お待た~♡
では、本編どぞ。
……ビアンカは誰もが振り返る程の美女だ。
そのビアンカがアリアをモデルに……なんて言うのは、アリアも同等の美人だからというのもあるけど、それだけではないはず。
――別世界の展開とまるで違う。
だが、違うからと言って良いことばかりじゃないことをアベルは知っている。
今目の前でアリアを甘やかすビアンカが、
これまで出会った人達……ヘンリーもそうだったし、フローラさんも。基本的には別世界と同じ時を刻んでいくこの世界で、ビアンカの性格が大きく変わることはないだろう。
けれど、
魔族が天使のアリアを見れば殺そうとするのだろうが、別のことも考えられる。
……もし、アリアの翼が昔のまま存在していたら、欲深い人間は彼女を捕らえて見世物にでもしたかもしれない。
想像したくはないが権力者の慰み者にもなっていたことも考えられる。
では、欲深い人間ではなく神聖な人達ならばどうかといえば――。
そっちはそっちで、神の使いとでも崇めて彼女を教会で保護し、囲って一生教会から出られないようにしただろう。
翼が無くてもマザーは修道院に居ていいと言っていたし、デール王もアリアを欲しがった。
ルドマンも自分の娘にすると躍起だ。
……そして、自分もアリアが欲しくて堪らない。
見はらしの塔で出会った男しかり、
“ゲームの中”とアリアはよく言っているが、それがいったい何なのだろうか。
今でもわかるような、わからないような……。
アリアが“ゲームの中”……そう告げる度、彼女は自分と同じものを見ていないのだと感じる。
もう翼は無いのに、彼女がふわふわと地に足がつかないで浮遊したままどこか高い場所から自分を見ているような感覚に近い。
別世界の記憶がある自分とは少々異なるが、アリアの前世の記憶のせいだろうか。
ふとした時、彼女が風に攫われ忽然と消えてしまうような気がする。
……自分と同じ場所まで降りて来てくれればいいのに。
(僕が常にアリアに触れたくなるのは好意だけではなく、彼女の存在を確かめたいからかもしれない。もう依存しないと決めたのにも関わらず……だ。)
そう考えるとビアンカの“鳥カゴに閉じ込める”発言は全面的に同意はできないが一理ある。
アリアを自分の目にしか触れられない場所に閉じ込めておけたら安心していられることだろう。
……だが。
――彼女を閉じ込めておくなんて許されるわけがない……。
本心は違えどアベルは目の前で幸せそうに果物を口にするアリアを見下ろし目を細めていた。
「……アベル、準備しに行かないの?」
再びアリアの肩に触れようとしたアベルにビアンカが訊ねる。
「うん、行くよ? アリアも一緒に。アリア」
「ふぁ~……おいし……♡ あっ、ごめん! すぐ片付けるね!」
ぽんっ、とアベルがアリアの肩に手を置くと、アリアは至福の国から帰還、アベルを見上げて使っていた食器を片付け出した。
「アリアも一緒に行くの? 私と一緒に待っててもいいのに」
「ああ。荷物の確認とかあるから」
「…………そう、残念ね……」
アリアが流しで食器を洗っている間にビアンカに問われ、アベルはアリアを連れて行くことを告げる。
……ビアンカは残念そうに溜息を吐いていた。
◇
「うふふ、助かっちゃった。アベルありがとね」
「いや……これくらいのことは……」
「アリアの片付けが終わったら外に出るよう伝えておくから、アベルは先に下で待ってたらどうかな?」
「ああ うん、頼むね」
あれからアリアが「朝食の片付けをするから~」と、義理堅い彼女は一宿一飯の恩義を返すべく皿洗いを買って出て、アベルを待たせていたわけだが……。
アベルもなにかせねばと、使った布団を干す手伝いをすることにし、今はビアンカの家の外、バルコニーに出ていた。
バルコニーには掛布団が三枚と、ビアンカが今朝方洗ったらしいシーツが三枚、それぞれ積まれている。
一組はビアンカとアリアが昨夜使ったもので、二組は建設中のスパのものらしい。
月に一度のスパ開放日に一組限定で宿泊もできるらしく、それ用のものだそうだ。
オープンするまではビアンカが自宅に持ち帰り洗濯をしているとのことだった。
宿屋の娘らしいといえば らしいのかもしれない。
……今日もいい天気だ。
アベルは手すりに布団を掛けて落ちないよう留め具で挟む。
布団を干し終えたら、今度はシーツ。
シーツはシワにならないよう、丁寧に掛けなければ。
……洗濯物は修道院生活中にアリアとやっていて得意である。
――アリアの毛布も干しておこうかな……。
気持ちの好い陽の陽気に、キャビンにのせてあるアリアの毛布もたまには干しておこうと買い出しついでに馬車に寄って……なんてつい考えてしまう。
「アベルって、干すの上手ねえ……びっくりしちゃった」
「ハハッ、まあね。アリアに教わったから」
「ふーん……。守護天使って洗濯もするのね……、面白い!」
「アハハハ……」
アベルの近くで様子を見ていたビアンカはニコニコと嬉しそうだった。
「出掛けるときは私に言ってね」
「わかった、準備が終わったらすぐ戻るよ」
布団を干し終えると、アベルはビアンカに言われるままに外階段を下りる。
◇
「……ビアンカのお母さんが生きていたってことは……、あのお墓はいったい誰の……」
ビアンカの家の階段を下りると、山の斜面左下の墓地が丁度目に入った。
昨日ビアンカがお祈りしていた墓地だ……。
――別世界ではあのお墓はビアンカのお母さんのお墓だった……。
アベルは墓の数を覚えてはいないが、別世界と同じ数だったように思う。
……そんなことを考えていると不意に。
「がうがう(ゲレゲレとかいう奴の墓らしいぞ)」
「ん……? プックルなにか知ってるのかい?」
プックルがアベルの隣にやって来て教えてくれるが、アベルには話が通じない。
「…………がう(今言ったばかりだぞ主)」
――まったく……、人間というやつは話が通じぬ愚か者だな……。
柔和な顔で首を傾げるアベルにプックルはうんざり顔でピエールの後ろへと回る。
「プックル殿……。お疲れさまです」
「がうぅ(おぬしが解ってくれるのがせめてもの救いというものか……)」
自身の後ろへとやって来たプックルにピエールが労いの言葉を掛けると、プックルはその場に丸くなった。
……そうしてアリアを待っていると、五分もしない内に片付けを終えた彼女がやって来る。
「みんなお待たせ~!」
「アリア! ……ぁっっ!!」
アリアの声にアベルは瞬時に顔を綻ばせ階段を見上げるが、目を剥いて固まった。
――ああ……役得役得……、ありがとうアリア……。
上を見上げるアベルの顔がだらしなく緩む。
階段を下りて来るアリアのスカートの中身が見えるのは、定期――。
今日は純白のフリル……。
昨日は温泉に入れなかったが、これだけでもまあ、いい。
ピエールとプックルが白い目をアベルに向ける中、彼は目に焼き付けるように凝視し、アリアが下りて来るのを待っていた。
「ごめんね、結構待たせちゃった?」
「ううん、そんなには」
――ご褒美をもらったから全然問題ないよ……!
下りて来たアリアが申し訳なさそうに手を合わせ アベルを上目遣いに窺うが、アベルはにこやかに首を左右にフリフリ。
「そっか、よかった。それでどこに買いに行くんだっけ……?(果物に気を取られてて聞いてなかったわ……)」
「よろず屋と、武器屋。それと……、あとは行ってのお楽しみ!(温泉に連れてってあーげよっと! アリア喜んでくれるかな!?)」
「え……?」
さあ、行こう! とアベルはアリアの手を掴み駆け出す。
「わっ!? アベル、下り坂だから走っちゃダメっ!」
――転んじゃうっ! っていうか、手なんか繋いじゃダメでしょ……!
アリアの注意など意に介さず、アベルは強引にアリアを連れ一件目のよろず屋を目指した。
アリアは母親譲りの美貌で彫像にしたらさぞかし高値で売れることでしょう。
魔族には忌み嫌われ、人間には欲に走られ、結果的にアリアはアベルに拾われてよかったのかもしれません。
そして、洗濯系主人公のアベルさん、現在の洗濯レベルは3。
シーツを綺麗に干すことが出来ます(……なんだこの属性)。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!