逃げたら食われるみたいです。
では、本編どぞー。
◇
……あれから洞窟奥へ連れられたアリアだったが、すぐにアベル達が追い付き、合流。
プックルもアベル達が追い付くとアリアをあっさりと解放した。
アベルに「プックル! 勝手にアリアを連れて行ったらダメだよ! めっ! ほらアリアに謝って」と叱られプックルは申し訳なさそうに耳を下げる。
「がうぅ……(アリアに謝るのか……?)」
――いつもの明るいアリアならいいが、近頃の湿っぽいアリアに謝るのは解せぬ。
主のためにピエールよりも我の方がいいと思ったから来てやったというのに……。
……とはいえ、アベルに言われては従わざるを得ない。
プックルは上目遣いでアリアに形ばかり頭を下げておく。
「あはは……いいよ。別に怪我してないし(首絞まるかと思ってびっくりしたけど……)」
マントの汚れは払えば落ちるし。と、アリアはマントに付いた土汚れを払った。
アリアのマントはかなり丈夫なようで、汚れもすぐ落ちるようだ。
破けはなく、付いた汚れは払っただけで落ちた。
優しい笑顔で快く許すアリアにプックルは訝しい目を向ける。
「…………な、なにプックル……? どうかし」
「がぅぅ?」
「えっ? な……そ、そんなことないよ……? 私はいつも一緒だよ?」
「がぅ……」
アリアはプックルの視線に首を傾げるも、プックルに質問され今度は頭を左右に振るった。
“アリアお前、主から逃げようとしていないか?”
“ヘタレめ、我は誤魔化されんぞ。”
「っ……なんで……プックル……(言ってることがわかる……)」
なぜか今回はプックルの言葉が正確に解ってしまい、アリアは狼狽える。
……プックルの視線は鋭く、アリアを責めるようだった。
「アリアどうかしたかい?」
「っ! あっ、な、なんでもないの」
アベルがアリアの肩に触れる。
アベルの手がアリアに触れた瞬間、プックルは鋭い目を潜め、満面の笑みを浮かべた。
「がうぅ~♪」
「っ!?!? や、やだよ……!」
プックルの笑顔に彼の牙がキラリと光り、アリアの顔が引き攣る。
――私を食べてもおいしくないよ……!
……プックルからなんと言われたかといえば。
“逃げたら食う”
……であった。
(逃げるんじゃないもん……、捨てられるんだもん……。)
アリアは納得いかずに、しかし涙目になってしまう。
プックルとはかなり仲良くなったはずなのに、未だに自分を食材と見なしていたとは……、アリアはちょっぴり悲しい。
やはり魔物と真に理解し合うというのは中々難しいのかもしれない、なんて思ってしまう。
「アリア……?(なんで涙目……?)」
――急に引き摺られてびっくりしたんだね、涙目になっちゃってカワイイ……。
アリアの様子を見ていたアベルは、彼女がプックルに脅されているとも知らず頭をぽんぽんと撫でてやっていた。
「もうびっくりしたわよ。プックルったら、一緒に行きたかったのね?」
「がうがう!(その通りだ! さすがはビアンカ、わかっているな!)」
ビアンカの言葉にプックルは元気よく返事する。
アリアはビアンカに愛想よく首を縦に下ろすプックルをちらと見やると“私、もしかしたらプックルに嫌われてるのかも……”と俯いてしまった。
「うふふっ、じゃあこの四人で行きましょ?」
「そうだね。回復は僕とアリアでできるし、問題ないかな。プックルよろしくね」
「がうっ♪(主 任せろ! アリアを逃がしはせん!)」
アベルに頭を撫でられ、プックルは満足気だ。
アリアにチラッと視線を送り、自慢の牙を見せつける。
……牙はキラリと光り、アリアを脅した。
その牙を毎晩磨いているのはアリアなのだが、まさか自分が食われるために磨いているとは彼女は夢にも思っていないわけで。
――ピエールに任せておいたらアリアはヘタレるだけだ、我が 主とアリアをくっつけてやろう……。
脅しのために見せつけたプックルの牙を目にしたアリアは、本当に食われるとでも思っているのだろう、ビクッと肩を揺らしていた――。
◇
……【水のリング】探索のため、アベル達一行は洞窟内部を行く。
入口は高所だったようで、らせん状の通路……坂道を下って行くようだ。
……現在地はらせん状の坂の始まり。
坂を下りると真っ直ぐに伸びた通路の先に、奥へと続く階段が微かに見える。
通路の下には清水が湛えられ、洞窟内は常にひんやりとして外から比べるとかなり肌寒く感じた。
このフロアの通路は細いため二列で行くことはできず、アベル、ビアンカ、アリア、プックル……の順で列をなし、奥へと進んで行く。
「わぁ……、下は湖かぁ……」
ふとアリアは立ち止まって“死の火山よりはましね”と、そっと足元の清水を見下ろした。
……かなり巨大な地底湖だ。
マグマとは違い、湖に落ちても死にはしないから安心だが、水深は如何ほどか。
あまりに深いと落ちたら最悪命に関わるかもしれない。
油断は禁物である。
たしか、地上にも大きな湖があったなとアリアは なんとなく頭上を見上げた。
「アリア落っこちないようにね~」
「ひゃあっ!? わっ、わかってるよ?」
急に最前列のアベルが振り返りアリアに注意する。
……アリアが立ち止まったことに気付いたようだ。
アリアは慌てて目線を頭上からアベルに移していた。
アベルの注意を受けた拍子、アリアの爪先に小石がぶつかり、カツン……とそれが足元の湖に落下していく。
ちゃぷんっ、と水の跳ねた音が微かに聞こえ、水深が気になったアリアは再び通路の下を覗いた。
――綺麗な水……すごく澄んでる……、あ、魚がいる~……。
ここから見る限り水深は暗いところが深そうだが、浅い場所もあるようだ。
……浅い場所に魚群が見える。
ここでも釣りができそうだな~と、アリアは思ったのだが……。
「アリア、そんなに身を乗り出したら落っこちちゃうわ。危ないからもっと通路の真ん中を歩いてね」
「っ、大丈夫だよ……?」
「本当? 気を付けてね……」
アリアが落下しそうに見えたのか、アベルのすぐ後ろにいたビアンカが戻って来て手を引いた。
ビアンカは「うふふ、世話が焼けるわね」なんて続けながら苦笑している。
ビアンカの後ろでアベルも微苦笑し、なにか言いたげにアリアを見ていた。
アベルとビアンカがまるで保護者のように自分を見てくるので、アリアは申し訳なさに二人に目礼してから再び歩き出す。
アベルもアリアの様子を確認すると再びらせん状の坂道を下って行った。
「……がう(まあ、なにかあっても我が助けてやるから安心しろ)」
「……ん?」
アリアの後ろのプックルも足止めを食っていたわけだが、再び動き出しアリアに一言申す。
……どういうわけか、先ほど理解できたプックルの言葉が、今はアリアに通じなかった。
なにやらプックルにはプックルの考えがあるらしい。
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