お師匠さまぁ!
では、本編どぞ。
……眠るにはまだ早い。
皆まったりと過ごす中、しばらくすると甲板にアリアの姿が無いことに気付いたビアンカは彼女を捜す。
「アリア、何してるの?」
どこにいるのだろうとビアンカが辺りをキョロキョロしていたら、馬車の裏側でアリアを見つけ声を掛けた。
アリアは独りでいったいなにをしているのだろうか……。
「あ、ビアンカちゃん。アベルと一緒にいたんじゃ……?」
「アベルと一緒にって……、みんなと一緒にいただけよ……?」
アリアは【絹のエプロン】を身に着け、馬車の後ろに置いた大きな木箱の上で、何やら調理をしていた。
「……私、明日の朝、食べてすぐ出発できるように、朝食を作っておこうと思って」
「私も手伝うわ。何をすればいい?」
木箱の上には数種類の野菜と焼けた鶏肉、食べやすい様にスライスされたパン、それからまな板がのっている。
更に、まな板の上には大量に切られた【トマト】が置かれていた。
……木箱は作業台代わりらしい。
ビアンカは清潔な濡れタオルで手を拭うと、アリアの隣に並ぶ。
「あ、ありがとう……。今、野菜サンドを作ってたの。レタスと、ニンジンと、トマト……。あ、こっちはチキンサンドね。アベルとピエール君はお肉が好きみたいだからお肉マシマシ」
「…………へえ、アリアって、いつもみんなの分を作ってるの?」
アリアがそれぞれの具材を説明していく。
既に【トマト】は切ってあるし、ニンジンは細切りにし味付け加工済み。残る野菜……レタスをビアンカは引き千切りながらアリアに訊ねた。
「ん? う~ん、その時々かな。アベルもピエール君も作ってくれるよ? スラりんもよくお手伝いしてくれる」
「そうなんだ。でもアリアが作る回数の方が多そうね」
「え?」
「すごく手慣れてる」
ビアンカが ちらっとアリアの手元を見ると、アリアはスライスしたパンに一枚一枚【バター】を塗っており、塗り終えたパンはどんどんと積み重なっている。
修道院では八人どころか、それ以上の人数分を作って来たアリアにはこれくらいの量は朝飯前なのだ。
「あ、ふふっ、そうかも。お料理するのは嫌いじゃないし、アベル達にはいつもお世話になってるからいいんだ」
「そう……、それにしても野菜が多くない?」
ビアンカはレタスを一玉剥がし終えたものの、もう一玉残っているのを見て訊いてみた。
「プックルが野菜好きなの。この間色々協力してもらったから、多めに作ってあげようかなって」
アリアはビアンカの剥いたレタスをパンにのせ、野菜サンドを作り始めていた。
レタスの上に、ニンジンラぺをのせて、その上にトマト……。
自作のマヨネーズをかけてパンをもう一枚のせれば出来上がりだ(今回はタマネギ無しである)。
「へえ……プックルって野菜好きなんだ……知らなかったわ……てっきり肉が好きなんだとばかり(そういえば、家で味無しのポテトサラダにがっついていたわね……)」
「お肉も好きみたいだよ?」
「へえ……」
「サンチョさんのパンがあれば美味しいのができるんだけどね~」
ビアンカももう一玉レタスを剥き剥き。
アリアも続けて野菜をパンに挟んでは皿の上にのせていった。
「ああっ! それわかる~! サンチョさんのパン、おいしかったよね~!」
「うん! 私、あのパンのファンなの!」
「サンチョさん……、今頃どうしているのかしら……」
「ね……、心配だな……。けど、いつか会えるよね……?」
「ええ、きっとね」
二人は作業を続けながら会話を続ける。
ジュエルは食べないので、七人分……なのだが、その内 アベルとプックルはよく食べるので基本的に二人前ずつ。プックルに至っては今回少し多めのため、計十一人分作ることにしていた。
すでに半分出来上がり、木箱の上には野菜サンドの山が出来ている。
保存のために後でアベルの【ふくろ】に入れてもらわななければならないが、入れるのが大変そうだ。
「…………私は たぶん会えないけど……」
さっきまで明るい笑顔を見せていたアリアだったが、急に作業の手を止め、目を伏せてしまった。
「……どうして?」
ビアンカは気になって訊ねる。
“守護天使なのだから、アベルと一緒にいればいつか会えるでしょ?”……というのがビアンカの考えである。
「……ぁ、ぇと……私、昔サンチョさんには見えてなかったから……、会っても気付いてもらえないと思う……から……?」
――サンチョさんは私のこと知らないんだし、どこかで会えたとしても……私、ひとり旅中だもの……、声なんて掛けられないよ。
この先、どこか知らない町でばったりサンチョと出会っても、突然声を掛けたら引かれてしまうだろう。
……そんな理由をアリアがビアンカに言えるはずもなく、それらしい理由を伝えておいた。
「なに言ってるの。こんな可愛い子からファンだなんて言われたらサンチョさんだって悪い気はしないわよ。それどころかまだ独り身だったら アリア狙われちゃうんじゃないの?」
「えぇっ!? 私そういうファンじゃ……。でも、パンの作り方は教えて欲しいかなあ……」
ビアンカがアリアの全身を眺めながら口にすると、アリアは目を丸くする。
……アリアの今の姿はエプロン姿の可愛らしい女の子スタイル。
アリアは性格も穏やかだし、抜けているところもあるが、話すことも面白く、いつも笑顔を忘れない。
料理もできて、働き者でもある。
……客観的に見て、仕事で疲れて家に帰った時、こんな妻が出迎えてくれたら さぞかし夫は癒されることだろう。
ビアンカはまだアリアのことをよく知らないが、一緒にいるとなぜか居心地が良く、癒されていた。
“さすがは天使ね!”……と結論付けている。
「そっか~、アリアはサンチョさんを師匠と呼びたいわけね」
「……あ、うん! そう、それ! 弟子入りしたいの!」
ビアンカが腕組みして“ウンウン”、納得したように頷くとアリアは再び笑顔をみせた。
「プッ! うふふっ、アリアって本当、面白い。あなたって変わってるわね」
「え? そ、そう?」
「ええ、でもそこがあなたの いいところなんだわ、うふふ♡」
アリアの戸惑う姿にビアンカは美しく目を細める。
「ぁ…………、そんなこと言ってもらったの初めて……、ありがとう、ビアンカちゃん……」
ビアンカの微笑みに、アリアの頬が ぽっと赤く染まった。
前世で自分のことを“お前は変だ”“お前はおかしい”と言われたことは数あれど、そこが“いいところ”なんて言われたのは初めてのことである。
アベルといい、ビアンカといい……他の人も。この世界の人々は
物理的に生きるのは厳しいこの世界だが、人々は優しく気持ち的にはとても生き易い。
……ここに今居られることに感謝し、自分のできることは これからもして行こうとアリアは思った。
「ふふっ、アベルの守護が終わったら私のところへ いらっしゃいよ。働き口も提供できるし、美味しいものも食べさせてあげるわよ?」
「ふふっ、ありがとう! 気持ちだけもらっておくね」
社交辞令だと思ったアリアは笑顔を返す。
……ところが、ビアンカは。
「……私は本気よ? ……考えておいてね?」
「え、あ……」
アリアの肩に手を ぽんと置き、ビアンカ、彼女がウインクを送る。
……アリアは息を呑んだ。
――本気って……だって、ビアンカちゃんはアベルと結婚するんじゃ……?
なぜビアンカがそんなことを言ったのか、アリアにはわからない。
けれど、彼女にもなにか考えがあるのだろう。ビアンカの目は真剣そのものだった。
「……さて、と。出来たわね。これをどうするのかしら?」
「あっ、アベルに ふくろを借りて来なきゃ」
二人は話している間にいつの間にかすべて作り終え、皿の上には野菜サンドとチキンサンドが山盛りだ。
「じゃあ、私ここで待ってるわね」
「うん、わかった。じゃあ借りて来るね」
……アリアはアベルをさがしに馬車の裏から出ることにした。
サンチョに早く会いたいなぁ。
クッキング回ラスト!
ビアンカやフローラと仲良くしたいので、多分この先もちょこちょこ女子トークエピソードが色々出て来ると思います。
女のリアルとか暴露していきますw
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!