ドラゴンクエストⅤ -転生の花嫁-   作:はすみく

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いつもありがとうございます、はすみくです。

滝に呑まれたアリアを救え……!

では、本編どぞ~。



第五百六十二話 滝壺の中で

 

 

 

 

 

 ……アベルが滝へと身を投じる前――激流の中に呑み込まれたアリアはすぐに意識を失い、身体は滝壺に抱かれ、淡い白い光が僅かに照らす仄暗い水の中を彷徨っていた。

 

 

 

 

(苦し……くない……? あれ……私……また死んだの……?)

 

 

 

 

 水が一気に肺まで押し寄せ、一瞬苦しかったが今は痛みなど感じることはない。

 ……意識のない中、アリアは今し方自分の身に起こった出来事を振り返る――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時……――。

 

 

 アベルに【ボミオス】を掛けてキャンプ地を飛び出し、滝の前にやって来たアリアは激しい流れの中に自分の姿が映り、相対していた。

 

 ……滝の中にいる自分の背には真っ白な翼が生えている。

 

 

『アリア』

 

「っ……!?(ちょ、なにっ!?)」

 

『答えは……?』

 

 

 滝の中から頭の中に直接声が聞こえ、始めは水鏡かと思ったが、激流の中でそれはないだろう。

 

 滝の中に見えた自分の姿にアリアは息を呑み、身構えた。

 その口振りが、見はらしの塔で出会った男を思い出させる。

 

 

 なぜ今回は自分に化け……いや、背中に翼が見えるから……アリア(・・・)の母親なのだろうか。

 

 

 ここは一旦母親と仮定しておこう……などと、アリアは「アリアのお母さんて綺麗だなー」と眺めてから……

 

 

いいえ(・・・)! ……私には無理です。私、元OLだし、あなたを助けられるようなチカラを持ってはいないと思います……!」

 

 

 ……はっきり断っていた。

 【コマンド】でいうところの“いいえ”を選択したのだ。

 

 

 ――うわっ、この人ずぶ濡れなんですけど~! って、あれ? 濡れてなくない?? 実体がないから……??

 

 

 激流の中をよく見てみれば、水の揺らぎはあるものの、謎の人物が濡れている様子はない。

 ……いったいどういう現象なのだろうか。

 

 さすがはゲームの中の世界だ。目の前の人物に“いいえ”と突き付けながらもアリアの瞳は不思議な光景に釘付けである。

 

 見はらしの塔で助けて欲しいと言われ、色々考えたアリアだったが、実体のないこの謎の人物と関わると(ろく)なことにならなそうだ。

 

 

(君子危うきに近寄らずってね……!)

 

 

 これから先アベルと別れるというのに、面倒事などごめんである。

 

 ……それに、アリアは正義感が強いかと言われるとそうでもない。

 

 誰かが困っているなら助けてやりたいと思うのが人情だし、アリアにも助けたい思いは大いにある。

 だが、困窮し、助けを請うのであればそれ相応の態度というものがあってしかるべき。

 

 目の前の人物はいつも上から目線で感じが悪い。

 人に物を頼む態度がおかしくはなかろうか。

 

 

 ……そもそも世界を救うのは自分(アリア)ではなく、主人公のアベルなのだ。

 

 

 アベルが誰とも結婚せず独り身のままならいくらでもついて行くし、アベルの頼みならなんでも聞いてやるが、彼の頼みでもない胡散臭さ満載の人物に関わる時間が勿体ない。

 

 自分はバグっ娘――。

 

 バグはバグらしく、幼い頃の記憶を探しつつ、異世界フード巡りの旅を楽しむ人生を送ろうじゃないか。

 

 

 敵前逃亡、ヘタレと言われても構わない。

 なぜならアリアは“逃げるが勝ち”という言葉を知っているのだ。

 

 

『……そうか。まだ時期尚早か……、ならばお前に頼むより“アベル”とやらに頼む方が良さそうだな』

 

 

 アリアの答えに天使(仮)がニヤリと、アリアの思考でも読んだかのように、およそその顔に似つかわしくない下卑た笑みを浮かべた。

 

 自分でもそんな厭らしい顔で笑ったことないわ、とアリアの母を汚された気がしてアリアは不快な気分になる。

 

 

「なっ!? それはダメッ!」

 

 

 ――アベルは優しい人だから引き受けちゃうかもしれないでしょ……!

 

 

 アベルを引き合いに出され、アリアは眉を寄せ天使を睨み付けた。

 

 

『なぜだ? お前は私を救えるチカラを持っているというのに、救ってはくれないのだろう? ならばお前の男に頼むほか、私が助かる道はなかろう?』

 

「アベルはっ! アベルには果たすべき使命があるのっ! 彼に厄介事を押し付けないでっ!」

 

 

 天使が腕を組み、顎を突き出し高慢に告げるため、アリアは首を左右に振り振り。

 必死でそれは駄目だと訴えた。

 

 

 ……もうすぐ分岐するであろうアリアの進む道とは交わらない、アベルにはアベルの歩むべき道があるのだ。

 

 

『では、私の手を取れ』

 

「い・い・え!! それはイヤっ! あなたの手を取ったら絶対面倒臭いことになるもの!!」

 

 

 アリアはイヤイヤをするように首を左右に振り続ける。

 

 まるで子どものような仕草だが、これだけはっきり否定すれば目の前の人物にも伝わるかもしれない。

 

 なにせこの人物。毎度自分の要求ばかり押し通そうとし、アリアの話を全く聞かないのだ。

 

 前回よりは会話のキャッチボールが出来ている気がするが、さてどこまで理解してくれているのやら。

 

 

 

 

『……はぁ、強情なのは母親譲りか……!』

 

 

 

 

 ……滝の中の天使の顔が(いびつ)(ゆが)む。

 

 天使は不快感を露わにアリアに鋭く長い爪を光らせた手を伸ばし、一気に彼女を滝へと引き摺り込んだ。

 

 

 

 

『……っと、私としたことがつい感情的になってしまった。許せ……そして――』

 

 

 

 

 ”――生きろ。”

 

 

 

 

 アリアを滝に落とした天使が、落ちゆく彼女に向けて冷たい目を向ける。

 

 

 

 

(生きろって……なん……、もう……無理だよ……。)

 

 

 

 

 謎の人物の声はアリアになんとか届いたが、滝に落ちた彼女から天使の姿は見えずじまい。

 

 いったいどんな顔でそんなことを言うのか……。

 

 “許して欲しい、生きて欲しい”と言うのなら、滝になど引き摺り込むんじゃない、本当に失礼な人だ――そう抗議したかったアリアだったが、時すでに遅し。意識はすでに失われていた。

 

 

 

 

 ……アリアが振り返れたのはここまで――。

 

 そのすぐ後にアリアを追い掛けてきたアベルは大声を上げる。

 

 

 

 

『アリアぁああああっっ!!』

 

 

 

 

 アベルの声が天使に届き、天使はほくそ笑んでアベルをちらり。姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴポ……ゴポゴポ……。

 

 

 瀑布が作る無数の気泡群から離れ、アベルは月明かりが僅かに届く冷たい水の中を泳ぐ。

 

 ……滝壺の水深がそこそこ深い。

 下を見ると明かりは届かず真っ暗闇だ。

 

 アベルが腕を掻き、左右を確認する度に少しずつ、口から漏れ出る気泡が月明かりを求めて上っていった。

 

 

 

 

「…………(アリアは……?)」

 

 

 

 

 アベルは身動きがし辛い中で辺りを見回しながらアリアをさがす。

 

 

 

 

 ……先ほど滝に身を預けたアベルは流れのまま、すぐに滝壺まで真っ逆さま。

 滝壺は深く広くアベルの身体を受け止めてくれていた。

 

 あまりの流れの強さに身体は多少痛かったが、この程度ならアリアも恐らく生きているだろう。

 

 アベルは滝の真下から一度離れ水の中から顔を出し、もしかしたらアリアが岸に上がっているかもと念のために確認を取る。

 

 

 ……ところが岸を見渡しても誰の姿もなかったため、深く息を吸い込み水の中を捜索することにしたのだ。

 

 

 

 

(……アリアどこだ……!?)

 

 

 ――こんなところでお別れなんてないよね……!?

 

 

 アベルは何度も水面に顔を出しては息継ぎをし、潜り、アリアをさがす。

 だが彼女の姿は見えない。

 

 

 ……月明かりが届かない底の方にいるのだろうか――。

 

 

「プハッ!! はあっ、はあっ!!」

 

 

 ……ざぶんっ!

 

 

 アベルは素早く息継ぎをして再び水の中へと身を沈ませた。

 

 

 ……潜るのは何度目だろう。

 

 

 かなり大きな滝壺だから、月明かりが届かない岩陰にアリアが引っ掛かって見落としているのかもしれない。

 

 アベルは諦めず、もう少し深くまで潜ってみることにした。

 

 

(……このまま見つからなかったら――いや、アリアは見つかる。そして僕の隣でいつも笑って過ごしてくれるんだ……)

 

 

 いつの間にか【ボミオス】の効果も切れ、アベルの身体は元の素早さを取り戻し水を掻く腕も軽く感じる。

 

 

「ゴポッ……!?(今なにか光った……!?)」

 

 

 ……刹那、暗闇の中で、きらり。

 月明かりをなにかが反射し小さく光った気がした。

 

 

(アリア……!?)

 

 

 アベルは光った場所まで思い切り腕と脚を掻き、可及的速やかにそちらへ向かう。

 近付くにつれ小さな光が何度も月明かりを反射し、アベルを(いざな)うように揺れていた。

 

 

「ア゛リ゛……ゴボッ……! ガボボッ……!!」

 

 

 光に導かれるようにやって来たアベルが誤って水を飲み込んでしまいながらも、水中に揺れるアリアの姿を捉える。

 

 

 ――いたっ! アリアだ……!!

 

 

 アリア……彼女は岩と岩の間に足を挟まれ、水面に上がれないでいたようだ。

 彼女は目を閉じ、意識がない様子でゆらゆらと水中に揺蕩(たゆた)っている。

 

 

 

 

 アリアの右手の【いのりのゆびわ】が月明かりを反射し光っていた――。

 




滝壺ダイブ!……はコワイ。
いや、これ普通なら死んでるよね……っていう。

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