あくまのツボーー!
では、本編どぞー。
「……アリア、そんなに謝らないでよ。アリアはなにも悪いことをしてないじゃないか。困ってる人を助けてただけでしょ?」
アリアがすぐに自分と合流出来なかったのには なにか理由があるのかもしれない。
……【世界の
――ビアンカとの再会は自分独りでなければならなかった……?
フローラとの出会いも、アリアはなぜか自然に自分の元から離れている。
フローラと自分の出会いを知らない彼女がわざとそうしているわけでもなさそうだった。
(別世界と同じように、定期の時の流れから大きく外れることを許さない存在がい、る……?)
……そんな考えがふとアベルの頭を過ぎった。
別世界と同じ時を歩ませようとする、【世界の理】……アベルが今必死に戦っている相手だ。
……だが、自分に出来得る限りの行動を今更止めるつもりはない。
これから先の未来がどうなるかは現時点ではわからないが アリアとの未来がどうしても欲しい……。
そんなアベルは彼女の背中を優しくトントンと撫でる。
「……ぅぅ……。ごめんなさい……、私、面倒臭いよね……? ズズッ」
――でも、もうすぐ解放してあげられるから……許してアベル……。
アリアは勝手に溢れ出す涙をどうにか止められないかと必死で鼻を啜った。
“もう泣かない”と言ってから何度泣いたことか。
自分はこんなにも泣き虫だったかな、と思う程だ。
アベルの前だと いつも笑顔でいたいと思っているのに なぜか感情が揺さぶられる。
上手く取り繕うことが出来ない。
……アベルは不思議な人だ。
彼に見つめられるとドキドキするし、抱きしめられると舞い上がってしまいそうになるが、とても安心する。
そして、どこか懐かしい気もする……。
……アリアは黙って背中を優しく撫でるアベルの胸元に頬を寄せると目を閉じる。
「…………」
アベルは黙り込み、アリアの背を撫で続けた。
――面倒臭くても、いい。
……いや、むしろもっと僕を頼ればいいんだ。
アリアの面倒ごとは自分のものだから、いくらでも面倒を掛けてくれて構わない。自分を頼ってくれれば、それでいい。
いくらでも解決してやるし、すぐ解決出来ないことでも一緒に向き合ってあげたい。
アベルは腕の中で鼻を啜るアリアに、くすっと微かな笑みを浮かべて彼女が泣き止むまでそうした。
……と、思って抱き合っていたが、よろず屋の店主が片付けを終えて戻って来て見られてしまい……。
「おっと! 邪魔しちまったかい?」
「っ、きゃああああっっ!!」
「えっ」
よろず屋の店主の登場に“ドンッ!”とアリアはすぐさま反応し、アベルを突き放した。
「っっ……あ、あの……これはその……」
突然突き放され、目を丸くするアベルにアリアは店主にごにょごにょ。
仲魔達の前なら平気になったが、やはり人前では恥ずかしいのだろう。彼女の頬は真っ赤に染まって、涙は既に引っ込んでいた。
「はっはっはっ! さっき言ってたツレってのはこの人だったか。ふむふむ、なるほど。なかなか強そうじゃないか」
「……あっ、はい。彼とっても強いんです」
よろず屋の店主が店のカウンタ―に戻り笑うと、アリアはアベルの傍に寄って彼の腕に触れながら笑顔で「ねっ?」と見上げ肯定する。
内容は不明だが、本人のいない間に店主とアリアでアベルの話をしていたらしい。
いつもの愛らしい彼女の笑顔に、アベルはアリアが泣き止んでよかったと思いつつ、なんの話をしていたのかちょっと気になってしまった。
「ほーん。んじゃ、強者のあんたにオレから とっておきのプレゼントをやろうかね」
「プレゼント……?(見ず知らずの僕になぜ……)」
店主がアベルにニヤニヤと含み笑みを見せながら店のカウンタ―奥にあるツボを親指で指し示す。
もらう理由が特にないけど……と、だがしかし、ツボがあるならば是非割りたい。
……衝動に駆られたアベルは店主の指し示す先にある二つのツボに目を移した。
「後ろのツボの中にいいものが入ってるから壊して持っていくといい!」
店主の許可ももらったことだし……とアベルは遠慮なく割ることにした。
「あっ、アベル。気を付けてね」
「え?」
アリアが声を掛けた時にはもう既に一つ目のツボを床に叩き付けた後だった。
ガシャンッ。
ツボは見事に破壊され、中から【ちからのたね】が出て来るので、アベルは消えゆく破片の中からそれを拾って【ふくろ】に仕舞う。
「力の種だ。ありがとうございますっ!(いい人だな!)」
「いや、なに、いいってことよ…………くくっ……ゴホン、ゴホンッ!」
「……?」
アベルがお礼を告げると店主が笑った気がしたが、気のせいだろう。
……アベルはもう一つのツボに手を掛けた。
「アベル、大丈夫?」
「なにが?」
アリアが心配そうに窺って来るので、アベルはどうしたのだろうかと思ったのだが……。
――割れた破片で怪我するなとか思ってるのかい……? アリアは優しいんだから……。
などと、アベルがアリアに目を細めながらもう一つのツボを持ち上げ床にぶん投げた。
ガシャンッ!
ツボは勢いよく地面に叩き付けられ割れた音がしたのだが、中からは更にツボが現れ……、いや、違う。
“しかし、ツボはあくまのツボだった!”
「えっ、なっ!?!?(魔物っ!?)」
……今し方割れたツボはいったいなんだったのか。
アベル達の目の前に壺に成りすまして人を襲う悪魔、【あくまのツボ】が突如として現れたのだ。
「っ、アベルっ!! ピエール君っ! プックル!」
アリアは【まふうじのつえ】を構える。
ピエールはアリアの前へと躍り出て、プックルはアリアのマントを咥えるとポイッと彼女を最後尾に追いやった。
『わぁっ!?』
「っ、悪魔の壺か! 忘れてたっ!! ピエール、プックル先手必勝。畳み掛けろ! アリアもキラーピアスに装備を替えて攻撃っ!」
アリアが最後尾に追いやられている間に、アベルは【パパスの剣】を鞘から抜き去り、仲間に指示を出す。
アリアに至っては装備を交換し、物理攻撃に回ることに。
「はいっ!」
アベル、ピエール、プックルが攻撃を繰り出している内にアリアは【まふうじのつえ】から【キラーピアス】に装備を変更。
すぐさま攻撃へと身を転じた。
アリアは攻撃力は低いものの、素早さは目を見張るものがある。
【キラーピアス】を手に【あくまのツボ】に向かい踊るように二度、斬り掛かっていた。
その際、スカートがひらりと舞い上がるのは しょうがない。アベルはしっかりスカートの中身をチェックしつつ……、
「よしっ! もうちょっとだ! あいつがザキを放つ前に倒そう!(今日は水色っ!)」
もう一度総攻撃……と命令を出す。
アリアの今日のパンツは水色のレース……、いつも白ばかり穿いているわけではないらしい。
「承知!」「がうっ!」「はいっ!(ザキ唱えるのっ!?)」
ピエール、プックル、アリアはアベルの命令に従い懸命に【あくまのツボ】に攻撃を仕掛けていった。
【あくまのツボ】は【ひとくいばこ】や【ミミック】といったトラップ系の魔物だ。
強力な催眠呪文【ラリホーマ】、即死呪文【ザキ】、相手から受けた攻撃呪文の消費MP分を吸収する【マホキテ】といった呪文を使って来る。
攻撃も【痛恨の一撃】を出しやすく、厄介なことに攻撃の回避率も高く……。
「っっ!(避けられたっ!!)」
アベルが地面を蹴り上げ勢いを付けて【あくまのツボ】の頭上から斬り掛かったが、【あくまのツボ】はひらりとその一手を避けていた。
なんの手応えも得られず、【パパスの剣】は地面の土へと埋まってしまう。
「っ、なんの、私がっ!! ……っクッ!!(なんという素早さ……!)」
今度はピエールが背後から横一閃に【はがねのつるぎ】を振るうも、【あくまのツボ】はピョンと飛びあがって回避。
ケラケラとこちらを馬鹿にしたように笑っている。
「がうがうっ!(二人ともだらしないな! 我に任せろ!)」
アベルとピエールの失態にプックルが地面を蹴り上げ、自慢の鋭い爪を斜めに振り下ろした……が。
ヒョイッ、とな。
【あくまのツボ】は残像を残し、後ろに跳ねるとそのまま背後にあった壁にツボの底部をくっつけ“ヒャヒャヒャッ!”。
【あくまのツボ】はその身体をバネのようにたわませた。
壺らしからぬ柔らかな様相を見せ、跳ね返るようにアリア目掛けて飛んで行った。
「っ(来るっ!?)」
アリアは【あくまのツボ】の攻撃に備え、身構える。
「っ、させるかっ!!」
――アリアが【痛恨の一撃】を受けたら大怪我じゃ済まない……!
アベルは土に埋まった【パパスの剣】を放って、身を転じアリアの元へ駆け出していた。
ザキと痛恨まぢムリ。
山奥の村に行ってびっくりしたのは私だけではないはず。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!