マッシュは菌をいっぱい持っている……。
では、本編どぞ。
「ピエール、アリアは?」
アリアが馬車に消えてしばらく経ち、アベルが【プクプク】の切り身(山盛り)を持って来る。
「あっ、主殿! アリア嬢は馬車に……」
「馬車?」
アベルは持って来た切り身を寸胴鍋に無造作にぶち込んでいく。
鍋料理に見た目など関係ない。そもそもアベルには見栄えの良い料理など出来なかった。
具材を入れて煮れば大抵どうにかなる……の精神は大事だ。鍋は良い。
アベルがオルソーのような未知の味を作ることはないが、さりとてアリアやビアンカの作る料理のように美味い味を出せるわけでもない。
これまで味付けは最終的にアリアが調整してくれていたから問題なかった。
今日はビアンカがやってくれるそうなので、彼女に任せれば安心である。
戦闘では仲間に命令するアベルも、料理は女性達に主導権を渡して素直に従う。
教えてもらえばその分調理レベルが上がるというものだ。
「アベル、鍋に全部入れた? あれ? アリアは? ……って、野菜の準備をしてくれてたのね! ピエールありがとう! 気が利くじゃない!」
「あ、いえ、私は殆ど何も……」
アベルの後にビアンカもやって来て、辺りを見回しアリアをさがす。
鍋の中にすでに野菜が入っていたので、彼女もアベルと同じく切り身を上からドバッと一気にぶち込んだ。
豪快である……。
「アリアは馬車に行ってるみたいだ。僕、様子を見て来るよ」
「連戦だったし疲れたのかしら……?」
「そうかもね。あの子体力無いから疲れやすいんだよ」
「そうなのね……。私の作ったお鍋を食べて元気になって欲しいところだけど……もし寝てたら そのまま寝かせてあげて?」
「うん、そうだね」
アベルとビアンカの話に、ピエールは「アリア嬢はキノコを採りに行っているだけ……」と言おうとしたが、二人の間に入り込めなかった。
……そうこうしている内にアベルはビアンカに鍋を任せ、馬車に向かう。
「ピエール、ちょっと手伝ってくれる~? キミたちも!」
「あっ、はい!」
ビアンカに呼ばれてピエールと残りの仲魔達も彼女について行った。
◇
さて、【キノコ】を採りに馬車に戻ったアリアは――。
……スラりんを馬車の外に残し、キャビン内の原木を見下ろしていた(スラりんは踏み台になってくれたらしい)。
「キノコ……、今回はシイタケじゃないんだ……。一度採ると別の種類が生えて来るって……マッシュってばどんな菌を植え付けてくれたんだろ……」
修道院生活中に、何度かオラクルベリーでマッシュと面会していたアリアは、マッシュの要望で【キノコ】の原木を持って来るように云われしばらく預かってもらっていた。
そして、次の面会時に原木が返され「はぁぁ……(うまいでぇ……)」と自信満々の笑みをもらう。
その頃はまだ魔物の言葉はよく解っておらず、何なのだろうと思ったアリアだったが、馬車にのせてからその意味がわかった。
原木から採集する【キノコ】の種類が収穫する度違うのである。
マッシュ曰く「一種類だけでは飽きるやろ?」とのこと。
採る度違う【キノコ】はどれも美味で、アリアはマッシュに感謝していた。
ただし、ごくたま~に毒キノコも生えるらしいので、色がヤバイものは食べないようにとモンスターじいさん経由で注意を受けている。
「ふふふっ、マッシュにももうすぐ、会えなくなるんだなぁ……。いや、でも会いに行ってもいいのか……」
今回はこの世界でのポピュラーな【キノコ】が生えていたようだ。
……アリアは一つ一つハサミでぱっちん。収穫してカゴに積んでいく。
すると――。
「……大きく育ったね。食べ応えがありそうだ」
「え、あっ! アベル……(気付かなかった……)」
いつの間にかアベルがアリアの背後にやって来ており、近い距離で声を掛けられアリアは驚いた。
「キノコを採りに来てたんだ?」
「うん……、お鍋に入れようと思って」
「そっか……、おいしそうだね」
ぱちん、ぱっちん、と。
アリアの握るハサミの刃先が【キノコ】を原木から切り離し、刃が交差する度に音が鳴る。
アリアは原木に注目していて、すぐ後ろにいるアベルに顔を向けず、カゴの中の【キノコ】は どんどん増えていった。
「アベル、ビアンカちゃんは……?」
「ん? ビアンカ? ビアンカなら鍋を作ってくれてるけど?」
……ぱちん、ぱっちん。
アリアが手を止めることはない。
「あ、えと……、そうじゃなくて……。一緒に作業……」
「ん……? あ、僕がそれ持つよ。アリア、キノコを採ったらここに入れてって」
話をしながらも手を止めないアリアに、アベルは彼女が手にしていたカゴを奪い取る。
「…………ありがとう」
「こんなことくらいでお礼なんて言わなくていいよ。アリア、さっきまでよく頑張って戦ってたね。今日は昼も食べれなかったし……疲れてないかい?」
アベルはアリアの隣に位置を取り、彼女を横目に優しく微笑んだ。
「え? あ。ん……、すこし疲れたけど、大丈夫。でもお腹はぺこぺこ」
「そっか。なら、夕飯をたっぷり食べなよ。ビアンカが張り切ってたよ? 僕も手伝ったんだ。きっとおいしいと思う」
漸くアベルの視線に気付いたのか、アリアはアベルをちらり。
ちょっぴり元気がなさそうに微笑む彼女に、アベルは夕食を勧めた。
「うん、そうだね。ビアンカちゃんの作るご飯おいしいから楽しみ。魔物のお肉ってところが気になるけど」
「ハハッ、釣りをした方が良かったかな?」
「う~ん……聖水でも撒いておかないとゆっくり釣りなんて出来ないんじゃないかな」
――そういえば【せいすい】撒いたっけ……?
ふと見た馬車の外が紅く染まり始めている。
……もう、夕暮れ時だ。
ここは海上、キャンプ……というわけにはいかないが船を停泊させ【せいすい】を撒いておけば眠ることも可能だろう。
アリアは“今のところ魔物の気配はないけど……”と、戻ったら【せいすい】を撒くことにした。
「確かに! けど、ビアンカが言うにはプクプクは結構美味しいらしいんだ」
「そうなんだ」
「アリアさっき見ててくれた? プクプクを真っ二つにしてから二人で皮を剥いだり、一口サイズに切ったりさぁ(それもこれも君に美味しいって言ってもらうためだよ……!)」
褒めて褒めて! とでも言うようにアベルが嬉しそうに教えてくれる。
だが、アリアから見た先ほどのアベルは、ビアンカと二人で楽しそうにしている姿で……、アベルの想いとは異なっていた。
「ふふっ、見てた見てた。アベルとビアンカちゃんて昔から息がぴったりだよね。やっぱり幼なじみってすごいね」
……アリアは優しく微笑むように努める。
心はちっとも面白くないが、アベルの幸せそうな姿を見られたことは素直に嬉しかった。
――二人は ああやって、ずっと一緒に歩んで行くのかも……。
笑みを崩さないよう思案するも、アリアは……“あれ? じゃあ、フローラさんはどうなるの……?”と、つい先の展開に疑問を持ってしまう。
とはいえ、今考えても仕方ないかと残りの【キノコ】を ぱちん、ぱちん。
……無言で作業を続けた。
「……え? アリアも幼なじみ……」
「ふふっ、お鍋楽しみだなぁ~……。あ、はい、これでおしまいっ。私、先に行くね。ビアンカちゃんのお手伝いしなきゃ!」
アリアはアベルの持つカゴに【キノコ】をのせ終えるとさっさと馬車を下りてしまう。
「……アリア……?」
アベルはアリアの態度に違和感を感じ、去り行く彼女の背を眺めていた……。
◇
その日の夕食はビアンカの見事な味付けにより、アリアは心を鷲掴みにされメロメロに。
仲魔達もたらふく食べて満足気に甲板で各々寛ぎ中である。
……いつの間にか日は暮れて、星々が瞬く時間だ。
夕食前にアリアが【せいすい】を振り撒いたおかげか、魔物の気配はない。
今夜は海上で船に揺られ夜を明かすことにした。
【】内の食べ物はほぼほぼDQB2で出てくるものだったりします。
アイテムだけクロスオーバーしょっちゅうしてますね。
クッキング回二話目。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!