力だけが強さじゃない。……蛇足の回。
では、本編どぞ。
「っ……、ス、ストレートだね……」
「え? ただの添寝だよ? 馬車にふかふかのマットレスを敷いたんだ。快適に眠れると思う。僕もふかふかのマットレスを早速試したいなーって思って」
ストレートな誘い文句にビクリとアリアが肩を揺らすと、アベルはマットレスを試したいだけだと強調し、頭の後ろを掻いた。
「そうなんだ……。でも、添寝はちょっと……」
――またイタズラされたら……、困る……。
……サラボナに戻る間、何度優しく温かい手に包まれ、触れられただろうか。
死の火山の洞窟以降、アベルのスキンシップはエスカレートし続け、アリアの理性はあともう少しで崩壊するという一歩手前まで来ているのだ。
……そろそろ きちんと線引きをしなければならない。
昨日のサラボナではなんとか寝た振りで誤魔化したが、また添寝などしたら踏ん切りがつかなくなるではないか。
アリアはアベルから離れて振り返り、苦笑いを浮かべる。
そんなアリアの表情にアベルは。
「……あれアリア。僕は添寝するだけで なにもしないよ? なに? なにか期待してたわけ? ……アリアってエッチだねえ?」
彼はわざとらしく にっこりと口角を上げた。
「なっ……? なに言って……私がなにを期待してるっていうのっ……!? 私 外で寝るしっ、アベルが買ったマットレスならアベルが使うといいよっ??」
アベルの意地の悪い笑みにアリアが目を大きく見開くと、その顔が徐々に真っ赤に染まっていく。
キャビンで寝なくても構わない。アリアは外で火の番をするからと、キャンプの準備をするためアベルに背を向ける。
ところが、アベルは行かせまいとアリアの手を引いて振り返らせた。
「ダメ。アリアは小さいからしっかり休まないと。呪いは解けたけど、まだなんだっけ……残渣、……呪いの残りかす みたいなものだっけ……? 君の周りにいるんでしょ?」
アベルはアリアの周りを不機嫌そうに窺う。
彼女の周りには特に何も見えないし、何も感じられはしないが、残渣とやらはまだ離れていない気がする。
――ゲマめ……! さっさとアリアから離れろ……!
……エアル神父によれば、呪い自体は払われたがアリアの周りには、まだゲマの呪いが隙あらば彼女の中に戻ろうと漂っているらしい。
目に見えるわけではないので厄介である。
解決策としては、ただアリアが楽しく過ごしているだけで良いと云っていた。
完全に消えるまで どのくらい掛かるのかはわからないが、そう長く掛からないとも聞いている。
あまりアリアを疲労させるのも良くないだろう……、そう考えたアベルはアベルなりにいつも彼女を気遣っているのだ。
「あ……、ん……、よくわかんないけど……、そうなのかな?(小さいって関係ある……?)」
――呪いかぁ……もう全然平気なんだけど……、でも確かに周りにいるっちゃいる……。
黒い靄が……。
と、アリアは自分の周りに漂う黒い靄に目を移す。
いつも見えているわけではないが、呪いを解いてもらった後から時々薄っすらと見えるようになった。
始めは目の錯覚かと思っていたが、払おうとしたり触れようとすると、靄は霧散し消えてしまう。
一度消えるとしばらく見えなくなるので見える度、アリアは振り払っていた。
靄がなにかして来るわけではないが、気分が落ち込むと色濃く見えるような気がする。
……この靄はアベル達には見えていないらしい。
これが残渣なのかもね……早く消えてくれるといいのに……、とアリアは特に何もしてこない靄についてはアベルに報告していなかった。
「アリアには心穏やかに……いや、興奮して……? 過ごして欲しいんだよね」
「アベル……、ぁっ」
……チュッ。
穏やかな表情のアベルの影がアリアの顔に掛かると、アベルは小さな水音を立て彼女の唇を掠め取る。
突然のことにアリアは驚いて固まってしまった。
「ハハ、隙あり。さ、じゃあ日も暮れて来たし、準備に取り掛かろうか……!」
アベルは軽く口付けただけで、フリーズするアリアを置いて馬車へ走って行く。
「…………っ、不意打ちは……避けられないよ……」
――不意打ちは仕方ないよね……。
眉をハの字にしながらも、アリアの唇は弧を描く。
自分に言い聞かせるように「しょうがない、しょうがない」と呟いて嬉しそうに破顔した。
アベルの不意打ちはアリアを笑顔にしたようだ。
「アベル、私も手伝う~♡」
「ありがとうアリア! じゃあ、聖水の散布と、火を頼むよ」
「はーい!」
アリアはアベルの元へと向かい、キャンプの準備を手伝う。
そうして一行は今夜、水門近くで身体を休めることにした。
◇
……すっかり日も暮れ、そろそろ就寝時刻……――。
アベルは仲魔達に火の番を任せ、今夜はアリアとキャビンで休むことにし、馬車に二人で乗り込む。
アベルとアリアが馬車に乗り込んでいる間、仲魔達は楽しそうに焚き火を囲み談笑していた。
ジュエルの隣にはロッキーの欠片が幾つか置かれており、発言できないながらもきちんと仲魔の輪の中に……。
明日、山奥の村に着いたら教会で生き返らせるということで、アリアには納得してもらった。
「アリア……」
キャビンに敷いたマットレスに二人で横になり、アベルは背を向ける彼女へ近づき、耳元に囁くように愛しい者の名前を呼ぶ。
二人で毛布に包まると、身も心も温かいことこの上ない。
昨夜は出来なかったが、最近お気に入りのスキンシップタイムがやって来たのだ。
――さあ、今夜はくっついて眠ろう! 少しくらい触っても怒られないよね……!
昨日はアリアが先に寝ちゃって、お触り出来なかったしね……! と、アベルが背後からそっとアリアを抱きしめようとすると、彼女から声が聞こえる。
「…………、…………ごめん、アベル。私……お腹が痛いの……。だから今日はその……、お触り無しでお願い……」
「え…………大丈夫かい?」
「ん……、お腹冷えただけだから、寝てたら治ると思う」
――もう少ししたら女の子の日が来そう……久しぶりに鈍痛が……。
ゲームの世界なのに生理があるなんて……と思うでしょ!?
これがあるんですよ……!
アリアは“こんなところまでリアルにしなくてもいいのに”とお腹を擦った。
だが、アベルのスキンシップを断る良い口実だ。
「そっか……、お腹が冷え……あ。アリア、お腹擦ってあげようか?」
「え……」
「僕の手温かいし、湯たんぽ代わりに使ってよ」
背を向けたまま振り向くことなく告げるアリアに、アベルはそっと手を彼女の腹部に回す。
「あっ……、やめて。イタズラしないで……」
――あぁ……アベルの手が温かいよぉ……。
そろそろ距離を置かなきゃいけないんだから、触れられたら困るのに……。
優しくお腹に回されたアベルの手にアリアは胸を締め付けられ、目蓋をギュッと閉じた。
一昨日まで散々甘やかされた彼女の身体はアベルがすぐ後ろにいるだけで、喜びに震えてしまいそうになる。
……アベルの温かく大きな手で触れられた腹部がじんわりと温まってゆく。
アベルは筋肉質だからか、アリアよりもどこも体温が高めだ。
彼に触れられるだけで、ぽっ、と身体の芯に炎を点されたようにアリアの身体はぐずぐずと熱くなっていく……。
いつもこの温かい大きな手でアベルは じりじりとアリアを快楽の渦へと追い込んでいたのだが、もう止めさせなければならない。
……アベルと期間限定の恋人になった後悔に気付くのが遅かったアリアは今更遅いのはわかってはいるが、アベルの手の甲に自らの手を重ね拒否しようとした。
「しないよ。アリアの体調が悪い時はなにもしない。君を温めたいだけ。……温かいでしょ?」
アベルはアリアにイタズラをするにはするが、彼女の体調が悪い時は自重している。
……アリアは呪いとは別に時々体調を崩すことがあった。
最初の頃はよくわからなかったのだが、頻度は大体月に一度か、二度程。
女性特有のもので、病気というわけではないらしい。
修道院生活中に初めてアリアが腹痛を訴え蹲った時には驚き慌てたアベルだったが、シスター達に『月の物ですからご心配なさらず』と教えてもらい、腹痛で ぐったりしたアリアを看病しながら特別室にあった本で“月の物”を学んだ。
……が、実は奴隷時代にもサラッと
元貴族のナンパな男である彼は、力仕事は向かず文句が多かったが いつも女性をとても大事にしていた。
奴隷の女性達がぐったりしていると水を持って行ってやったり、代わりにムチに打たれてやったり、『大丈夫かい? ここは私に任せて少し横になっているといい』と気遣う言葉も忘れない。
彼は女性を見るとすぐに口説くから、女性達も始めは迷惑そうな顔をしていたが、マメな彼の行動に惹かれた人も少なくはない。
“ヒョロガリの癖に”
“女に尻尾を振って情けない奴”
“女は力でねじ伏せれば言うことを聞くんだ、お前みたいな男がいるから男の価値が下がる”
などと力自慢の男にはバカにされていたが、
『男の強さは力だけで決まるものじゃないよ、キミ達。なんでわからないかなぁ。女性と子どもには優しくしなきゃ。これだから脳筋は困るね、フーーヤレヤレ』
彼がそう反論すると男達に殴られて泣いていたが、その後同じような戯言を言われても男は涼しい顔で笑うだけで相手にしなかった。
そんな奴隷仲間との諍いもたまにはあったが、基本的に昼間の労働で皆疲労困憊のため、殴り合うまでに至ることはそう多くない。
……ストレスの捌け口としてただ他人を貶したかっただけである。
彼も途中からそれに気付いたのだろう、男達の言葉にヘラヘラ笑っていただけだった。
また、彼は体力が非常に低い男で、ある日から子ども達に最低限の読み書きを教える立場となった。
“言葉を知らなければ命令も聞けないから……”ということらしいが、彼から教団側に進言したそうだ。
彼は力自慢の男達に比べたら線も細い華奢男だが、弁が立つ。
苦し紛れではなく、得意の口舌で好い様に兵士や見張りの魔物を扱っていたように思う。
……彼の言う通り、力だけが男の強さではないことを、幼いアベルは彼で学んでいた。
奴隷の中で唯一の教師として働き出した彼は多少肉体労働がおざなりであっても目を瞑ってもらえた。
知識が豊富で、弁が立つ彼は同じ男性には厳しかったが、女 子どもには優しかったのだ。
結果、最終的に彼は何だかんだと女性に慕われていた。
――先生って凄かったんだなぁ……。
アベルは今は亡き貴族の男の教えに、誰しも何かしらの特技があるものなのだなと彼を思い出しつつ、女性の扱いは見習って間違いない気がして、今はアリアを温めてあげようと純粋に添寝だけすることにする。
……ただ、男の教えてくれたことは全てが全て正しかったわけではない。
基本的に口八丁手八丁。モテるための知識しか持ち得ていなかったようだから。
久々に出したけど、貴族の男の話は余計だった気がします。蛇足w
口先ヘタレで格好悪いけど女性にマメで優しい男だったということで。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!