アベルの持つ【ふくろ】の話。
では、本編どぞ。
「アリア……! いったいどうしたの!? 大丈夫!?」
ビアンカ達が隠れている近くにやって来ると、岩場の陰からビアンカが飛び出し、アリアの肩を掴む。
「あ、うん……、さっきの人にちょっと いたずらされてショックで……」
「そう……可哀想に……。あの男、私のお尻触ったのよ!?」
許せないっ! ……と未だビアンカはお冠だ。
「うん、知ってる……。目の前で見ちゃったからびっくりしたよ……」
「アリアも触られたのね……怖かったでしょう……?」
不意にビアンカはアリアを抱きしめ、「もう大丈夫だからね」と慰めてくれた。
「あ、うん……、もう大丈夫……ありがとう……」
――ビアンカちゃん優しい……、尊い……。
ビアンカに抱きしめられたアリアはビアンカをそっと抱きしめ返す。
「……うーん……」
ビアンカとアリア、二人の様子にアベルは口をへの字にしていた。
――二人とも仲良過ぎじゃない……?
アベルは眉を寄せつつも、足元がいい加減冷たくなってきたため、先を急ぐことにしたのだった。
◇
……あれから浅瀬に沈んだ通路を歩いて行くと、漸く乾いた地面が現れる。
皆一様に足が冷たく、長時間浸かっていたからか痛みも出ていた。
「はぁ……靴の中ぐっしょり。ねえアベル、ちょっと休憩しない? 多分足がふやけちゃってると思うの。凍傷になっても困るわ」
ビアンカが【せいすい】を手にアベルに訊ねる。
洞窟に入ってからもう随分と時間が経っている。
……そろそろ日が暮れてもいい頃合いだ。
キャンプをしてもいいのだが、このフロアは見通しもよく、かなり広い。
こんなところでキャンプをすればすぐに魔物に見つかってしまうだろう。
「……そうだね。でもここは魔物から狙われやすそうだから、もう少し狭い場所がいいんじゃないかな」
「それもそうね……、うーん……あっちに階段、そっちに落とし穴か……。どっちに行く?」
アベルの意見は最もだとビアンカは同意し、右に下り階段、左に大きな落とし穴を見つけビアンカ、彼女が再び訊ねた。
「……うーん……。落とし穴はアリアが苦手だから……階……」
「ん? 大丈夫だよ? ビアンカちゃんが手を繋いでくれたらがんばれる!」
アベルがチラ見すると、アリアは柔和に微笑む。
「やーんっ♡ アリアってば可愛いこと言ってくれちゃってえ♡ 手、つなごつなごっ♡ ずっと繋いでようねっ!」
「ビアンカちゃん、ありがとっ♡」
アリアの笑顔にビアンカも破顔し、アリアの手を握った。
アリアも嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。
「いや……そこは僕とでしょ……」
ぼそっとアベルが呟くが、それが聞こえたのはプックルただ
「がう……(主、元気を出せ。女子というものはよくわからん生き物なのだ)」
プックルはアベルの背を前足でそっと触れ慰めた。
「……じゃあ……、落とし穴に落ちてみますか……」
アベルの声に、ビアンカとアリアがしっかり手を繋いで笑顔で「うんうん」頷く。
――クッ……二人とも可愛い顔してえ……!
アベルは美女二人の笑顔に癒され落とし穴に身体を投げ出した。
……続けてビアンカとアリアも暗闇に足を踏み出す。その後ろにプックルも続いた。
「っ……きゃぁああああ~!(落ちるぅうううっっ!!)」
「うふふっ! アリアってばカワイイんだからぁああああっ♡♡」
「がう……(アリアもビアンカもうるさいぞ……)」
暗闇の中、三者三様の反応を示すと、先に降りたアベルが上を見上げて階下で待っていた。
「……はい、と~ちゃ~っく、っと!」
「……はぁ、はぁ……」
「…………」
下の階に落ちたビアンカが華麗に着地し破顔するが、アリアは胸に手を当て落ち着くために深呼吸を繰り返す。
……プックルはこの程度の落下は慣れっこで無言だった。
「……みんな無事で何よりだ」
そう一言零す、みんなの様子を見ていたアベルはなぜか笑顔である。
「あら、アベル何かいいものでも見つけたの?」
「い、いや……?」
――二人のパンツが見えたなんて……絶対言えない……。
ビアンカに問われたアベルは気まずさに彼女から目を逸らした。
「……また落とし穴だ……」
呼吸が整い、ほっと一息吐いたのも束の間、アリアが新たな落とし穴の存在に眉を下げる。
……落とし穴から落ちて来たアベル達の目の前には、またも大きな落とし穴があるではないか。
アリアは不安そうな顔でそれを見ていた。
「アベルどうするの? 落ちてみる?」
「……いや、このフロア丁度いい広さだし、今日はここまでにしようか」
ビアンカに問われ、アベルは周囲を見回す。
このフロアは日光が届かないが外に続く出入口があり、そこから滝の流れる音が聞こえてはいるものの、然程湿度が高くない。
落とし穴から魔物が落ちて来ることもそうないだろうし、フロア自体が先ほどの地底湖が広がっていたフロアよりもずいぶんと狭いから【せいすい】で結界を作るのにも適している。
階段もなく、魔物がやって来るとすれば、滝の音がする出入口からだろうから守りやすいし、危険な時は目の前の落とし穴に落ちればいいから逃げやすい。
……水浸しになってしまった靴を乾かすのに丁度良い場所だろう。
「やった、賛成~っ!」
アベルの提案にビアンカは早速【せいすい】を取り出していた。
「アリアもいいかな?」
「え? あ、うん。私はどこでも」
「そっか、よかった。じゃあ、準備しようか」
アリアの了承を得てアベルは【ふくろ】から薪を取り出し、地面にセットし始める。
ビアンカはあっという間に【せいすい】の散布を終えていた。
「私が火を起こすわ。今夜は温かいスープでも飲みましょ」
「ありがとうビアンカ」
ビアンカがアベルの用意した薪に手を
「うん、火はこれでオッケー。あとは、お鍋と……水が必要ね。あっ、そうだ。アベルお鍋って……」
「あるよ。ここに入ってる。道具も材料も殆ど馬車に置いて来たけど、少しなら入ってるよ」
……焚き火の完成にフロア内が暑くなったからか、【毛皮のマント】を脱ぎながら訊ねるビアンカに、アベルは【ふくろ】から鍋やお玉、まな板に包丁といった道具類一式と、野菜や肉を取り出し
「……あなたのその“ふくろ”って便利よね。いいなぁ、私も欲しいわ」
「ハハ……、僕以外の人は使えないみたいだけどね」
アベルの持つ【ふくろ】を不思議に思ったのだろう。ビアンカが羨ましそうに言うのでアベルは【ふくろ】をビアンカの前に差し出し「持ってみる?」と首を傾げた。
「そうなの? ずるい~って、重いっ! なに、あなたこんなに重いものいつも持ち歩いているの!?(信じらんない!)」
アベルから【ふくろ】を受け取った途端、【ふくろ】は地面に落ちていた。
あまりの重さにビアンカでは持ち上げられなかったようだ。
ビアンカは【ふくろ】から中身を取り出すことはできるが、持つことは無理らしい。
「ははは……、僕は全然重くないんだけどね……」
「なにそれ。アベルだけ特別ってことっ? 守護天使のアリアといい、“ふくろ”といい、ずるいわ」
アベルが落っこちた【ふくろ】を軽々と拾い上げ腰に付けると、ビアンカはムッと頬を膨らませた。
「ははは……」
――僕は主人公らしいから……、やっぱり特別なのかな……?
ビアンカの話にアベルは頬をポリポリ。
アリアが傍に居てくれることも特別だからと思うとかなり嬉しい。
アベルは、独り黙ってキャンプの準備を進めるアリアをチラッと盗み見る。
アリアも暑かったのだろう。【毛皮のマント】を脱ぎ、焚き火の前で先程アベルの出した調理道具や食材を分別し、野菜を狙うプックルを諫めていた。
「ま、いいわ。あとはお水ね! 外から滝の音が聞こえるし、すぐ手に入りそうね!」
「もうプックルってば、めっ、だよ? ……あ、じゃあ私、外で水を汲んで来るよ」
ビアンカの声にアリアが木のバケツを手にアベル達の元にやって来て、二人の前を通り過ぎていく――。
着火剤のオイルはスラりんの油なんですが、それはいずれどっかで触れようかなと思います。
アベルの使う“ふくろ”はビアンカにも不思議に映ったよってことで。
ふくろ繋がりで……関係ないけど、結婚生活には大切にしなくてはいけない三つの袋があるっていうスピーチの定番をご紹介。(なぜ……)
ひとつは堪忍袋。
長い結婚生活では互いに気になる部分も出て来ることでしょう。
多少のことは目をつぶって夫婦円満でいる方が長続きします。お互い我慢しましょって話ですね。
ふたつめは巾着袋。
お金に関することですね。生活をしていくにはお金が必要です。パートナーに黙って散財や借金したりせず、きちんと管理するのが夫婦円満の秘訣よっていう話。
みっつめはお袋。
自分達だけでなく、親とも仲良くし、無用なトラブルを起こさないようにしようっていうお話ですね。相性もあるからなんとも言えないけど仲良くしたいものです。
……って、あれ? アベルもアリアも親いなくね……?
ヘンリー辺りにスピーチさせようと思ったけど、このスピーチは使えなそうですねw
失礼、脱線しました。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!