ようやく山奥の村に到着!
では、本編どぞー。
第四百九十九話 山奥の村
◇
「ここは名もない山奥の村だ。けんど、温泉が湧いてるから旅人は結構やって来るだよ」
アベル達が人里に入ってすぐ、山の斜面の畑近くにいた農夫に声を掛けると、ここが山奥の村だと教えてくれる。
畑には野菜と、奥には果樹園があり
……山奥の村。
西の大陸、最西端にある山間を切り拓いた
最近では身体の弱い人が療養のため移り住んだりと、人口が増えているそうだ。
「わぁ……、あれひょっとしてミカンじゃない……!?」
「あっ、アリア!?」
「娘さん、よかったら一つやるだよ。潮風に吹かれたミカンはうんめぇぞ」
アリアがミカンの樹らしき樹木の元に寄って行くと、先程の農夫が目の前で果実を一つもぎ取って、彼女に手渡してくれた。
ここは山奥だが、山頂付近では北と西に海が臨める。海から上がって来た潮風に吹かれた土はミネラル豊富な栄養素を含みミカンの味に深みが増すのだとか。
「ありがとうございますっ」
「ほれ、お前さんにも」
「あ、ありがとうございます……」
ほくほく顔で受け取ったアリアを見ながらアベルが目を細めていると、農夫はアベルにもミカンをくれた。
――アリアといると色んなものを貰うな……。
手の平に乗っかったミカンからの甘酸っぱい香りはとても爽やかだった。
「おいしい~♡ 甘酸っぱくて最高~。ん~♡」
アリアは早速皮を剥き剥き、ミカンを食べだし舌鼓を打つ。
かなりご機嫌な様子のアリアに倣い、アベルも一皮二皮と皮を剥き、一房口にした。
アベルの口の中に甘酸っぱいミカンの粒が弾ける。
酸っぱいものは少し苦手なアベルだったが、このミカンは甘みが強いため、これなら大丈夫と黙々と食べ続けた。
「わははは……! だべ? もう一つやるけ? いや、もう一つとは言わね、娘さんの望むだけやるべ」
「いいんですか!?」
「……けんど条件がある。そろそろ収穫時期なんだべ。三十分程手伝ってくれたら好きなだけ持ってくがええ」
「ええっ!? いいんですか!?(三十分のお手伝いでいいとか神!)」
アリアは食いつく様に瞳を輝かせる。
農夫の提案にアリアは乗り気だ。
「ちょ、アリア……、まさか……」
――手伝うとか言うんじゃ……。
この後ビアンカと会うのに……。
アベルはアリアを連れてビアンカと会うつもりだったのだが、嫌な予感がした。
「アベルっ、私、収穫のお手伝いがしたいなっ♡」
「あぁ……やっぱり……。温泉は……?」
アベルの危惧した通り、アリアが突然別行動をすると言い出す。
――なぜなんだアリア……、どうして君は急に僕を独りにする……?
サラボナの時もそうだったが、なぜかアリアは二人の花嫁候補とアベルが出逢うタイミングで席を外してしまうのだ。
……恐らくアリアにそんな気はないと思うが、なぜかそうなってしまっている。
「お手伝いが終わったら入ろっかな? 仕事の後のひとっ風呂って最高だもの!」
「あぁ……、じゃあ僕も手伝うよ……」
アベルは自分も手伝おうと近くにあった収穫カゴを手にするが、アリアはそれを ひょいっと奪い取った。
「ううん、大丈夫! アベルは村で水門を開けられる人をさがしてくれないかな? 三十分経ったら合流するから」
「…………っ、いいけど、さぁ……」
――も、本当なんで? 僕はアリアと一緒に居たいだけなんだけど……!?
ビアンカに逢った時、彼女にグラついたらどうしよう。
フローラさんだって あんなに魅力的だった。
……僕にはアリアだけなのに。
アベルはアリアを想いつつも、別世界の記憶のせいかビアンカに惹かれない自信がない。
ビアンカは別世界の記憶の中ではアリアと甲乙つけがたい程の美人。
……恐らく、この世界でも。
「みんなにも おいしいミカンを食べさせてあげたいから、私がんばるね♡」
「……………………わかった。無理しないでね。終わったら、この先を上った一番奥の大きな家まで来てくれるかい?」
アベルは眉をハの字にしながらもアリアを尊重し、この村の最奥にある大きな家……ビアンカの家にやって来るよう訊ねる。
「大きな家……?」
アリアは背伸びをして山の上を眺めたが、擁壁が邪魔して背が足りず見えなかったようだ。
……山の斜面を利用し段々に切り拓かれた土地のため、階段を上がって行かないとわからない。
「ああ……って、アリアからじゃ見えないか。そこの階段を上がるとすぐわかるから」
「ん、わかった。じゃあ後でね」
アベルが山の上に続く階段を指差すとアリアは了承、笑顔で手を振る。
「……うん、ピエール。アリアをよろしく」
アベルはアリアとピエールをその場に残し、近くにあった井戸を調べてからプックルと共に階段を上がって行った。
「がう……(主、元気ないな……)」
「ん……? なにプックル」
「がうがう、がう(主、元気出せ。ここは懐かしい匂いがプンプンするぞ?)」
「…………プックル、懐かしい人に逢えるよ」
「がう?」
アベルは浮かない顔でプックルの たてがみを撫でる。
そうしていると、階段の側を歩いていた青年がアベルに話し掛けて来た。
「こんにちは、旅人ですか?」
「あ、はい。船で近くまで来たんですけど……すいm」
「川を上って来たのですか? しかし水門があるので先には進めなかったでしょ。村の人に言えば水門を開けてくれると思いますがね……」
アベルが“水門を開けてもらいたいんですが……”と話そうとしたが、青年が遮るように水門について話を始める。
青年の話にアベルは“水門を開けてくれる村人は……誰だったっけ……”と記憶を巡らせる。
別世界の記憶を思い出しているとはいえ、細かなところまでは降りて来ていない。
ビアンカと再会前にその人が見つかれば、彼女と会わずにいられる。
……アベルはビアンカの家に向かう前に聞き込みを行うことにし、目の前にあった宿屋へ足を延ばした。
◇
……宿屋に入ると武器屋が併設されていたが、アベルは今は特に必要ないからと購入を見合わせ、武器屋側にある階段を上がる。
「おやお客さん、やだよう、ここは宿屋の客室じゃないよ。もしかして誰かをさがしているのかい?」
階段を上がった先は武器屋夫婦の部屋だったらしく、夫人が話し掛けて来た。
「あ、実は水門を開けてくれる人をさがしていまして」
「水門……、ああ……! ならあの
「あの
「この村一番の別嬪さんでね。働き者のいい娘なんだよ。ウフフ♡」
夫人はなぜだか とても嬉しそうに頬を緩めて とある女性の話をする。
「それって……」
――もしかして……、…………あ、来た。
夫人の話にアベルの別世界の記憶が急に降りて来た……――。
「村の奥に住むダンカンさんの娘のビアンカちゃんは本当によく働くよ。ダンカンさんの身体が弱いからとはいえ女の身で村の外にまで出掛けてねえ。本当にしっかりした娘さんだよ」
「ビアンカ……(やっぱり……)」
――そうだ……水門を開けてくれるのは いつもビアンカだった……。
宿屋に入るまで考えていた ビアンカに会わないという選択肢はあっという間に潰える。
アベルは夫人に「ではビアンカさんに聞いてみます」と一礼して部屋を後にした。
……階段を下り、宿屋のフロントと武器屋のある一階に戻って来る。
思いがけず あっさりと水門を開けてくれる人物が判明し、宿屋には温泉と酒場もあったがアリアと後で行くことにして、アベルは宿屋から出ることにした。
「がうがう(主、さっきの女、ビアンカと言わなかったか?)」
「プックル……。聞いた? ビアンカと会えるんだよ」
「がうっ!(そのようだな! アリアにも知らせないとな!)」
宿屋を後にしたアベルはプックルの話に当たらずとも遠からずな返事をして頭を撫でてやる。
アベルはアリア同様、プックルの言葉ははっきり理解していない。なんとなくわかるだけだ。
ただ、プックル側がアベル達の言語を理解しているから話がそこそこ通じているという……。
「……アリアは……………………、うん、なんか真面目に働いてるね。あの子……じっとしてられないんだな……」
――楽しそうにしてるし……邪魔できないな……、ピエールが羨ましい……。
ふとアベルが果樹園を見下ろすと、アリアが背中に背負った収穫カゴに楽しそうにミカンを入れているのが見える。
ピエールも一緒になって手伝い、二人は楽しそうだ。
アベルも一緒に収穫の手伝いがしたかったな、と思いながらビアンカに水門を開けてもらおうと彼女の家を目指した。
PS2版で、蜜柑の樹(多分)がありまして……。
アリアは収穫のお手伝いです。
潮風の蜜柑の下りは愛媛あたりを参考にしました。
美味しいミカンが食べたいよ。
ドラクエ5の世界で名産品(食べ物編)書けそう……w
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!