アリアのマントは特別製。
では、本編どぞ。
……滝を抜けると、通路の先に宝箱を発見する。
「あ、宝箱だ」
「水のリングねっ!」
宝箱の目の前までやって来た二人はそれを見下ろした。
中にはこの洞窟に来た目的である【水のリング】が入っているのだろうか……。
「それはどうかなぁ……」
アベルは腕組みしながら小首を傾げ苦笑い。
――確か、ここに指輪は入ってなかったような……。
別世界の記憶がこの宝箱の中身が【水のリング】でないことを教えてくれる。
感動がまるでないが、この宝箱の中身が何かまでは思い出せなかったのは少し嬉しい。
「え? 違うの?」
「ははは……、とりあえず開けてみようよ」
「うん」
降りてきた記憶ではこの洞窟で【ひとくいばこ】のような魔物が宝箱に擬態していたことはない。
ただ、この世界は別世界とは異なる世界。念のためアリアを自分の背後に隠してからアベルは宝箱に手を掛け開いた。
中には――。
「わぁ……、可愛い。これは……?」
「安らぎのローブだね。身に着けた者が眠りやマヒ状態の時に受けるダメージを軽くしてくれるんだ」
アベルが宝箱の中から取り出したピンク色の【やすらぎのローブ】を広げ【インパス】を唱え、それがなんであるかを説明する。
「へえ~……ならこれを着ていたら眠っちゃっても安心だね」
「怪我はするけどね……。でも、いざという時ダメージが少なくて済むからいいかも。アリア着るかい?」
アベルはアリアに【やすらぎのローブ】を差し出した。
「えっ、私が? ビアンカちゃんに着せてあげて? 私ならこのマントで大丈夫だよ。このマント、水を弾くし火にも強いの。汚れもすぐ落ちるし簡単に破れたりしないんだから」
「そうなんだ……。いいマントなんだね」
――あ、この流れ、受け取ってくれないやつだ……。
差し出された【やすらぎのローブ】を受け取ろうとはせず、ビアンカにどうぞと云うアリアに、アベルはすぐに話題を変える。
アリアはこうして受け取りを拒否することが多い。
素直に受け取ってくれるのは花か食べ物くらいだ。
以前買ってあげた【モーニングスター】に、【ぎんのかみかざり】、【キラーピアス】と婚約指輪(仮)の【いのりのゆびわ】は辛うじて受け取ってくれたが、【炎のリング】は受け取らなかった。
他の装備品は何も買ってあげていないし、アリアは欲しいとも言ってくれない。
何でもあげたいと思うのに、何をあげれば彼女が喜ぶのかアベルにはわからない。
とりあえず花と食べ物だけは喜んでくれるので、大体いつも無難にそれらを贈ってはいるが、形に残らないものはすぐに忘れられてしまいそうでアベルは好きじゃなかった。
(アリアは物欲が無さすぎるんだよ……、もっと宝石が欲しいとか服が欲しいとか言ってくれればいくらでも買うのに……。)
もうちょっと我儘を言って欲しいと思いつつ、アベルは【やすらぎのローブ】を【ふくろ】に仕舞い、アリアのマントを眺めた。
「ん? ふふっ、これモンスターじいさんに勧められてオラクル屋で買ったんだよね。結構いい値段したんだ~」
「へー……なんていう名前のマントなんだい?」
アベルに訊かれたアリアはその場でくるっと一回転、マントをふわりと靡かせる。
アベルはにこにこと微笑むアリアに微笑み返しながら深掘りしてみた。
「んー……何だっけ……ナントカ竜のマントって名前だった気がするよ。異世界っぽくて気に入ってるのっ」
アリア曰く、彼女の身に着けているマントは【ナントカ竜のマント】という代物らしい。
竜の名前が付いているから色々な耐性がありそうだ。
アベルは【ステータスウィンドウ】でアリアのステータスを何度も見ているが、装備品の欄に【ナントカ竜のマント】なんて名前はなく、アリアの下着しか書かれていなかった。
……どうやらアベルの見る【ステータスウインドウ】はバグっているらしい。
アリアの装備品だけなぜか下着が記載されているのだ。
アリアがマントの正式な名前を思い出せば、正しく記されたりするのだろうか……。
……それはそれで当日アリアが身に着けている下着が何かわからなくなってしまうので、アベルはつい このままわからなくてもいいかなと思ってしまう。
ちなみに今日の下着は……薄桃色の紐パンだ。
装備欄には“紐パン(薄桃色・フリル)”と書かれていた。
いつもかっこ付きで色と特徴が書かれており、妙に細かいのが驚きである。
早朝みんなが起きる前にこっそりチェックしたが、先ほど
他のみんなのステータスも見たが、装備品に間違いはなさそうだ。
【ステータスウィンドウ】は確かにバグってはいるが、情報だけは確からしい。
ただ情報が情報だけに、あらぬ誤解を生む可能性があるため、アベルは自分以外に【ステータスウィンドウ】を見せることはなかった。
「異世界っぽいってアリア……ここは僕達の世界だよ? 異世界は君の前世の世界。今の君はこの世界の住人でしょ?」
――アリアもうさ……前世のことはもう忘れようよ。
前世で住んでいたという異世界には戻れないのだから、もう過去は忘れて自分と歩もう。
アベルは前世に囚われているアリアを救うべく、彼女に言い聞かせる。
……同じ目線で、同じものを見たい。
そう思うのはアベルの我儘なのだろうか。
アリアの云う異世界が天界なのか何なのか、アベルにはまだはっきりとは理解できていないが、もしも天界であるならば空から引き摺り下ろしてやる……。
アリアにはもう、翼はない。
天界になんて戻してやらないし、どこにもやらない。
アリアが帰りたいと言ったって帰してやらない。
アリアの居場所は自分の隣だ。
……なんて想いでアベルは気付けばアリアの頬に触れていた。
「あ……ふふっ、そうだったね。つい前世の記憶が抜けなくって……今はアベルのいるこの世界が私の世界だものね」
アリアは見下ろされてキョトンとした顔をしていたが、アベルの真摯な表情を見て朗らかに微笑む。
――アベルは人生を途方もないほど繰り返してるから、
アベルの想いとは異なってはいたが、そんなアリアの笑顔にアベルの目元は緩んでいた。
「…………ナントカ竜のマントか……聞いたことないな……」
「そうなんだ? アベルも知らない防具があるのね」
「え? 僕だって知らないことはたくさんあるよ? 当たり前じゃない?」
「そうなの? アベルは私の知らないことたくさん知ってるから、なんでも知ってるのかと思っちゃった」
……宝箱の奥に道はなく、これ以上先に進めそうにないため、水を汲みに滝へ戻ることにして、二人は歩きながら話を続ける。
アベルが知らない装備品について話をすると、アリアは目を丸くしていた。
「……ん? まあ……知ってることも確かに多いけど……この世の中知らないことの方が多くないかい?」
バケツを置いた地点まで戻ったアベルは、それを手に通路にはみ出している水の流れにバケツを傾ける。
バケツはあっという間に水で満たされ、アベルはなみなみと注がれたバケツを持ち上げた。
「……アベルってすごいよね。知らないことを知らないって素直に言えちゃうし、チカラ持ちで強いし、冷静だし、なんでもできちゃう。私、あなたのそういうところ、尊敬してるの」
――アベルってすごい……、あんなに水がたくさん入ったバケツを軽々と持ち上げちゃうなんて……。
私だったら何往復したかな……?
アベルの注いだ水の量はアリアの持てる量の三倍はある。
アリアは何往復もするつもりでいたが、これなら一回で済みそうだ。
こんな時、男性は頼もしい。
非力な自分とは違うなと自らの細腕をちらり。
ビアンカ達の待つキャンプ地へ戻りながら、アリアはアベルのはち切れんばかりの腕の筋肉をまじまじと見つめ、気付けば彼を褒め称えていた。
アリアのマント……実は名前が付いているのですが、候補が複数あるため現在ちょっと迷っております。
ドラクエ外のオリジナル装備になるため、その内アリアが思い出すってことで。
色んな耐性付きの優れものだったり……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!