ビアンカさん……。
では、本編どぞ。
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……ビアンカの話はこうだった。
昔、おかみが風邪を拗らせ死に掛けたことがあったのだそうだ。
アリアにもらった薬は、十数年前にダンカンが一錠ずつ飲んだらあっという間に治り、その後はタンスに仕舞っておいたらしい。
ところが、仕舞っておいたはずの薬はいつの間にか行方不明になっていた。
ダンカンの身体は一度は良くなったものの、また体調を頻繁に崩すようになり、不安定に……。
そこで、思い切って湯治のできる山奥の村に引っ越したという。
……しばらくして、今度はおかみが病に倒れ、なんの手立てもなく看病を続けていたが、状況は芳しくなく……。
その時は、アリアの薬の存在自体を忘れていたらしいが、引っ越しの荷物に紛れ込んでいたようで、ある日偶然見つけて藁にも縋る想いでおかみに飲ませたとのこと。
するとおかみは みるみるうちに元気になって、全快……。
「……お母さん、今じゃスパの共同経営者なのよ!」
ビアンカはニコッと朗らかに笑う。
「……っ!?(スパ!?)」
アベルは驚きに目玉をひん剥いた。
「ええ、家を出て右に行った先に更に山奥に続く階段があるんだけど……、その奥に今スパリゾートを建設中でね。半年後にオープンする予定なの」
「スパを建設中……!」
――スパリゾート……、ああ……温泉が増えるのね……、うん、それはいいことね。
ビアンカの話に声も出せずアベルが目を剥く中で、アリアは驚きの声を上げて興奮してしまう。
オープンするのが楽しみになった。
……アベルは瞬きも忘れて口をあんぐりと開けている。
「うふふ。共同経営者は三人いるんだけど、なにを隠そう、共同経営者のうちの一人が私よっ!」
ビアンカは突然立ち上がり、腰に手を当てどやっと胸を張った。
「えっ!?」
――ビアンカがっ!? なんで!?
先程から驚きの話ばかり聞かされているアベルはなにも言えずに目をぱちくり。
この村に来てからというもの、これまでの世界と展開が違い過ぎてアベルはついて行けずに、翻弄されっぱなしだ。
「経営者だなんて、ビアンカちゃんすごーい!」
アベルが動揺してアリアに目を向けると、彼女は「は~……バリキャリ~……♡」と謎の言葉を吐きながらビアンカに憧憬の目を向け拍手を送っていた。
「ウフフ~♪ でしょ~? でねっ、オープン後、アリアに毎月スパの売上、二パーセントを十年間プレゼントしようと思ってるの。もらってくれるかしら?」
「ええっ!? いやっ、そんなっ! 悪いよっ!!」
突然の提案にアリアは両手を突き出し首を横に振り振り。
「なに言ってるのアリア! あの薬がなかったらお母さんは助からなかったんだから……! ちょっとお金を貰ったくらいじゃ罰は当たらないわよ。月の売上によるけど、ゴールド銀行にあなた名義で定期的に預けておくから自由に使ってね!」
ビアンカは辞退しようとするアリアに「実はこの間ポートセルミで口座を作って来たのよね~、だからもう貰うしかないよね」と説得に掛かる。
「……ビアンカちゃん……、…………でも、いいの?」
「うふふ、もちろんよ! いつかあなたと再会出来たら渡そうって、お母さんと決めていたの。旅をするのにお金も掛かるでしょ? 足しにしてくれたら嬉しいわ」
「……ありがとう……、それじゃあ……お言葉に甘えて……」
――うれしい……! 定期的な不労所得があれば、路銀稼ぎが楽になる……!!
ビアンカの厚意にアリアは喜びが込み上げ、目元を緩ませた。
「……アリア、よ、よかったね……」
「あ……、うん……。ありがたいね」
漸くアベルも自体が飲み込めて来たようで、アリアに声を掛ける。
アリアは小さく頷き、微笑んでいた。
「…………それで、ビアンカは……、経営者に……?」
「ええ、お父さんが寝たり起きたりであの調子だし、お母さんと二人……と、もう一人の人とスパを運営することにしたの」
「そ、そうなんだ……。もう一人って……?」
「今は別のお仕事してる人なんだけど……、とても協力的な人よ」
「へえ……」
アベルの質問にビアンカは淡々と返し、優しく目を細める。
おかみとビアンカ、もう一人の共同経営者が気にならないわけではないが、ビアンカの様子を見ると恐らくいい人なのだろうと推測できた。
「……うふふ。これでお互いのこれまでは話せたけど……。ねえ、アベル。昼間言ってたアレはなんだったの?」
「アレ?」
今度はビアンカが質問する番である。
昼間のアレ……、はて、なんだったっけとアベルは首を傾げた。
「……アベル、結婚するって……、言ってなかったかしら?」
「あっ! …………っ……」
ビアンカの問いにアベルの目線が自然とアリアに移る。
「うん、そうなの! アベル結婚するんだって!」
アリアはアベルの視線を受けて破顔していた。
「いったい誰と?」
「サラボナのルドマンさんの娘、フローラさん!」
「え?(ルドマンさんの娘?)」
――ルドマンさんて言ったら、サラボナの富豪よね……? 富豪の娘さんとアベルが結婚……?
世界的に有名な富豪と どこで接点があったのだろうか……と、アリアの話にビアンカは顎に手を添え思案する。
「ちょっ!? アリアっ!?(なんでっ!?)」
聞き捨てならないとばかりに、ガタッ。
アベルはテーブルに両手を突いて立ち上がったが、アリアはアベルを無視して話を続けた。
「……それでね、ルドマンさんが言うには、炎のリングと水のリングっていう二つの不思議な指輪を持って来ないことにはフローラさんと結婚させないって言うの」
「まあ……!」
「フローラさんと結婚すると勇者の使っていたという盾が貰えるらしいの。もしかしたらパパスさんの探していたものなのかなって。あっ、フローラさんは私の友達なんだけど、めちゃくちゃ可愛い人なの。これはもう、結婚するしかないよね!」
「うんうん……」
アリアが真剣に話す内に、ビアンカも真剣な面持ちで相槌を打つ。
「それで……炎のリングは無事に手に入れたんだけど、水のリングが眠る場所に行くには水門を通らなきゃいけなくって。でも水門が閉まってて通れなかったの。水門近くの看板に、用のある者はこの村までって書いてあったから来てみたんだけど……」
「…………なるほど……。それで……水門を開けて欲しいってことなのね……」
――アベルが結婚かぁ……。
アリアの説明を受けたビアンカは、テーブルに手を突き立ち尽くし眉を顰めるアベルを見上げて頷く。
……アベルはアリアを見ていた。
「アリ」
「うん! 私はアベルの守護天使だから、アベルが幸せを掴めるように応援しなきゃと思って一緒について来たんだ~♡」
アベルは止めに入ろうとしたが、アリアは一息に言い切りビアンカに微笑み掛ける。
「そうだったのね……」
「アリア……」
ビアンカはアリアに視線を戻して、弱り目で微笑んでいた。
アベルが哀し気に瞳を揺らしアリアを見つめたが、彼女はビアンカを見ていて気付かない。
――アリア、なぜだ? なにも“フローラさんと結婚する”とはっきり言わなくてもよくないか……?
ルドマンさんに頼まれて来たから……とか、もっと別の言い方があるじゃないか……。
船に乗れば 船の所有者がバレてしまうから仕方ないこととはいえ、フローラとは結婚しないと確言したのに、なぜ
アベルは自分から上手く説明しようと思っていたのに、アリアが先に話してしまうとは思わなかった。
そんなにはっきり言われてしまえば、ビアンカだってそう考えるだろう。
そうすれば別世界と同じ展開になってしまうのでは?
……フローラかビアンカか……。
どちらかの女性を選び結婚する別世界。
それは、既に過去の出来事だが、この世界ではアベルとピエールだけが知っているこれから起こる未来の話だ。
なにも知らないはずのアリアが別世界に準拠したような発言をするとは……。
アベルはここで怒鳴ってしまえばアリアが怯えるし、ビアンカにも協力を仰げなくなる。
……仕方なく拳を強く握り締め、それ以上はなにも言えずに腰を下ろした。
なんということでしょう……。
おかみが生きていることにより、未来が変わってしまいますた。
バリキャリのビアンカ……これもうお姉さまと呼ぶしかない。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!