ロッキー……お前……。
では、本編どぞ。
吊り下げ式歩み板の鎖を引きながら、アベルはにこにことアリアに語り掛けていた。
「……もうすぐアリアに嬉しいことが起きるよ」
――山奥の村に行ったらアリアが楽しみにしてた温泉……、一緒に入ろうね……!
アベルはアリアの裸体を思い出し、鼻の奥がツンとする。
……鼻血が出そうになってしまったらしい。
「え?」
「……アリアが喜んでくれるといいな……」
――温泉の後は【水のリング】を手に入れて……あとは結婚するだけ……! その頃には僕も十八になってるはず……!
……アリアが喜ぶことがいっぱいあり過ぎて、アベルはどれを挙げていいかわからない。
(さあ、張り切って行ってみようか……!!)
アベルは嬉しそうに目を細めアリアに微笑んだ。
「……それって……、あ」
――ビアンカちゃんのことかな……?
アリアは訊ねようとしたが、アベルは歩み板を仕舞い終えるとすぐ、操縦室へと行ってしまった。
「アベル……」
――ビアンカちゃんに会えるのがそんなに嬉しいんだね……、私も嬉しいよ……?
でも、ビアンカちゃんに会ったらアベルは……。
アリアはフローラとアベルが出会った時に思ったことを またも感じてしまう。
“アベルはビアンカに会うと、ビアンカを好きになるのでは……?”
「そんなのやだぁ…………ハッ!? っ、ダメダメっ! なに言ってるの!? それが正規ルートなんだから……っ! お祝いしてあげなきゃ……!!」
ぺちぺちっ!
……アリアは両頬を叩き、活を入れた。
「……アリア嬢……。あの……」
「うふふっ! 彼女に会うのが楽しみねっ♡ よし、それまで景色を楽しみましょっ」
ピエールが慰めようと声を掛けるが、アリアは満面の笑みを浮かべてアベルの居る船尾側ではなく、船首側へと行ってしまう。
「……釣りもしたいなぁ……。ゆっくり釣りなんて…………ふふっ、まあその内できるかな……」
――綺麗な河……、アベルのいる後ろ側は海なのね……、ってことはこの辺りの水はしょっぱいのかしら……。
アリアは前方を眺めつつ、後方の操縦室で舵輪を弄るアベルに目を移した。
「ぁっ……」
アベルはアリアの方を見ていたらしく「出発するよー! アリア船から落ちないように気を付けてねー!」と笑顔で手を振っている。
「っ……もぅ、アベルってば なんでいつもあんなに笑顔なの……。眩しいよ……」
――ていうか、落ちないよ……!! 私そんなドジっ子じゃないし……!
アリアは了解の意味を込め、笑顔で手を振り返しておいた。
◇
……アベルの操縦で船は内海を北上して行く。
アリアは“河”と言っていたが、実際は内海である。
北上する間、途中途中で海の中から魔物が現れたが、アベルは仲魔たちと力を合わせて切り抜けた。
「もうすぐ日が暮れる……。水門はまだか……」
アベルは舵輪を操縦しながら前方を見る。
降りて来た記憶の中では、この内海を北上した先に閉じられた水門があったはず。
日は傾き、そろそろ夕暮れ時だ。
海上で一夜を明かすのも悪くはないが、今は遠慮したいところである。
「アベル……どうしよう、私、もう魔力残ってないの……これ、使ってもいい……?」
アリアが悲し気な瞳で【いのりのゆびわ】の使用許可を訊ねて来る。
彼女の右手薬指に嵌った【いのりのゆびわ】にはかなり
恐らくあと一、二回の使用で跡形もなく崩れ去ってしまうだろう。
「……アリア、もう少ししたら陸に上がってキャンプにするから、ちょっと待ってて」
アベルは首を横に振り振り。使わないようにと彼女の右手を握った。
「でも……ロッキーが……」
「…………生き返らせても一緒だ……。またメガンテしちゃうよ……」
アリアの左手にはロッキーの破片が握られており、アベルはそれを見下ろし苦笑する。
……ここまで来る間の戦いの中で試しにロッキーを戦闘に参加させてみたのだが……、なんと、ロッキーはすぐに【メガンテ】してしまうのだ。
アリアが「ギャ゛ーーーー!! ロ゛ッ゛ギーーーー!!」と最初は半狂乱ですぐさま
ところがロッキーは復活した傍から再び【メガンテ】を唱えてしまう……。
すると、アリアが【ザオリク】……ロッキーは再び【メガンテ】……、アリアが【ザオリク】……ロッキーが【メガンテ】……というやり取りがあり……。
……アリアの魔力は見事に枯渇すれすれ。
残りは【メラ】が一回打てるくらいしか残っていない。
「うえぇぇええんっっ! ロッキーのばかぁああああっっ! なんですぐメガンテしちゃうのよぉおおおおっっ!」
アリアは掌に乗る小さなロッキーの欠片に大泣きしながら説教をしていた。
アベルは二回目のアリアの蘇生呪文で、村に立ち寄ってから生き返らせればいいのに……と思っていたのだが、彼女が涙目で一生懸命に生き返らせている姿が可愛くて放っておいた。
これまでレベル上げをしていたお陰か、アリアの呪文が期待できなくともこの辺りの魔物なら然程苦はないのである。
だからこそロッキーを戦闘に出したのだが、予想だにしない展開が起こりアベルは呆気に取られていた。
「ハハッ……本当にね……、アリアの魔力食い潰しちゃったね……」
アベルは、唇を噛みしめながらメソメソ涙を零すアリアの頭をそっと撫でてやる。
「うぅ……、ロッキー……!」
「……そんなに泣かなくても大丈夫だよアリア」
――アリアって普段は割と冷静なのに、仲魔のこととなると熱くなるよね……、こういうところ好きだな……。
僕にもこれくらい熱くなってくれるといいのになぁ……なんて思いつつ、アベルはアリアから前方へと目を転じた。
その先にアベルの求めていた水門の影が……。
「アリアっ! 水門だ! 水門が見えて来たよ……!」
「ぅっ、ぅっ……、……あっ! ホントだ……! あれ? でも閉まって……る?」
アベルの声に嗚咽していたアリアが顔を上げ船首へと目線を送る。
そこには彼の言った通り、大きな水門が待ち構えていた。
……水門は今は閉じられており、その先には進めそうもない。
「ああ、水門の近くで一旦船を泊めよう」
アベルは舵輪を操り水門の側に船を寄せ、陸地へ接岸。
船に乗る際に船乗りから受けた説明では、船には魔法が掛かっており、今はアベル以外が操縦することはできないとのこと。安心してどこにでも船を置いていっていいらしい。
船をその場に置いてアベル達は下船することにした。
……水門近くの岸から上がり、上陸するとすぐ東側に大きな立て看板が立っている。
アリアは立て看板を読み上げた。
「んと……“無用の者、水門を開けるべからず。用のある者はここより北東、山奥の村まで。”……だって」
「ああ、山奥の村だね。アリア念願の温泉に入れるよ。楽しみだね?」
アベルがにこにことアリアの頭を撫でて伝えると、彼女の瞳が輝きだす。
「温泉……っ!? うれしい……!!」
――山奥の村……! そうだ、温泉があるって言ってたよね……!
謎の男のことやビアンカのこと、フローラの結婚について等々、色々と気になることもあるが、一時温泉を楽しむくらいしても罰は当たらないだろう。
風呂好きなアリアの顔は喜びに満ちていた。
「……まあ、今日は……キャンプだけどね……(日も暮れるし、お楽しみは明日だな……!)」
――アリア、すごく喜んでる……! やっぱり二、三泊した方がいいかもね……!
それで二人でまったりして、愛を深めるっていうのも……うん、いいよね!!
アリアが嬉しいと自分も嬉しい……。
そんなアベルは山奥の村で連泊してアリアとたっぷりイチャイチャするつもりである。
「あ、うん」
――山脈か……一日で着けるかな……?
今夜はキャンプ……の話に、アリアが東部に連なる山々に視線を移した。
現在地である水門近くの平原を少し行けば山々が折り重なっている。
そこまで高い山々ではなさそうだが目の前に映る峰々の奥に、アベルの云う山奥の村があるのだろう。
ここからでは全く見えないが、船に乗っている間【ふしぎな地図】を見せてもらっていたアリアは山奥の村が山々の中腹にあることを知っていた。
「……アリア、今夜一緒に寝よ?」
突然アベルがアリアの背後に回り、彼女の耳元でそっと囁く。
……アベル的には急ぐ旅ではない。
むしろ十八になるまでサラボナに戻りたくないくらいだ。
【水のリング】を持ち逃げするプランCは恐らくアリアが却下するだろう。
だがこのまま順調に【水のリング】を手にサラボナに戻れば、自分はフローラとビアンカのどちらかとの結婚を迫られるかもしれない。
……それを阻止するには自分が十八になり、アリアに求婚できる状態になるしかない。
アリアがアベルを受け入れるか、アベルが誕生日を迎えてアリアを攫うか。
アベルはアリアと結婚するにはどちらかの条件を満たさないとできない気がしていた。
だから少しずつでも関係を進めるし、時間稼ぎも できる限りする。
試せるものはなんでも試したい。
……未来を変えるのは容易ではないのだから。
ロッキーはよくメガンテしちゃう子。
アリアはその度ザオリクしちゃう子。
アベルは困った顔をしながら見守っていたわけですw
死の火山の感動的な自己犠牲はなんだったのかw
コメディだからね、ゆるっと楽しいのがいいよね……。
もうお分かりかと思うのですが、次回仲間ができたらロッキーはモンスターじいさん送りなのです……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!