼女を疑うなど愚の骨頂。
アリアの言う通りいつも一緒に居るのに、浮気などできようもないではないか。
「あれはっ、私が転びそうになって丁度助けてくれたところで……!」
――急に強い風が吹いて……!
……アリアの説明によると、突然の突風に煽られ ふらついたところを支えてくれただけだったということらしい。
彼女を疑っているわけではないが、アベルはなにがあったか詳細を知りたかった。
「……そう、だったんだ……。けど あいつ、アリアの頭を撫でようとしてた、よ……?」
「そうなの……? 髪にゴミが付いてたとかなんじゃ……?」
アベルが不安そうな顔で訊いて来るが、アリアは首を傾げて不思議そうな顔をしている。
――アベル、どうしたんだろう……、別にあの人はそんな対象の人じゃないのに……。
さっきの人物が誰なのか、未だアリアにもはっきりわからないが、アベルにどう説明したら良いものか。
アリアはとりあえず、アベルを安心させてあげなければと彼の手を握った。
するとアベルが俯き眉を寄せ、告げる。
「…………全部、僕の気のせいだっていうのかい?」
――アリアのことは信じてる……けど、さっきの男が誰なのかなんで教えてくれないんだ……?
アベルは唇を噛みしめ、アリアを真っ直ぐに見下ろしていた。
「……アベル、ヤキモチ焼き過ぎよ? さっきの人はそういうんじゃないわ。私、なんとも思ってないもの。信じて……?」
アリアがアベルの手を大切そうに胸の前に持って来て両手で包み、“私の気持ちはアベルにしかないよ”と、伝わりますように……そう願いアリアは目を閉じ祈る。
「っ……、アリアのことは信じてる。けど僕は、僕以外の男に君を触られるのが嫌なんだよ」
「えっ……! そ、そうなんだ……」
「……さっきの男と関係なく、君が他の男と話していると気になってしょうがないんだ。町行く男もそうだし、教会の神父にだって本当は触らせたくない。ピエールにもね。君は貞操観念がしっかりしてるけど、愛想がいいから勘違いする男は多いと思う。本当はずっと馬車の中に閉じ込めておきたいくらいなんだ。でもアリアは自由が好きだし、僕も自由を楽しむ君が好きだから、そうしてないだけ。僕を想ってくれるなら、あんまり不安にさせないで欲しい」
――アリア、僕の愛の深さわかってるよね……?
アベルは呆気に取られるアリアを見下ろしながら、自分の想いの深さを知ってもらおうと丁寧に熱く語る。
少々重いかもしれないが、アリアならわかってくれるだろう……。
「……っ、アベルって独占欲が強いんだね……」
――なにこれ……、ドラクエって……RPGよね……!? アベルが乙女ゲームのヒーローみたいになってない……!?
いや、アベルは別にスパダリというわけじゃないけどもっっ……とアリアはアベルの淀みなく饒舌に語る愛の重さにちょっと引いてしまった。
「どくせ…………そうだよ。こんな感情、君にしか抱いたことない」
――別世界ではビアンカもフローラも、すぐに僕の奥さんになってくれたのに、アリアはずっとはぐらかしてばっかりだ。
好きな女が自分の手の内にいるのに、不安ばかりが募るなんて経験初めてだ。
もちろん、一緒にいる時はすごく安心できて癒されるけど、少し離れただけで不安感に駆られる。
“初めての経験だから……?”アベルはそう思ったが、どうもそれだけではない気もする。
……この感覚はいったいなんなのか。
「……アベルの愛って重いね……」
「えっ」
アベルの強い想いにアリアは胸を痛め身を竦める。
そうしてアベルの手を放した。
「…………私、あなたの望む通りにできるかな……?」
――私が馬車にいればアベルは安心……かぁ……、戦えるのになにもしないでいろって言われるのは気が引けるな……。
アリアはアベルから目を逸らし、その目蓋を伏せる。
彼女の様子に先程の剥き出しの独占欲は言わない方が良かったかもしれないと、アベルの顔はサーッと青褪めていた。
「あっ、アリア。別にアリアはいつも通り 好きにしてくれてていいんだよ? 君が傍にいてくれるだけで僕は……」
――言わない方が良かった……? アリアは僕のこんな気持ちは受け入れてくれない……?
アリアは自由が好きな女だ。
馬車に閉じ込めたいなどと言えば引かれて当然かもしれない。
そう思っただけで、実際行動には移していないのだから大目に見てくれても良くはないだろうか。
彼女がいつも自分を甘やかしてくれるから、なんでも許してくれるのかと思っていたのだが、都合よく解釈していただけなのか。
嫌われたらどうしよう……?
いや、そんなはず……。
……アベルの額から冷や汗が吹き出し、頬を伝っていく。
「……私はアベルのことが大好きだし、あなたを不安にさせようなんて思ってないよ。……アベルが不安になるのは……、私を信じていないからだと思う」
「っ、そんなことないよ!? 僕はアリアを信じてるっ!」
――だから、嫌いにならないでくれっ……!
アリアが悲し気に俯くので、アベルは彼女の手を取り、強く握った。
「ぁ…………うん、私もアベルを信じてるよ」
――信じてるけど……、アベルが私のことで不安になるなんて……なんだか申し訳ないな……。
言いたいこともあるけど、どうしよう……?
……怒らせちゃわないかな。
アベルとはもう少しでお別れだ。喧嘩別れはしたくない。
自分の言葉でアベルを傷付けるのは嫌だ……。
……アリアは色々と思うことはあったが、不安そうなアベルが不憫に思えて彼には笑顔でいて欲しい……と、穏やかに微笑んでみせていた。
「アリア……」
――アリア、笑って誤魔化してる……?
アリアの笑顔にアベルはなんとなく、無理して笑っているような気がして眉を寄せる。
思ってることがあるなら はっきり言ってくれればいいのに、彼女はいつも笑顔で隠して詮索させてくれない。
細かなところまで察せないアベルでも、これまで一緒に過ごしてきてアリアの人となりはわかってきたつもりだ。
彼女は表向き自由に振舞っているが、根は真面目で義理堅く、押しに少し弱いところもあるが、芯のある女性。
思い込みが激しいところもあるが、いつも
そして、そんなアリアはかなり浮世離れしている……。
今ここに存在しているのに、ふわふわと、すぐにでもどこかに消えてしまいそうな気にさせる……。
生まれ変わったのか、憑依したのか……前世の世界が自分の世界だとばかりに今いるこの世界をどこか俯瞰して見ている時がある。
……それが時々、アベルには悲しく映っていた。
同じ時を過ごしているのに、アリアは自分と同じものを恐らく見てはいない。
アリアと同じ目線で景色を観られたら、この世界はどう映って見えるのだろう。
彼女の考えを知ることができたなら、それもわかる気がするのに。
なぜ言ってくれないのだろうか。
自分だけが素直に彼女に伝え過ぎなのだろうか。
アリアの想っていること、感じていることを教えて欲しいのに。
彼女の信用に足る男にまだなれていない ということなのか……。
……伝わらないのがもどかしい。
それでもアベルは彼女の微笑みに応えるように口角を僅かに上げた。
「えへへ、不安にさせちゃってごめんね。さっきの人はね」
「あ、うん。教えて、あれは誰だったんだい?」
アリアがアベルを気遣うように優しい笑みで男について語り出すので、アベルも気を取り直し穏やかな瞳で訊いてみる。
「……あの人たぶん、前に会った人だと思うの」
「たぶん前にって……いつ……?」
アベルの問い掛けにアリアは腕組みしながら眉を顰めて、うーん……と唸っていた。
――知り合い? いや
アリアの考え込む様子に、さっきの男の正体を彼女は知らないのでは……とアベルは推測する。
「……結構前なんだけど……アベル憶えてるかな……? プックルが住んでた洞窟で逢ったって言った人のこと……」
アベルの推測にアリアの言葉がカチリと嵌った……。
アベルから浮気とかいうセリフが出るとは思わんかった……w
----------------------------------------------------------------------
読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!