未来は既に変化している……? ってそりゃそうよ。
では、本編どぞー。
「…………ん……。アベル……、ありがと……」
――温かい……、安心する……。
アリアは腹部に置かれたアベルの熱が全身へと移って行く感覚に心までも温まっていく気がした。
「……もうそんな時期……?」
「え……、あ、ううん……、まだなんだけどね」
――アベルってば、いっつも気を遣ってくれるんだよね……。
修道院生活中、アリアが月の物でぐったりし寝ていた時、アベルはシスター達に“女性の身体について”という本を勧められ、読みふけっていた。
いつもアリアを気遣うアベルだったが、その後から更にこまめに気を遣う様になり、こうして優しくしてくれるのである。
始めは生理のことが恥ずかしかったアリアだったが、アベルは「アリアが大事だから」と、普段のお触りも控えめに……過保護なくらいのケアをしてくれていた。
……結婚したら いい旦那になるなと思うと、今は辛くて堪らない。
「そっか、良かった。なら温泉に入れるね」
「うん、明日だもんね。楽しみだなぁ……」
「……アリアはさ、短いスカート穿いてるから冷えるんだよ」
ボソッとアベルがアリアのうなじに呟く。
アリアはアベルから与えられた音の波にくすぐったさを覚え、首をふるふると震わせた。
「っ、そんなこと言われても……、この服見た目よりも結構温かいんだけどな。ミニスカート、可愛いでしょ?」
「……可愛いけどさ……、アリアの身体が冷えやしないか心配だ」
「大丈夫だよ。私、呪いがあっても生きて来たんだよ? 身体、強いんだから」
「……うん。アリアの身体が丈夫なのはわかってるんだけどね。でも心配なんだよ」
アベルはそこまで言うと、アリアの身体を引き寄せ 自らの身体に密着させる。
――女の人は身体を冷やしちゃいけないって本に書いてあったし、アリアはいつかお母さんになるんだから もう少し温かい恰好をしてもいいと思うんだよね……。
アリアの服装は見た目的には可愛くて好みではあるが、アベルの中の父性の芽生えなのか、アリアに対する恋はいつの間にか愛に変わっており、彼女をあらゆるものから守ろうとしていた。
「アベル……」
「君は僕の奥さんになるんだから……、大切にして当たり前でしょ……?」
アベルの発言にアリアは黙り込んでしまう。
「…………」
――そうなれたらいいのにね……。
アリアは答えないまま眠った振りをすることにし、目を閉じた。
「……ね? アリア? …………あれ? 寝ちゃったかな……?」
アベルは肘をついて少しだけ身体を起こすと背を向けるアリアの様子を見る。
アリアは目を閉じていて眠りに就いたようだ。
……アベルは再び毛布の中に戻って静かにアリアの頭頂に顔を埋めた。
――あのマント男はいったい誰だったんだろう……“また会うことになる
”ってアリアは言ってたけど……。
見はらしの塔では すっかりアリアに誤魔化されてしまい、男の正体は中途半端のままである。
初めて見る男だったし、アリアを攫おうとしていたわけでは なさそうだった。
敵か味方かも未だわからないが、男の口振りからしてアリアを知っていた風で……。
だとしたら、幼い頃のアリアを知っている人物の可能性が高いが、彼女は“実体のない人”だと言っていた。
アリアの主観ではっきりはしていないが、以前プックルの居た洞窟で逢った男らしい。
男は姿を変えることが出来るようで、そして今回の姿が知り合いに似ていた……と。
まさか実体は幽霊……というわりに、幽霊が苦手なアリアは平気な様子だったし、謎は深まるばかりだ。
アリア本人も混乱していると言っていたし、彼女が話してくれるまで待つしかない。
初めての出来事が多過ぎて、良いことばかりではないが、別世界とは時の流れが異なっていると思わざるを得ない。
……未来は既に変化している……。
アベルは確かな感触を感じていた。
だが、もう少し確証があればアリアとの結婚にもっと自信が持てるのだが……。
アリアが数多別世界の流れを知って絶望しているなどとは知らないアベルも、全く不安に思っていないわけではない。
……なぜなら今まで大きな流れが変わったことは一度もないからだ。
お化け退治にも行ったし、妖精の世界も救った。
パパスは亡くなったし、自分は奴隷にもなった。
ヘンリーも規定通りに結婚している。
……違ったのはヨシュアが生きていたことと、修道院の屋根が吹き飛んだこと。
【炎のリング】と【水のリング】を探すのも内情は違えどフローラとの結婚のため。
死の火山の洞窟で【ようがんげんじん】一匹が別行動したのには驚かされたものだが、結局倒した数は三匹と変わっていない。
【水のリング】を探すには水門を開くしかないわけだが、山奥の村に行く必要がある。
そこで再会するのは、アルカパで別れたビアンカだ。
ビアンカがもし、自分を忘れていないのなら……。
「……おやすみアリア。ゆっくり休んでね(今の僕はアリアのことしか……)」
ちゅっ、と彼女の頭頂に口付けを落とし、アベルも目を閉じた……。
◇
そして夜が明けた……!
外が白み出してすぐの頃、アベルは自然と目蓋を開く。
キャンプした場所が海の近くで空気が冷えており、朝方気温が下がって目が覚めてしまったのだろう。
「……アリアおはよ」
「おはよ、アベル」
「……お腹どう……?」
「ん……、もう大丈夫みたい。心配掛けちゃってごめんね」
アリアも丁度起きたのか眠そうな目蓋をぱちぱちと瞬かせ、アベルを上目遣いに見やってはにかんでいた。
いつの間にか二人は寒さに向かい合い、抱き合っていたらしい。
彼女の髪の毛が一部跳ねている。
「いや、いいんだ。あ……寝ぐせ…………も、可愛いぃ……」
ぎゅううぅぅ。
アベルはアリアを強く抱きしめ、彼女の頭頂に頬擦りをした。
――はああぁぁ……朝からアリアとハグとかしあわせ……好い匂い……♡
これで今日も一日頑張れる……とアベルは小鼻を膨らませアリアの香りを楽しむ。
「っ……もぉ……、アベルってば褒め過ぎ……。温かい……」
アリアもそれとなく抱き返してくれる。
密着したアリアの柔らかな感触にアベルは胸が温かくなったが、温かくなったのは胸だけではなかった。
「…………うん、温かいね……。けど……」
――これ、めちゃくちゃ辛いな……!!
朝ともなれば、健康優良児なら当然生理現象も起きているわけで……、それもあってか密着した彼女の身体にアベルの下半身は治まることを知らず、熱いまま。
アベルは涙目になってしまった。
アリアとくっつくのは好きだが、くっつき過ぎは苦行となるのだ。
「…………アベル温かいから、ずっとこうしてたいな…………」
すりすりと、アリアは寝惚け
「こうしてようか?」
「んふふ。そんなわけには……」
アベルが“猫みたいだな~”とアリアの頭を撫でていると、彼女は嬉しそうに柔らかな笑みを浮かべていた。
「じゃあ、山奥の村の宿で二、三泊するってのはどうかな? 一日中ゴロゴロして、温泉に浸かってのんびりしてさ。それから水のリングを取りに行っても僕は全然構わないよ」
「あっ、山奥の村……!」
アベルの話にアリアが ハッと目を見開き、慌てて起き上った。
「……どうしたんだい?」
「っ……ううん、なんでもない。私、顔洗って朝ごはん作るね……!」
「あっ、アリア、朝のち」
――朝のチューは!?
朝のキスをしようとしたアベルだったが、アリアは既に馬車から降りてしまい、キャビンに独り取り残される。
「……僕も起きよ……」
アベルは後で隙を窺い唇を掠め取ることにしたのだった。
アベルが優しい……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!