ボミオスって知ってます……?
では、本編どぞ。
「君がビアンカに遠慮して、無理してるのを見るのが辛い。アリアは辛くないの……?」
「…………わ、私は……」
指を絡めた手をアベルのもう片方の手で包み込まれ、アリアは目を伏せる。
――辛いけど……、あなたが幸せになれるのなら私は……平気だよ……?
口にしてしまえば冷淡に聞こえてしまうだろう。
……正直なところ、アベルを失った場合自分がどうなるのかは……今は平気だと思っているが、わからない。
意外と平気なのか、凄く落ち込むのか……。
前世で痛くても、怖くても、辛くても泣くことを許されずに育ち、感情を抑制して生きてきたから自分の感情がどうなるのか検討がつかない。
アベルとは最後の一線を越えてはいないが、彼にはもう、身も心もほぼほぼ溶かされ、忘れていた執着なんて種が少し芽吹いている。
執着なんてしたくないし、嫉妬もしたくないのに――。
……アリアはどう伝えればいいのかわからず口にできなかった。
「……僕は君が好きだ。いや……好きなんてもんじゃない、愛してるんだ」
「っ……」
真っ直ぐに見つめられ告げられたアベルの愛の告白に、アリアは絶句してしまう。
……アベルはなぜこうも自分を好いてくれているのか。
これから先、ビアンカかフローラのどちらかと結婚するくせに……なぜ。
もうすぐ手放さなければいけないのにも関わらず、アベルが真っ直ぐに好意を伝えて来るからアリアは閉口する。
「……アリアも、僕を愛してるよね……?」
恐る恐る訊ねるアベルの瞳が揺れている。
「…………」
……アリアは何も言えなかった。
「アリアがなにを考えてそうしてるのかは知らないけど……、君、僕とビアンカをくっつけようとしていないかい……?」
「え……?」
アベルの問いにアリアは目蓋をぱちぱちと瞬かせる。
――私が……アベルとビアンカちゃんを……くっつける……? そうだったっけ……?
アリアは思い当たらず思考を巡らせた。
……確かに二人の邪魔をしないようにはしたが、フローラとの線もある。
現時点でビアンカを花嫁と決めるのは違うのでは……?
(だって、私だって二人の内どちらがいいか迷ってるんだもの……!)
フローラとも友達のアリアは、ビアンカにだけ肩入れしているわけではない。
ただ、自分が邪魔をしないようにしていただけなのだ。
……と、自らの行動を振り返ったアリアにアベルが追い打ちを掛ける。
「アリア。君がいくらビアンカと僕をくっつけようとしても、僕の気持ちは変わらないよ。フローラさんにしても……僕は彼女になんの感情もないんだから」
「っ……、でもっ……!」
――どういうこと!? だってアベルどっちかを選ぶんだよね!?
アベルにビアンカもフローラもないとはっきり言われたアリアは狼狽えてしまった。
(【原作の意志】がそれを許さないでしょ……!?)
……口から出掛けて、アリアは唇を噛む。
アベルがどこまで思い出しているのか判ればそこまでは話せるが、判らないまま話せば息苦しくなるかもしれない。
あの
「でもなに? やっと話してくれる気になったの? 教えてアリア。君はなにを気にしてる?」
アベルが穏やかに訊いてくるが、アリアは彼の手をそっと解く。
「っ……ぇ……ぃの……」
「ん……?」
アリアが俯いてじわり。
瞳に涙が滲んだが、彼女は静かに立ち上がった。
「……っ、私、ちょっと顔洗ってくるね……!」
「え、ちょっ、アリア……!?」
アリアがキャンプ地から出ようと走り出すと、アベルもすぐさま立ち上がり追い掛けようとしたのだ、が――。
「ボミオス……!」
刹那アリアが振り返り、アベルに聞いたことのない呪文を掛けた。
「アリアっ!?(なっ……)」
――今なんて……? 身体が……重い……!?
アリアが唱えた素早さを下げる呪文【ボミオス】。
ドラクエⅤには出て来ない呪文であるがアリアにはなぜか使える。
……アベルはまともに食らってしまった。
大して疲れているわけでもないのに、呪文を掛けられてから身体がなんだかいつもより重たく感じ、なにかかが纏わりつくようにその動きを邪魔してくる。
アリアをすぐに追いたいのに、ゆっくりしか動けない。
アベルは素早さを下げられてしまい、月明かりの下へ逃げ出すアリアをゆっくりと追った。
◇
「……――!」
アベルが鈍足でキャンプ地を出て滝の前でアリアを見つけると、彼女が滝に向かってなにかを訴え掛けていた。
ザーー……と、瀑布は止めどなく落ち続けており、その大きな音がアリアの声を掻き消す。
……彼女は滝の流れを前に首を何度も左右に振っている。
アベルの位置からはよく見えず、滝の中に誰かがいるとは思えないが、アリアは誰かに話し掛けているような様相だ。
いったいなにをしているのだろうか……。
「アリ……」
アベルは滝の音が邪魔しても聞こえるくらいの位置まで近付き、アリアに声を掛けようとした――、
その一瞬……――
突如滝の中から長い爪の白く細い手が伸び、その手がアリアの腕を掴むと、一気に彼女の身体を流水の中へと引き摺りこんだ。
アリアは抵抗する素振りを一瞬みせたものの、勢いに抗えず身体は滝に呑まれあっという間にその姿を消してしまう。
「っ!? アリアぁああああっっ!!」
あっという間の出来事に、アベルがすぐに駆け付けようにもアリアの掛けた【ボミオス】で動きが遅く、ゆっくりとしか近付けない。
……もう少し。
いつもの調子ならあと数歩で彼女に触れられたのに――。
「アリアぁぁああああっっ!!!!」
アベルがありったけの声を張り上げアリアの名を呼ぶが、無残にも滝の音がそれを掻き消してゆく。
「っ、嘘だ……ウソだウソだウソだっ……!! アリアぁぁああああっっ!!」
鉛のように重い足取りでアリアの立っていた位置までアベルは漸く辿り着いたが、怒涛の流れの中にアリアの姿は見えなかった。
アベルは
……ところが自身のマントを誰かが引っ張りアベルはそれ以上進めなかった。
「がうっ!!(主どうした! アリアは!?)」
……プックルだ。
プックルがアベルのマントに噛みつき、アベルが落ちないようにと引っ張ってくれていたのだ。
「っ、アベルっ! どうしたのっ!? アリアは!?」
ビアンカも起きたのかプックルの後ろに走って来ている。
アベルの叫び声を聞きつけ、プックルとビアンカが駆け付けてくれたのだ。
「っ……プックル、ビアンカ……。ごめん……! アリアが滝に呑まれた……!」
「ええっ!? なんてことっ!?!?」
「僕は助けに行く。プックルとビアンカは夜は動かない方がいい、朝になったら下で落ち合おう」
アベルはプックルが引き留める中、滝の中に向かうからとプックルにマントを放すよう頭を撫でる。
……プックルはすぐにマントを放してくれた。
「っ、でもアベル危険だわ! ここの水すごく冷たいのよ!?」
――心臓麻痺でも起こしたら大変……!
プックルが放したマントを今度はビアンカが掴む。
アリアは心配だが、アベルまで行かせるわけにはいかない。
なにか別の方法は……と考えるもすぐにいい案は浮かばなかった。
「ビアンカ放してくれ! 危険でもなんでも僕が行かなきゃ誰が助けるっていうんだ……! あの子を死なせるわけにはいかないんだよっ……!」
「アベル……」
……眉間に皺を寄せるアベルの瞳には涙が湛えられていた。
アベルのその姿にビアンカもマントから手を放す。
「っ、ごめんビアンカ。こうして喋ってる間にもアリアは冷たい水の中で……!」
アベルは零れ落ちそうな涙を乱暴に拭ってビアンカに訴えた。
「……わかったわ、気を付けてね。私とプックルなら平気よ。明日、下で落ち合いましょう」
ビアンカは唇を噛みしめ瞳に涙を溜めて微笑む。
……アリアもアベルも二人ともが心配でしょうがなかった。
「うん……、君達も気を付けて。プックル、ビアンカを頼んだよ」
「がう!(任せろ!)」
アベルがプックルの頭を撫でるとプックルは頼もしい返事をしてくれる。
「アベル、アリアを助けて」
「ああ必ず……!」
ビアンカとプックルに見送られ、アベルは滝の中へと自らも呑まれていった。
ボミオス……素早さを下げる呪文ですね!
Ⅲでは使いどころがわからんかったけど、憶えている呪文。
どうやって素早さを下げているのかはわからんけど、「まだらくもいと」を参考に表現してみました。
後付け設定になっちゃうのかな、アリアはドラクエⅢがめっちゃ好きなのです。
いや、ドラクエⅢがめっちゃ好きなのは私なのだがw
実はⅤより好きだったりします……。
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読了お疲れ様でした、そして読んでいただきありがとうございました!