水門を開いて……。
では、本編どぞー。
第五百三十六話 水門を抜けて
◇
……アベルの【ルーラ】で一行は、面倒なことに一度サラボナを経由し、内海を北上することになった。
なんと、山奥の村へはルーラが出来ないのだ――。
「ごめん……。山奥の村へはルーラ出来ないみたいだ……(忘れてた……)」
「いいよ~! その分経験値も増えるよねっ♪」
「アリア……♡」
アベルの謝罪にアリアは優しく微笑んで許してくれる。
ビアンカやピエールも特に何を言うでもなく、装備品のチェックをしていた。
……アベル達は船が停泊しているであろう、一昨日乗船したサラボナ近くの橋まで向かう。
やはり そこには水門前に停泊しておいた船が浮かんでおり、アベル達は早速船に乗り込むことにした。
アベル、馬車、ピエール、ビアンカ、……と続いて歩み板を上り、少々高めの乗船口を軽々乗り越え、船に乗ずる。
だが、最後尾のアリアは乗船口の手前で立ち止まっていた。
「よいしょっ……わっ、すべっ……ぃっ!?(お、おまたぶつけた……! 痛い……!)」
――ちょっと高めなんだよね……! アベル達みたく ひょいっと軽々飛び越えられたら格好良いんだけど……。
アリアは乗船口に両手を突いて歩み板を蹴り上げ、なんとか片方の腿を乗り口にのせたが、片脚は上がっておらず、脚が届かないので宙ぶらりんの状態だ。
さて、甲板に下りようとするも、バランスが悪かったのか足先が滑り、前のめりに転びそうになってしまった。
……慌てて転ばないよう乗り口を掴んだまでは良かったが、思い切り股を打ち付けることになったのだ。
大事なところを強打し、地味に痛い……。
「うぅ……(我ながらドンクサ……)」
アリアは涙目で痛むお股のまま どうにかもう一方の脚を甲板に下ろそうとする。
馬車といい、船といい、乗り込むのも一苦労。
“自分はバグキャラだからアベル達のように颯爽と乗り込むことができないんだ、これは【原作の意志】のチカラね……!”
……なんて、自らの薄鈍さを都合よく【原作の意志】のせいにして、痛みを堪えた。
「……アリア、ほら」
ビアンカが船内を物珍しそうに見ている間に、アリアがまだ乗船していないことに気付いたアベルがやって来て、
「え? あっ、ありがとう」
今回もアベルに手伝ってもらい、アリアは漸く船に乗り込むことができた。
「……言ってくれればよかったのに」
「えへへ……。船に乗り込むくらいは自分でしなきゃ……カッコ悪いでしょ?」
アベルの手を放し、アリアは痛む股にそっと両手を添える。
かなり強く打ち付けたようで、まだ じんじんとしている。
これが男なら悶絶していただろう……。
「…………アリアは別に格好良い必要ないけど?」
「そう……? こ~……みんな みたいにササッと乗り込めたら格好良いんだけどなぁ~……」
「……アリア足は速いのにね…………って、アリアどしたの?」
――なんで太ももの間に両手を挟んでるの……? 太ももの線見えるんだけど……。
アリアの様子にアベルはごくりと喉を鳴らした。
「へ?」
「…………手……、そんな……、股のところに……おしっこ行きたいの? するなら一度下船するか海で……」
「お、おしっこって……言い方! 子どもじゃないんだからっ! ……さっき乗り口でお股をぶつけちゃったのっ! ちょっとまだ痛くって……」
アベルの物言いにアリアは顔を真っ赤にして
「お股をぶつけ……っ!? 大丈夫かい!? 怪我してないか見せて!」
アベルが突然にアリアのスカートを捲る。
……本日の下着はフリルをふんだんに使った淡い桃色の紐パン……。
いつの間に新調したのだろうか、アベルは初めて見る色だ。
「きゃあっ!? なにするのっ!? 見せられるわけないでしょーーーーっっ!!」
アベルの動きにすぐさま反応したアリアは、バチンッ!!
……アベルの頬に赤い手形を残していた。
「ぅっ……あっ! ごめんなさいっ! そういうつもりじゃ……!! 僕は本当に君が心配で……!!(見れてラッキーだったけどもっ!!)」
熱くなった頬を手で押え、アベルは真っ赤な顔のアリアに謝罪する。
だが、わざとではなかったので素直な気持ちは伝えておいた。
「アベルのえっち……! ヘンタイ……!」
アリアはそれだけ言い残すと、頬を叩く乾いた音に驚き船首側で目を瞬かせているビアンカの方へ走って行ってしまった。
「アリアぁ……、違うんだよぉ……。僕はホイミを掛けてあげようかと思っただけで……」
――信じてもらえないとは思うけど……!
頬が熱い……、もっと打ってくれてもいいのに……。
……アリアにビンタをお見舞いされたアベルの口角は上がり、幸福そうだった。
◇
……そんなこんなでアベル達は無事(?)船に乗り込み、再出発。
船を操り、内海を北上して行く。
時折現れる魔物の群れを往なしつつ、北上を続けると先日と同じように閉じられた水門が目の前に迫っていた。
「ビアンカお願い!」
「水門ね。大丈夫。私に任せて。ここを こうしてと……」
アベルが船を水門ギリギリで停めると、ビアンカは身を乗り出し水門を開閉する仕掛けを操作しだした。
……何度か操作したことがあるのだろう、その手付きは手慣れたもので迷いがない。
操作を終えたビアンカの「よし!」という声と共に、頑丈そうな水門が“ゴゴゴゴ……”と低い音を立ててゆっくり開いていった。
「ビアンカちゃんすご~い! カッコイイ~♡」
水門が開ききり、アリアがビアンカに拍手を送る。
……テキパキとした
「うふふっ。これ、コツがあるの。今度アリアに教えてあげるわね……!」
「えっ、いいの!? 村外不出の技術なんじゃ……!?」
――教えてもらっても使い道がないけど……!?
アリアによいしょされ、気を好くしたビアンカによる突然の水門開閉の技術伝授話にアリアは目を見開いてしまった。
「いいの いいの! アリアなら村の人も怒らないはずよ!」
「えぇ……? そうかなぁ……」
「うふふふ……なんたってアリアは……」
“うふふふ……♡”
……ビアンカが不敵な笑みを浮かべている。
「……ん?」
そんなビアンカの笑みにアリアは ぽけーっと首を傾げていたが、一部始終を目にしていた操縦室のアベルの舵輪を掴む手は震えていた。
(ビアンカ……? いったい何を考えてる……?)
――まさか、ラインハットで妄想した女同士の結婚を狙って……!?
「さあ いきましょう!」
ビアンカが目的地の方角、北を正確に指差す。
アホな妄想に憑りつかれたアベルは青い顔で二人を見守り、船を動かした。
急に動き出した船にアリアの足元がふらつき、ビアンカが彼女の手を取り支える。
……アリアとビアンカは互いに手を繋いで「キャッ♡ キャッ♡」と楽しそうだ……。
「ここから先は私もどうなっているか わからないわ。強い魔物もいるでしょうから気を付けて行きましょうね」
「うんっ!」
水門を抜け、先に広がる海にビアンカがアリアの手を ぎゅっと握って二人は互いに視線を絡めて微笑み合った。
……アベルからはビアンカとアリアの周りに可憐な百合の花々が咲いているように見える。
「……そんなまさか……」
アベルは“アリアとビアンカのカップルなんて認められない!”として、すぐさま【ふくろ】からラインハットで購入した【においぶくろ】を取り出し封を解く。
――戦闘が増えれば、イチャつけまい……! 魔物よ来い来い……!
ニヤリ……。
アベルの唇の片端が歪に吊り上がる。
アベルは悪い笑みを浮かべて【においぶくろ】を空に向け高く掲げた。
潮風にのり、【においぶくろ】から微かな甘い匂いが船体を覆った。ピエールやプックル達の目がなんとなく うっとりしているような……?
すると、アベルの視界の端に魔物の群れが。
……その群れがアベル達の船に向かって来ていた。
「アリア! ビアンカ! 魔物が来るよ! 右舷、東の方向! ピエール戦闘準備!」
「えっ、もう!?(今水門を抜けたばっかりなのに~!)」
「…………ふぅ、……望むところよ……!」
アベルが進行方向、右側、東の海上に魔物を見つけ仲間達に告げると、アリアは慌てて【まふうじのつえ】を取り出す。
ビアンカは以前アリアが使っていた【モーニングスター】を手に、目を閉じ精神統一。
ピエールは【はじゃのつるぎ】の初振りにワクワクしているのか、船に近付いて来る魔物の群れを今か今かと待ち構えていた(水門を抜けたら使うと決めていたらしく、それまでは【はがねのつるぎ】で応戦している)。
アベルも船の操作をそこそこに、背中の【パパスの剣】を鞘から引き抜き魔物の群れを迎え撃つ。
……そうしてアベル達は戦いに身を投じていった……。
アリアはどんくさいんです……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!