だいよんわです。
ビアンカって可愛いよね~な回です。
では、本編どうぞっ!
「……お待たせ」
アベルが地下室から上がって来ると、ふくよかな女性と可愛らしい三つ編みを左右に結った小さな女の子がお茶を飲んでいた。
……女の子の方は退屈そうに足をプラプラと動かしてサンチョの作ったクッキーを齧っている。
「おお、アベル。宝物は隠せたかな? この人達のことを憶えているか?」
「あ、うん。……え?」
パパスに話し掛けられアベルは椅子に腰掛けている女性二人を見上げた。
「隣町に住むダンカンのおかみさんと、娘のビアンカちゃんだ」
「……ビアンカ(聞いたことがある気がする……どこでだっけ……?)」
パパスが二人を紹介すると、アベルはおばさんと三つ編みの女の子、ビアンカを見て軽く会釈した。
「! 私のこと憶えているの!?」
「え? あ、えと……、た、多分……?」
アベルの言葉にそれまで退屈そうにしていたビアンカの瞳がきらきらと輝き、椅子から下りてアベルの傍にやってくると彼女は手を取る。
――可愛い子だなぁ……。
アベルはビアンカをじっと見つめた。
やっぱりこの子知ってる気がするなぁ……。
どこかで会ってるよね……。
そう考えた時、アベルの脳裏にビアンカに似た大人の女性の笑顔が過った。
その女性の唇が何かを伝えるように動く。
『ア……ル、……い、……き……?』
全部はわからないが、女性は少し恥ずかしそうに頬を赤くして何かを告げていた。
……だが ふっと過った女性の姿は瞬時に消えてしまう。
彼女が誰なのかまではわからなかったが、船で出会った青い髪の女の子と似た懐かしさを感じた――。
「…………っ?(今のは……?)」
アベルの瞳がぱちぱちと数回瞬く。
「ねえ、大人の話って長くなるから上に行かない?」
ビアンカが提案すると、アベルは頷いた。
◇
……二人が二階に上がると、椅子にアベルを座らせビアンカは立ったまま話し始める。
「まさか、私のこと憶えててくれてたなんて、うれしいなっ。私の歳は憶えてる?」
「ううん、そこまでは」
「そっか。私は八歳だから、あなたより二つもお姉さんなのよ。ねっ! ご本読んであげようか? ちょっと待っててね」
ビアンカは部屋にあった本棚から難しそうな本を持って来ると、机に広げる。
「じゃ、読んであげるね! えーと……。そ……ら……に……。えーと……。く……せし…………ありきしか……。これはダメだわ。だって難しい字が多過ぎるんですもの!」
ビアンカがぷぅっと頬を膨らませると、アベルは文章を指で追いながら読み始めた。
「えっと……。……空に高く存在せし城ありき。しかし、その城オーブを失い地に落ちる……。オーブ取り戻す時、その城再び天空に帰らん……。って書いてあるよ」
アベルはすらすらと文字を読み終えると優しく微笑む。
「えっ、…………えええええっ!? よ、読めるのっ!?(私でも読めないのにっ!!)」
「これって、何の本なんだろう……?」
ビアンカの驚きの声にアベルは本の表紙を見ようとすると……。
『ビアンカ! そろそろ宿に戻りますよ!』
階下からビアンカの母親の声が聞こえた。
「はーい、ママ!」
ビアンカは本を閉じて、それを本棚に片付け「じゃあまたね」と部屋から出て行ってしまう。
「……もうちょっと見てみたかったな……(まぁ、いっか……)」
アベルは少し本が気になったものの、天使の様子も気になるし、ベッドから薄手の毛布を剥がして手にすると、一階へと降りた。
……そうして一階に降りると、パパスに声を掛けられる。
「さて……と。アベル、父さんはちょっと出掛けるがいい子にしてるんだよ」
パパスはアベルが降りて来るのを待っていたのか、手に大きな包みを持って、告げると家を出て行った。
(……父さんはどこに行ったんだろう……?)
「アベル坊ちゃん、今日はお疲れでしょう。お休みになられますか? お休みになりたい時は、このサンチョめに言って下さいね」
パパスが開いた玄関扉がパタンと閉じるのを見ていると、サンチョが話し掛けて来る。
「あっ、ううん。僕、ちょっと用事が……」
アベルは地下室に向かおうとする。
すると、サンチョが行く手を阻む様に腕を広げた。
「ああ、坊ちゃん。すみません、これから少し地下室を掃除しますから、地下室には入らないで下さいまし」
「えっ!? でも……(あの子が起きてたら……)」
「地下室汚かったでしょう? お恥ずかしながら、ここのところ地下室の掃除をサボっておりました。坊ちゃんの宝物はそっとしておきますので……。ああ、そうだ、宜しければ外に遊びに出られては?」
サンチョはアベルの両肩に手を置くと、玄関まで連れて行く。
肩に置かれたサンチョの手を見ると、水仕事の所為かあかぎれが出来ていた。
最近寒くなって来たから水も冷たいのだろう。
地下室も寒い。
埃っぽくはなかったけれど、確かに物が乱雑に置かれていた……ような?
二年もの間、主人不在で寒いとつい、掃除なんかをサボりたくなるものなのかもしれない。
サンチョの顔は笑顔だったけれど、ちょっぴり気まずそうである。
パパスが出掛けている間に掃除をするつもりなのだ。
「じゃ、じゃあ……ちょっとだけ……。ねえ、サンチョ」
「はい、どうされましたか?」
アベルはくるっと振り返って、手にしている毛布をサンチョに差し出す。
「……地下室の真ん中にこれを……掛けてあげてくれない?」
「……掛ける? この、毛布……でございますか。そんなことしたら汚れてしまいますよ……?」
「うん……、ダメ……かな……?」
アベルは困ったような顔でちょっぴり瞳を潤ませ、サンチョを見上げる。
「ぅっ!(なんて愛らしいっ!!)よろしいですっ! 誰が何と言おうとこの毛布を部屋中央に敷いておきますっ! 坊ちゃんの毛布は新しいものをお出ししましょう! 最近寒いですからねっ、もう少し厚手のものを出そうと思っていたのですよ!」
「ありがとう、サンチョ!」
サンチョが快諾して、アベルは満面の笑みを浮かべた。
「坊ちゃん、いってらっしゃいませっ!!」
サンチョもアベルの笑顔に釣られて微笑み、玄関扉を開くと彼を見送ったのだった。
パパスもサンチョもアベルが大好きなのです。
ついでに私も!(ハイハイ)
アベル溺愛話……。
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読了お疲れ様でした、そしてお読みいただきありがとうございました!