釣り回です。
プクプクって……。
では、本編どぞ。
◇
「……はぁ……なんでこう、流されちゃうかな……」
アリアは海に視線を投げ、手にした釣り竿から垂れた糸の先、浮きをじっと見つめている。
あれから馬車から降りたアリアは、やっぱり山奥の村までロッキーを放ってはおけないので朝一番で
プックルがアリアの背凭れになるように丸くなってくれているので、気温の低い朝でも温かい。
蘇ったロッキーが散歩兼、護衛としてゴロゴロとアリア達の近くを転がっていた。
戦闘になったら真っ先に【メガンテ】しそうで怖い。
……釣り道具はオラクル屋で購入したもので、修道院生活中、何度かアベルと釣りを楽しんだことがある。
釣り途中で魔物に襲われたこともあるが、スリル満点の釣りはアリアにとっては楽しくていい思い出だ。
「アリア釣れてる……?」
「あ……、ん~……。あんまり、というかまだ全然ね」
アベルがやって来て、アリアの傍にあったバケツの中を覗き釣果を確認するが、何も入っていなかった。
「そういう日もあるさ」
「だね~! 大物が釣れる予感がしたんだけどなぁ~」
「ははは。大物が掛かったらアリアが釣られちゃうんじゃないかな」
二人がお喋りしている間に浮きがクイックイッと浮いたり沈んだり。
……終いに浮きは水の中深くに沈んだ。
「そんなことないよー……って!? きたぁっ!! っ、アベルっ!」
アリアの持つ竿にかなりの負荷が掛かる。
これはかなりの大物ではなかろうか……とアリアは両手、腕に力を込めた。
だが、アリアの力では釣り上げられそうもない。
竿を引く彼女の手が震え、気付けばアリア自身が竿に引っ張られているではないか。
「貸してっ!!」
咄嗟にアベルは釣り竿を掴んだ。
アリアも手放すまいと、しっかり握っている。
「くっ……なんだこの馬鹿ヂカラは……!」
「っ……、アベル……!」
アベルも釣り竿を引くがかなり引きが強い。
さすがはオラクル屋か、釣り竿が折れることはないが、かなりのしなりだ。
「……っ、負けるもんか……! くっ……そりゃっ!!」
アベルは渾身の力を込めて、竿を引き、振り上げた!
バシャッ!
と、水の中から一匹の大物……? が現れる。
「あっ、プクプク! アリア、あれはプクプクだよ!」
アベルによって陸に打ち上げられたフグか、オタマジャクシか……それに似た魔物【プクプク】が、地面に落ちた衝撃で釣り針から逃れ びちびちと跳ねていた。
【プクプク】は海の魔物だからか、陸に上がると跳ねるだけで何も出来ないようだ。
息苦しそうにジタバタしている。
「プクプクって……マリオの……?」
「マリオ……? 誰? 男……?」
アリアが“海の面に出るよね……!”と思っていると、アベルが急に眉を顰めて不機嫌になり、ムッと頬を膨らませた。
「ちょっ、やだアベル。今妬くとこ!? 別のゲームの話だよっ?」
「別のゲームって……、異世界ってこと……? マリオはアリアのなに?」
「んもぉっ、アベルったら…………はぁ、もう異世界でいいや。彼は世界的なスターなの! だから平凡な私とは面識はないから安心してっ」
――ゲームをプレイしただけだし……?
アベルの質問にアリアはマリオとは何の関係もないことを教える。
無意味である……。
「そう……面識はないんだ? 良かった……」
「アベル……」
アリアの説明に一応納得したらしいアベルが表情を緩めると、アリアは困ったような顔で苦笑していた。
「……アリアが僕以外の男と……なんて考えたら、その男をコロしてしまうところだったよ」
――どうせいつかゲマも殺すし、殺す対象が独り増えたところで問題ない……アリアを僕から奪おうとする奴は消せばいい。
アベルはにっこりと微笑む。
「ぇ(コロ? 今、なんて言ったの……?)」
「ハハハ……冗談だよ。アリアは僕以外には興味ないもんね……?」
アベルは口角だけ上げて、冷めた目でアリアを見下ろした。
「ぁ、ぅん……」
――アベルさん……? 今、目……笑ってませんよ……?
アベルの狂気に触れた気がして、アリアはコクリと唾を呑み込む。
すると、
「……ソレ、海に戻してやろうよ」
アベルの目がフッと緩んで、相変わらず びちびちと跳ね続ける【プクプク】を指差した。
「あっ、うん。海に戻りたいって言ってるから、それがいいかも」
「ん? どういうこと?」
「あ、えと、プクプク……? っていつも群れでいるんだって。一匹だけ釣り上げちゃったから仲間が心配してるから帰して欲しいって……その子が」
アリアの言葉にアベルはただ跳ね続ける【プクプク】を見下ろす。
【プクプク】がなにか喋っているようには見えないのだが、口をパクパクと動かしてはいる。
……アリアにはそう聞こえたようだった。
「…………わかるの?」
「ん……。海に帰してクレメンスって……。アベルは聞こえない?」
アリアが【プクプク】を見ると、【プクプク】は『帰して、海に帰してクレメンス……』とじっとアリアを見ていた。
「……クレメンス……、久しぶりに聞いたな……。僕には聞こえない……。アリア、ひょっとしていつも魔物の声とか聞こえているのかい?」
「えっ、ううん。仲魔たちのことはなんとなくわかるけど、襲って来る魔物達の声が聞こえるなんてことは……でもあれ? その子の声は聞こえる……」
「…………それは すごいね」
――アリアも【モンスター使い】の素質があるんじゃないかな……?
アベルは、首を左右に傾げながら“なんでわかるんだろ……”と困惑するアリアの頭を撫でてやる。
と、
「……あっ、あははっ! やっぱ元天空人だからかなっ? 超常的な力があるのかもねっ?」
――これって……もしかして……、あの人のせい……?
……刹那、アリアの脳裏に見はらしの塔で逢った男の顔が浮かんだ。
アベル達が来る前、僅かな時間しかなかったのだが、あの時白いマントの男はアリアに予言めいた言葉を残している……。
『記憶は似た環境で戻るだろう。また、風が運ぶこともある。そして力は徐々に解放されていくはず』
そう云った後で男は続けた。
『私を助けて欲しい。私を救うことが出来るのは、アリア。お前だけなのだ。助けてくれると約束するならば、お前の望みを一つ叶えてやろう』
……男はただ救いを求め、アリアに接触していただけだった。
男を救うと約束すれば、アリアの望みも叶えてくれるという。
『お前はアベルとかいう男と結婚したいのだろう? その願い、私が叶えよう』
男の言葉にアリアはすぐ返事が出来なかった。
アリアには驚くことが多過ぎたのだ。
……男がアベルのことに言及したこと、そして、男の姿が髪の色こそ違うが現実世界の兄にそっくりだったこと……。
(……今は考えている場合じゃない。あの子を帰してあげないと。)
――ゆっくり考え事をするのは山奥の村の温泉に浸かりながらにしよ……。
アリアは跳ねる【プクプク】に近付いて行こうとしたが、アベルが前に立ちはだかった。
「……かもね」
アベルは嬉しそうにはにかんで【プクプク】を持ち上げ、岸まで連れて行くと、言い含めるように【プクプク】に告げる。
「……次、海上で遭った時は敵同士だ。遭わないことを祈るよ」
そう言い終えると、彼は【プクプク】を海へと投げ飛ばしていた。
『帰してくれてアリガトー!』
海へと落ちた【プクプク】は尾ひれを数回バタつかせてから海の中へと消える。
「あっ、アベルありがと。あの子、お礼言ってたよ」
「どういたしまして! ね、アリア。ここは魚が釣れないみたいだから、今あるもので朝食にしよう。山奥の村は今日中に着くから、食料調達はそこですればいいよ」
「ん、そうだね」
――釣り、もうちょっとしたかったなぁ……出発……、遅らせたかったのに……。
修道院生活中に色んなことをしましたね……というお話でした。
マリオ~~!
レトロですみません。
アクションゲームは苦手な私ですが、マリオは楽しい♪
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!