ひざまくら~。
では、本編どぞー。
「……アリアの、前世の世界はそうじゃなかったのかい?」
アベルは空から視線をアリアに戻し、訊ねる。
アリアの前世の記憶にだけ存在する異世界。
この世界とは違う、自分には想像もつかない景色が広がっていたのだろう。
……アリアがいた世界は空の上……とも違うようだということは、アリアも“空の上に住んでいた”などと話したことがないので、なんとなくアベルも理解してきている。
――アリアは前世の世界では辛い経験が多かったみたいだから、聞くのはどうかと思ったけど……、これなら辛くないかな……?
アベルはアリアのことを少しでも多く知りたかった。
「ん? う~ん……、私が前にいた世界では、地上が明る過ぎて夜空の星々がよく見えなかったなあ……。でも、本当は きっとこんなにキレイなんだと思う」
「地上が明る過ぎるって……、まさか昼間みたいに……?」
アリアが空からアベルに視線を移すと、微笑みながら答えてくれるのでアベルは ほっとしながら疑問に思ったことを口にする。
……すると。
「アベルは勘がいいのね」
ふふっ、とアリアが優し気に笑った。
「え?」
「前世の世界は……昼間はもちろん、夜もとても明るかったの。あ、オラクルベリーよりもよっ? 電気……あ、ん~……雷って言うと解りやすいのかな……そのエネルギーを灯りに応用したものが無数にあってね。町全体が昼間みたいに明るいの」
「へえ……」
「地上が明るいから、空の星たちの輝きは霞んじゃってね。……私は、こうして星たちを眺めるの好きだな……、すごく、キレイ……」
――ゲームの中の世界がこんなに心地好くなるなんてね……不思議だなぁ……。
アリアは思い出しながら話し、アベルから目を離し再び空を見上げる。
そして瞳をきらきらと輝かせ、星たちの瞬きを見つめていた。
この世界は生きるには厳しいが、人は温かく優しい。
前世の世界は生きるのは何とかなったが、人は厳しく冷たかった。
……もしこの先どちらの世界で生きていくか選べるならば――。
(私……、怖いけど この世界を選ぶと思うな……。)
アリアはアベルを再び見つめる。
アベルはアリアに倣う様に空を見ていた……が、彼女の視線に気付いてニコッとはにかんだ。
「……そっか。アリアはこの世界が好きなんだね。つまり僕が好きだ、と」
アリアの態度にアベルは、彼女が“異世界よりも、この世界の方が好きなのでは……?”と胸が温かくなる。
……アベルは首を傾げながらアリアを煽る様に眺めた。
「ちょ……え? どういうこと? 飛躍し過ぎじゃない……?」
「ハハッ。アリアいわく、ここは僕の世界なんでしょ? だから僕が好き」
「そうだけど、なんでそうなるの……、ていうか、星を観ようよ、キレイだよ?」
超理論を突然ぶつけられても……と、アベルの言動が理解できなかったアリアが眉を寄せている。
「僕は星を見ているより 君を見ている方が好きなんだ」
困り顔のアリアにアベルは続けた。
――僕が好きなのは君だけ……、アリア、解ってくれてるよね……?
別世界の自分の意識に引っ張られ感情がついふらつくこともあるが、今の自分はアリア一筋である。
アリアがフローラやビアンカを前にして不安になっているかもしれないから、何度でも何度でも好意を伝え、彼女を安心させるのが彼氏としての務めだとアベルは思っていた。
「アベル……」
アベルの言葉にアリアの頬が色付く。
想いはちゃんと届いているようだと、アベルは安心した。
けれども。
……アベルには ずっと気になっていることがある。
(せっかく二人きりだし……今、聞いてもいいかな……?)
アベルは思い切って訊ねてみることにした。
「ねえ、アリア。君……、僕に何か隠しごとをしていないかい?」
「え……?」
「……ホウレンソウ、ちゃんとしてくれてる……よね?」
「うん……、してるよ?」
アベルの問いにアリアは なんのことかと首を傾げる。
「そう……? ……僕さ、君のことで なんかちょっと引っ掛かってることがあるんだよね……」
「えぇ……? 引っ掛かることなんかあったかな……? 私、別になにも……」
腕組みをしアベルも首を傾げるが、アリアも特に何か思い当たらない様子でアベルを模すように腕を組んだ。
「…………僕自身 なにが引っ掛かってるのか解らないから、君に聞いてみたんだけど……、そっか……、アリアは特に何もない……、と」
「うん? なんにもないよ?」
アベルが二度目の問い掛けをしてもアリアはニコッとはにかむだけ……。
「…………、……そっか」
――君はそうやって、答えてくれないんだね……それはなぜ……?
アリア、君が時々悲しそうな顔をする理由はなに?
僕を愛してくれているなら、なんでも言ってくれればいいのに。
……そんなに僕は頼りないというのか。
アベルは彼女の答えに少し悲しくなったものの、アリアの違和感がなんなのか……はっきりとそれに気付いて指摘しないと、彼女は白状してくれない気がした。
自分で気付くしかないのだ……。
「あふ……」
不意に出たあくびをアベルは噛み殺す。
……今夜はもう、眠気が強くてこれ以上考えが纏まりそうにない。
「……アベル、眠そうだね」
「あ……、うん、実は結構眠い」
「なら寝ればいいのに……。馬車で横になったら……?」
「…………アリア、膝枕して?」
アリアが馬車に戻って……と促したものの、アベルは聞いていなかったのかアリアに膝枕を要求した。
「っ……アベル、私達今、お友達なんだけど……?」
「アリアの膝枕、柔らかくて好きなんだ。アリアの膝枕で眠ったなら、短い睡眠でも全快するよ! ……なにもしないから、お願い」
アベルの願いにアリアは気まずそうな顔をするも……。
「ぅ……、しょ、しょうがないなあっ」
彼女は三角座りに立てていた膝をぺたんと床に付けてくれる。
アベルは満足気に目を細め、すぐさま身体を横に倒すと、アリアの膝に頭をのせた。
「…………ハハッ。アリアって僕に甘いよね」
「……朝まではダメだよ? 足痺れちゃうから」
柔らかい感触に頭を支えられ、アベルはアリアを見上げ彼女の頬に手を伸ばす。
アベルの伸ばした手に彼女が頬を摺り寄せると、アリアは弱り目で呟いていた。
「うん、わかってる。少しだけでいいよ。少し眠ったらすっきりすると思う」
――足が痺れなかったらずっとしてくれるってことかな……?
アリアって本当、僕には甘いよね……ホント、僕って彼女に愛されてるなあ……。
アベルはアリアが見守る中、目を閉じ口角を上げる。
いつでも自分が必要としたとき、たまに嫌がることもあるが なんだかんだと最終的に甘やかしてくれる彼女がアベルは大好きだ。
「……おやすみ、アベル……」
アリアの優しい声を聞きながら、アベルは微睡みの中へ。
「……アベル、私を必要としてくれてありがとう……」
眠るアベルのあどけない顔を見下ろし“アベルの前髪が伸びて来たな~”なんて思いつつ、アリアは微笑む。
――もう私が髪を切ってあげることはできないけれど……、アベルがしあわせになれるよう、私もぎりぎりまで協力するからね……!
修道院生活中にアベルの前髪を切ってあげたことを思い出し、すこしばかり感傷的になる。
……前髪が伸びてきたアベルに何度か切って欲しいと言われて切ったことがあった。
『あはっ、ごめんアベル。短すぎちゃったかも! でもアベル格好いいから大丈夫大丈夫!』
『……ハハハ……、いや いいよ、ありがとうアリア』
一度前髪を短く切り過ぎた際、アベルは不格好な前髪に触れながら一瞬眉を顰めるも、次には笑って許してくれたのだ。
アリアが「髪を切るのが上手い人にやってもらえばいいのに」と言ってもアベルはアリアにやってもらうのが気に入っているようで、毎度彼女に切らせている。
……アベルの寝顔に――。
二人の思い出がそこかしこにあるのだなと思うとアリアの胸が きゅうきゅうと締め付けられた。
アリアはアベルの顔を見ていられなくなり、また空を仰ぎ見る。
零れ落ちて来そうな星々を眺めていると ぐぅぐぅ……。アベル、彼のイビキが下から聞こえて。
その内、アリアも眠くなり彼女もいつの間にか微睡みの中へ。
脚の痺れも忘れアリアは寝入ってしまった。
……アリアが次に目が覚めた時には……。
星を見るのは好きなのですが、星座がさっぱりわかりません……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!