だけ。
では、本編どぞ。
「っ……」
ズキッ。
二人の仲の良いやり取りに、アリアの胸が急に痛む。
ビアンカに向けられたアベルの笑顔が、いつも自分に向けられているそれと同じで胸が苦しくなった。
――痛い……。
アリアは胸元に握った拳を当て、俯いてしまう。
目の奥までも じくじく痛む気がする。
「アリア……? どうかしたの? もうお腹いっぱいになっちゃった……?」
アベルとビアンカの二人が話をする中、黙り込んで俯いているアリアにビアンカが気が付き声を掛けた。
「……あ、えと……、うん……、そう……みたい……」
「お酒も進んでないみたいだし……」
「アリアは酒に弱いんだ」
アリアが苦笑いを浮かべながら耳に後れ毛を掛けると、ビアンカが量の減っていないアリアのグラスを見て指摘する。
……と、アリアの代わりにアベルが答えていた。
「そうなの? じゃあ、スープ飲む? 今温め直すわ」
ビアンカはそう云うと席を立ち、キッチンへと行ってしまう。
「「………………」」
ビアンカが居なくなったテーブルでアベルとアリアは向かい合い、黙り込んだ。
アベルは先程までの笑みなどどこへやら、アリアをまじまじと見つめ、黙り込んでいる。
アリアもまた、アベルに見つめられ一度は目を離したが、またチラッと目を合わせた。
アリアが視線をアベルに戻しても、アベルは無表情のままアリアをじっと見ており特に何を言うでもない……。
「…………ぁ、ぇと……(アベル怒ってる……)」
「…………」
――アリアって本当、綺麗な顔してるなぁ……カワイイ……。
アリアにはつい笑顔になっちゃうから気を付けないと……バレるよね?
ああ でも本当可愛い……、キスしたい……。
酒のせいか ほんのりと頬が赤く染まったアリアを、アベルはなるべく無表情を装いながらテーブルに頬杖を突いて眺める。
向かい合って座るなんてそうないから……と、これ見よがしにしっかり目に焼き付けておくことにした。
……先ほどのアリアの“翼などどうでもいい”的発言は聞いていて少々苛立ったが……それはまあ、いい。
アリアはそういう娘だからいまさら……と、アベルは苦々しいが何とか彼女の意思を飲み込む。
……だが、アリアが自分をあっさり諦めるなんてのは辛過ぎるではないか。
例え彼女が自分をあっさり諦めようとも、自分は諦める気はさらさらない。
この世界は既に別世界とは異なるのだ、絶対に彼女を自分の妻にしてみせる。
アリアがもう少し自分に執着してくれたら、きっと二人、これからもずっと幸せに生きて行けると思うのに。
できれば自分がアリアに執着しているのと同じくらい、彼女も自分に執着してくれたら……。
……アベルはそう願わずにはいられなかった。
(彼女がもっと僕を好きになれば、簡単に手放したくなくなるよね……?)
ならばアリアの言うことを聞くしかない。
今は彼女の望むままに“友達”として振舞うのが得策だろう。
――アリアに見せている笑顔はなるべく抑えて、その分ビアンカに笑い掛けておけばバレないかな……?
アリアの想いなど知らないアベルは彼女と約束した“僕達は友達作戦”を忠実に守ることにした。
「…………っ(なんで、アベルはずっと見て来るんだろう……?)」
アベルに黙ったままじっと見つめられたアリアは居心地の悪さを感じる。
「…………(アリア、ひょっとして照れてる……? 見つめるだけで動揺しちゃうなんて可愛いなあ……)」
――フフ……あ、いかん。
アリアを見つめるアベルの頬がつい緩みそうになってしまうが、彼女との関係がバレないよう、表情を引き締めアベルは彼女を見続ける。
……二人の間に沈黙の時がしばらく流れ……。
「は~い、どうぞ~。栄養たっぷりスープよ♡」
「っ、あっ、ありがとう。いただきます」
しばしの静寂を破り、ビアンカが温め直したスープを器に装いテーブルに置くと、アリアはスプーンを手にスープを掬った。
「……おいしい……」
ビアンカの作ったスープを口にし、アリアの強張った身体が弛緩する。
美味しいものを食べると元気になるというのは本当だなと、アリアは二口、三口とスープを口に運んだ。
「お口に合ったみたいで よかったわ」
「…………うん、ビアンカちゃんお料理上手でいい奥さんになりそう……」
――ビアンカちゃんがアベルと結婚したら、アベルの体調管理は大丈夫そう……、フローラさんの場合はピエール君が居ればなんとかなるよね!
アリアは、アベルに煮込み料理は教えたが、彼は味の調整は苦手だし、焼き物は中々覚えてくれない(そもそも覚える気がない)。
それでもビアンカが一緒なら問題ないだろう。
フローラは料理が苦手なため、少々心配ではあるのだが、裁縫なんかは得意だし、アベルの言うことに反対せず従順に付き従ってくれるはず(料理は最悪ピエールがそれなりにできるので問題ない)。
“……二人の内、どちらを選んでもアベルは幸せになれる。”
そう思ったアリアは自分が居なくなっても なんの問題もないんだなと胸の痛みを抱えながらも目を細めていた。
「そう? ありがとう。アリアもね」
「…………はは……、私は……、どう……かなぁ……」
――私は結婚しないもの、そんなのわかんないよ……。
ビアンカの微笑みにアリアが微苦笑し耳に落ちてきた後れ毛を掛けると、それまで黙っていたアベルが口を開き、笑みを顔に出さないよう努めながらはっきりと告げる。
「…………アリアはいい奥さんになるよ。僕が保証する」
「っ……!?(アベルっ!?)」
アベルの言葉を聞いた途端、アリアの眉間に皺が寄せられた。
一瞬だったが口もへの字に変化し、彼女は不機嫌そうにした後で、すぐさま張り付いたような笑みを浮かべる。
「っ……、僕はアリアの作る
アリアの表情にアベルは怯み、慌てて言い換え、あくまで友達として仲間として……ならば構わないだろうと、“ご飯”を強調しておいた。
――だって、僕はアリアが大好きだし、アリアの欠点も、作ったご飯も何もかも好きなんだからしょうがないでしょーが……!
アリアに合わせてやりたいのは山々だが、一緒にいて癒され、自分を満たしてくれる彼女への好意を抑えることは、正直者のアベルからすれば中々の苦行である。
少々苦し紛れだったかな……。アベルは好意を隠すことがこんなに難しいとは思わず、困ったような顔で頭の後ろをガシガシと掻いた。
「っ、……あ、ああ、ご飯“
――そっか、アベルは私の作ったご飯
パン……、また作ってあげられたらいいな……すぐパサパサになっちゃうけど……。
アベルがあまりにも“ご飯”を強調したため、アリアはアベルが好きなのは自分の作る食事のみだと勘違いしてしまう。
それでもアリアはアベルに食事を作ってあげられる機会がまだあることに喜びを感じていた。
「あっ、“
――アリアっ! 違うよっ! 今は便宜上そう言っただけだよ!?
なんでそう取っちゃうかな……。
アベルはアリアが勘違いしていることに気が付き、苦々しく顔を顰める。
呟いたアベルの声は小さく、アリアとビアンカ、二人には聞こえなかった。
……本当に今日のアベルは勘が冴え渡っている。
アベルとアリアってなーんかすれ違ってますよね……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!